GE 巨人の復活 シリコンバレー式「デジタル製造業」への挑戦

著者 :
  • 日経BP
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822255114

作品紹介・あらすじ

脱・ウェルチの経営改革を徹底取材!

世界最大の重電メーカー、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、金融事業の撤退に伴い、1兆9000億円にも上る特別損失を計上した。
これは、「20世紀最高のCEO」とまで呼ばれたジャック・ウェルチが作り上げた
コングロマリットとしてのGE、株式時価総額で常に世界1位を争ってきた
GEの挫折の象徴だ。
現CEOのジェフ・イメルトは、ウェルチ経営から大きく戦略を転換する。
社員30万人の巨大企業でありながら、
グーグルなどシリコンバレーのスタートアップを徹底的にまね、
「デジタル製造業」に姿を変えようとしている。

<事業>
金融中心から、「デジタル製造業」へ

<製品>
産業機器の販売中心から、産業機器の生産性を上げるサービスに拡大

<開発>
縦割りの開発体制から、ソフトウエアはデジタル部門でまとめる体制へ
失敗を許さない文化から、リーンスタートアップ方式で素早く失敗する文化へ
製造現場にセンサーを張り巡らせたブリリアントファクトリーへ

<人事制度>
「ナインブロック」で社員を評価する方式から、能力開発の「パフォーマンスデベロップメント」へ

<成長戦略>
M&Aとリストラによる成長から、自社開発サービスでの成長へ

感想・レビュー・書評

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  • 正直、本書のタイトルは、中身の価値を全くと言っていいほど表していない。ここで書かれている事は、いわゆるデジタルトランスフォーメーションの具体例であり、どちらかというとITやデジタルからは縁遠いと思われがちがGEという巨大企業が、いかにしてデジタル化をすすめ、どのような価値を生み出しているかという事が書かれている。

    著者は日経BPの編集者で、シリコンバレー在住だというが、その取材力と洞察の鋭さは素晴らしいものがある。ちまたに溢れる、DXの解説本をいくら読んでも抽象論ばかりで、では具体的に何をすればいいのか、という問いに答えるものではなく、アマゾンのレビューなどでもその点に関する不満や批判は多い。DXの具体例と本質を知りたいのであれば本書に勝るものはないであろう。

    さて、GEであるが、DXを協力に推進したのは、ジェフイメルトである。20世紀最高の経営者の一人でるジャックウェルチから後継者に指名されCEOの座を継ぐが、すぐにリーマンショックに見舞われ、ウェルチ時代に稼ぎ頭だった金融事業が足かせとなり、サブタイトルにあるように1兆9千億円もの損失を計上することとなる。

    一方で、それを尻目にGoogleやMicrosoftなどの巨大IT企業は、金融危機をものともせずに右肩上がりで業績をあげ、それに伴い時価総額もうなぎのぼりで上昇し続けていた。イメルトは、Why not us? と幹部に問い、柱であった金融事業を売却し、デジタル化に舵を切り始める。

    イメルトのリーダーシップの下、GEはデジタル化を推進し、事業の収益構造やビジネスモデルまでも大胆に大きく変換させる、正にトランスフォーメションを断行する。GEデジタルという新会社をつくり、オフィスはシリコンバレー郊外におくことで、デジタル人材を積極的に採用し4000人気ぼの組織になっている。

    本書が秀逸なのは、DXの導入および成功の背景にある、思考法についての洞察である。シリコンバレーに拠点を置くのは多くの日本企業が行なっている事であり特段目新しい話でもないし、置けば何かが変わるという訳でもない。GEが先例が無いDXの分野で先進的でいられるのは、シリコンバレーのカルチャーを貪欲に学び、自らのものにしていった事である。たとえば、シリコンバレーでは、リーンスタートアップという概念がある。小さく初めて失敗を許容しながら、素早く修正、改善を行い、製品やサービスの質を高めていくという手法、考え方である。GEを始めとする旧来型の企業は、事前に綿密な計画を立てて、それを踏襲していくのがおおよそのやり方に対して、リーンスタートアップはいわば走りながら考える、スタイルである。そうした仕事の仕方は、日本企業でもやっているという声もあがろうが、多くの場合は現場や担当者レベルでの局地的なもので会社としての取り組みではないはずだ。大切なのはそれを企業のカルチャーとして落とし込む事である。GEは自社独自に、それをFastworksと呼ぶ事にし、全社員30万人に実践させている。

    本書では、GEによる多くの造語やプロジェクト名が登場し、それを全て咀嚼するのは難しいが、それらは単なるネーミングには止まらない。何らかの名前を与える事によって、象徴的に取り組みをコミュニケーションする事ができる。欧米企業は伝統的にこうしたスタイルを好み、日本企業はそうした取り組みを何か中身の無い胡散臭いものとして見てバカにする傾向にあるが、結果を出しているのはどちらかという事である。

