皮膚の秘密 最大の臓器が、身体と心の内を映し出す

  • ソシム
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784802612968

作品紹介・あらすじ

ドイツで20万部!世界20ヶ国以上で翻訳されたベストセラーが遂に日本で刊行

皮膚についての話をすると、フケや耳垢やニキビや汗や皮脂や足の匂いや性病といった人が嫌がるテーマが話題にのぼります。しかし私たち皮膚科医はそういったものに対して偏見がありません。毎日、患者さんの皮膚を観察し、さわり、匂いを嗅いで、病気の原因を探るのです。日々、皮膚の素晴らしさに感動するばかりです。皮膚は身体の内部で起こっていることを映し出してくれます。内臓の問題だけでなく心の問題まで明らかにしてくれます。皮膚は私たちの身体の最大の臓器であり、最大の情報源なのです。皮膚の構造から機能、病気から年齢変化、そしてスキンケアに至るまで皮膚のすべてがわかる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 年齢よりも若々しく見られる方法は、笑顔でいることだと思っています。不満そうな顔でいると、どんどん老け込んでいくような気がして、危ない、と思った瞬間に、顔の形を変えるように努力しています。

    実際に、その努力が実っているかどうかはわからないですか、少なくとも、私の名前を聞いて想像する顔と表情は、笑顔だと、よく言われます。

    さて、そんな顔の表情と密接に関わるのが、表情筋であり、皮膚であります。


    400ページに及ぶ、皮膚の秘密。私たち人間の進化は実によく考え尽くされていて、メンテナンスをほどほどにしておけば、美しいまま保つことができると著者は述べています。

    このご時世、仕方ないといえど、手を洗いすぎたり、顔を清潔に保とうと化粧水を塗ったり、洗剤でゴシゴシ臭いが取れるまで洗う行為は、皮膚科医でもある著者からすると、スキンケアからは程遠く、皮膚をいじめているように見えるそうです。

    人間の器官の中で、最も面積の広いとされる「臓器」である、皮膚。「スキンケア」が文字通り、皮膚の表面を綺麗に保つためにする行為でなく、内部までいたわるためにはどうすればよいか。


    種々の学説はありますが、一つの学説に囚われず、総合的に判断して、自分にあったケアの仕方をしたいものですね。

    網羅的でかつ、読み応えのある1冊でした。

  • 化粧品品メーカーがすすめるスキンケアは皮膚に対する攻撃。皮膚に塗るものは、少なければ、少ないほどいい。洗いすぎるから臭う。

    【感想】
     一般的な皮膚のイメージと逆説的な記述・説明が多く、興味深く読めた。というのも、この「一般的な皮膚へのイメージ」は生活消費財企業がコマーシャル・広告によって作り上げられたものだということに気付いた。「皮膚はこまめに洗浄、保湿をしないと悪くなる」という認識は、医療科学に言わせれば、ウソということが分かった。洗いすぎると皮膚は痛むし、保湿によって余計に炎症は酷くなるし、雑菌が増えて臭くなる。これが皮膚の実体である。人の皮膚も数千年、数万年と人の身体を包んできただけあって、天然のバリア機能ももちろん有している。大体はその天然のメカニズムでなんとかなっている所に、現代的なライフスタイル、清潔感のイメージによって化粧品や洗浄品を利用し、あえてダメージを与えてしまう、といったところ。生活消費財はマスコミにとって一番の広告主であるから、なかなかマスメディアでこういったことは語られない。本で学ぶのが一番だ。本書は、私にとっての「皮膚に関する本質本」だ。日常的な皮膚ケア、人体と匂いの関係、セックスや性器と皮膚の関係性、サウナと水虫等、生活に根差した具体的な話が多かった。

    【本書を読みながら気になった記述・コト】
    >>本書の助言に従い、化粧水も乳液もクリームもボディーローションも全部やめてみたところ、乾燥もニキビも湿疹も治ってしまった(訳者)

    >>緊張すると汗がでるのは、皮膚のグリップ力を上げ、敵から逃げられるようにするため。例えば、熊に遭遇したときに、木に登って逃げやすくなる

    >>身体の皮膚は毎日常に入れ替わる。一日に剥がれる皮膚の量は約10グラム

    >>皮むけの減少は皮膚の炎症。病原体や乾燥から皮膚を守るため、新しい皮膚を作るために皮膚がはがれる速度が速くなる
    →皮むけの原因の全てが乾燥ではない。炎症が原因の場合に油分たっぷりのクリームを塗ると、症状を悪化させる

