「非正規労働」を考える―戦後労働史の視角から―

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  • 名古屋大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784815808389

作品紹介・あらすじ

自動車工場や外食チェーン店から米国の保険会社まで、終身雇用崩壊が叫ばれる以前から非正規労働は幅広く存在してきた。合理性があるから存続する、ならばその根拠は何なのか。職場まで下りた貴重な調査資料をもとに、「低賃金・使い捨て」のイメージを超えた実像を描き、改善策を提案。

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  • SDGs|目標8 働きがいも経済成長も|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/66027

  • 社会
    ビジネス

  • 経済、特に労働に関する専門家による非正規労働についての本。薄い研究書ではあるが、正確なデータ分析と丁寧な記述が特徴的。単純に非正規労働者を下位にみて、企業側の搾取として批判することが誤りであることを説いている。大企業であっても、昔から多数の非正規労働者を雇用しており、人材選別、雇用調節、低技能職務の担当といった機能を発揮してきたことがわかった。学術的かつ論理的で説得力ある内容であった。
    「新卒がそのまま企業に長く勤める傾向は、どれほどを占めていたか。大まかに言えば、ごく多く見積もっても1/6以下であろう」p2
    「非正規労働者は低賃金で解雇もしやすく、それでいて仕事も正規並みにきちんとできる、という暗黙の前提があるが、それならば、なにも解雇にコストのかかる賃金の高い正規労働者などを採用する必要は全くない。正規労働者のみを雇用する企業は破産し消えてしまうはずだ」p4
    「(新卒採用と非正規からの採用)経済学でも、かのノーベル賞受賞者のウィリアムソンの理論に従うまでもなく、質に関わる事柄を見分けるには、くりかえしの取引が肝要となる(向いているかどうかの見極め(ミスマッチ))」p6
    「70年代前半期、当時すでに日本有数の大企業とされたトヨタから、続々と辞めていく若者を見たものだ。生産現場では3年で半数はやめていくと言われていた。なにもトヨタにかぎらず、景気のよい時ほど離職するのは、洋の東西を問わない」p7
    「霞ヶ関であれば、東京大学の成績上位層をねらうであろう。それは京都大学や東京大学に勤務した私の経験からも、その事情は理解しやすい。これら両大学の学部上位1/3層はまことによくできて、将来何をやっても伸びるだろうと感じた。これは私の感触にすぎないが、霞ヶ関の銘柄官庁は上位1/3層のなかで、さらに運動部経験、できればそのキャプテン経験者をねらうのではないだろうか。こうしたひとたちは、いったん就職市場にでれば、まことに引く手あまたで、一流各社はその人をのがしたら、採用担当課長の評価にひびく、といわんばかりの膝詰談判となる」p8
    「(尼崎製鉄)千人以上の大企業が解雇反対のはげしい闘争で倒産し、全員解雇となった。そうならないためには、解雇のコストを少なくしておきたい。つまり、だれが解雇という貧乏くじを引くか、できたらまえもって決めておきたい。そのひとつの手段が非正規労働者の存在である」p10
    「希望退職とはアメリカでは、voluntary separation、イギリスでは、voluntary redundancy、また「肩たたき」は、patting on the shoulder などという」p11
    「敗戦後1950年代すでに非正規は大企業ではきわめて多かった。一部の産業の屋台骨を当時支えた産業では、半数を超えた。その後、1960年代後期、労働需要が逼迫するにおよび大きく減少し、1970年代初期にほとんど消えるに至った。のち第一次石油ショックでこんどは労働需給がゆるむと、一転逆の傾向となった。そうした傾向を比較的誤差すくなくとらえるのは、政府統計ではやや無理かと思う。敗戦後初期の社外工がとらえられないからである」p22
    「職場にまで下り、ここの仕事をみていくと、非正規労働者と正規労働者では、かなり仕事が異なるのだ。なるほど組織上一見同じ職場に属することが多いかにみえる。だが、それは同じ仕事をこなしている、ということではけっしてない。立ち入ってみると、必要技能度の異なる別の仕事についている。つまり非競争群なのである。とすれば、非正規労働者問題のふつうの解釈、おなじ仕事をより安い賃金でこなすための労働力という通念は、ほとんどあたらない。それが見えないのは、しばしば仕事にまで立ち入って観察しないからなのだ」p53
    「正社員にその後さらに面倒な仕事をこなすキャリアを要求する。そうでないなら、すべてをアルバイト社員にまかせられる」p135
    「非正規労働者制度の肝要な機能とは、これまでの指摘を繰り返せば、基本的には3つある。①ユーザーにとっての人材選別機能、②ユーザーにとっての雇用調節機能、③ユーザーにとっての低技能職務の担当機能」p175
    「(非正規労働者の正規への昇格制)昇格制のみやすい基準設定」p190
    「よくみられる識者の提案は、仕事内容の標準化である。だれが担当しても遅速の差はあれ出来栄えに違いない、という発想である。そうすればミスマッチもすくなくなろう、というのである。だが、それではくりかえし作業のみにおわり、いかに高能率の機械でカバーしようとも、高賃金国は国際競争で敗れる可能性が高い。問題や変化を見逃したり、それをごく少数の人に頼むことになる。結局、品質不具合などが見逃され、設備不具合によるライン停止時間が相当に長くなる。その確率が高くなる。そのことを無視した見解と考える」p193

  • 自画自賛が多く、調査も自賛されているほと厳密でないため、推論の世界になっている。
    日本の社会科学のレベルが思い遣られる。

  • 内部労働市場の存在を世に知らしめた労働学者の大家の作品。

  • 『「非正規労働」 を考える――戦後労働史の視角から』

    【内容紹介】
    価格 3,200円
    判型 四六判・上製
    ページ数 240頁
    刊行年月日 2016年
    ISBNコード:978-4-8158-0838-9
    Cコード C3033

