連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822249656

作品紹介・あらすじ

第1講「日本はなぜデフレに陥ったのか」から第5講「アベノミクスの現在と将来」まで白熱の講義録。10年後に後悔しないために「いま、何をなすべきか」

感想・レビュー・書評

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  • 内容的には全て消化できたとは言いがたいが会話形式ですすむので取っ付きやすい。

    第一講 なぜ日本はデフレに陥ったのか
    第二講 マクロ経済学の新しい常識
    第三講 ゼロ金利制約と金融制約
    第四講 金融緩和と為替・財政政策
    第五講 アベノミクスの現在と将来(2013/6月時点)

    インフレ率=予想インフレ率ーαx(現実の失業率ー自然失業率)
    自然失業率とは需要と供給が一致しているにもかかわらず求人と求職のミスマッチが原因で起こるもの、短期ではインフレ率と失業率には右肩下がりの相関があると言う所までが前提だ。アベノミクスの金融政策と言うのは金融緩和により予想インフレ率を高めるというもので、これができれば失業率は自然失業率を下回ることになる。しかし、長期でみれば実際のインフレ率が予想インフレ率に追いつき失業率は自然失業率の水準に戻る。

    GDPギャップ=(実質GDPー潜在GDP)/潜在GDP これが何かというと国内の労働力と設備を無理のない範囲で算出可能な値が潜在GDP、景気が過熱するとGDPギャップは正の値をとりうる。失業率の関係で言うとGDPギャップ=ー(α/γ)x(現実の失業率ー自然失業率)と表すことができ(実質GDPと失業率には相関があると言う式だ)上の式にこれを当てはめるとインフレ率=予想インフレ率+γxGDPギャップとなる。つまりインフレ率を上げるには予想インフレ率を上げるかGDPギャップのマイナスを解消する必要が有るのだが、金融危機後にはGDPギャップを元に戻すのが難しい。金融危機の前=バブルの状態では需要とそれにあわせて資本設備が過剰になってて崩壊後には需要は元に戻らず供給過剰になる。日本はバブル後の供給構造の見直しが進まず、直近では人口オーナス期に入ったこともデフレが長続きした原因のようだ。しかし産業構造をかえるのはそう簡単ではなく熟練工はそれこそ雇用のミスマッチに当てはまってしまう。

    じゃあ予想インフレ率を捜査することができるのか?
    実質利子率=名目利子率ー予想インフレ率なのだが名目利子率はゼロ以下には下げられない。実質利子率が下がればGDPはプラスになるが名目利子率を捜査できないゼロ金利下では予想インフレ率を十分高い値にできないとGDPギャップが解消しない。不況下では通常低いインフレ率を予想するので、黒田日銀がどうやってもインフレを起こすと言うのを多くの人が信用すれば予想インフレ率に働きかけることができるかも知れない。アベノミクスの大胆な金融政策というのはそれが可能かを試す壮大な実験だ。

    では機動的な財政政策はというと制約がひとつある。公的債務残高/GDPを見た時に成長率≧利子率であればこの比率は拡がらないのでまだ大丈夫と言う物だ。プライマリーバランスが例え黒字になっても利子率≧成長率だと黒字幅を大きくしないとまずい。日本の財政赤字は社会保障が一番大きな原因なのでここに手を付けないと消費税を10%にしても根本的な解決にはならない。最後の手段はインフレ税だろうが。ちなみに財政赤字と公共投資は独立して考えるべきものだそうだ。簡単に言うと借金をしてでも現在価値がプラスになるなら投資するという一般の企業の行動と何も変わらない。財政政策が有効なのは投資によって民間の”気分”が変わり、需要増が設備投資を生むような弱気均衡と強気均衡の複数均衡の状態ならば考えられる。政府投資をやめたら需要が元に戻るようならば効果はないと言うことだ。(しかし、政府は財政政策が民間投資を生むと言ってる様な・・・)結局アベノミクスはGDPギャップを解消する成長戦略しだいなんだろう。直近の統計ではコアコアCPIはようやく昨年後半から対前年同月比プラスに転じたがそれでも絶対的な水準は2011年まで戻っていない。総合CPIがプラスになったと言っても輸入燃料費増加分の寄与が多いので景気が良くなったという実感はなくて当たり前だろう。(教養娯楽費が13年1〜2月が底で上向いたのは多少”気分”の影響はありそうに思える)

