恋 川端康成・江戸川乱歩ほか (文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション)

  • 汐文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811323299

感想・レビュー・書評

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  • 日本人作家たちの怪談アンソロジーの1冊。テーマは「恋」
    ”ジュニア”のため、訳注も相当細かく、言葉の意味だけではなく、作品の解説や、別の作品との比較参照、作者が言っていた言葉なども書かれている。

    【泉鏡花「幼い頃の記憶」】
    幼い日に束の間目に留めた年頃の娘。
    それが本当にあったことか、生まれぬ先にでも見たことか、あるいは幼い時分に見た夢をなにかに拍子にふと思い出したのか、もし、人前に前世の約束というようなことがあり、仏説などという深い因縁があるものなれば、私は、その女と切るに切り難い何らかの因縁のもとに生まれてきたような気がする。
    私は十年後化、二十年後か、それはわからないけれども、とにかくその女にもう一度、どこかで会うような気がしている。確かに会えると信じている。


    【佐藤春夫「緑衣の少女」】
    『聊斎志異』を訳したもの。学生のもとに通ってくる緑の衣のたおやかな少女。
    人間の類ではないと思いつつ契を交わす。
    ある日、少女の正体を知ることになる。


    【小田仁二郎「鯉の巴」】
    漁師の内助は、生簀に入れた鯉を特別かわいがっていた。
    頬のところに巴の文様があるので「巴」。
    内助は巴を家に入れ、徐々に巴は家の中でも過ごせるようになっていった。
    今では内助と巴は寝所をともにしている。
    だが巴の冷たい肌、体は交わしても言葉は交わせぬことに不満をもった内助は、人間の女房をもらうのだった。
    ==匂い立つというかソワソワするような、秘め事を覗き込んだような感覚。


    【川端康成「片腕」】
    <「片腕を一晩お貸しししてもいいわ」と娘は言った。そして右腕を肩から外すと、それを左手に持って私の膝に置いた。P44>

    有名作品だが初めて読んだ!これは凄い!
    娘の片腕を隠し持って家に帰る。靄のかかる帰り道に聞こえたラジオからは猛獣の鳴き声や、「こんな夜は香水を直に肌につけると匂いが染み込んで取れなくなりますよ」などといったアナウンスが聞こえる。
    独り暮らしの部屋だが片腕と帰った今夜は孤独ではない。扉を開けると泰山木の花の匂いがする。
    娘の片腕と睦言を交わした。添い寝した。自分の腕と付け替えた。
    そして翌朝。

    閉ざされたような重厚で濃密な空間を共有したような、自分の周りの空気が濃くなるような感覚。すごいな、川端康成。

    【香山滋「月ぞ悪魔」】
    「月ふたつ」
    興行師はコンスタンチノーブルに辿り着いた。
    月が2つ出ていた晩に現れた妖婆は、「娘を一人預かって欲しい。次に月がふたつ出る時に迎えに来るから」という。
    残されたのは美しいスーザと名乗る娘だった。興行師は真剣にスーザに恋をする。
    しかしスーザは、その体に婚約者だった男を縫い付けられていて…。

    ==猟奇もののような紹介文になってしまった。いえ、気持ち悪さはなくてむしろ静謐な感じすらする少女との燃える恋愛です。


    【江戸川乱歩「押絵と旅する男」】
    電車で出会った老人は、額縁に入った押絵を大切に持っていた。
    その押絵には、生き人形が封じ込められていたのだった。


    【中井英夫「影の狩人」】
    悪魔・血の供犠・失われた大陸・溶接・麻薬・自白剤…
    バーで知り合った”彼”はルールに従い話題を選んでいる。自分は何の供物に選ばれたのだろう。
    ギリシア風の友情か?夜になったら親しい友人の顔をしてまた彼が訪れてくる。


    【幻妖チャレンジ! 上田秋成「菊花の約」】
    原文と、現代語訳が並んで入っています。
    濃厚な友情を結び再会を誓った左門と宗右衛門。
    約束を果たせないと知ると、宗右衛門は自害して霊魂となって左門の元に戻った。
    それを知った左門は、宗右衛門の無念を晴らす旅に出る。

  • 『文豪』と名高い、今の子供たちにはもはや古典(?)の域に達している作家先生たちの短編集。テーマ別に。
    この本には大好きな川端康成先生の「片腕」が入っている。
    そのほか、乱歩ももちろんだけど妙にそそられたのが「鯉の巴」でした。

    こういう短編集、高校生のころ、ぞわぞわしながらもそこはかとない美しさに捉えられてむさぼり読んだものです。
    あの頃出会えていたシリーズなら今日の私の読書傾向ちょっと変わっていたかも。

    東雅夫先生の編によるシリーズなので他のものも楽しみ。
    この際、当時読まずに通り過ごしてきた文豪たちにまた心酔する時間が持てそうで楽しみ。

    ただ、子供を対象に編まれたものなので、注釈が多すぎ。中には不必要なのでは?と思うようなのも・・・

  • 10代の読者に向けた文豪の怪談セレクション。今回のテーマは「恋」。
    漢字には全て振り仮名がついており、解説も細やか。上田秋成の原文も振り仮名のお陰で読みやすかった。

