文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (605ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826902113

感想・レビュー・書評

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  • 本書で著者は、様々な研究成果やファクトを示しながら、「人類が、他に類を見ない独特の種となり、地球生態系を支配するに至ったのは何故か――それは、非常に長い歳月をかけて生存と繁殖に有利な文化を作り上げることによって環境に適応してきたから」、「ヒトが他者から学ぶという能力は、遺伝子にかかる選択圧によって形成され、磨き上げられたもの」、「まず、自然選択の作用を受けて、文化習得のための心理的能力が形成される。この能力を発揮して、何世代にもわたって他者から学んでいく打うちに、高度な技術、精緻な制度、複雑な言語、膨大な知識といったものが蓄積されていく。こうして生まれた文化進化の産物が、個体の発達過程を通じて、あるいは遺伝的進化を駆動することにより、ヒトの身体や脳や心理を形成していった」のだと力説している。ヒト個人の能力はサルやチンパンジーとさほど変わらないが、社会的学習能力(他者を真似て学習する能力)のみが突出していて、この違いがヒトをヒトたらしめているのだ!

    本書のキーワードは、「文化―遺伝共進化のデュエット」、「自己家畜化」、「集団脳」など。「自己家畜化」は、「自然選択によって、規範に素直に従い、規範を犯すことを恥と感じ、社会規範の習得や内面化を得意とするようなヒトの心理が形成されていった」ことを指している。

    「ヒトは、遺伝子の変化によって、大きな脳、長い幼年期、短い大腸、小さな胃、そして脂肪を蓄えた体をもつに至ったが、このような遺伝的進化を駆動する要因となったのは、累積的な文化進化――突き詰めると、他者の心の中に蓄積されていく利用可能な情報――だった」とか、人間は生得的に他人を模倣し学ぶ本能を備えている(しかも「プレステージ(信望・名声)」ある者、性別や民族性など自分と類似する特徴を持つ者、年長者を手本として学ぶ傾向、多数派の真似をする傾向がある)とか、人類はグループ毎に生存競争を繰り広げ、生存に有利な社会規範を構築・伝承することに成功したグループが勢力を拡大しつつ生き残ってきたのであり、その過程で「規範を犯す者には制裁が加えられ、規範を守る者には報酬が与えられてきたことで、人類の自己家畜化が進み、ヒトに規範心理が植えつけられた」などなど、興味深い内容満載だった。

    「ヒトは、社会規範に支配されている世界、しかも第三者や世評の力で社会規範が強化されている世界を生き抜くために、遺伝的進化を遂げていったのだ。つまり、向社会的なバイアスを通して規範を身につけ、それを内面化して遵守するとともに、規範を犯す他者に目を光らせ、自分の評判に気を配るようになっていった。この進化のプロセスが、私たちヒトを、どんな動物とも異なる独特の生きものにしたのである」。同調圧力が強くて窮屈な現代社会も、人類進化の結果なのだと考えると、納得できる気がした(本能として受け入れざるを得ない?)。

    イノベーションに関して著者は、「文化的な種であるヒトにとっては、複雑なテクノロジーを生み出す上で、生得的な頭の良さよりも社会性ほうがはるかに重要になってくる」、「特定の個人だけが優秀でも、また、上からインセンティブを与えても、イノベーションを起こす力は生まれない。それは、知の最先端を行く大勢の人々が、自由に意見を交わし、遠慮なく反論し、相互に学び合って、協力関係を築き、外部の者をも信頼して、試行錯誤を重ねていく――そのような能力と意欲から生まれるものなのだ。イノベーションには天才も組織もいらない。必要なのは、多数の頭脳が自由に情報をやり取りできる大きなネットワークのみ。それを構築できるかどうかは、人々の心理にかかっており、人々の心理は、諸々の社会規範や信念のパッケージ、およびそこから生まれる公式な制度のもとで醸成される」と言い切っている。これも示唆に富んでいて面白い。

    暑い南に行けば行くほど香辛料を多用した辛い料理が多くなるのは、食物を腐りにくくするための知恵(文化的適応)だったんだな。長年の疑問が解消した!

    著者は、「ヒト社会はだんだんと超生命体のようなものに変化を遂げつつある」と書いている。集団脳の進化の行き着く先は一体何処なんだろう??

