外来種のウソ・ホントを科学する

  • 築地書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784806715337

作品紹介・あらすじ

何が在来種で何が外来種か?
外来種の侵入によって間違いなく損失があるのか。
駆除のターゲットは正しかったのか。
人間の活動による傷跡に入りこんだだけではないのか。

英国の生物学者が、世界で脅威とされている外来種を例にとり、
在来種と外来種にまつわる問題を、
文献やデータをもとにさまざまな角度から検証する。

ラクダはどこのものか――
真っ先に浮かぶのがアラビアだろう。
ところが彼の地では、ラクダはどちらかと言えば新参者だ。
ラクダ一族は北アメリカで進化し、南アメリカで多様性を最大限に保持した。
一方、現在も野生のヒトコブラクダがいるのはオーストラリアだけだ。

これは、生物多様性の議論のなかで、
「在来」種と「外来」種を取り上げようとするときに直面する矛盾の典型例だ。
「侵入」生物が引き起こす空恐ろしい話には事欠かない。
英国の庭師を戦慄させる日本からの侵入種、グアム島の野鳥を食べつくした毒ヘビ。

だがわたしたちはほんとうに、
侵入生物を恐れなければならないのだろうか?
管理することはできないのか。
駆除しようとする相手を間違えてはいないのか。
そして在来種は、いつだってみんな「いいやつ」なのか――。

トムソンは、魅力的な語り口で、これこそ肝要だろう、という疑問を探っていく。
移入種のうち、定着することができるのはほんの一部にすぎず、
さらに定着した土地で厄介な問題を引き起こすのは
そのうちのごくわずかでしかないが、それは何故なのか、と。

さらにまた、侵入生物をいたずらに恐れることが、
生物多様性の保全や地球温暖化への対応の障害になりはしないか、
という点も掘り下げる。

〈 原著書評 〉
「侵入種をめぐる科学と哲学を見事な手腕でまとめ上げた1冊」
――タイムズ紙

「つい惹き込まれてしまうほど、挑発的――ケン・トムソンはわたしたちの自然を見る目に、刺激的な挑戦状を送り付けてきた」
――ジョージ・モンビオット(環境問題ジャーナリスト)

「大げさに思われるかもしれないが、本書は生態学の分野における『種の起源』と言ってもいい」
――ブライアン・クレッグ(popularscience.co.uk)

「トムソンは、『外来種=悪』を信奉する原理主義者への皮肉のスパイスをたっぷりと利かせつつ、読みやすい文体で生き生きと立論を進めていく。科学文献からの引用も豊富で、それがまた、彼の論拠に喜ばしい重みを増している」
――ニューサイエンティスト誌

感想・レビュー・書評

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  •  「外来種だから断固排除(捕獲して駆除)ってのはいつでも正しいのだろうか?」ということを一度でも考えたことのある人は,是非,読んでみて下さい。きっとためになりますよ。なやみは解決しないでしょうが,「善意で考える」のではなく「科学的に考える」ことが大切なのだということが伝わってくること間違いなし。

     だいたい,外来種なんて,いつごろから日本に入ってきた生き物のことをいうのかってんですよね。スズメもモンシロチョウも元々日本にいなかったらしい。だから定義としては「外来種」。でもそれをすべて駆除して根絶やしにしろとは言われない。でも,農作物に迷惑な存在であることは確かだ。モンシロチョウでキャベツは穴だらけだ。なのに日本の小学生はモンシロチョウで昆虫の変態を習う。なんで,アメリカザリガニを駆除するの?
     何が外来種で,何が在来種か。わたしたちは,どんな立場で駆除を呼びかけているのか。大金を使ってまで,本当に駆除する必要があるのか。生物多様性とは何か? 現状維持が大切なのか? 
     本書には,さまざまな事例を通して,「外来種は敵だ」という理解だけではすまないことがあることを教えてくれます。それが「科学する」という言葉だと思います。

     本書の日本語訳の題名が『外来種のウソ・ホントを科学する』となっていますが,なんかこれはちょっと軽すぎですね。子ども向けの本ならいざ知らず…。原書名が『Where Do Camels Belong?』となっていて,直訳すると「ラクダはどこに属するか?」となっていて,こちらの方がいいかもって思います。
     ただ,恐らく訳し方がとても上手なので,著者が表現しているユーモアもしっかり伝わってきて愉しく読み進めることができました。引用されている『沈黙の春』だって,訳者自身が訳したそうですから,けっこうこだわりがありそうです。

  • 2011年雑誌『Nature』に投稿した論文「生物を出身地で裁くことなかれ」は大きな話題になった。”何が在来種で何が外来種か?人間がその線引きをする際には、良質な科学的根拠(徹底的な調査)をもとに、生物多様性・公衆衛生・生態・経済などを総合的に判断し、優先順位をつけて対処することを切望する―”。
    科学技術コミュニケーションの参考図書である。さて、心して読もう(ちいさな帆)

  • 先入観を捨て、ちゃんとリサーチしよう。あと広まってしまった外来種を根絶するのは無理なので砂に水を撒くようなことはやめましょう。

  • サイエンス

  • 原著のタイトルは『Where Do Camels Belong? -The Story and Science of Invasive Species -』で、直訳するなら『ラクダはどこのものか? -侵入種の物語と科学-』。
    個人的な嗜好として、外国語の書籍が和訳される時にタイトルが改変されるのは、原著の著者の意図が軽視されているような気がするので好きではない。今回もなかなか原形を留めないレベルでタイトルは改変(改悪?)されてるのだが、ある程度、刺激的なタイトルをつけないと日本の読者は本を買わない、と思われているのかもしれない。残念だが、そこでグダグダと文句を連ねても話は好転しないので、この件はここで措く。

