JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822250942

作品紹介・あらすじ

サントリー、日本郵政など海外での大型企業買収が加速している。世界市場でシェアを確保できるかどうかが、企業の生死を決める。M&Aは買収後が勝負。買収後の統合作業が頓挫すれば、成功はおぼつかない。
 「海外M&Aのことなら、この人に聞け」と言われるのが、JT副社長の著者だ。M&Aの担当者はJTの門を叩き、巨額M&Aを成功させた辣腕CFOに、どうやって経営統合するか、教えを請う。
 JTの今日のポジションは、日本企業では珍しい二度にわたる1兆円規模の海外企業の買収によって築かれた。1998年、RJRナビスコから米国市場以外のたばこ事業を統括するRJRIを9420億円で買収、
2006年には英国のタバコ企業ギャラハーを2兆2500億円で買収した。
 JTは大型M&Aで自身の組織や意識を変えながら、経営統合でも最大の効果を発揮している。2014年12月期の連結売上収益が2兆4300億円、調整後営業利益は6600億円。
このうち売上収益の55%、調整後営業利益の3分の2を海外事業が占めている。
 日本と中国市場を除く世界市場をジュネーブに本拠をおくJTインターナショナルが担当している。「良い子(電電公社)、悪い子(国鉄)、普通の子(専売公社)」と言われた時代から、
たばこの世界シェア3位メーカーに大きく飛躍したJTの事業戦略を立役者の1人がはじめて明らかにした。

感想・レビュー・書評

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  • 『コーポレートトランスフォーメーション』で紹介されていたので、読んでみた。
    JTは僕にとっては存在してなくてよい企業なんですが(タバコ部分)、それは置いておいて、事例として参考になるものでした。

    ・グループガバナンスのあり方。本社とそれに匹敵する海外子会社の規律関係の柱としての、責任権限規規程。
    ・JTでは、適切なガバナンスを前提とした「任せる」経営。なので、権限規程、つまり何をどこまで委譲するのかの約束が大事。そして、任せた結果が見えるような仕組みを走らせる。
    ・その見える化の一手段として、内部監査が位置づけられている。そんなふうに、CFOが考えていると。300ページ弱の本ですが、1ページ11行、内部監査の記載あり。
    ・組織は負荷をかけてこそ強くなる。
     さじ加減が難しいですね。たいてい負荷をかけすぎて潰す経営陣が多い気がする。それは、自分の体力が物差しになっているからかもしれない。トレーニングも最近では追い込み、しんどいことが効率的なトレーニングでもないという研究結果が出てきている。しんどさは自己満足。もちろん伸びてるんだけど、苦労としんどさがなくても、それ以上の効果がある適切なゾーンがあるよと。さて、身体トレーニングと組織トレーニング、どちらも同じ人間だから、同じ結論になるのか否か。
    ・ローマ人の物語が愛読書のひとつ。同じだ。愛読書というほど読み返したりはしないが、もう一度読み直してみようかな。
    ・統合における10の基本原則。keep it simple。で、一言で言うとどういうこと?っていう質問をちょくちょく投げかけるようにしている。
    ・財務機能の設計仕様書が公開されているので、監査機能版をつくってみよう。部分的に作っているけど、ここまで体系的ではないので。

  • 別の本で、M&Aはこれを読め!と紹介されていたので購入。著者は、JTでCFO等を務めた新貝氏。

    感想。良かった。いくつか読んだM&A本よりも臨場感あり、細かな苦労や工夫の記載が具体的。また著者=当事者が財務・ファイナンスの門外漢という立場からCFOとして全体を主導した経験も面白かった。

    備忘碌。
    ・JTは、日本国内のJTと、海外子会社を統括するJTIに大別。JTとJTIの関係は、適切なガバナンスを前提とした任せる経営。具体的には、責任権限規定を明確にし、JTはその範囲に沿ってJTIに物申す。この範囲を超えてJTIに、箸の上げ下ろしに口を出すことはない。

    ・子会社の立場だと、受権された範囲内のことを、親会社から横やりが入ると、成果責任の所在が不明確だし、当事者意識も薄ま。

    ・JTの承認事項は、単年度計画、中期計画、役員人事・報酬、KPI。

    ・加えて、徹底した経営の見える化は実施。電子意思決定システムを活用し、子会社側でどのような意思決定がされたかを常に見える状態にしている。業績状況や役員会議事録も。その上で、任せる。

