Nさんの机で

著者 :
  • 田畑書店
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本棚登録 : 67
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784803803976

作品紹介・あらすじ

作家生活30年目にして初めて持ったオーダーメイドの机。
山形の家具職人・Nさんの手になる机に向かい、
振り返る文学的半生——当代きっての私小説作家が
ものの記憶にからめて綴った滋味あふれるエッセイ!

装画/挿絵 オーライタロー

感想・レビュー・書評

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  • 静かなエッセイを読んで、静かな休日を過ごした。

  •  コロナ禍による引き籠りの影響か、確かに、近頃、家具や机回り、文具関連が気になる傾向にある。そんな折に出会った、私小説作家のエッセイだ。しかも「Nさんの机」という気になるタイトルで。

     新聞連載(山形新聞)がまとまったもので、作家生活30年の区切りに文机を新調する著者。懇意にしている木工作家(それがNさん)の工房に出向いて、木を選び製作してもらうところから始まる。米沢に出向いて、木を選び、表題にある「Nさん」に作ってもらった。

     その文机や、自宅で使う道具類をメインに語られるが、モチーフは著者の書斎周りの自然環境や、道具にまつわる交流のあった作家たちとの思い出など。古井由吉、黒井千次、三浦哲郎、島田雅彦・・・ 

    「黒井氏もまた、富士重工に勤めながら小説を書いていた時期があった。」

     あぁ、黒井千次が武蔵野界隈、中央線沿線に居たのは富士重工務めだったからか!?と、先日読んだ『中央線小説傑作選』(南陀楼綾繁編)の「たまらん坂」が思い出される(https://booklog.jp/users/yaj1102/archives/1/4122071933 ) 。

    「人気のまばらな逗子駅近くでは、同じく朝帰りとおぼしい芥川賞を受賞したばかりの辺見庸氏をたびたび見かけたものだった。」

     著者の少し前の世代から、同世代、若い世代と、作家仲間との交流が面白く綴られている。

     Nさんの机の回りに置かれた、文具、家具、想い出の品々の向こうに垣間見えるのは、小説家としての著者の執筆人生と文学的交流、創作への自己研鑽、そして文章へのこだわりだった。

     道具への愛着を通じて見える、著者の作家人生は、静謐ながらも実に豊穣だった。羨ましいほどに。

  •  ちょっとだけ手間をかけた小鉢の料理を食べているような気分になった。
     横山やすしの取材の時の話(あんちゃんだけここに残れや124p)や、中上健次の革ジャンの思い出(158p)は、心に残る。
     

  • 山形の木工職人に作ってもらった楢の木の机から見渡す世界。机の上に置かれる石だったり貝だったり、酒だったり食器だったり、果物だったり図鑑だったり、机の先の窓から見える植物だったり鳥だったり。そして、机に座って思い出す人だったり、出来事だったり。いかに著者の文学が、半径2メートル以内のディテールから出来ていることが感じられます。なので、この本のサブタイトルは「ものをめぐる文学的自叙伝」です。新聞連載の作家のエッセイという建て付けから始まっていますが、佐伯一麦という小説家の構成要素がすべて網羅されているような気がしました。一個一個のモノが、そのモノを巡るエピソードが濃厚なストーリーを持っていて、またそのストーリー同士が絡み合ったりして、彼の人生の忘れられないこまごまが、彼の小説のすべてなのかもしれません。庭木 ドクダミの章で語られている私見、作家の中で最も植物に詳しかったのは井伏鱒二、その反対なのが三島由紀夫という部分が印象的で、現代の文学における私小説という位置づけはまったく理解していない上で、佐伯一麦が私小説の作家とされることに納得しました。東日本震災後の内向の世代の古井由吉との新聞紙上の往復書簡の連載も、その流れで成立しているのでしょう。「空にみずうみ」読んでみようかな…

  •  毎日、Nさんに作成してもらった机につき、「自分の書くものも職人の潔い手仕事のようであれ」と心の中で念じてから執筆を始めるそうです。佐伯一麦さん「Nさんの机で」、ものをめぐる文学的自叙伝、2022.4発行。机、筆記具、ワープロ(1989~)とパソコン(1997~)、机の上の小物、手紙(桐の箱に)、眼鏡、作務衣、辞書、図鑑、月齢付きカレンダー、オーディオ、コーヒーメーカー、茶筒、酒、庭木、風呂敷、スーツケース、鞄とリュック、靴、マフラーとセーター、椅子などに関するエッセイ集。

  • 『机』から始まり『椅子』に至るまで、モノについて書かれた全百回の新聞連載エッセイ。著者がこれまでの人生で出会った人々との記憶を、モノを頼りにじっくりと辿っていくような文章です。

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著者プロフィール

1959年、宮城県生まれ。84年、「木を接ぐ」により海燕新人文学賞、91年、「ア・ルース・ボーイ」で三島由紀夫賞、「遠き山に日は落ちて」で木山捷平文学賞、『鉄塔家族』で大佛次郎賞、『山海記』で芸術選奨・文部科学大臣賞文学部門を受賞。ノンフィクションに『アスベストス』、エッセイに『Nさんの机で ものをめぐる文学的自叙伝』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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