「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822255732

作品紹介・あらすじ

●一時代を築いた「勝ち組」は、なぜ新世代の競争に出遅れがちなのか?
●この「イノベーターのジレンマ」に打ち勝つには、何をすべきなのか?

 内外の企業が直面するこれらの切実な「問い」に、気鋭の経済学者・伊神満イェール大学准教授は、サバイバルの条件は創造的「自己」破壊にあり、と答える。
 
 「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」をキーワードに、ゲーム理論、データ分析などを駆使して、 「イノベーターのジレンマ」をクリアに解明する。

第1章 創造的破壊と「イノベーターのジレンマ」
第2章 共喰い 
第3章 抜け駆け
第4章 能力格差
第5章 実証分析の3作法
第6章 「ジレンマ」の解明(1)ステップ①需要
第7章 「ジレンマ」の解明(2)ステップ②供給
第8章  動学的感性を養おう
第9章 「ジレンマ」の解明(3)ステップ③・④投資と反実仮想シミュレーション
第10章 ジレンマの「解決」(上)
第11章 ジレンマの「解決」(下) 

感想・レビュー・書評

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  • 20200715
    クリステンセン氏の有名な『イノベーションのジレンマ』を経済学的視点で、定量的に解明した返歌。
    自身も曲がりなりに経済学部出身で、需要や供給、動学的視点での研究は興味深かった。
    今一度エッセンスを述べると、既存企業は、競争によって利益が落ちないよう(数量効果・価格効果)、①抜け駆けの誘引は高い(供給サイド)。また、②開発能力(投資=動学的観点)においても、既存アセットを行かせる事で新規企業よりも優位な点が多い。しかしながら、既存企業の既存事業がある事で、車内的な制約や株主からの制約を受け、③共食い(置換効果=需要サイド)に尻込みしてしまう問題がジレンマであった。これだけでもインサイトに富む命題である。一般的には、経営者の無能や政府の規制の欠陥と思われるが、優良であるがゆえに制約というジレンマに悩むという、常識を超えた示唆だったからだ。
    その示唆に対して、伊神氏はもう一歩踏み込み、実証研究のプロセスとして①データ分析、②実験、③シミュレーションをやってみせた点が鮮やかである。結果を見るだけでも有益だが、そのステップ(構造化→進むための思考法)を追体験できたことは、より有益であった。全てを吸収しきれたわけではないが、進み方の考え方こそ心にとどめ、自分なりの思考様式ができるよう励みたい。

    //MEMO//
    クレイテンセン教授の名著であるイノベーションのジレンマの経済学的解明という。クリステンセン教授は、どちらかというとビジネスケーススタディから導き出した命題であったが、伊神氏は経済学的に証明するというのか。
    ゲーム理論や、統計学など、理論で上記命題が証明できたら非常に面白い。そしてやはり、企業も自身も優良であり続けることは、停滞を意味するということを一層肝に銘じるであろう。

  • 伊神先生は

    イェール大学の准教授。本当は実績を残すために、日本語の本など書いている場合ではないと思うのだけど、後書きにあるように色々な思いがあって休日を使ってこの本を書いたようです。これ、本ではなくて授業とかで直接話を聴いたら、きっともっと面白かったのだろうなと思いました。

    この本は結構面白い構成で、最初にざっとサマリーのようなものが書いてある。さすがは大学の先生。語り口はエッセイ調。

    説明されている経済理論は3つ。置換効果(共食い)、抜け駆け、能力格差。実証研究の手法も3つあってデータ分析、比較対象実験、シミュレーション。で、そもそものクリステンセン先生のHDDの事例をベースに実証研究の結果を示すというもの。

    最後の最後にまとめが書いてあって、これも3つ。

    ①既存企業は、例え有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共食い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベータのジレンマの経済学的解明)

    ②この「ジレンマ」を解決して生き延びるには、何らかの形で「共食い」を容認し、推進する必要があるが、それは企業価値の最大化という株主にとっての利益に反する可能性がある。一概に良いとは言えない。(創造的「自己」破壊のジレンマ)

    ③よくある「イノベーション促進政策」に大した効果は期待できないが、逆の言い方をすれば、現実のIT系産業は、丁度良い「競争と技術革新のバランス」で発展してきたことになる。これは社会的に喜ばしい事態である。(創造的破壊の真意)

