ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い

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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822283650

作品紹介・あらすじ

ホーキングが物理学の土台に爆弾を投下した。それは「空間と時間の新しいパラダイム」にいたる戦争の始まりだった-新しい物理学への招待。

感想・レビュー・書評

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  • 「ブラックホールに落ちた情報は失われる」ホーキングのこの説に対して、もしそれが本当であるとすると熱力学第二法則を破るものとして世界の原理に対して大きな修正が必要になるとして反対する著者サスキンド。本書は、前半はその議論の理解を助けるための相対論と量子論、素粒子論の解説となっており、後半がブラックホール論争を巡る経緯や、ホログフィック理論やひも理論などの最新理論の解説になっている。この前半の解説が、意外にわかりやすい。一方で、主題でもある後半は、話の流れの間に著者のケンブリッジ大学での体験など、本筋にあまり関係がない話を挟んでいたりすることもあって、筋を追って理解するのがとても難しい。さらに著者は、自らが論拠としても主張するホログラフィック原理には、その正しさが実証されるとは考えられないともいう。それにも関わらず、ホログラフィック原理の前提のもとで、ホーキングの理論は成立しないのであるから、論争に決着はついたというとなると、ちょっと付いていけない。しかし、そのわからなさがなんとなく心地よいものになってきているから不思議だ。どういうものか引用をしておこう。

    「ひも理論が正しい理論だとわからないなら、どのようにして、自然に関する何かを証明するためにひも理論を使えばいいのだろうか?目的によっては、ひも理論が正しいかどうか気にしなくてかまわないのだ。私たちはある世界のモデルとしてひも理論を利用して計算し、その世界において情報がブラックホールの中で失われるかどうかを数学的に証明する。
    私たちの数学的モデルでは情報が失われないことが発見されたとしよう。それさえ発見されたら、もっと詳しく検討して、ホーキングがどこで間違ったかを見つけることができる。ブラックホールの相補性とホログラフィック原理がひも理論において正しいかどうか確かめることができる。もしそれができても、ひも理論が正しいことを証明するわけではない。しかしホーキングが間違っていたことは確かに証明される。なぜなら、彼はブラックホールがあらゆる一貫した世界において情報を破壊するに違いないと主張したからだ」

    車椅子の物理学者ホーキングは、ブラックホールは温度を持ち、放射(ホーキング放射)によって蒸発する、という理論を構築した。また、「ビットで測ったブラックホールのエントロピーは、プランク単位で測ったその地平線の表面積に比例する」という情報と面積が等しいという不思議な結論も導く。そして、そのブラックホールが蒸発するときに、ブラックホールに落ちた情報はなくなってしまうとした。この結論が熱力学第二法則を破るため解決が必要なパラドックスであるとして、著者は反駁する。周りの物理学者は、ホーキングの方に付くか、この論争の持つ重要性に気が付いていないようで、それが著者をいらつかせる。

    著者はホーキングの説を論破するにあたり、ブラックホールに落ちていく場合も、量子力学の波と粒子、時間と速度と同じように相補性が適用されるという主張を行った。ブラックホールの地平線では、落ちていくものにとっては地平線を通過するときに何も変化がないのに対して、地平線の内部からその様子を見ている観察者にとってはそうではない。重力のために時間の進みが極端に遅くなっている様子を見ることになる。それらは矛盾をしているが、同じ観察者がその両方を同時に見ることはないため、その事実は量子論的には矛盾がないというのだ。2004年になり、ホーキングは、やっと自らの誤りを認めて、ブラックホールに落ちた情報は放射の形で戻ってくるということを認めることとなった。著者は論争に勝ったわけだが、ホーキングに対する敬意は常に欠かすことはなかった。

    ブラックホールの論争において、事象の地平線が問題になったが、逆にわれわれにとって宇宙の背景放射が届くところまでがわれわれにとっての地平線であり、その先には到達することはできない。それはまるで裏返しのブラックホールの中にわれわれが囚われているかのようだという。そして、われわれはその「外側」から見るとホログラフィックの一部になっているのではないかと示唆する。というようなことを議論していること自体、とても不思議だ。

    さて、このブラックホールの論争が何の役に立つのか。ブラックホールが蒸発しはじめるまで1,000億年かかるというのだから。さらにいうとブラックホールの質量や大きさが変化すると感じられるまでなんと10の60乗年かかると書いてある。それでも、この論争を通じてブラックホールや量子力学と重力の統合、ホログラフィック理論に影響があったというのであればよきことなのだろう。それらがまた何の役に立つのか聞かれることとしても。


    『宇宙のランドスケープ 宇宙の謎にひも理論が答えを出す』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/482228252X

