- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784823410567
作品紹介・あらすじ
「させていただく現象」の謎を解く。「させていただく」を言われて怒れる人がいる一方で、「させていただく」の氾濫はとどまるところを知らない。なぜ人は使いたくなり、何が違和感を生むのか? この問いに答えるべく、意識調査で許容と違和の境界を探り、コーパス調査で発話行為的観点から他の授受表現との勢力関係変化を探った。それらをゴフマン的枠組みから再解釈することで、授受表現に生じているシフトに対する洞察を得た。
感想・レビュー・書評
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言い切り型ではない「させていただく」、元々のポライトな意味が形骸化したくらいではそこまでぞわぞわしないけど、結局[必須性]が備わったからきもいんだろうな、と思った。おもしろかった!
首都圏と近畿の人々との違和感の差異、調査結果が待たれるで終わってたけど早く知りたい笑 -
研究本なので調査部分は読み込めなかったが、敬語が使われるうちに敬意が減っていって語句が加わったり他の語彙に変わられるというのが、なるほど…という感じ。
補遺のさせていただくの現状、たしかにこれは敬意が減っていくかも…と例文で納得。 -
歴史社会語用論アプローチにより、巷に氾濫しつつ、違和感を覚えさせがちな「させていただく」に係る言語学的諸問題を徹底的に解明。
言語学の研究書は初めて読んだが、専門用語が頻発する以外は言語の専門家だけあって明晰な文章で読みやすかった。「させていただく」の違和感の最大要因は「必須性」であるということや、「させていただく」は遠近両用のストラテジーを持つ「新丁重語」といえるものであるといった本書の研究内容も非常に興味深かった。
敬語に込められた敬意は使うにつれて減少し、ついには敬意が感じられなくなるどころか、尊大に聞こえてしまう方向に変化を続けるという「敬意漸減の法則」は、本書を読んで初めて知ったが、言われてみれば確かに、と得心した。 -
【書誌情報】
『「させていただく」 の語用論――人はなぜ使いたくなるのか』
著者:椎名 美智(しいな・みち)
装丁・装画:小林 真理(STARKA)
版型:A5判 上製 カバー装
定価:3,600円+税
頁数:304頁
ISBN 978-4-8234-1056-7
ひつじ書房
[https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1056-7.htm]
【目次】
はじめに [iii-v]
目次 [vii-xii]
第1章 イントロダクション 「させていただく」という問題系と歴史社会語用論的アプローチ
1.1. はじめに:歴史社会語用論的アプローチ
1.2. ベネファクティブ体系の成立
1.3. 本書の構成
第2章 先行研究のレビューと分析の方向性 「させていただく」の問題系とは何か?
2.1. はじめに
2.2. 本動詞としての授受動詞の先行研究
2.2.1. 授受動詞における視点の問題に関する先行研究
2.2.1.1. 久野暲(1978)
2.2.2. 対照方言学的視点からの授受動詞の先行研究
2.2.2.1. 日高水穂(2007)
2.3. 現代日本語におけるベネファクティブの先行研究
2.3.1. 構文分析的・統語論的ベネファクティブ研究
2.3.1.1. 益岡隆志(2001)
2.3.1.2. 高見健一・加藤鉱三(2003a〜f)
2.3.1.3. 由井紀久子(1990, 1993, 1996)
2.4. 古典日本語におけるベネファクティブの先行研究
2.4.1 歴史社会語用論的ベネファクティブの研究
2.4.1.1. 宮地裕(1965, 1975, 1981)
2.4.1.2. 森勇太(2014, 2016)
2.4.1.3. 古川俊雄(1995, 1996a, 1996b, 1997)
2.4.1.4. 荻野千砂子(2006, 2007, 2008, 2009)
2.4.1.5. 山口響史(2015, 2016)
2.5. 現代日本語における「させていただく」の先行研究
2.5.1. 規範文法的「させていただく」の研究
2.5.1.1. 文化審議会答申『敬語の指針』(2007)
2.5.1.2. 菊地康人(1997a, 1997b, 2010)
2.5.1.3. 井口裕子(1995)、東泉裕子(2010)
2.5.1.4. 宇都宮陽子(2005, 2006)
2.5.2. 意味論的・統語論的・構文分析的「させていただく」の研究
2.5.2.1. 山田敏弘(2004)
2.5.2.2. 金澤裕之(2007)
2.5.2.3. 上原由美子(2007)
2.5.2.4. 豊田豊子(1974)
2.5.3. 社会言語学的・敬語史的「させていただく」の研究
2.5.3.1. 井上史雄(1999, 2017a, 2017b)
2.5.3.2. 山口真里子(2008)
2.5.4. 語用論的「させていただく」の研究
2.5.4.1. 原田登美(2006, 2007)
2.5.4.2. 米澤昌子(2001a, 2001b, 2012, 2013, 2014)
2.5.4.3. 茜八重子(2002, 2003)
2.5.4.4. 熊田道子(2000, 2001)
2.5.4.5. 伊藤博美(2010, 2011)
2.5.4.6. 李譞珍(2015, 2018)
2.5.4.7. 塩田雄大(2016)、塩田雄大・山下洋子(2013)、滝島雅子・山下洋子(2017)
2.5.5. ポライトネス理論的「させていただく」の研究
2.5.5.1. 橋元良明(2001)
2.5.5.2. 滝浦真人(2008a, 2016, 2018a, 2018b)
2.6. 先行研究のまとめ
2.7. 「させていただく」という問題系とは何か?