    これが結論なのだけど、印象的な引用が2つあった。

    「自分がもっともほしいものが何か判っていない奴は、欲しいものを手に入れることは絶対にできない。キクはいつもそう考えている」(村上龍「コインロッカー・ベイビース」

    UCLAのエド・リーマー博士の2つの質問。1)「君の問いは何だ? What's your question?」2)「世の中の誰がその問いに関心を払うべきか? Who should care about your questions?」

  • よく聞くイノベーターのジレンマについて、経済学的に解明した本。
    なんだかちょっとまどろっこしい書き方な気もしなくはないのだけど、確かにそういわれてみればジレンマに陥ってしまうのも無理はないのかもしれないと思えた。
    成功した企業もずっと成長し続けるのはなかなか難しいんだろうと思う。イノベーターのジレンマを克服した企業として思いつくのはAppleだけど、最近は陰りが見え始めてるし(ジョブズは偉大ってだけかもしれないけど。ただ、iPod touchの新作は個人的には出してほしい)。
    ただ、この本を読んで、IBMが自己破壊を繰り返して成長してきたとのことで、すごいなと思った。Wikipediaページを見たら面白いと書いてあったので、時間があれば読んでみたい。
    ところで、従来事業が成功したらそれがずっと中心の事業となるというような話で、マイクロソフトが今後ウィンドウズ事業部やオフィス事業部よりも強力な社内勢力は生まれにくいと書いてあったけど、最近だとAzure事業の勢力は高まっている気はする。
    ロダイムという会社が起こした3.5インチHDDの特許訴訟は初めて聞いたけどちょっと面白いなと思った。下町ロケットみたいだ。こんな訴訟事件に10年も突き合わされたら勝ってもたまらないな。

  • 『イノベーターのジレンマ』を過去に読んだことがあるので、読んでみたけど、全く読んでいなくても問題なく本書は読むことができる。
    経済学は全く得意じゃないけど、分かりやすく書かれていて面白かった。「第5章 実証分析の3作法」とか全く歯が立たないところもあったけど、初心者でも読みやすい本だと思う。
    フェイスブックやグーグルなどの大企業が、ぽっと出のスタートアップ企業を大金を積んで買収する理由が良く分かった。自分の身を脅かす可能性のある芽は早いうちに摘んでおけっていうことなのね。

  • イノベーションのジレンマの本。認識を深めるべく読書。本質的な構造を平易にわかりやすく紐解いてくれている良著。

    メモ
    ・代替性がある場合、共食いの分だけメリットが減少する。
    ・抜け駆け、守備的m&a。くいとめによって、そうしない場合に失われる分だけ、そこに投じるコストの価値が生じる。既存事業が大きく支配的である方が、既存側の取得インセンティブが、新規側の継続インセンティブを上回る。

  • ・既存企業はたとえ有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の共喰いがある以上、イノベーションに本気になれない
    ・共喰いを容認し、推進する必要があるが、株主利益に反する可能性がある
    ・イノベーション促進政策には期待できないが、IT系産業は競争と技術革新のバランスがいい感じだった

    経済学的とはどう言うことなのだろう。ゲーム理論や回帰分析を使うこと?
    ・なぜイノベーターのジレンマが起きるのか
     →共喰い
    ・どうすればいいのか
     →共喰いok、失敗ok

  •  Yale大学の若き経済学者による、教育的な自伝である。

     「イノベーターの経済学的解明」のタイトルにつられて購入した。私は前半の「イノベーター」の部分に着目していたが、本書における著者自身の力点は後半の「経済学的解明」に置いていたように思う。
     著者が自身の博士論文を以て経済学の全体像を感覚で理解できるよう提示している。需要・供給・均衡・限界といった基礎的な概念から、差別化と競争、社会厚生、静学/動学、実証研究の形態の各トピックまで、幅広く紹介している。非常にスピーディーで熱のこもった筆致であるためか、サクサク読める。