    著者は冒頭に原著タイトルと同じ名前の章を置き、ラクダの出自を問う。現在のラクダから想像できる「生存地」「出身地」はアフリカの砂漠なのだが、ラクダの祖先まで遡るとそうではなく、それどころか「どこのものか」という問いを厳密に考えると、その答えは複数あり得るということをたったの2ページで示し、一気にこちらを著者のペースに巻き込む。

    この雑学だけでも面白いが、それに続く各章で著者が展開するのは、「外来種は「侵入」してきた「害悪」なのか?」「外来種の有益性は見過ごされていないか?」「外来種の害悪だけがクローズアップされるのは何故なのか?」「在来種は本当に善なのか?」という問いと、それに対する答え。
    あまりに例が多く、どれを挙げれば迷うものばかりだが、可憐な「外来種の」花と見苦しい「在来種の」草とを比較して「どちらが国民に好かれ、保護されているか」といったテーマを論じているところなど、人間の勝手な嗜好で動植物を選り好みしていることが良く分かり、非常に面白い(どちらが保護されているかは言うまでもないだろう)。
    また、外来種が栄え在来種が衰亡する多くの事例において、その主要な理由は外来種が在来種を駆逐(捕食、制圧、淘汰)しているのではなく、人間の手による環境の改変のために在来種が生きにくく、外来種が棲みやすい環境ができてしまったためだ、という明快で単純な論を著者は導いてもいる。反論できる余地もあるとは思われるが、誰もが見たくない、知らないふりをしてしまいたいと思っているところに光を当てる勇気は素晴らしい。

    多くの事例を挙げたうえで、著者は最終章近くで「侵入種」に対する5つの神話と、それに対する反証に一章を割く。このうち一つだけは確たる反証をしていないように感じられるが、「外来種が生物多様性を損なっている」「外来種が多額の損害を与えている」「悪いのはいつも外来種」「外来種は悪者、在来種はいい者」という残り4つの神話には、かなり明確なNoを示していると思う。特に「侵入」と「外来」がセットの言葉になっていて、「在来」が「侵入」していても誰も論文にせず、ニュースにもせず、従って研修者への資金援助も出ないのだ、というところなどは、学問とビジネスが分かち難く結びついていることを痛感させられる。

    著者は最後に、「人間が改変したことで、侵入種に侵入されたこの新世界を最善の場所にするために、私たちに何ができるかに集中するべき時が来ている」と論じて本書の結語としている。
    侵入種の駆除活動のうち徒労に終わる可能性のあるものを見直し(著者はすべての駆除・防除活動が無益だとまでは言っていない)、見た目が好ましくとも他の種を脅かす在来種には毅然とした態度を取り、在来と外来の区別なくそこで暮らす動植物が最適に暮らせる世界を目指すというのは、外来種=厄介者=駆除、という既存の概念とは相容れないかもしれないが、面白い視点。
    今後、在来vs侵入の論争があった時には、少なくともその侵入種が本当に悪なのか、見た目がグロいだけなのではないか、人間が余計なことをしていないか、という疑問を持つべきだということはよく理解できた。

  • 外来種は在来種の楽園を踏みにじる侵略者ではなく、人間が汚しまくった環境に適応し、時には浄化する「腐海の生きもの」であるということ。昨年の類書「外来種は本当に悪者か?」と同様の主張。根本原因は人間である、という認識から現実解(時には放置が最適解ですらある)を求めていく。

  • 目からウロコであった。
    今まで外来種が生態系に悪影響を及ぼすという話に疑問を抱いたことが無かった。
    確かに何を持って外来種、在来種を分けるのか、多分に人間のご都合であることは間違いなさそうだ。
    外来種の影響について、報道されている事実とされているものすら、かなりいい加減なものとわかり愕然とした。確かにヒアリ騒動でもアメリカで年間数百人が死亡していると当初報道されていたが、全くのデタラメであったことがわかり、報道のいい加減さに呆れたことを思い出した。
    ヒアリについては本書でも触れられていて、レイチェル•カールソンがヒアリ駆除対策が最悪のものであったと記しているとのこと。
    外来種の影響を客観的かつ科学的に把握し、効果の認められるもののみ慎重な影響調査の上で、駆除等の対策を実施すべきであろう。日本でも失敗事例に類した事態が起きなければと切に願う。

  • 請求記号 468/Th 6

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著者プロフィール

生態学者。
英国シェフィールド大学の動物および植物科学の部門で長年教鞭をとる。
ガーデニングに造詣が深く、デイリー・テレグラフ紙でガーデニングに関する人気コラムを執筆。
本書をめぐってラジオ番組で論争を繰り広げた。
主な著書は、"Do We Need Pandas?: The uncomfortable truth about biodiversity われわれにパンダは必要か─生物多様性についての不快な真実""The Sceptical Gardener: The Thinking Person's Guide to Good Gardening 庭師はなぜ疑いぶかいのか""Compost: The Natural Way to Make Food for Your Gardenコンポストづくり─あなたの庭でおいしい野菜づくり""The Book of Weeds 雑草のすべて"など。

「2017年 『外来種のウソ・ホントを科学する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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