—3つのリサーチ・クエスチョン
第3章 質問紙による意識調査
「させていただく」の「文法化」と「新丁重語」の誕生
3.1. はじめに
3.2. 調査デザインと調査概要
3.2.1. 2つの仮説
3.2.2. 内的要因:[使役性][恩恵性][必須性]
3.2.3. ‘Benefactive English’
3.2.4. 外的要因:「回答者属性」「会話的役割」「言語意識」
3.2.5. 本調査における従属変数と独立変数
3.2.6. 調査文例とその素性について
3.2.7. 調査概要
3.3. 分析方法:決定木分析の有効性
3.4. 「させていただく」の調査結果
3.4.1. 回帰木からわかること
3.4.2. 内的要因
3.4.3. 外的要因
3.4.4. 「させていただく」の使用目的
3.5. 調査結果からの考察
3.5.1. 恩恵性について
3.5.2. 使役性について
3.5.3. 調査参加者の偏りによる交絡要因
3.5.3.1. 首都圏の人々の「違和感」の値
3.5.3.2. 上下関係の問題
3.5.3.3. 年齢層と特定の大学との関係
3.5.4. 「話し手」と「聞き手」の立場について
3.5.5. ポライトネス意識について
3.5.6. 「させていただく」における「恩(恵)」とは何か?
3.6. 「させていただく」についての意識調査結果からの考察
3.7. まとめ
第4章 「させていただく」の前接部と後接部 2つのコーパス・データの調査結果
4.1. はじめに
4.2. 2つのコーパスの概要
4.2.1. BCCWJの概要
4.2.2. 青空文庫の概要:コーパスとしての条件
4.2.3. コーパス・データの整備
4.2.4. コーパス調査の手順
4.3. コーパスの分析結果
4.3.1. 2つのコーパスにおける4つのベネファクティブの使用分布
4.3.2. 4つのベネファクティブの前接部:サ変動詞との共起状況
4.3.3. 4つのベネファクティブの前接動詞の分布状況
4.3.3.1. BBコーパスにおける4つのベネファクティブの前接動詞の調査結果
4.3.3.2. Aコーパスにおける4つのベネファクティブの前接動詞の調査結果
4.3.3.3. 2つのコーパスにおける前接部の比較調査
4.3.3.4. 2つのコーパスにおけるベネファクティブの使用状況の比較調査
4.3.3.5. 「させていただく」の前接動詞句をめぐるA/BBコーパスの比較
4.3.3.6. 2つのコーパスにおける「させていただく」と共起する動詞の種類
4.3.3.7. BBコーパスにおける「させていただく」「させてくださる」の前接動詞の比較
4.3.3.8. 前接動詞調査のまとめと考察
4.3.4. 4つのベネファクティブの後接部の分布状況
4.3.4.1. 2つのコーパスにおける「させていただく」の後接部の形式
4.3.4.2. 2つのコーパスにおける「させてくださる」の後接部の形式
4.3.4.3. 2つのコーパスにおける「させてもらう」の後接部の形式
4.3.4.4. 2つのコーパスにおける「させてくれる」の後接部の形式
4.4 コーパス調査から得られた洞察
第5章 2つの調査結果の考察 ベネファクティブ「させていただく」使用拡大の要因と影響
5.1. はじめに
5.2. 2つの調査結果のまとめ
5.2.1. 質問紙による意識調査のまとめ
5.2.2. コーパス調査のまとめ
5.3. 結語:「させていただく」という問題系への解
5.4. 総括:ゴフマンの概念から見た敬意漸減のメカニズム
5.5. (補遺)「させていただく」の今
おわりに(2020年12月吉日 コロナ禍の終息を祈りつつ 椎名美智) [233-238]
参考文献 [239-255]
付録 [257-283]
索引 [285-289] -
「させていただく」だけで1冊の本が出来上がることに驚く。
筆者が長年研究している英語学の歴史社会語用語研究で培った方法論を用いてまとめられている由だが、あらゆる角度からの仮説検証に加え、他者の研究成果の引用などを駆使し、論理的かつ判りやすくまとめられている。
第5章「2つの調査結果の考察」における5.3結語:「させていただく」という問題系への解で導きださされる結論にはなるほどと唸った。
「させてくださる」から「させていただく」への変化の要因(第4章)と「させていただく」を使うことでの相手との距離感への変化に加え、「させていただく」は自分がへりくだっているという謙譲の感覚で使われており、「させていたただく」を新しい敬語であり「新丁重語」と名付けている。
確かに、自分が「させていただく」を使うようになったのは、ビジネスの現場で社外の人に対するメール文面で粗相がないようにとへりくだって丁寧語を使わねばと思って書き出した記憶がある。
この本を読んでいる最中に日本のメガバンクのwebサイトを見る機会があったが、「させていただく」の連発で思わず苦笑してしまった。