     経済学はしばしば、「モデルが現実的でない」との批判を受ける。しかし本書は、その批判が筋違いであることを示す。「モデルが現実的でない」と考えるのは、そもそもその理論の有用性を理解していないからだと断じる。そこに自身の問いが発さればこそ、その問いと背後の文脈に応じたモデルが活きてくる。イノベーターのジレンマをはじめとする諸々の社会的現象を、単純なモデルによって説明することの意味を、次のように説いている。
    「世の物事や人の感じることを言葉で言い尽くすのは土台無理な話だが、それにも関わらず人は言葉やその他諸々の手段を使って、何かを表現し伝えようとする。方程式やギリシャ文字だけで経済活動(やそれを含む有象無象)を表現し切ることは難しい。難しいというか、そもそも現実世界の『枝葉』を削ぎ落して単純化するためにモデルという箱庭を作ったわけだから、数式自体には『現実』がほとんど登場しない。それにも関わらず、数式の行間を読み、背後の事物に想像力を働かせることは可能である。」(第10章)
     既存企業にとっては、既存事業と新事業の共喰いを乗り越える必要がある旨を一連の実証分析から示唆した後、その背後に潜む現実に対して想像力を発揮させていく。その想像力の発揮はまさしく、洗練された問い/仮説と、モデルによる頑健な裏付けがあるからこそ、意味を成すものに思えた。

     冒頭で掲げられた問いに対する結論は、凡庸なものであった。それでは長々とした論証は無意味だったのか?と筆者は問う。答えは当然、「否」。以下は引用である。
    「『結論』や『解答』そのものに、大した価値や面白みはない。そうではなくて、
    ・そもそもの『問い』
    ・その煮詰め方、そして
    ・何を『根拠』に、いかなる『意味』において、その『答え』が言えるのか、
    つまり『どんなことを、どんなふうに考えながらそこに到達したのか』という『道のり』こそが、一番おいしいところであり、大人に必要な『科学』というものだ。」
     ここが著者の最も伝えたい主張であるに違いない。というのも本書は、「経済学を初心者に向けて紹介する本」以上に大きな意味を持っているのだ。そうではなくてむしろ、著者自身の研究を例にしながら、いかに知的好奇心を探求する営みが楽しく、(もしかすると)尊い行為であるかについて力説した書である。
     そして上記の引用はまさしく「結論」に他ならない。そのためここだけを見てもあまり響かないかもしれない。しかし、著者の具体的な研究とその背後にある頭の使い方と意志を追体験することで、その結論は格段に説得力が増す。

     自分の日々の営みに自信が持てなくなった時に、帰ってきたい一冊。

  • 結論が目新しいわけではないけど、イノベーターのジレンマ的なものが好きな上級労働者に対して、緻密に誠実に積み上げていってる一冊というか。

  • 一時代を築いた「勝ち組」は、なぜ新世代の競争に出遅れがちなのか? 「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」をキーワードに、ゲーム理論、データ分析などを駆使して、「イノベーターのジレンマ」をクリアに解明する。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40254791

  • 本書はイェール大学で教鞭を執る日本人経済学者が、経営学の泰斗であるクリステンセンの研究を、経済学的見地から定量的、理論的に深掘りした、という本になります。クリステンセンの書いた『イノベーションのジレンマ』は世界中でベストセラーになった本ですが、この著者が指摘しているように、書かれている内容自体はかなり定性的で、他の経営学のフレームと比較しても科学性に乏しいというような批判はありました。

    そのような背景のもと、著者は経済学の専門家として、クリステンセンの世界観をモデルに落とし込んだと言うことになります。内容は確かに経済学の知識がある方が望ましいですが、そうではなくとも理解できるように書かれていると思いました。また私自身経済学の論文を読むことはたまにあるのですが、この著者が述べているような構造になっていることをあらためて認識できました。その意味で非常に勉強になりました。

    本書はクリステンセンのかなり抽象的な記述を具体的、科学的にしてくれているという点で有意義なのですが、インパクトというか一般の人々への訴求度合いについてはやはりクリステンセンの語り口の方が有効と言わざるを得ません。クリステンセンは最近では“How will you measure your life?”といった本も書かれていますが、文章力、表現力が非常に高い。ハーバードでは彼の授業はいまだに人気が高く、その理由は彼の語り口にあるといいます。普遍性、再現可能性という意味で経済学の役割は非常に高いですし、「数字に語らせる」ことは大事だと思うのですが、他の人間への訴求となると、最後は人間力が大事で、抽象的、個別的であったとしてもそういう語り口の方が人々の印象に残ってしまうのが、人間の難しさでもありおもしろさでもある、と本書を読んで感じました。

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