明代とは何か―「危機」の世界史と東アジア―

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  • 名古屋大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784815810863

作品紹介・あらすじ

現代中国の原型をかたちづくるとともに、東アジア史の転機ともなった明代。世界的危機の狭間で展開した財政経済や社会集団のありようを、室町期や大航海時代との連動もふまえて彩り豊かに描くとともに、民間から朝廷まで全体を貫く構造を鋭くとらえ、新たな時代像を提示する。

感想・レビュー・書評

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  •  社会経済史を重視した明代史。皇帝による天下の「私物化」、との表現が頻繁に出てくる。太祖朱元璋による皇帝・中央への権力集中と南人勢力弾圧。非商業主義・現物主義。しかし次第に実態と乖離し、商業流通は活発化、社会は流動化。士大夫は変貌し、任官しない郷紳や陽明学が存在感を増す。通俗文化は豊かに。そして体制が民間のコントロールを失っていく、というのが本書の大きな流れだ。
     下世話な興味からは、「個性派ぞろいの明朝皇帝」たちが面白い。功臣や有力官僚虐殺の太祖。永楽帝は、太祖が定めた体制の大枠や制度を踏襲、後継として忠実だったとの評価であり、「明朝は土台ごと永楽帝によってつくりかえられた」とする山川の世界史リブレット『永楽帝』とは180度異なる。
     後期の皇帝たちは暗君が多く、悪い意味で面白い。「支離滅裂・無軌道きわまりない」正徳帝。「道教マニア」嘉靖帝。「天性の浪費家」万暦帝。「典型的な暗君」天啓帝。暗君による天下の私物化となれば、魏忠賢に代表される宦官の専横もむべなるかな。崇禎帝は頭がよい「賢弟」だったそうだが、他人の失敗が見えすぎてかつ許せない、またそれしきの人材しか周囲にいなかった中での孤軍奮闘だった、という。著者は、明朝の体制自体が限界に近づいていた、と評価している。

  • 「明代はつまらない」という東洋史界での通説を冒頭で紹介しながら始まる構成には恐れ入った。
    「つまらない」とされている明代だが、文化経済史的には地方分業体制が確立し、蘇州の文化は花開いていた。史学界の泰斗である宮崎市定と同じ評価になるのはやはり明代に通底する評価になるのだろうか。
    明朝の特徴を、皇帝が国家を私物化し皇帝が直接臣民を支配する固い体制で支配しようとするが、現実との乖離に祖法という縛りで対処しきれず、崩壊を迎えたという大きな長い目で記述が繰り広げられる。あとがきで著者本人が言及しているが、まとまった通史というスタイル上、細かな点についてはざっくり割愛されているが明代を通してみるという目的では本全体が一つのテーマに沿って展開されるので理解しやすい。
    皇帝独裁体制が確立した明朝だが、ならば皇帝の個性でそれぞれの政治史が大きく左右されるかと思いきや、皇帝による私物化という構造は変わらなかったために本質は変わらなかったとする見解は何やら皮肉なものを感じる。皇帝独裁という体制事態はのちの清朝にも受け継がれたため、それを確立した太祖朱元璋の凄みが改めて伺える。

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著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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