    >>脇の下、肛門、性器周辺には多くのアポクリン腺が集まっている。アポクリン線は身体が携帯するにおい袋のようなもので、性誘因フェロモンが出る
    →肛門が匂いは受け入れるしかない。洗ってもムダ。皮膚を傷つければ余計に大変なことになる。

    >>合成繊維の服では、低い温度の水では細菌は落としきれない。したがって、汗をかくとすぐに臭いやすい

    >>皮膚の黒さを決めるのはメラニンの量。このメラニンには赤外線から身体を保護する働きがある。黒人は白人よりも、日光を浴びても体温があがりにくい
    →陰部や肛門の色が黒ずみやすいのは、メラノサイトが性ホルモンの影響を受けるから。成長するにつれて性ホルモンが分泌されるようになったのなら、黒ずんで当然

    >>傷口は乾かせない方が治りが早い

    >>保湿クリームは夜だけ、必要な時に塗りましょう

    >>スキンシップでオキシトシンが放出される。抗うつ効果があり、ストレスを和らげ、パートナーとの絆を深める

    >>他人がかゆがるのを見て、自分もかゆくなるのは、原始人由来の防衛機制のなごり。自分も同じようにかいて、虫を払落そうとしている

    >>脇の下や陰部に毛が生えているのは、皮膚と皮膚の間に隙間を作り、蒸れるのを防ぐため
    →しかし、毛は細菌の繁殖場でもある

    >>女性の髪をかきあげるしぐさは、脇の下をあらわにして、フェロモン・においを分泌し、男を誘うため

    >>皮脂は基本的に細菌の繁殖を防ぐ。ただ、稀に皮脂が好きな菌もいる。

    >>皮膚を乾燥させる化粧水やジェルなどを使った皮膚ケアは、皮脂膜を除去し、バリア機能を破壊しているだけ。薬品や化粧品には皮脂分泌活動を制御する力はない。そのような皮膚ケアをしていると、乾燥肌と脂性肌の両方に悩むことが多い

    >>皮脂の過剰分泌、皮膚の炎症は食事の内容を変えることで予防できる。小麦粉、砂糖、牛乳などトランス脂肪酸が多い食事を控える。その代わりに、ナッツ、野菜、全粒粉、魚、食物繊維を多く含む食事を摂ること

    >>ひげ剃りなどの剃毛は皮膚を傷つけ、炎症、細菌の侵入をもたらす恐れがある。毎度清潔で綺麗な新品の刃を使うのが理想。肌が弱い人は脱毛を進める
    →この記述は私の行動を変えた。やっぱり、脱毛(それも医療機関で)したいと思った。ひげ脱毛の予約をした。

    >>皮膚がんは顔で発症しやすいので、日焼け止めクリームを塗るのは顔にするとよい※服を着ておらず、常に露出している

    >>日焼けサロンは紫外線とと同じく、身体によくない。しわを生み、シミの原因となる。

    >>曇りの日でも紫外線の量は10%しか減少しない

    >>日焼け止めは塗り直しは必須。外に出るときは基本的につけるべし

    >>p218「化学業界はいったい何をしているのでしょうか。彼らは日々、危険な製品を世に送り出し、その害を埋め合わせるかのように、新商品をどんどん開発しています。残念なことに世間では、洗顔後に化粧水をつけて肌を整えるのが常識とされています。「肌がよみがえる」、「肌が健康になる」という謳い文句は化粧品メーカーのデマです。「化粧水を使った後は油性の保湿クリームを塗りましょう」などというのもあり得ません。」
    「化粧品メーカーがすすめるスキンケアは皮膚に対する攻撃です。皮膚がまったく健康な人であても、そのようなスキンケアをすると、皮膚が感想s足り、かゆみが生じたり、ときには接触皮膚炎を発症したりします。私達が皮皮膚に対してやっていることは、過失傷害に近いものなのです。
    「お忘れでしょうか。表皮が薄い角質層を再生するのには、四週間を要します。角質層は皮膚バリア機能の全てを担っています。それなのに私たちはいったい何をしているのでしょう。ブクブクと泡立つ、色と香りのついた洗浄剤え皮脂膜、つまり防御壁の煉瓦とレンガとの間を埋めているモルタルを洗い流し、皮膚が苦労して築いたバリアを破壊しています。とどめに、弱った皮膚に香料や合成着色料や乳化剤や防腐剤などのアレルゲンをなでつけているのです。これは皮膚に対するテロ行為です。」

