- Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
- / ISBN・EAN: 9784822246679
作品紹介・あらすじ
頻繁に市場を襲うようになった金融危機の原因は何か。ウォール街のリスク専門家が体験を交えて赤裸々に描写。
感想・レビュー・書評
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・世界はリスクの少ない場所になってきているのに市場はそうではないように見える
・1987年の危機には「ポートフォリオ・インシュアランス」の逆回転が寄与(S&Pが下落⇒ヘッジ⇒さらにS&Pは下落⇒更なるヘッジ⇒…)
・1970年代初めまでの投資銀行業務は、競争の激しいビジネスというよりは、エリート達の社交クラブのようなものだった(リスク、資本、想像力なし。引受業務とアドバイザリー業務、格上の投資銀行が引受し、格下の証券会社に販売を委託する という序列が)
・70年代半ば、有力販売業者であったソロモンが引受業務に参入。変わりにGS、MSは証券販売の領域に進出、政府証券販売のプライマリー・ディーラーの資格を取得(1980年代のGBの上昇相場が始まろうとしていた)
・その後社債市場⇒モーゲージ市場へ足場を広げる。高報酬が浸透
・ソロモンはアウトサイダーとして発展。非封建的な風土
・トラベラーズのボス=サンディ・ワイル 後にソロモン買収、シティ設立
・LTCMは総じてリスクの高い資産を買い持ちし、リスクの低い資産を空売りするポジション
・金融市場でレバレッジ危機が起こるのは、「流動性が確保されているから」。もしそうでなければ、レバレッジはかけられない
・UBS(これによってスイス銀行に救済された)は日本BKの優先株に投資←馬鹿
・金融商品を単純化し、レバレッジを低下させることが処方箋詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
金融市場の高度化→複雑性の増大→リスクの増大。
複雑性→密結合→ノーマル・アクシデント
経済的行動に関する生物学との類似点→「粗視的な行動の法則の最適化について」
金融商品を単純化し、レバレッジを減らすことが、金融市場の制度設計を修正する処方箋。
著者はMIT経済学博士号をもちつつ、モルガン・スタンレー、ソロモン・ブラザーズ等での豊富な実務経験も豊富。この分野での日米の差は大きい。 -
筆者ごソロモンブラザーズを辞めるまでは、ドキドキする感じでとても良かったです。
ただし、それ以降は比喩的表現が多用され、「別にそんなこと読みたいわけじゃない」と言いたくなる話しが多かったです。 -
80年代から今日までの金融市場の変貌と変わらないリスクの本質を知ることができる良書
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5章 クオンツの債券アーブの話まで
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"A Demon of Our Own Design" by Richard Bookstaber
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暴落は必然です
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80年代後半から2000年代初頭にかけての諸種の市場暴落を中心に据えて、著者が在籍したモルガンスタンレー、ソロモンブラザーズ、シティグループのマーケット部門の在り様を詳解に記し、市場リスクの性質を論じた本。
その基本テーマは、要約すれば「例えば製造業における製品は、昔に比べて、品質や安全性において長足の進歩を遂げた。一方、金融業における商品および市場は、格段に不安定性を増した。これは何故か。また、この問題はどのように克服すべきか」、である。
基本的に、こういったノンフィクションに求められる内容は2種類に分けられる:
①その時間、その場所にいた個々の人間が、何を感じ、何を考え、結果何をした連中であったか、をトータルな雰囲気として伝えること。つまりは、個の描写。
②集団が、どのような内的プロセスで動作し、どのような力学で相互作用した結果、何が起こったか、を、全体を俯瞰する形で伝えること。つまりは、システムの描写。
