夢 夏目漱石・芥川龍之介ほか (文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション)

制作 : 東 雅夫 
  • 汐文社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811323275

感想・レビュー・書評

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  • 【夏目漱石「夢十夜」】
    「こんな夢を見た」という書き出しで始まったり始まらなかったりする短編集。
     「百年、私の墓の側に座って待っていてください。きっと逢いに来ますから」という約束に女の墓守を続ける男、
     悟るか悟らざるか…命掛けの緊迫の自己問答、
     背負った盲目の子に突きつけられる己の原罪、
     手品師爺さんについていった子供、
     死を選んだ敗将の元に馬を駈ける女、
     明治の現在に鎌倉の運慶が仁王像を掘り出す光景、
     退屈過ぎて死のうとした男の手放した命への悔恨、
     疾うに戦死していた夫の無事を祈る母、
     ちょっと困った庄太郎さんのお話…。
    夢という形式をとっていることがかえって臨場感あふれて映像が頭に浮かぶ。
    墓守の頭上を通り過ぎる太陽、侍の意地と焦燥、自分の罪に近づく男の靄かかったような精神と纏わりつくような夜、暗闇を篝火目掛けて馬を駈ける女の残像…。それぞれが違う手法での絵で頭に浮かんだ。
    夏目漱石はあまり読んでいないのですが^^;、短編の切れ味鋭さは好きです。
    教科書などに載って授業となると堅苦しくなったり、物語を楽しむと言うより問題を解くために読むことになってしまうのですが、このような鋭い短編に親しんでから問題に臨んだほうが日本文学に親しめるように思います。

    【内田百閒「豹」】
    小鳥屋の隣の降りには豹がいて、鳥たちを狙っているんだ。すると豹が檻から出て見物していた僕たちを喰おうとするんだ。僕は逃げて、喰われた人たちもいて、でも他の人達は笑っていて、だから僕も笑って、そうしたら豹も入ってきてみんなと一緒に笑ったんだ。

    【中勘助「ゆめ」】
    私と彼女は同じ船であの世に向かっているらしい。だが行き着いた先は畜生道で、彼女とも離れてしまった。私は今では鶴の姿になって何年も彼女を探している。ある時一羽の鷗に出会った。彼女だろうか、きっと彼女だ。私は懸命に彼女の名を呼ぼうとした。鶴の言葉と鷗の言葉はなかなか通じない。だが我々の心は通じ合い、再会の喜びに浸った。
    再び私は船に乗っている。私は死んだのだろうか。

    【芥川龍之介「沼」】
    おれは沼ののとりを歩いている。彷徨いながら水の底の不思議な世界への憧れを募らせていた。俺は水の中に飛び込んだ。だが俺の死体は水に沈んだだけだった。これが不思議の世界化。
    だがやがて俺の口から蓮が生えて花が咲く。俺はそれを見上げながら、これこそが不思議の世界なのだと思った。

    【谷崎潤一郎「病蓐の幻想」】
    病気にうなされながらの夢とも幻想ともつかない意識の漂い。
    虫歯が痛いので虫歯をピアノのように鳴らしてみた。
    頭に響く耳鳴りはまるで地震の地響きのようだ。きっと今夜大きな地震が来る。私は地震が恐ろしいどのように逃げればよいのだろう。
    だがそれは夢だ。夢から覚めた私にまた虫歯の痛みを思い出すのだった…。
    …私も子供の頃に熱が出ると見る夢のような幻のようなものがありました。
    しかしこの話では、地震も嫌だけど虫歯も嫌だし…。どっちも嫌だという微妙なところ。

    【佐藤春夫「山の日記から」】
    すでに亡くなっている谷崎潤一郎や、芥川龍之介との交流を夢に見た話。
    ちょっと寂しいようなちょっと怖いような。

    【志賀直哉「病中夢」】
    夢の中で死んだぶち犬が着いてきた。暫く行くと死んだ鹿に行きあった。今度はこの鹿が着いてくるのだろうか。

    【夢野久作「怪夢」】
     工場で鉄くずたちが嗤っている、ゲラゲラゲラガラガラガラアハハハハハ/「工場」
     単葉の偵察機で一人で空にいた私に向かってくる、私と同じ単葉の偵察機…/「空中」
     夜の街で私を追い抜く車に乗っているのは人形た、そして私自身が…。/「街路」
     私は精神病院にいた。私を入れたのは自分自身で、発狂の研究をしているんだ。私は自分に向かってこここから出せと言うが彼は笑うだけだ。アハハハハハ/「病院」
     私は沈んだ船に積まれた金貨を探しに潜った私が見つけたのは、七人の死体の入った七つの袋。彼らは言う「私達は航海長に殺されて沈められたんだ。あなたは知っているでしょう」そうだ、私は知っている。(←夢十夜第三夜に似ている)/「七本の海藻」
     女を殺した私は探偵に追われる。硝子の道をスケートのように逃げる私と追う探偵。逃げ切ったと思った私は硝子世界から落ちてしまった。漂いながら探偵の笑い声を聞く。/「硝子世界」

