冤罪 田中角栄とロッキード事件の真相

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  • 産経新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784819112871

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/728191

  •  政治家というと、オヤジ・金に汚い・声だけでかい等々、私にとっては余りよいイメージはない。不信感という単語しか思い浮かばない。
     しかし本書の第一印象は、政治家のそれに反し、なかなか良かった。率直に申し上げると、書きぶりが非常に真摯かつ誠実、しっかりとした調査と論証に基づいていたからだ。

     昭和50年生まれの私にとって、物心ついたときには田中角栄はすでに院政状態で、テレビでも見かけることはあまりなかった。現在の令和ともなると、もはや歴史上の人物である。しかしながら、本作品の舞台はたった50年前の日本である。ついこの前であった昭和時代に、恐ろしい不正が起きていることに愕然とせざると得ない。

     本書のメインテーマ、ロッキード事件だ。これが冤罪であるという。ロッキード事件での田中角栄の錠剤は受託収賄罪であった。この罪状が成立するにあたっては三つの条件があり、1.請託があり、2..金銭の授受および日時が確定され、3.職務権限がある、がそろわねばならないとしている。
     ロッキード社から『ねえ買ってよー、お金こっそりと個人宛てで渡すからからさあ』とお願いがあり(請託)、実際にロッキード社から田中側にお金が渡された時間と場所が確定でき、そして田中角栄が権限者として『よっしゃ、したら航空機購入はオタクの会社で決定ぃー』と決めることができる、という三つがはっきりしているかだ。

     しかし、このどれもが成立しない代物であった。
     
     詳しい内容は本書に譲るが、検察の無理くりストーリー、それを許してしまう裁判所、更には状況に火に油を注ぐごとくワンサイド報道をしたマスコミ。この三者で誰もが罰を受けていないのであるから、本件のごとき事件は再び(ひょっとしたら我々の身の上にも)起こりうることなのだ。そう考えると背筋が寒くなる思いになる。

     不正な検挙や裁判が起こってしまった背景(というか発端)は米国である。陰謀論的にまことしやかに言われる、田中角栄ははめられたというのは、本書を読む限りでは夢物語ではないと実感する。筆者が試みる関係者との面談はことごとく潰され、口を割ると殺されるといって話してもらえない。
     事実は米国公文書館(NARA)での資料公開等を待つほか無いのかもしれないが、本書を読む限りは米国の政治的意図は明らかであろう。

     法治国家でこのようなことが可能なのかと言われるが、それこそがインテリジェンスの存在意義であり、逆に日本の外交が弱いところでもあろう。

    ・・・

     まとめると、昭和最大の疑獄事件であったロッキード事件について非常によく書かれた本だと思う。後半には戦後の天才政治家への回想が幾分続くものの、基本的にはジャーナリスティックに真摯に書かれた作品に思う。
    私は陰謀論的な背景から読んだものの、日米近現代史を学びたい方、インテリジェンスに興味がある方、政治について興味がある方にもにお勧めできると思う。

  • よく分かっていなかった、ロッキード事件がよく分かった。
    田中角栄を追い落としたい三木さん、アメリカのいいなりにならず中国と友好関係を結んだ田中角栄に憤怒の念を持っていたキッシンジャー、社会の正義として金権政治の象徴の田中角栄を懲らしめたい検察、哨戒機P3Cのことについて触れられたくないロッキード社、これらの登場人物の利害が一致したのが、田中角栄の逮捕だったんだなぁ。
    石井一氏は少し前の国会の答弁を見て、いい感情を抱いてなかったんだけど、少し印象変わりました。

    しかし、この時から裁判に関する問題点と言うのは変わってないよね。恥ずかしく思います。

  • 田中角栄ブームの中で一冊読んでみた。
    ロッキード側の証拠書類の誤送から始まり、法律的にも嘱託尋問+日本の刑事訴訟法にない免責を与え贈賄側に証言(それに反対尋問まで許されない)と言う、全くデューデリジェンスを無視した捜査で田中を捕まえた。

    米国国務長官のキッシンジャーが韓国系記者から「ロッキード事件はあなたが仕掛けたものか?」の質問に対して、"Off course(もちろん)"という回答があったとは、この本で初めて知った。

