- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784815809867
作品紹介・あらすじ
<専門家vs素人>を超えて――。科学技術の浸透した世界で物事を決めるとき、専門家を無視することも、絶対的に信頼することもできない。では専門知とは何か。会話や「農民の知」から、査読や科学プロジェクト運営まで、専門知の多様なあり方を初めてトータルに位置づける。対話型専門知の可能性に光をあて、現代社会に展望をひらく名著。
感想・レビュー・書評
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専門知の在り方から検討してどのように位置づけていけばよいか、ということを丁寧に論じている。難解であるが、非常に有益である。
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科学技術に代表される専門知を、社会がどのように扱い、意思決定の中に組み込んでいくのかという問いを考えるためには、そもそも「専門知」とはどのような特徴を持った知識なのかということを考える必要がある。この本はそのような、専門知を社会に組み込んでいくために必要となる土台を構築する研究であった。
本書がまず特徴的なのは、「専門知の周期表」と筆者らが読んでいる、様々な専門知の類型と、その専門知を扱う専門家の適性がどのような基準で判断をされるべきかを整理した表を提唱したことである。
そして、この中で特定分野の専門知の中でも、その領域のコミュニティの中で実践的な研究やトレーニングを積み、その分野の専門的な深化に貢献する貢献型専門知と、そのようなトレーニングを積むことはないがその領域の専門的言語を使いこなして、貢献型専門知の保有者とコミュニケーションをすることができる対話型専門知という区分を提唱したことであると思う。
対話型専門知の存在を明示的に意識することは、専門家と社会との間のコミュニケーションにおいて重要な意義をもつと思う。なぜならば、社会的意志決定は専門家に全権委任することはできないものが多く、専門家と素人の間の何らかの対話を通じて、最終的には専門知の意味するところをより広く知らしめる必要があるからだ。
一方で本書は、専門知というのは確かに実在しており、本書で「拡大の問題」と呼んでいるようにどこまでが専門家の判断に委ねるべき領域であり、どこからが社会に開かれているべき領域であるかを考えることが必要であるというスタンスを取っている。
つまり、科学技術が科学技術としての意義を保持するためには、その内容について専門家の「権威」ある判断が必要な領域が確かに存在しているということである。
本書では、この境界を設定するための一律の基準までは定義をしていない。ただし、我々市民が何を信じるべきかを判断できないときであっても、どの専門家を信じるべきかということを考えることはできるのではないかという投げ掛けをしている。
そして、専門家の適性を判断するためのメタ基準として、専門知の周期表の中では、「資格」、「経験」、「実績」という3つの基準を挙げ、順序としては、「経験」、「実績」、「資格」の順に好ましい基準であろうという考えを提示している。
資格は、遍在的な専門知の能力に対しては与えられず、また在野の専門家の能力も適切に判断することができない基準である。実績はこれらの課題を解決できるが、個別性の強いケースや現在論争の的になっている新しい科学領域のように、まだ実績が存在しない分野に対しては無力の基準である。経験は、実績という基準が持つこれらの欠点をある程度は解決してくれる。
以上のように、専門知を分類し、それらを判断するための基準を考えていくことは、社会が高度化し、専門分化していく中では必須のことであろう。
そして、科学技術に対するリテラシーということが言われるようになってきたが、その中に、対話型専門知のようなリテラシーと、素人である市民が専門家を判断していくための基準としてのリテラシーという論点があるということを気付かされてくれたという点で、有意義な本であった。 -
東2法経図・6F開架:404A/C84s//K
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専門知とは何か。
専門的な細かい知識がなくて専門家と話し合い重要な決定をくだせるような人がいる等々、ピンポイントの専門の知識を越えた知識とは何かを説明していく。
複雑でちょっと読んだだけでは分からないが、この本に書かれていることが重要なことは分かった。そういった知は疑似科学を駆逐することやコロナの様な危機に対してどう臨むべきかに非常に重要になるように感じた。この本をきっちり読みこなすことができれば自分の専門知も上がるのかもしれない。。。 -
話題となった割には日本での適応をかんがえるにはたやすくない。専門知をいくつかに分けているが、もう少しメディアとの関連で考えてもいいかもしれない。
研究例も記載してあったが、簡単な実験例の紹介であり、どれほど意味があるかがわからなかった。 -
専門家への盲信、幻滅、「民衆の知恵」信仰。あたかもポピュリズムが席巻する政治のようなことが科学に対して起こっている。
本書では、単にそこへ異論を唱えるというものではなく「そもそも専門知とは何か」の再定義が試みられる。まさに「専門知を再考する」わけだ。
本書において中核をなす概念、「対話型専門知」は非常に興味深いものだ。
しかし、この対話型専門知と権威付けられただけの無知との区別はおいそれとできるものではない(という話題にも触れられている)。
不確実極まる世の中だからこそ、専門性が突破口となる。その専門知とどう向き合うべきか、様々な示唆を与えてくれる一冊だ。