    ・「大規模なM&Aをやるから」といっても全員が当事者意識を高めて真剣に動くわけではない。ただ、その場面が実際に生じれば、結構しっかりやってくれる。

    ・「準備に失敗することは、失敗するために準備する様なもの」。また著者によれば、受け身で持ち込まれた案件は、自社側の準備不足があり、上手く行かなかったと。反対に、「いつかここを買収したい」と考え、事前に研究を進めていた案件は上手くいったと。

    ・交渉過程では、①論点を浮き彫りにし、②「この懸念を共有してともに解決しないか」という提案で、建設的に議論したい。

    ・FAの活用について。専門な手続き、海外税制・法務・労働法・年金数理計算・各国の独禁法対応や申請、といったものは、アドアイザーを活用した方が良い。しかし、事業については自社の方がプロフェッショナルな筈。バリュエ―ションに必要な情報収集はFAに任せても良いかもしれないが、是非の検討は自社ですべき。(⇒自社でなすべきことを決め、アドバイザーには自社から質問を投げ、決められて範囲の手続きをして頂ければよい、と)。

    ・買収決定後は、一刻も早く会社の全体像や個々の将来を示してあげると、従業員が安心する。

    ・買収発表後は、レポートラインの明確化がポイント。誰に指示を仰ぐのか、誰に報告するのか、誰が何に責任を負うのか。これがないと、買収一日目から業務が滞る。

    ・M&Aにおいて「私企画する人、あなた実行する人」は上手くいかない。当事者意識が相互に希薄になる。いくら旗をふっても、やらされ感が拭えない。

    ・著者のCFOとして、マネジメントとしてのモットー。「元気で高いスキルを持つ個が、部門横断的に協働し、より高い成果を追い求める組織を目指す」「その為に、生煮えアイデアでも気楽に相談できる関係を数多くつくる」。たとえるならば、オーケストラやプロサッカーチーム。

  • タイトルの大半がアルファベット。JTの副社長で、JTの海外子会社でCFO(最高財務責任者)を務めた経験のある筆者が、M&Aを成功させるために必要なことを実例を元に語る。

    カタカナ語は多いものの、難しい内容を比較的わかりやすい文章でまとめられている。章ごとの最後にポイントをまとめてあるのが分かりやすい。そして気概や人の気持ちに触れるエピソードが意外なくらい多い。

    たばこの専売をやってた会社が、民営化してなぜここまで変化できたのかは興味深いところだ。かつては親方日の丸だった企業が、リスクを取って次々とM&Aをし、完全な多国籍企業に変貌している。

    M&Aの金額も関わる国の数も桁違いで、分かりやすい文章で巨大企業の戦略の一部が語られた本。

  • 本書のタイトルを見て買おうと思った人間は、おそらく巨大企業のM&Aの戦略や実務、あるいは生々しい苦労話のようなものを読みたくて手に取るのだろう。実際、自分もM&Aをしているという文脈で本作を紹介されたのだから、そういった話が中心になっていると期待をしていた。
    しかし残念ながら、曲がりなりにも海外でMBAをとった自分のその期待は、本書では満たされなかった。その理由は主に2つある。


    一つは、本書がM&Aそのものというよりも、”M&Aを推進したCFOとしての自分の仕事”に焦点を当てているためだ。CFO(Chief Financial Officer)というタイトルはかなり日本でも一般化しているが、その職務やタスクについての統一的な見解というのはなかなか存在しない。
    ちょっと考えてみればそれは当たり前で、スタートアップで求められる財務担当役員の業務と、兆円を超える規模のビジネスを展開しているグローバル企業の財務担当役員では、求められるものは当然異なってくる。しかも企業によっては財務部部長をCFOと呼んでいることもあれば、管理本部全体の長をそう呼んでいることもある。そもそもの職務領域が違っていることもあるわけだ。

    本書はそういったCFOという職業に対して、著者が自らの経験から一定の役割とミッション、求められる能力といったものを提供するということに主眼が置かれている。おそらくCFOという仕事で何をなしたらいいのか・・といった悩みを抱えている人には刺さる内容なのだろう。
    しかし、残念ながら自分はそういった悩みを抱えているわけではないのだ。これはもう著者が想定したターゲットに自分が当てはまっていなかったとしか言いようがない。そして、そのようなズレはタイトルによるところが大きい。これは全て版元の責任だ(タイトルは版元が設定することが多い)。


    もう一つの理由は、本書ではいわゆる「戦略」や「生々しい話」がほとんど書かれてない点にある。確かに業務に関連している話も書かれてはいるのだが、”関係性がうまくいかない部門の融合のためにイントラネットを立ち上げた”とか”食事をするとお互いの信頼関係が生まれる”といった類の話で、毒にも薬にもならない話ばかりだ。