  • 金権政治家は、当時、国民の憎悪の対象であり、田中角栄に一罰百戒を与えることが正義であるという時勢でした。時として狂躁状態になるのが日本人の特性で、法手続きを軽視することは意に介しません。結果、「ロッキード事件」の核心は見失われています。石井氏の労作ですが、本来、真相解明に拘るのはジャーナリストでしょう。スッポンのようなジャーナリスト魂の持ち主はいないのでしょうか?今、最高裁はあの手続きをどう考えているのでしょう。

  • 田中角栄について語る時、「ロッキード事件」を抜きにして語ることはできない。本書はロッキード事件に焦点を当て、又、田中の金権体質についても自らの経験を率直に吐露しながら「親分 田中角栄」の無念さを代弁した一冊。

    ◎「ロッキード事件」についての著者の見解
    「日本政府の対潜哨戒機(P3C)調達に絡んだ日米両国に横たわる巨大な利権スキャンダルを揉み消すために田中角栄がスケープゴートにされたのでは?」。この仮説の検証をすべく、幾度も渡米を重ね公文書の収集・関係者への取材を積み重ね、その証拠固めに奔走する。この抜かりのない調査は気鋭のノンフィクション作家顔負けである。

    ◎「田中角栄は本当にはめられたのか?」
    事件の背景には、日本政府とP3C購入に暗躍する13名の灰色高官が存在し、この利権スキャンダルの発覚は日米の両政権を揺るがしかねない。その揉み消し工作の陣頭指揮を取ったのが国務長官キッシンジャー。田中政権になるや否や、中国との国交正常化、積極的な資源外交を行ない、陰で❝デンジャラス・ジャップ❞と罵り、田中の決断と実行力が癇に障っていたキッシンジャー。この大疑獄事件は田中を蹴落とす好機と捉え、ターゲットを田中角栄ひとりに絞る。そこで、民間旅客機トライスター購入に際して現総理大臣 田中角栄は5億円の賄賂を受け取ったという汚職事件にすり替える。

    ◎「四面楚歌の田中角栄」
    この謀略を首相の三木武夫は脆弱な政権基盤の強化につながると考え、クリーン三木を標榜し、田中をターゲットに捜査を進めさせる。今太閤ブームは一気に去り、メディアは「反角」で世論を煽り、その世論を追い風に東京地検特捜部は、首魁を上げるべく「田中有罪ストーリー」を作り上げ、最高裁判所は賄賂を送った側の罪は問わないという、所謂「免責宣明」して証言をさせる…。北朝鮮ならいざ知らず、三権分立の国家がここまでするかと戦慄が走る。

    ◎「この謀略が事実だったとして」
    政治家として<理想と志>を持ち、数多くの議員立法を成立させ、総理大臣へ。「これから我が国は米国追従から独自の道を!」の思いを胸に進みだした矢先に、アメリカに疎まれ収賄容疑を着せられ逮捕、刑事被告人へ。自派の勢力を拡大するも、子分の反乱にあい、酒に溺れ、病に倒れ、失意のうちに亡くなる。「今、田中角栄が生きていれば~」「稀代の政治家」の称賛の声をあの世でどう聞いているんだろう。田中角栄を深い虚しさの境地で聞いているにちがいない。

    ※巻末に併載されている著者が記述した「政治家として考える ロッキード裁判に関する一考察」の論文は読み応えあり。「世論の状況を考えると公開したら逆に反発を受けかねない」と考え、田中角栄とその周辺の5名だけに密かに手渡した小冊子。B4判・53頁・10章で構成された論文は、ロッキード事件と裁判の問題点・疑問点を多角的かつ論理的まとめた「無罪ペーパー」。著者の親分に対する深い愛情が書かせた論考。

  • 田中角栄のロッキード事件は、米国政府、日本政府、最高裁判所、東京地検特捜部、当時のマスコミが作り上げた「反角」の世論による歴史の残る汚点。 キッシンジャーからはデンジャラス・ジャップと疎まれ、決断と実行が癇に障った。反主流派の三木と福田からは議員辞職勧告を受ける。賄賂を受け取った事を罪に問おうとするとき、賄賂を送った側の罪は問わないという約束をして証言をさせることを最高裁判所が宣明することは大問題だと思う。

  • 一気に読了。読み終わって表紙の写真を改めて見ると複雑な感じがする。

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