本書は、いかにもクオンツが書いた本らしく、②に非常に大きな比重を置いている(個人的には、大歓迎)。しかも、各種トレードの内容や市場の動きに関する考察の細かさはかなりのもの。前提知識として、数理ファイナンスにおける各種ギリシャ文字(Δ、Γ、θ、V、ρ)の定義と、実際の取引における使い方くらいは知っている程度じゃないと、読むのに少々苦労するだろう。
全400pのうち前半は、著者が実際に経験した、金融業界における多士済々の事象の細やかな解説に使われている。後半は、これらの事象をシステマチックに概念化し、前述した基本テーマに向けて収斂させ、纏めることに費やされている。
とにかく「神は細部に宿る」型の本で、「細かい記述がひたすら続くけど、その中から何かを感じ取って概念化してくれ」というタイプの著作なので(著者も本書の後半で、ある程度概念化をしていくのだが、スリーマイル島原発事故やら中世イギリスの経済様式やらといった事象を引き合いに出してそれをまた詳細に分析しながら概念化していくので、結局粒度は細かいまま、要約してしまうと大切な部分がボロボロと零れおちる。
それでもあえて要約するならば、基本テーマに対する著者の提案は、第10章"ゴキブリとヘッジファンド"に纏められているので、これをさらに纏めると:
「資本市場は本質的に予測不能な大変動を起こすものである。それを変えることはできないので、参加者がすべきことは、粗視的に行動することである。つまり、空気に小さな揺らぎがあれば、それが自分の害を与える事象の前触れなのか否かを判断することなく、即座に逃げる、という行動特性を持つゴキブリをマネるのである。これは確かに無駄が多いが、ゴキブリが数億年生き延びてきたことから分かるように、最も生存確率が高い。これを金融の言葉に置き換えると、商品を単純化し、レバレッジを下げ、リスク管理をシンプルにしろ、とういことである。」となる。
自分自身、過去に数理ファイナンスを本格的に勉強し、その理論を信望しきっていたものの、個人投資家としてトレードをし始めた途端、複雑なモデルほど構造変化に弱く、トレード戦略はシンプルなほど長期的に強いことを確信し、最終的にはバフェットとほぼ同じスタイルに落ち着いた人間であるため、著者の主張には全面的に同意する。
経済的現象は、有象無象の事象に影響され、またポジティブ・フィードバックを内部に有するため、ファクターモデルで表すとすれば、ファクター数が無限にあり、ファクターロードが時間とともに激しく変わるような代物となる。そのような事象に対し、数理モデルというものは、精々特定時点において大きなファクターロードを持つと思われるファクターを10程度抜き出してモデル化し、過去データでキャリブレートすることしかできないため、はっきり言って全く力不足である。金融を含め、経済的事象に対するモデルの威力は、「四則演算で十分」と言っていたケインズの時代からほとんど進歩していない。
よって、結局のところ、中長期の将来を予測する(HFTなど、超短期の予測は、機械に任せたほうがはるかに良い)ことにかけては、人間が、自らの強みであるパターン認識的な思考で以って、精緻な他者のメンタルモデルを構築し、こうした「人の人に対する主観的理解」に基づいて行うより他ない。技術革新に求められるのは、この「人の人に対する主観的理解」を精緻化するためのインプットの質を高めることであり、大量のデータを素早く可視化する「測定」の部分と、PDCAサイクルを高速回転させ、「おおよそ正しい」行動を特定し、実行することである。
その意味で、優れた触覚(「測定」)とシンプルな(「おおよそ正しい」)行動、というゴキブリのアナロジーは、全く持ってそのとおりである。
当時の金融業界に関する詳解な記述の貴重さ、これに支えられた各種主張の説得力、並びに、主張に対する個人的共鳴を考慮して、☆5つ。 -
IT業界から金融業界に転職したばかりだからなかなか
新鮮でおもろかった。今の自分の実力での判断は
1)金融とITは真実の探求やロジックの組み立てが
近いから親和性が高い。
2)だからたぶんオープン系勃興期のITエンジニアと
金融工学を開発した人間関係はMITとかで近かったん
だろうなーと判明。
3)金融は人間しか発明できない産業であり地頭が
もろに評価につながるなー。
ぐらいかな。でも数字数字いっちゃいけないところもあるんだね。たぶん。 -
リスクの本質をついた本