    【北杜夫「夢一夜」】
    「こんな夢を見た」で始まる、北杜夫による夏目漱石へのオマージュ。
    知らない女が俺の子供を産むと言うので腹に手を突っ込んで取り出したんだ、というなかなかグロテスクというか、医者である北杜夫のコワイところが出ている一作。

    【小泉八雲「夢を啖うもの」】
    日本には、悪い夢を食べてくれる獏という想像の動物がいる。
    ある晩私のところにも獏がきた。「なにか食べるものがありますか」
    「まあ獏さん、ちょうどひどい夢を見たのです。私の夢を食べてください」
    「あなたの夢は吉兆ですよ。私は吉夢は食べません」
    こうして獏は人間に好かれている。
    ちょっとほっとする一遍。

    【幻妖チャレンジ!】
    『出雲国風土記』より「黄泉の穴」
    原文が書かれている「チャレンジ」です。読み下し文と、現代語訳が並べられていますが、私は現代文だけ(笑)
    出雲にある磯の岩窟が「黄泉の穴」と呼ばれているというお話。

    • kuma0504さん
      こんにちは。良いアンソロジーですね。

      出雲「黄泉の穴」に行きました。
      奥の奥は真っ暗なので、流石に行くことはできませんでしたが、昔(弥生時...
      こんにちは。良いアンソロジーですね。

      出雲「黄泉の穴」に行きました。
      奥の奥は真っ暗なので、流石に行くことはできませんでしたが、昔(弥生時代)から此処に人が住んでいて、なおかつ死体置き場にもなっている遺跡として残っていました。洞窟の中きら外を見ると、コバルトブルーの海が見えて、大陸からやってきた人々が最初に住んだところとしてはなかなかの場所だったのではないかと思いました。思いがけず「黄泉の穴」が出てきたので、つい書いてしまいました。
      2020/07/19
    • 淳水堂さん
      kuma0504さんありがとうございます!コメント歓迎です(^^)。

      こちらの「文豪ノ怪談ジュニアセレクション」は、他にも「呪」「厠」...
      kuma0504さんありがとうございます!コメント歓迎です(^^)。

      こちらの「文豪ノ怪談ジュニアセレクション」は、他にも「呪」「厠」「死」など全部で8冊あり、少しづつ読んでいます。

      黄泉の穴行かれたのですね。というかか今も行けたのか!kuma0504さんの文面からも、どこか神秘的な、でも土着的な感じがします。

      各文豪の色艶漂う怖い話が魅力的ですのでよろしければどうぞ。(^^)
      2020/07/19
  • 「夢」をテーマに、文豪の書いた作品を集める。

    夏目漱石『夢十夜』は、その後の作品に影響を色濃く残しているのだなと。

    夢テーマの短編は読んでいると、クラクラしてくる。
    夢枕獏さんのペンネームの由来が、ここであったかと。
    虫歯で一編の幻想小説を書ける文豪先生。

  • 獣に襲われた。死んだ友人がやって来た。自分のようでそうでないものに出会った。文豪たちの夢の話は、幻想的で美しくも恐ろしい。原文を現代的に表記にするだけで、こんなに読みやすいなんて!基本は変えずに、注釈と鑑賞の手引きをつけて解説するこんな本に、若い時に出会いたかった。改めて読む私にも新たに知るヒントをくれました。ジュニアが本格的な日本文学に触れられる素晴らしい編集の本です。

  • 古今の文豪たちが手がけた「怪談」―怖い話や不思議な話通じて日本語と日本文学の奥深い魅力に親しむアンソロジー・シリーズ。(アマゾン紹介文)

    なんとも贅沢な怪談アンソロジー。編者あとがきによれば十代の読書の想定しているということだけれど、手に取り辛い「文豪」の怪談集ということで、大人でも十分に楽しめる。
    というか、十代前半が読んでも大丈夫なんだろうか。中勘助『ゆめ』は色んな意味で結構えっぐいぞ。