    最後にひとつ恐ろしい予想がある。経済成長が必ずしも財政健全化につながらないというものだ。経済成長が名目上の物価上昇が原因の場合、税収の増加もあるが当然歳出も増加する。内閣府の推計では物価上昇に対する税収増の弾性値が1強なのに対し、歳出の弾性値は1弱つまり物価が上がれば財政だ健全化するのだが、現状では税収1に対し歳出2になってしまっているという。歳出の半分しか税収でまかなえず、国債で残りをまかなっているので
    景気回復〜物価上昇〜利払い増加で財政悪化してしまうと言うことなのだ。お前はすでに詰んでいる。時間はかかっても社会保障に手を付け、産業構造を改革するかあるいはどこかの時点でインフレ税でちゃらにするか。消費税10%では少し時間が稼げる程度という悪寒・・・。

    池尾氏の言うことは池田信夫氏とそう変わらないと思うのだが、あまり強烈なアンチがいないのはやはりキャラクターの差だろうか。

  • 政府のB/Sの左側「資産」の現在価値はあるのか?
    赤字が累積してきているだけ
    将来の税収を担保としているだけ、理論値で実態はない

  • 私自身、大学時代は経済学を専攻していましたが、経済学は教える人の資質や思想によって学生の理解度を大きく左右すると思っています。物理学のような自然科学ですと、真実は1つであとは教え方の巧拙によって学生の理解度が変わるというタイプのものですが、経済学は先生の教え方の巧拙だけでなく、その先生の思想(どんな経済理論・思想を信奉しているか)も学生の理解度に影響を及ぼします。その先生の論理展開にピンと来ない場合、学生は不幸な一学期を過ごすことになるわけです(そして学生の直感の方が実は正しいと言うことも往々にしてある)。

     その意味では、学生時代に池尾先生に経済学を習っていたら理解度もずいぶん高くなっただろうし、なにより経済学がもっと面白く感じただろうなあと思います。本書内で池尾先生がたびたび指摘しているように、日本の自称「経済学者(あるいはエコノミスト)」はかなり古い経済理論をいまだに「入門経済学」と称して教えています。教える方も教わる方もつい失念してしまうのが、経済学に良くある「○○以外の要素を一定と仮定すれば・・・」という論理展開です。このやり方は入門としては優れていますが、現実世界では「他の要素が一定のまま」ということはあり得ず、必ず他にも影響を及ぼします。それも多くの場合一方向ではなく、逆方向の動きも同時に生みだし、それらの大小関係で最終的な影響が決まるのです。本書を読んで、改めて経済の複雑・奥深さを実感させてもらい、私などはゆえに経済学はおもしろい、という結論に達したわけですが、このあたりの複雑さを明瞭に解説されているあたり本書は素晴らしいと思います。

  • 著者の池尾和人さんが亡くなったとニュースで目にして読んでみた本。

    読む前に知るべき情報
    マンデル=フレミングのモデル
    入門マクロ経済学の「45度線分析」

    面白いと思ったポイント
    リカードの中立命題
    王朝(ダイナスティ)仮設

    自分のレベルより数段上の本。
    もう少し勉強したらもう1度読みたい。
    第3講 ゼロ金利制約と金融政策
    政府、中央銀行、民間銀行のBSの関係性を図解していて秀逸だ。

  • 少し古い本では、あるが今でも十分通用する一冊。
    アベノミクスへの評価はどうなるのか。
    今少し経済の先行きが暗くなった今、読んでおきたい一冊。

  • 第1講 「なぜ日本はデフレに陥ったのか」
    第2講「マクロ経済学の新しい常識」
    第3講「ゼロ金利制約と金融政策」

  • 経済
    政治

  • 中央銀行のあり方についていろいろと考えさせられた。

  • 全てを理解できたとは言いがたい。それでも理解でき、勉強になる箇所はあった。
    政治家、メディアの説明を鵜呑みにしてはいけない。自ら立ち止まって考えることの重要性を再認識した。

  • 巻頭の福澤諭吉の引用が刺さる。

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著者プロフィール

慶應義塾大学経済学部教授
1953年生まれ。京都大学経済学部卒業、一橋大学大学院博士課程単位取得。岡山大学・京都大学助教授を経て、1995年より現職。著書に、『銀行はなぜ変われないのか』(中央公論新社)『なぜ世界は不況に陥ったのか』(共著、日経BP社)『現代の金融入門』(ちくま新書)など

「2017年 『日本経済再生 25年の計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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