  • 科学の入門書は納得。ひも理論やグラフィック原理までの部分は入門者の私でも理解しやすく、ユーモアのある表現で楽しく読めた。
    後半のひも理論については急に例えも曖昧になるし、間違ってる気がするし、数式出てこないから考える事も出来ないし、かなりモヤモヤする。今まで弦理論は過激で間違った論理って習っていたから受け入れづらかったのもあるだろうな……。
    本当にこの本に書いてあるのが正しいのかわからないし、そもそも読んでもひも理論が理解出来ていない。『宇宙のランドスケープ』などで詳しく説明されてるそうなので、読んでみるつもり。
    でも、問題を簡単にするためのヒントや、「なぜこの理論は間違っているか」を考える癖が付いたのはこの本の中では感じたのは良かった。

  • サスキンドというのは熱い人だ。本の中で、議論に熱くなり、熱く悩み、熱く怒り、熱く語る。
    例えは面白く、多分分かりやすい。多分というのは、それでもよく分かった気にならないからだ。頭の「配線」が古いようだ。
    この本では、ホログラフィック宇宙論が勝ったことになっている。しかし、最近の(2015)フェルミ研究所の観測では、ホログラフィック宇宙論に反する結果が得られているということなので、まだ完全決着しているとは言えない。
    ホーキングは、彼の病気から考えると、長生きだったが、とうとう亡くなった。サスキンドが今、何を考えているかは分からない。

  • スティーヴン・ホーキングは1ビットの情報をブラックホールへ投げ込んだらその情報は消え去ると主張した。著者とゲラルド・トフーフトは情報は消えないと主張した。その主張に纏わる論争を描く。相対性理論、不確定性理論、エントロピー、ブラック・ホール。そして、ホログラフィック理論やひも理論なども絵も交えて細かく説明されるのだが、本書の後半では自分の頭がついて行かなくなってしまった(苦笑)。

  • ブラックホールに吸い込まれた情報は消えるのか?
    ホーキングとの20年にわたる論争をエピソードを交えて丁寧に説明した書。
    前半は量子論と相対論の復習?ふんだんに使われているイラストが嬉しい。後半の「ホログラフィック原理」になると???
    「頭の再配線」(今まで正しい・常識とされていたことが覆されることを筆者はそう呼ぶ)は中々厄介だ。1905年の「再配線」さえ怪しい自分にとって、本書の☆付けは分不相応かも。
    でもまぁ、分からないなりに面白かったので☆三つ(^^;

  • ブラックホールに落ち込んだ情報(ビット)が消滅するのか(ホーキング)、それとも何かしらの方法によって取り出すことが可能なのか(サスキンド)を論じた一般向けの科学啓蒙書(本当に一般向けか?)。

    普通に暮らすだけなら全く読む必要の無い類の本だが、宇宙・素粒子・ブラックホールというワードに心くすぐられる人は読む価値がある。

    それにしても、三次元の情報はすべて二次元平面で表現できる(できるというかそのようになっている)というホログラフィック原理は、マクロな世界に慣れ親しんだ身としてはどうにも信じられない。

    前著である「宇宙のランドスケープ」に比べれば優しく読み進めるのも容易だが、本の大体1/6を過ぎたあたりから、ひも理論やブレーンの話が多くなり、このあたりから理解が怪しくなってくる。やはりひもの話を一般向けに書くのは難しいのかもしれない。

  • ブラックホールのホログラム原理だけは最後まで理解できなかった。

  • 理解を促す工夫をこらされているが、物理理論の基礎を理解せずに読むには難解と感じる。ただ、戦争と表現される一連の過程は非常に興味深く、引き込まれる。

  • (欲しい!)

  • ブラックホールは「死んだ恒星」である。太陽は質量が小さいのでブラックホールにはならない。巨大な質量をもつ恒星が超新星爆発(=星の死)をした後、今度は重力が内側へと向かう。ま、綿飴を潰した状態だ。最終的に原子はおろか素粒子レベルまでが破壊される。つまり空間が存在しない状態といってもいいだろう(原子の99.99パーセントが空間)。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20110210/p2

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著者プロフィール

1978年よりスタンフォード大学の理論物理学の教授を務める。カリフォルニア州パロアルト在住。ひも理論の先駆者として知られる。ニューヨークで育ち、成人してすぐの頃は父親と同じ配管工のしごとをした。シティカレッジ・オブ・ニューヨーク(CCNY)の工学部に進み、コーネル大学で理論物理学の博士号を取得。1969年、南部陽一郎と同じ時期にハドロンのひも理論に到達した。ブラックホールに吸い込まれた量子の情報は失われると主張するスティーブン・ホーキングに対抗して、ゲラルド・トフーフトとともに情報は失われないとする論陣を張る。トフーフトとの共同研究の成果として、ブラックホールの奇妙な相補性の原理やホログラフィック原理を見出し、理論物理学に深い影響を与えた。著書に『宇宙のランドスケープ』『ブラックホール戦争』『スタンフォード物理学再入門 力学』(いずれも日経BP社)など。

「2015年 『スタンフォード物理学再入門 量子力学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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