    >>一般的な石鹸はアルカリ性で、弱酸性の皮膚をPHを7~8に変えてしまう。こうなると、皮膚が正常なPHを取り戻すのに2~6時間かかる。この時間帯は、皮膚が保護機能を失うため、 健康的な皮膚フローが危険にさらされるリスクがある。結論を言うと、洗いすぎると臭くなる。

    >>皮膚のかゆみの原因は「洗浄不足」と考えられがちだが、実際はその逆。

    >>皮膚の弱酸性を保つため、洗浄剤は使うにしても基本的に弱酸性にすること。アルカリ性はNG。

    >>洗顔も水だけでいい。身体の分泌物や垢は水溶性である

    >>オイルは油脂だが、液体であり、ボディケアには適さない

    >>フレグランス、柔軟剤などに含まれる香料は皮膚にとってアレルゲンとなる
    >>入れ墨の塗料は皮膚に悪影響をもたらすリスクがある。爆弾を抱え続けるようなもの

    >>ナッツアレルギーのない人は、毎日適量のナッツを食べると良い。炎症発生のリスクを下げ、長寿、若返りの効果が期待できる

    >>牛乳の摂りすぎが、皮脂腺を増加させ、体内の炎症を増加させる。牛乳に含まれる、がゼイン、乳糖などに注意
    →ただ、発酵乳食品は悪影響が無い

    >>人口油脂..長期保存でき、安いが、死に至る。トランス脂肪酸はやはり体に悪い。スナック菓子やフライドポテト、ケーキなどに含まれる。
    →ニキビに悩む人は、野菜、穀類、ナッツ、種子、汚染されていない魚、果物を積極的に摂り、トランス脂肪酸や精製小麦粉や砂糖や牛乳の摂取を控えると、改善が見込めるだろう

  • 情報を得るという意味では五感の中でも「見る」「聞く」の割合は大きいが、実は皮膚から得る情報というのもとても大きい。

    触覚である皮膚は圧や振動、温冷などを感じ取るだけではなく最近は光や音も感じ取ることが出来ると言われています。

    そんな皮膚の秘密をこの本ではじっくりと教えてくれます。

    中でも「洗い過ぎると臭くなる」という話は読めば皆さんハッとさせられるんじゃないでしょうかね。

    とても面白かったです。

  • あまりに専門的すぎて、求めていたものと違った。

  • タイトル通り私たちの体の最大の臓器である「皮膚」について解説された一冊(著者はドイツの皮膚科医のヤエル・アドラーさん)。400ページあり、皮膚の構造~一生のうちに皮膚がどのように変化していくか~日焼け対策~ボディケア~皮膚によい食べ物まで説明されおり、皮膚に関する多くの知識を吸収できる。いわゆる刺青(タトゥー)についても語られていて、体に刺青を入れる際には「皮膚から見るとホラー映画状態」と表現されており、この部分を読むと、たとえワンポイントでもタトゥーを入れたくなくなると思う。


  • 皮膚科医として活躍しているY.アドラーが
    皮膚の構造や働きについて書いた一冊。

    個人の体験談などではなく、
    科学的な観点から書かれていたのがとても良かったです。

    癌やアトピーなどの疾患から、
    ヒアルロン酸やボトックスなどの美容医療まで
    網羅されています。

    生化学の専門的な説明も、
    比喩などを用いて分かりやすく書かれていました。

    ただ、生化学や医学を大学である程度学んでいる身からすると、
    エビデンスが物足りないと感じてしまったので☆4です。

  • 世界で20ヶ国語に翻訳された話題本!化粧品メーカーが知られたくない秘密が満載!
    約400ページとボリュームがありますが、皮膚を大切にしたいと思う方なら、男女問わずオススメの本です。
    皮膚には自分で自分をケアする力があることがわかり、不必要なスキンケアはいらなくなります。これは読んだ人だけが手にする、美しい皮膚の秘訣です。

    p46
    洗剤は、弱酸性(アルカリ性ではない)の合成洗剤を選びましょう。合成洗剤はいわゆる古典的な石鹸と違い、皮膚にとって最も刺激の少ないpH値五・五に設定され、製造されているからです。