  • 獏さんまでご用意いただいて!ありがたいです。
    <収録作品>
    夢十夜/夏目漱石
    豹/内田百閒
    ゆめ/中勘助
    沼/芥川龍之介
    病蓐の幻想/谷崎潤一郎
    山の日記から/佐藤春夫
    病中夢/志賀直哉
    怪夢/夢野久作
    夢一夜/北杜夫
    夢を啖うもの/小泉八雲(平井呈一訳)
    【幻妖チャレンジ!】
    黄泉の穴(『出雲国風土記』より)
    編者解説

  • 編者は怖い話アンソロといえばだいたいこの人、東雅夫先生。
    10代を対象にしたと銘打ってるだけあって、難しい漢字への振り仮名はもちろん、要所要所の難解な言葉には詳しい注釈と鑑賞の手引きがあってすごく勉強になる。
    夏目漱石の「夢十夜」は久々読んだけど、やっぱり第三夜がストレートにゾッとして好きだな。あと第九夜。ものがなしい。
    内田百間の「豹」はう~ん幻想小説っぽい・・・。
    中勘助の「ゆめ」は、文章はこんなに美しいのに気持ち悪い…人獣のシーンウワァなった。
    芥川龍之介の「沼」は…あんま芥川のこういう文章読んだことなかったから新鮮だったな、引き込まれる。
    谷崎潤一郎の「病蓐の幻想 」は現代ホラーの定番どっちつかずオチ。
    佐藤春夫の「山の日記から」は嫌いじゃなかったな、穏やかに夢見がちな私小説的な…。
    志賀直哉の「病中夢」は一番現代的だった気がする…展開とか、なんだろう…怖かった…。
    夢野久作は「怪夢」、夢野久作初めて読んだけど、面白いな…!!?びっくりした…すごく分かりやすい怖さ面白さ…。これが・・・夢Q魔界…。やっぱりカタカナって怖い。
    北杜夫の「夢一夜」も相当現代的ホラー。
    小泉八雲の「夢を啖うもの」は…これを外人さんが書いたのかと思うと…一入だなって…。

  • 有名な文豪の短編・ショートショート怪談を集めたアンソロジー。ジュニア向けということで総ルビ・脚注たっぷりなのですが。ルビはともかく、脚注は大人にも嬉しいのでは。難しい言葉の解説のみならず、なかなかにマニアックな情報もたっぷりと含まれています。さっすがあ。
    テーマは「夢」といっても、もちろん悪夢めいたものが多いです。言わずと知れた夏目漱石「夢十夜」のように美しいものもあるけれど。じわじわと嫌な気分になる方が圧倒的に印象も強くて。でも大丈夫、獏も用意されていました!(笑)
    お気に入りは谷崎潤一郎「病蓐の幻想」。歯痛の苦痛。大地震の恐怖。どっちも嫌だー! しかもそれがエンドレスでぐるぐるしそうな、まさしく悪夢。リアルに一番怖いと思えた作品でした。

  • 「いわゆる文豪の多くが、怪談・怪奇小説で傑作を多く残しています。怪奇文学、幻想文学分野のアンソロジストとして日本の大家・東雅夫さんの編纂により、それらを分かりやすく紹介する本になりました。一巻目は『夢』をテーマに、夏目漱石、芥川龍之介、夢野久作、小泉八雲などの怪談を収録。」(汐文社HP)


    【収録作品】

    夏目漱石「夢十夜」

    内田百閒「豹」

    中勘助「ゆめ」

    芥川龍之介「沼」

    谷崎潤一郎「病蓐の幻想」

    佐藤春夫「山の日記から」

    志賀直哉「病中夢」

    夢野久作「怪夢」

    北杜夫「夢一夜」

    小泉八雲「夢を啖うもの」

    【幻妖チャレンジ!】

    『出雲国風土記』より「黄泉の穴」

  • 図書館の児童書コーナーで見掛けて、思わず手に取りました。
    学生の頃以来、本当に久しぶりに文豪達の作品に触れましたが、やはり眼前にその夢の様子が浮かぶような、作中での歯の痛みが、自分の歯の痛みかと錯覚するほどの強烈な文章が、とても素晴らしかったです。
    細かい注釈もあり、読みやすいと思います。

  • 0代の読者を対象に、古今の文豪たちの怖い話や不思議な話を集めた本シリーズ。それぞれのテーマに沿って、文豪たちの作品に触れることができます。独特な言い回しや当時の時代背景を本文とともに解説していますので、子どもも大人も楽しめるシリーズとなっています。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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