「八月の砲声」を聞いた日本人 ― 第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805110126

作品紹介・あらすじ

第一次世界大戦は民間人が戦地で抑留される始めての戦争だった。異邦の地で突如拘束された日本人はどのように振る舞ったのか

感想・レビュー・書評

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  • 利害の当事者でもないのに勝手に参戦して勝者面している ― おそらく当時の欧州目線だと、日本はこういう風に見られていたのではないか?一方、それを知ってか知らずか、戦勝ムードに浮かれあがりながら同時に戦争そのものを対岸の火事ぐらいにしか思わなくなった日本に、その対岸の「抑留者」を考えることなど微塵も期待できるはずなどない。抑留者にとって辛かったのは、おそらくこの時抑留されたこと以上に、日本が戦争を甘く見て、世界を敵に回し、そして太平洋戦争へと暴走していった「その後の日本の姿」を見ることだったのではないか?

  • 奈良岡聡智という人が『対華二十一ヶ条要求とは何だったのか』という本を出した。(名古屋大学出版会)日本と中国の間が決定的に悪くなったのはこの要求からと言われているので、ぼくも興味をもっていたが、大きな本なので読めるかどうか自信がなかった。ところが、旧友のIさんが「北京便り」でこの本の新聞書評のことを書いていて、しかも奈良岡さんには上記の本があるということを教えてもらった。ぼくは『二十一ヶ条』の方から読もうと思って購入し、『八月の砲声』の方はアマゾンでも古書で安く買ったが、手にとって見ているうちにどんどん引きつけられて最後まで読んでしまった。「八月の砲声」とは第一次世界大戦の発端となったセルビアでのオーストリア皇太子継承者夫妻暗殺事件である。ドイツはすぐさまオーストリアの側に立ち、セルビア、ロシア、フランスに宣戦布告をし、中立国のベルギーに侵攻した。第一次世界大戦の勃発である。日本にとってそれは一見ヨーロッパの遠い世界のことのように見えたが、実はそれは中国での利権を拡大する絶好の機会だったのである。日本は日露戦争で満州南半分の利権を獲得したが、それは期限付きのものであり、この権益を延長するための機会をねらっていたのである。第一次世界大戦において日本は中立の立場をとることもできたが、日露戦争のあとの独仏ロによる三国干渉で臥薪嘗胆を味わった日本の世論は大きく参戦に傾いていた。それは満州の利権を獲得するために多くの人命と国費を投入したという記憶があったからである。日本の参戦にとって「日英同盟」は大きな口実だった。イギリスは最初あまり賛成ではなかったが、結局は日本に押し切られてしまった。日本が向かったのはドイツの租借地や南方の島々である。ドイツにとってこれは意外だった。それまで日本はドイツから多くのものを学んできたのだから、ドイツ人にとってこの行為は裏切り、恩知らずと映った。かくして反日に燃えるドイツ国民の中をドイツに残された日本人たちは逃げ延びようとしたが、逃げられず拘留され酷い目にあった人々も多くいた。本書はその第一部で抑留された人々、自ら残留された人々を描き、その後半3分の2を、医師であった植村尚清の抑留日記に当てている。その結果、本書は俯瞰的な見方とともに、その中で現実に抑留生活を送った日本人の手記を当てることで、記述を厚みのあるリアルなものにしている。敵国になってしまった土地に残された日本人がどのような目に遭ったか、その中でも国は国、民衆は民衆として助けてくれた人はいたし、同じく捕まり牢屋でともに暮らしたベルギーやイギリス人との交友も忘れがたい。さらには、留置された日本人の中にいた芸人たちの存在も面白い。かれらの中には母語を忘れるくらい外国生活をしている人たちもいたのである。それにしても奈良岡さんという人は文章が実にうまい。学術的な本もかくあるべきであろう。

  • 第一次世界大戦勃発時にドイツにいた人たちの経験を記した

    日本では第一次世界大戦の研究は浅い

    留学生多い

    経済学者河上肇は戦時経済の大実験が見られるとして、ドイツに残った

    抑留された日本人の人数は約100名

    抑留者解放にアメリカ大使館が尽力してくれた

    抑留者の問題に対する賠償とかは?

    当時のドイツの新聞や一般人の手記等大変貴重な一時資料がこの本に使われ、その収集には大変に苦労したものと思われる

  • 第一次世界大戦が勃発した時、留学生や官僚、会社員、旅芸人など、ドイツにいた日本人は抑留、監禁された。この本では彼らの抑留、解放され日本に帰国するまでを辿る。突然このような状況におかれ、運命に翻弄される様子がよくわかる。

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著者プロフィール

奈良岡聰智(ならおか・そうち)

京都大学法学研究科教授。
専攻は政治学。博士(法学)。
著書に、『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか:第一次世界大戦と日中対立の原点』(名古屋大学出版会)、『清風荘と近代の学知』(編著、京都大学学術出版会)、『日本政治外交史』(共著、放送大学教育振興会)などがある。

「2023年 『日本とベルギー 交流の歴史と文化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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