    合成繊維製の洋服に汗の臭いがつきやすいのは、低い温度の水で洗濯するために、繊維にからみついている細菌を除去し切れないからです。(中略)これは今流行りの高機能素材でできたスポーツウェアも同じです。理想の下着について話をまとめると、ポリエステル製の下着はタブー。古典的な製法でつくられた綿製の下着ならOKということになります。

    p49
    人参にはβカロチンという自然の色素が含まれているからです。一日のβカロチンの摂取基準量は二〜四ミリグラムです。三週間、毎日続けて三〇ミリグラムを摂取すると、肌はほのかにオレンジ色になります。同様のことは、毎日五〇〇グラムの人参を(サラダか生ジュースとして)食べるか、薬局で買ったサプリメントを摂取することでも可能です。肌をオレンジ色に保つと、太陽光に対する皮膚の防御機能を強化できます。

    βカロチン肌を維持すれば、毎日の日光照射時間を二〜三倍に増やしても問題ありません。日焼け止めなしでは、一日一〇〜二〇分が日光浴の上限とされていますが、βカロチン肌の人はそれを一時間まで伸ばすことができます。とはいえ太陽光には十分な注意が必要です。

    p50
    βカロチンのさらなる利点は、ビタミンAの前段階物質(ビタミンA前駆体とも呼ばれます)であるため、体内でビタミンAに変換されることです。ビタミンAは目にとても良く、不足すると夜盲症などの目の病院を引き起こします。またビタミンAは皮膚と粘膜にも欠かせない物質です。細胞の成長を促し、皮膚の損傷を防ぎ、修繕し、免疫系の機能を改善します。一日に、一〜二本人参を食べると、病院で医療目的として処方されるビタミンAの錠剤と同等の効果を得られます。一緒に食物油を数的摂取すると、腸からの吸収が促進されます。
    βカロチンは人参だけでなく、ホウレンソウ、チリメンキャベツ、パプリカ、サツマイモ、赤カブなどの野菜や柿、アンズ、ヒッポファエ、ネクタリン、マンゴなどのオレンジ色の果物にも含まれています。また同じカロチン類に属するリコピンはさらなる可能性を秘めています。身体に有害なフリーラジカルを消去し、老化を防ぎ、がんを予防します。薬剤師がリコピンのサプリメントを積極的にすすめるのはそのためです。トマトには豊富にリコピンが含まれています。チューブ式のトマトペーストは濃縮されているため、リコピンの量も豊富で、サプリメントより安価です。

    p53
    葉酸が不足すると、精子の数が減少し、奇形児出産のリスクが高まります。

    p54
    女性ホルモンの分泌が増えているときに太陽光線を浴びると、「肝斑」、いわゆるシミができます。

    p61
    水ぶくれや傷口に関しては、昔からよく聞く言葉があります。「傷口を乾かすと早く治る」です。ですが水ぶくれだけでなく、かすり傷や火傷でも、傷口を湿らせておいた方が早く治ります。傷口を湿らせておくと、リンパ液に含まれる自然の治療薬を有効活用できるからです。さあ、傷口を乾燥させ、カサブタをつくって治す古い治療法には今日でおさらばして、傷口を湿らせて治す最新療法を学びましょう!最新療法では、創傷被覆材として新水コロイド創傷包帯やハイドロゲル創傷被覆やアルギナート包帯や発砲ポリウレタン製の包帯が使用されます。これらの創傷被覆材は「一時的に皮膚の代わりになるもの」と考えていただければわかりやすいでしょう。カサブタはできる限りつくらないようにしましょう。なぜならカサブタは固くて、ゴワゴワした死んだ細胞の塊で、傷の治癒を遅らせるからです。傷口の端から生まれてくる新しい細胞の成長を妨げてしまいます。一般に売られている普通の絆創膏もおすすめできません。
    湿気があっても、通気性はある状態に傷口を保つと、新しい表皮の細胞が成長しやすくなります。傷口は世話が必要な小さな植物であると考えてください。湿気があって暖かく、酸素と栄養で満たされたビオトープや温室で最も早く、確実に成長します。新しく開発された創傷被覆材は通気性がありつつも、細菌の侵入を防ぐ構造でつくられています。被覆材の下には身体から出てきた分泌液が集まり、それが傷口にとって最高の栄養になります。身体が傷口を治すために出した分泌物は、免疫細胞と神経伝達細胞とタンパク質と酵素からなるマルチサプリメントです。新しい皮膚細胞の成長を爆発的に促進します。