    この「エピソードが全く面白くない」というのは日本のビジネス書によく見られる欠点で、英語でのビジネス書に慣れてしまった自分が日本のこういった類の書籍を読まなくなった理由の一つでもある。やはり読者としては、インサイダーしか知らない生々しい闘争の話とか、戦略や戦術の話を知りたいのだ。日本の場合、古巣への遠慮が筆を鈍らせるのか、あるいは生々しい話を書くのがゴシップと思われがちなのかわからないが、とにかくボヤッとした話を書こうとした傾向にある。


    そういうわけで本書は自分の現状の期待値には全く合わなかったわけだが、価値がなかったという気は全くない。大企業で組織戦略を描いたり、財務組織の再編をしようとしている人にはかなり有用な情報が含まれている・・と思える(自分がそういうわけではないので、価値判断はできないのだが)。

  • 前半はJTの買収について。パイロット買収としてギリシャの会社を買収していたのが意外。RJRナビスコ→ギャラハー買収は、JTがこんなに買収して大丈夫?という当時のマスコミや有識者が心配していたのを思い出します。MUFGの社外取締役になり、その知見を生かしたのも納得。買収は究極の経験者採用とは、全くその通りなんだろうと思いました。
    後半はCFO論について。この本が出版された前後ぐらいから、CFOは単なる経理部長や財務部長ではなく、経営者でありCEOの重要な右腕という認識が広まった気がします。良書でした。

  • ・m&aの成否を決める上で大事な要素
    ・CFOの役割

    の2点を、実務の経験に基づく具体例を通じて説明してくれた。

    今進めている簿記やファイナンスの勉強と繋がる部分があり、面白かった。
    財務の実務、税務や資金調達等の知識がもっとあると、さらに楽しめそうな本。
    就職後にまた読んだら、さらに学びがありそう。

  • ・MAの成功には適切なガバナンスを前提とした任せる経営と経営のみえる化が重要
    ・あらゆるものを電子決済、電子データで閲覧出来るようにする
    ・欧米流に戦略フレームワークを設定した上で、日本流にオペレーションのベストプラスティスを共有するという強みのミックス
    ・企業が右肩下がりになってから買収を行うのでは遅い、統合には体力が必要
    ・CFOの役割は、経営者、社長の財務ブレーン、資本市場や金融市場への大使、財務部のリーダー

  • 母国語ではない人がいるときのプロトコルとして、誰かが英語で発言している時は割り込まない。

    日本企業はベストプラクティスが多いが、欧米は戦略フレームワークが多い。

    子会社の徹底した見える化は電子意思決定システム。子会社には責任権限規定以上のことは口出ししない。

  • 「いつか読もう」と思って、常に後回しにしていたが、読んで感じたことは、「なぜ、もっと早く、この本を読まなかったのか」。RJNIやギャラハー買収・統合の現場の臨場感や、その中で著者が冷静に判断し、迅速にPDCAを回し続けたことに驚嘆した。著者のロジカルな思考能力が文章にも現れており、読みながら、学びの多い一冊だった。

  • <u>JTの海外ビジネス成功について</u>
    本書がかならずしも明示的に書いているわけではないが次のように読んだ。
    タバコ業界は儲かるものの成長性に乏しいキャッシュカウとみなされて投資がされない傾向にあった。そこにキャッシュを持て余したJTが登場。買った会社に必要な設備投資、マーケティング投資をして他社との競争を制した。マクロ的・長期的に見て安定・成熟した業界であっても、資源投入して他社と差別化して収益を得る機会は、局所的・中短期的に見れば十分にあるという教訓。ちゃんとJTの業績は分析していないが特に新興国で伸ばしているのでは?日本でリストラ余地がおおいにあったこともプラスか。

    <u>JTという会社の特殊さについて</u>
    成功しているから良いものの、これでコケていたらジュネーヴは関東軍呼ばわり必至と思える。ガバナンスはあると筆者は言うが、ほんとに東京の本社でJTIをマネージできているのか正直疑わしく思う。どう見ても本社2つあるだろ。これでやれているのだから立派だが、正直どうやっているのかいまいちわからん。

    ・電子意思決定システムで上位者が下位の決定を見られるというのはまあそうだろうが、見られているという牽制で良しとできているあたりが偉い。どうしても事前規制型のガバナンスをしたくなるので、こういう”informed”の形を取り入れるのはスピード向上に大事では。

    ・地域と機能のマトリックス型組織だと。ほぼ単一事業である分すっきりするのか

    ・財務経理機能の中でも、やはりファイナンスと税務を重視している模様

    ・M&A統合のキモはやっぱり対話

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