    盛り沢山な内容で、読みごたえ十分な書だった。素晴らしいの一言。図書館で借りて読んだが、手元に置いておきたくて購入した。「銃・病原菌・鉄」も読み返してみたくなった。

  • ヒトとサル、類人猿とを隔てるものは一体何か。なぜヒトが今現在、地球上で最も成功した種と成ったのか、その鍵を握る「文化」とそれを伝達してゆくために獲得した「遺伝子」の変容について、ヒトとチンパンジーを比較した心理実験や少数部族や過去の事象を取り上げて解明してゆく。

    心理実験から著者がフィールドワークで獲得した少数部族の文化的行動など、多岐に渡って丁寧に説明されていて読み応えたっぷりでした。
    ヒトは真似ぶ生き物であると頭でなんとなく分かったつもりになっていたことを説を以て明らかにしてもらえた気がします。
    他図書館から借受している本で時間がなかったため、走り読みでしたが、興味深い章ばかりで結局全体に目を通しました。
    章ごとで完結していて、さらに細かく分けられているので、部分読みも可能かと思います。

  • 厳しい環境に適応するために遺伝子が変化してきたというこれまでの典型的な進化論的アプローチとは異なり、生き残るために文化が形成され、それに適応してきた結果、ヒトが遺伝的にも進化してきたという新たな進化論を、様々な事例を挙げながら解説している本書。正直「卵が先か、ニワトリが先か」のような話かと思っていたが、読むと非常に説得力があり、大変興味深かった。

    人類が地球上でもっとも繁栄してきたのは、単に知能が高いからではない。他の動物との決定的な違いは「文化」があること。環境に適応していく中で文化(毒抜きや調理法、狩猟方法、道具の作り方、タブー、儀式、風習、ルールなど)が生じ、それに基づいて社会が形成される。社会の中では規範や道義を守り、集団に属することが生存にかかわってくる。逸脱者は集団内に居場所がなくなる=生存できないが、逆に集団内でプレスティージを得ている者は、その利他的な行動で他者を感化し、良いモデルとして模倣の対象となる。結果、文化や道義を遵守する社会規範ができ、ヒトはより向社会的・協力的な生き物となった。

    この社会規範という部分で特に印象に残ったのが、赤ん坊を対象として行われたパペットの道徳劇の実験。まだ言葉もわからないような赤ん坊が、反社会的な者に対してネガティブな反応を示しただけでなく、反社会的な者を罰する者を支持する傾向が見られたのは、ヒトが社会的な生き物であるということがDNAレベルで刻まれているという証であり、大変興味深く思う。

    トウガラシの例と同じで、ルールに縛られることはおそらく生物としては不自然なのだが、逸脱者には制裁が加えられ、規範を守る者には報酬が与えられてきたことで、人間は規範順守を直感的に喜びと感じるようになった。つまり文化がヒトを進化させたのである。「人類の家畜化」という言葉に納得した。


    これまでヒトが繁栄してきたのは、ヒトが模倣する生き物だからであるが、この模倣により、発明(インベンション)せずに革新(イノベーション)を生み出すことができるとのこと。つまり、模倣するヒトはさらに進化する可能性があるということだ。今後どのように変わっていくのだろう。人間は本当に面白い生き物だと改めて思う。

  • 人類を他の生物とは違った存在に進化させたのは集団脳による文化の蓄積が可能であったからであるようだ。卓越したモデルからその技術や知識を学ぶことで、人間社会は全体がレベルアップすることが可能となった。
    しかし、他者から学べるようになるためには(教えてもらえるようになるためには)常に信頼関係を保ち続けていなければならない。社会の嫌らわれ者は何も教えてもらえないのだ。
    人間の長い進化の歴史なかでは、他人からどのように思われているか(他者からの評価がいかなるものか)が優先すべきことであったのだ。

  • 人間とチンパンジーの何が違うか、から始まる本書。つかみから面白い。ちなみに違いは模倣力の高さが挙げられるが、逆にその模倣癖が災いしランダム選択がしづらくなるという知識も楽しい。
    人間は、模倣を元に積み重ねた知的ノウハウを共同体で作ることで文化を作り、今や地球で1番強い生物になっている。共同体というのがミソで、孤立すると持っていたノウハウは失われる。個人が集まり重なって過ごせる能力の高さが、人間の強さの元とわかる。

    進化してきたこと全てが文化進化の働きと言われていることに全面同意はできないが、内容は概ね納得できるものが多い。心理実験から民族の話等、多岐に渡る内容のため、単純に様々な知識を得たい時にもおすすめしたい本。

  • 感想
    自然選択の先にある学習。人類は模倣と学習を繰り返すことで他の種には手の届かない段階にまで到達した。

  • 飛ばし読み。再読するかどうかは未定である。脳やメンタルの調子もさることながら、本は読む順序にも大きく影響される。『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』の衝撃が大きすぎて、どうもまったりした印象を拭えなかった。
    https://sessendo.blogspot.com/2020/11/blog-post_24.html

  • ヒトの進化について、言語より広い「文化」の影響を幅広く考察した書籍。幅広すぎてちょっと分かりにくい箇所も多いが、興味深い。

  • 人類がルビコン川を越える話、進化を遺伝的なものとそれ以外に分けて文化の影響を探る枠組みなど、試験的な考え方で面白い。但し、文化の概念を広く捉えすぎて、言いたいことが散漫になってしまっている嫌いもある。

  • 469.4||He

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