    p72
    皮膚伸展線条の予防のためにできることはあまり多くありませんが、妊娠中にマタニティマッサージをして、皮膚を伸ばすことは有効です。マッサージにはクリームや軟膏を用います。それにオリーブオイルなどの天然オイルを混ぜることをすすめる薬剤師もいますが、天然オイルをそのままマッサージに使用することを私はおすすめしません。なぜならオイルかわ皮膚を保護する皮脂膜と結合して皮脂を奪い、皮膚を乾燥させてしまうおそれがあるからです。マッサージ陽のクリームではそれは起こりません。マッサージは次の手順で行ってください。まずクリームの容器の中に親指と人差し指を入れてほんの少しクリームを取り、その指でお腹や太ももの上にクリームをのせます。同じ指で皮膚をつまんで、少しだけ引き上げます。それをお腹や太もも全体で行うのです。

    また食事療法やサプリメントを介して、弾力性のある繊維をつくるために必要な物質を皮膚に供給することも大切です。

    p79
    気温の低い場所にいると、身体の中にある圧迫帯の袋が膨らみ、毛細血管の血液循環がほぼ停止します。身体の中心に即座に血液を運ぶ必要があるからです。よって皮膚全体の循環血液量も低下します。そうしないと身体の表面から熱が放出され過ぎて、体温が下がり過ぎてしまうからです。とはいえ外気が冷たいからといって、皮膚が酸素を必要としなくなるわけではありません。皮膚はしばらくの間は酸素不足でも耐えることができます。ですが極寒の中では、特に鼻や手や足の指や耳といった身体の末端部分が酸素不足に陥り、危険にさらされることになります。
    低温によって生じる皮膚障害は気温がマイナス以下でないと起こらないと多くの人が思っています。しかし「しもやけ」は気温が四度以下になると発生します。つまり、冷蔵庫の温度まで気温が下がると、皮膚の血液循環は極度に阻害され、炎症や腫れが引き起こされるのです。
    とはいえ、皮膚はおおむね寒さによく耐えることができます。一方、冬になると、暖房の風や乾いた外気のせいで水分を失い、乾燥します。しかしすぐにクリームを塗る必要はありません。皮膚が自力で水分補給できないと感じたときだけ塗るのがいいでしょう。ただし保湿クリームは夜だけ塗るようにしましょう。それも本当に必要なときだけです。クリームは塗りすぎると皮膚の乾燥を助長するからです。
    皮膚に保湿クリームを塗って、極寒の屋外に出ると、身体が急速に冷えてしまいます。保湿クリームに含まれている大量の水分が熱の発散を促すからです。
    そうなると皮膚の組織が硬くなり、痛みを伴う症状が現れます。皮膚は青紫色になり、腫れ上がります。保湿クリームのパッケージに記載されている成分一覧の中に「水」や「水分」という記載があるは場合、そのクリームを塗るのは家か、暖かい日だけにしましょう。それでも寒い日に何か塗りたい場合は、水分を含まない油脂性の軟膏を選びましょう。

    p81
    かわいそうなことに、唇には皮脂腺がまったくありません。ですから近隣の皮膚から皮脂をもらう必要があります。

    特に唇は近隣の皮膚から皮脂を得られなくなるため、カサカサになり、ひび割れてしまうこともあります。しかし乾燥したからといって、唇をなめ続けると、大変なことになるでしょう。ただでさえ少ない皮脂がなめ取られて、水分だけが残り、唇が凍傷を起こす可能性があるからです。