    異類婚姻譚から少年愛まで、奇妙で幻想的な筆致で描かれた7作品が収録。

    どれも魅力的な作品ばかりだったが、川端康成の「片腕」の、靄のたちこめる夜の空気と少女のつややかで丸みのある片腕が印象に残った。

  • 谷川千佳先生の表紙の女の子が怪しくもきよらかで美しい…。
    泉鏡花の「幼い頃の記憶」はなんか…私小説ぽいけどどこか背筋がすっと冷たくなる…。
    佐藤春夫の「緑衣の少女」はまさか蜂とはなあ…身体とか音とかからも実はネタバレだったのか…。
    小田仁二郎の「鯉の巴」は他の怪談アンソロでも読んだけど何度読んでも怖い…気持ち悪い…ウウッ。
    川端康成の「片腕」は幻想小説だな~~…超自然…不思議…。
    香山滋の「月ぞ悪魔」は怪奇譚!人面瘡!怖ッ!!無印ゴジラ思い出す怖さ…ダークさ…。
    江戸川乱歩の「押絵と旅する男」は乱歩久々に読んだけど…そうだこんな感じだったな…トリックとか理屈とか丸無視の不可思議世界…。
    中井英夫の「影の狩人」はまさかの吸血鬼ゆるホモ…ま、まじでか・・・・。いやでもにおわす系だった…。
    上田秋成の「菊花の約」も、深読みしなくともタイトルからしてうっすらにおわす系ゆるホモ…いやでも、どこか爽やかなのは何故だろう…。

  • 今回のテーマは「恋」。装丁も乙女チックで可愛らしいのですが。まあそんな甘いばっかりの物語ではないでしょうよ、と思ったら。ううむ、このセレクトは凄いや。「菊花の契り」が恋だというのは思いつかなかったので、なるほどなあ、という心境です。
    お気に入りは中井英夫「影の狩人」。耽美な雰囲気も素敵ですが。登場するさまざまな単語の羅列だけでもなんだかうっとりしちゃうし。さらにそこに隠された意図にはもう、やられたなあと言うしかありませんでした。
    香山滋「月ぞ悪魔」も好き。何とも言えない独特の雰囲気を持った世界観にぐっと引き込まれました。

  • 「第3巻のテーマは「恋」。文豪の残した怖い話・ふしぎな話から、あやしく切ない恋のストーリーを集めました。作画担当は、気鋭のイラストレーター、谷川千佳!」

    【収録作品】

    泉鏡花「幼い頃の記憶」

    佐藤春夫「緑衣の少女」

    小田仁二郎「鯉の巴」 

    川端康成「片腕」

    香山滋「月ぞ悪魔」

    江戸川乱歩「押絵と旅する男」

    中井英夫「影の狩人」

    【幻妖チャレンジ!】

    上田秋成「菊花の約」

  • 怪談セレクションとあうシリーズだからか、恋という括りでも一般的な男女の恋愛では無いものばかりだった。
    個人的には鯉の巴と影の狩人が印象に残っている。前者は巴が子供を吐き捨て沼へと消えていく最後に、巴の執念を感じて少し恐ろしくなった。
    後者はさも当たり前のように蘊蓄を話す"彼"に辟易したものの、その幻想的な言葉の羅列には魅了された。

  • 異類婚姻譚、とても萌えちゃう。
    <収録作品>
    幼い頃の記憶/泉鏡花
    緑衣の少女/佐藤春夫
    鯉の巴/小田仁二郎
    片腕/川端康成
    月ぞ悪魔/香山滋
    押絵と旅する男/江戸川乱歩
    影の狩人/中井英夫
    【幻妖チャレンジ!】
    菊花の約/上田秋成
    編者解説

  • 泉鏡花「幼い頃の記憶」
    ☆佐藤春夫「緑衣の少女」
    ☆小田仁二郎「鯉の巴」 
    川端康成「片腕」
    ☆香山滋「月ぞ悪魔」
    江戸川乱歩「押絵と旅する男」
    中井英夫「影の狩人」
    上田秋成「菊花の約」

  • 様々な恋の話、しかしさすがは文豪ノ怪談ジュニアクレクションとあって一筋縄ではいかない。時空を越えた恋、種族を越えた恋、いや同じ種族だけど話に出てくるのが腕とかそもそもそれって種族なのとか恋の代償があれとかこれとかとにもかにく様々な恋、それも文豪の手によって描かれているものが美しい押し絵と共に楽しめる一冊。

    未読だった中井英夫の「影の狩人」は衒学の無駄遣い感がたまらず、思わぬ収穫を得た。とはいえ個人的に既読作品が多かったのと、恋という題材のためかあまり気乗りしなかった所も有る。また平々凡々な甘甘の恋とか愛とか求める向きにもやはり一筋縄ではいかない恋が多いのでやや人を選びそうだという印象。

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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