    著者は、あとがきで総括する。シリコンバレーの強さは、以下の3つに代表される仕事の進め方の方法論であると。
    1. Agile Development
    2. Design Thinking
    3. Lean Startup

    すなわち、GEが復活しDXを成し遂げられたのは、この方法論を自社の文化に植え付ける事に成功したからであり、またイメルトがリーダーシップを発揮した事によるものである。途中引き合いにだされている、GEの製造現場でポカヨーキーという言葉が実はトヨタのポカよけから来ているエピソードはGEの他車から学ぶ貪欲さと謙虚さの表れである。

    日本企業のDXについては、コマツの自社製品の稼働状況をモニターし、サービスを向上させているなどの例があるが、GEと比較するとやや小粒であり、会社のビジネスモデルそのものを変換させるのどのダイナミクスはない。いわんや、他の伝統的な日本企業がDXを実現するにはアイディア以上に、企業文化の変革が大切であろう。

  • 2017/10/06 初観測

  • 2017.06.14 品川読書会

  • GE 巨人の復活 シリコンバレー式「デジタル製造業」への挑戦
    中田 敦

    ・GEの製造業回帰のきっかけ
    ①リーマンショックによる金融部門の特別損失(合計1.9兆)
    ②デジタル破壊(Googleがインフラ部門にも進出、IBMのスマーター・プラネットにより、GE顧客へのソリューションビジネスの開始)

    ・戦略の転換
    ウェルチ:M&Aによる売上増加→人員削減による利益増加(ニュートロンジャック)
    イメルト:自社で開発した製品・サービスによる自力成長。リーマンの中でも成長を続けたシリコンバレーのスタートアップを模範とし、愚直に真似た。リーンスタートアップ、デザイン思考を全社員に学ばせた。

    ・人事制度の転換
    ウェルチ:バイタリティカーブ、ナインブロック(相対評価)により、部下を評価分類(Cの人は解雇)競争的過ぎて社内はギスギス、やる気を無くす人も少なくない。時間もかかった。
    イメルト:パフォーマンスデベロップメント(PD)により、部下の行動に対し、「GEビリーブスにあっているか」という観点で「継続」「再考」というコーチングを行う。「People Review」で評価に落とし込み。

    ・GEデジタル誕生プロセス
    ①2011・シスコ副社長のビル・ルーをトップに据えロードマップ作成。
    ②産業機器のサービス事業を最初に選択。3年間で10億ドル投資。
    ③シリコンバレーでのIT人材採用は難航。専門リクルーター自体をまず採用し、デジタル革命というビジョンを見せて自社で採用。2000人採用。
    ④2012・インダストリアルインターネットの概念を顧客企業に説明。1%の効率改善が300億ドルの利益をもたらす(15年間、業界全体)
    ⑤2013・Predix発表、社内向け、各事業部横断。開発効率の削減、コスト削減で社内で成果が出た。
    ⑥2014・産業界で使えるオープンプラットフォーム化。プロダクトマネージャーを置いた(受託生産には無い概念、自ら製品を定義)。2015にGEデジタル創設。
    ⑦2016・Paas(Predixのクラウドサービス)提供開始。400のパートナーが周辺アプリを開発。


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  • 斜め読み。
    良書。
    買うべし。

  • B2Bは地味に見えるし、戦略がシリコンバレーのパクリっぽくて、物語としてはあまり面白みがない。ただし、きたるIoT時代はこういう地道な戦略が身を結ぶかもしれないとも感じた。

  • GEがどのように変化しようとしているのか。
    その具体的な変革の一端が読み取れる。

    GEをあまり知らない人にはわかりやすい書籍です。
    GEの中の人からGEについてある程度情報を得ている人には情報の整理ができる書籍です。

  • 大企業がシリコンバレーっぽくなれるか?という挑戦の記録。この本を読んだのちにGEは経営者が交代するが、それは本書の内容(リーンスタートアップ、デザインスプリントなど)の失敗による、、と安易に結びつけてはいけないと思う。いずれにせよ、大企業でも大学でもスタートアップらしい行動思考プロトコルを育成できるのはアメリカの強みになる。

  • エジソンの時代からの老舗の電機メーカーGEは、ジャック・ウェルチの時代に一時はNBCや金融事業に業態転換をして高収益企業として生まれ変わったと言われていた。CEOのジェフ・イメルトはGEを時代に合わせて「デジタル製造業」へ生まれ変わらせると決断し、シリコンバレーのやり方を徹底的にまねて、実際に30万人の大企業のポートフォリオや人事施策を転換させた。本書が描くのはGEの「トランスフォーメーション」の実像となる。著者は日経BP社シリコンバレー支局勤務の記者。日本人が海外企業を取材をして一冊のしっかりとした本にまで仕上げるのは珍しいが、もっと多くの本が日本人の手により、日本人の視点も含めて書かれてほしい。

    GEは、2017年2月の株主への手紙でこう宣言した(※)。
    「産業界の多くの企業が20年前に進めた『デジタル筋肉』のアウトソーシングが、今日には敗者であると我々は学んだ。今後、GEのすべての新規採用者はコード(プログラミング)を学ぶことになる。彼ら全員がソフトウェアを書けるようになるとは期待していないが、デジタルの未来における『可能性の芸術(アート)』は、必ず理解しなければならない。
    We have learned that outsourcing digital muscle – a move industrial companies made 20 years ago – is a loser today. Every new GE recruit will learn to code. We don’t expect them all to write software, but they must understand the “art of the possible” in a digital future.