     自動車工場や外食チェーン店から米国の保険会社まで、終身雇用崩壊が叫ばれる以前から非正規労働は幅広く存在してきた。合理性があるから存続する、ならばその根拠は何なのか。職場まで下りた貴重な調査資料をもとに、「低賃金・使い捨て」 のイメージを超えた実像を描き、改善策を提案。
    http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0838-9.html



    【目次】
    はしがき [i-iv]
    目次 [v-xi]

    序章 非正規労働を考えるために――他国も専門職もみる 001
     1 問題と方法 001
      「標準コース――新卒入社そのまま勤続」のあやしさ/非正規、正規併存の合理性/人材選別機能/付:エリートたちの採用/雇用調整機能/米装置産業のプール labor pool/低技能分野のにない手
     2 構成――他国もみる 015
      一九五〇年代の造船業から/アメリカのホワイトカラー職場もみる/自動車と電機の職場/なぜ政府統計をみないか

    第1章 社外工と臨時工―― 一九五〇年代初めの造船業 023
     1 資料の性質 023
      造船業をとりあげる理由/社外工、臨時工とは/三冊の調査報告/肝要な視点の欠如
     2 臨時工から本工への昇格 031
      二五人の履歴/本工にしめる臨時工からの昇格者/臨時工はどれくらい本工に昇格したか
     3 仕事の分業 038
      取付工の職場/電気溶接工の職場
     4 社外工の多い職場 043
      塗装工/整備工/木工
     5 鉄鋼職場の分業 049
      鉄鋼も社外工が多い/中核の圧延機職場/社外工の多い職場/そうじて

    第2章 アメリカの非正規、正規労働者 055
     1 ホワイトカラー層の観察から 055
      キャリア初期の選別――専門職/事実上の「非正規」/投資銀行では
     2 アメリカの一般企業のホワイトカラー 062
      ホワイトカラー中堅層への人材選別/ある保険会社/「サポーター層」 supporter, clerk/その移動/「専門職層」/人事畑のばあい/経理部門のばあい/いくつかの事例/経営中堅層の三つのグループ
     3 アメリカのブルーカラーのばあい 075
      先任権――勤続の逆順/スーパーのパート

    第3章 製造業の生産職場 080
     1 一九六〇年代半ばの臨時工 080
      貴重な資料/一九六〇年代半ばの入社/わりと多い非正規出身者/古典的なリーダーの法則/極度の人手不足/臨時工の昇格率/過小評価/新卒正規採用者に劣らぬ昇進/技能差/賃金差/一般統計
     2 非正規労働者がきわめて多い事例――二〇〇〇年前後 099
      村松調査/非正規7割の事例/技能表――正規も非正規も1枚に/別の職場の経験も――点数化/タイトヨタのばあいと似る
     3 山本[二〇〇四]調査 107
      その性質/時代認識のあやうさ/職長たちの選択/労使協議へのとりあげ
     4 電機産業の職場 113
      電機連合[二〇〇七]調査/高度な作業――サイクルタイム五〇分/一枚の仕事表にはりだす/アンケート調査から/ほとんど請負がこなす職場/リース工場方式

    第4章 三次産業の非正規労働者 123
     1 「就業構造基本調査」 による概観 123
      事例をとりあげる視角/みるべき産業
     2 外食産業 129
      東京都調査/ある「デナーレストラン」の事例/ 仕事と組織/正社員のキャリア/人数からみた登用の可能性
     3 チェーンストアのパートタイマー 139
      ふたつの比較/本田[二〇〇七]の研究/食品スーパーの鮮魚担当/日用品売場/職能給化するパートの賃金/賃金の上がり方でみる/正社員初任給との「均衡」/脇坂[一九九八]、中村[一九八九]の貢献/二種類の「不本意パート」
     4 ふたつの途――仮説 158
      ふたつのモデル/ふたつの理由/チェーンストアと自動車の差異、また西欧との差異

    第5章 設計技術者 165
     1 一九六〇年代のアメリカ 165
      内部からのするどい観察――松浦『米国さらりーまん事情』/航空機設計者/非正規のサラリー
     2 日本の非正規製品設計技術者 171
      佐藤プロジェクトの成果/仕事の分業、競合/機能/雇用調節機能のコスト/派遣単価と大企業サラリーの比較/メーカーでの正社員昇格の途はあるのか/大手派遣会社の態度、技術者個人の考え方/三つの途/完全外注の途

    終章 ひとつの提案――人材選別機能の重視 188
     1 中下位職のばあい 188
      ふたつの部分/提案/入口の情報の大きな差/新卒採用方式とくらべると
     2 仕事表の働き 194
      技能の向上を表示する/仕事領域の拡大/「中」と「上」のレベル/欧米と対比すると/査定の恣意性を制限する/正社員にも
     3 中堅上位層や技術者に仕事表は適さない 203
      正社員の評価には主観性がのこる/より高度な人材には無理か
     4 労働組合の役割 205
      大枠を協議する/組織を広げる/新興国への波及

    注 [213-215]
    文献 [5-8]
    索引 [1-4]

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著者プロフィール

1932 年生まれ。日本を代表する労働経済学者。
著書に,『仕事の経済学』(東洋経済新報社,2005),『日本産業社会の「神話」』(読売・吉野作造賞,日本経済新聞出版社,2009),『高品質日本の起源』(日経・経済図書文化賞,日本経済新聞出版社,2013)など多数。

「2016年 『「非正規労働」を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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