    GEはハードウェア企業からソフトウェア企業へと舵を切った。それが必要であると学んだからである。そのためにシリコンバレーのコンセプトである「リーンスタートアップ」や「デザイン思考」「アジャイル開発」などその方法論を全社員に学ばせたという。そして「FastWorks」というGE版のリーンスタートアップを作り上げた。問題発見-仮説特定-MVP開発-顧客によるテスト-結果反映、といったサイクルをぐるぐる回すということである。顧客自身もデジタル変革のために何が必要かわかっていないから、顧客に「要件定義」を求めないという。その代わりにGEが必要なアプリとサービスを提供するというのだ。
    また、その方法論を徹底するためにそれまでの厳しい人事評価から、失敗に対して寛容な文化を作るための人事制度を大きく変更した。失敗を許容できるようになるには、素早くリカバリーできるスピードも必要となるため、組織のフラット化も同様に進められた。失敗を心地よく感じるようになる文化を作ることが目標でもあるという。コードを内製化できるようにすることも、この方法論を実践するために必要な結論でもあった。

    10年前のGEは、金融や放送などの非製造部門の売上高が全体の4割を占めるコングロマリッド企業だった。2016年12月気には売上の91%がB2B向けの産業機器が占めるまでにそのポートフォリオを展開させたのである。そして、GEはこの世界においてプラットフォーマ―としてのポジションを戦略的に確立しようとしている(そのプラットフォームはPredixと呼ばれている)。
    トップダウンのよいところはこうやって徹底させることができることだろう。徹底の中には、その結果として捨てるべきことを捨てるということも含まれている。

    そもそもGEが脱・製造業への道を選んだきっかけは日本メーカーの存在であったという。インテルのメモリからCPU集中への戦略転換も日本電機メーカーの影響があったという。日本は韓国勢や中国勢の攻勢から何かを学び変化することがあったのだろうか。確かにSONYは金融分野にも進出し、メディアやネットにシフトしようとしたが、期待通りにはならなかったようではあるが。

    デジタル変革に必要なものは、トップの決意、デジタル変革の方法論への理解、そしてデジタル変革に必要な人材を集めると同時に元からの従業員にデジタル変革の方法論を学ばせることだという。GEは、そのためにシリコンバレーにオフィスを構えたという。
    GEという大企業がここまで大胆に動いているのは知らなかった。広く知られてほしい。

    (※) LETTER TO SHAREHOLDERS
    A Resilient Culture
    https://www.ge.com/ar2016/ceo-letter/culture/

  • この本は素晴らしい!再読必須。

    まさかあのGEがシリコンバレーの会社を習って「アジャイル」「リーンスタートアップ」「デザイン思考」「オープンソース利用」等やってるとは。

    下記メモ(ネタバレごめんなさい)
    ・自社の責任と権限で「アプリ」開発
    通常は顧客企業が要件定義し、インテグレーターがそれに従って実装する。
    GEは自分たちで要件定義し、実装し、顧客企業に対してサービスとして提供する。

    ・デザイン思考では「ユーザーの観察」がすべての起点。顧客の考えを深く観察して本当の問題を発見する。人々の行動の背景にある感情にも着目する。顧客の立場に共感しながら解き明かしていく。
    例えば電話を使った事のない人に「電話を使ってみたいですか?」と質問しても無駄。普段はどうやって隣村の人々と連絡していますか?等質問を工夫する必要性有。

    ・デザイン思考を使って顧客と対話。解決策をストーリーボード(=ユーザーが製品やサービスを利用する一連の体験を絵物語風に記述するもの)にまとめる。ストーリー(絵物語)に仕立てあげることで問題点が本当に正しいのか、解決策が実現可能なのかグループで検証できるようになる。
    ストーリーボードはある種のプロトタイプだ。
    物語によって顧客に解決策を疑似体験してもらっているからだ。時にはドラマ仕立てのビデオを作ってみてもらうが、そのビデオもprototypeの1つ。

    ・デザイン思考をgoogleが進化させたものが「デザインスプリント」

    ・リーンスタートアップは自社の取り組みが「間違う」「失敗する」ことを前提としている。最初に出すものは絶対に間違っているからそれを大急ぎで改善し続ける。成功するためにはより早く失敗するしかない

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