    p93
    私たちの脳は体を歪んだ形で認識します。神経が集中している箇所は大きい、集中していない場所は小さいと認識します。大脳皮質が認識するとおりに人間を描くと、巨大な指と手と口がついた人間になるでしょう。なぜなら大脳皮質はそれらの箇所にから加わる刺激を集中的に感知しているからです。(中略)大脳皮質の身体認識の歪みを、医学者は「人間」を意味するラテン語の「ホムンクルス」と読んでいます。
    「ホムンクルス」は別名、科学の悪魔とも呼ばれ、その歴史は、学者や錬金術師が「ホムンクルス」という人造人間をつくる研究を始めた中世期にまでさかのぼります。それ以降「ホムンクルス」は芸術や文学などのテーマとして扱われ、紆余曲折を経て、一九五〇年代にようやく神経科学の分野へ持ち込まれました。大脳皮質が認識する身体部位の比率を表す比喩的表現となったのです。

    p97
    最近発見されたオキシトシンの新たな効果があります。それは、抗うつ効果です。よって、産後うつの母親にオキシトシンを点鼻薬として処方すると、症状が弱まります。(中略)オキシトシンはストレスホルモンであるコルチゾールを分解することで、幸福感や穏やかさを生み出します。

    p98
    かゆがる人を見て、自分もかゆくなってしまう理由は、原始人に由来する反射特性が現代人にも残っているからです。原始人は親族の中の二、三人が身体をかき始めると、自分も身体をかいて、虫や寄生虫から身を守っていました。そうすることで、少なくともかいた部分については、虫を払い落とすことができたからです。

    p108
    とはいえ、アルミニウムは地球の表層部を覆っている地殻の地質成分の中でも三番目に多いものです。そのため、人間は毎日ら食べ物や飲用水から大量のアルミニウムを摂取しています。さらに調理用に使われるアルミホイルやグリルホイルからは(包んでいる食べ物が酸性で塩っ辛い場合は特に)、アルミニウムが染み出ています。
    また、ワクチンや胃薬と並んで、化粧品や日焼け止めクリームや歯磨き粉や口紅にもアルミニウムが含まれています。

    p123
    腕と足は皮脂腺が少なく、その大きさも小さい。ですから老化とともにホルモンの分泌が減少し、皮脂腺の活動量が減ると、皮膚が乾燥しやすくなります。

    p149
    一番リスクの少ないニキビ治療法は食事療法でしょう。正しい食事を摂ることで、皮脂の過剰分泌や皮膚の炎症は少なからず抑制できます。まずすべきは、小麦粉や砂糖や牛乳やトランス脂肪酸が多く含まれた食品の摂取をやめることです。そのかわりに、野菜や全粒粉やナッツやオメガ3脂肪酸を多く含む魚(魚油)をできる限り多く摂るように心掛けましょう。また経口プロバイオティクスを服用したり、繊維が豊富な食物を多く摂ったりして、抗炎症作用のある善玉菌を腸内で増やすと、皮膚が健康になり、ニキビを減らすことができます。

    p150
    また長期間、油脂を多く含んだ日焼け止めクリームやデイクリームや化粧品やポマードやヘアワックスを使用すると、毛穴が塞がれ、皮脂の排出が阻害されます。特に、製品の中にパラフィンやシリコンオイルなどの鉱物油が含まれている場合、皮脂が毛穴の中に停滞しやすくなります。化粧品が原因でできるニキビは、原因となっている製品を使用しなくなると治ります。ニキビができやすい人は、「コメド予防」や「角栓ケア」などと記載された製品を選ぶことをおすすめします。
    ニキビの原因は、できる箇所から特定することもできます。Tゾーンやおでこや鼻にコメドが集中的にできるのは、思春期のニキビの典型的な特徴です。大人の女性では、頬や首にニキビができます。根が深く、痛みを伴います。排卵日や生理前に悪化することが多く、特に生理前では、ニキビを誘発する黄体ホルモンの活動が活発になる一方で、ニキビを抑制し、皮膚をしなやかに保つエストロゲンの分泌が減少するため、余計にニキビができやすくなります。また、頬やおでこや鼻やあごなど頭の出っ張った部分にできるニキビは「酒さ」です。「酒さ」がニキビと異なる点は、コメドが形成されないことです。「酒さ」は、色白で、敏感肌で、血管が拡張したり、ニキビが大きくなったりしやすい人に多く見られる病気です。「酒さ」を患う人の多くは、目や胃腸の問題を抱えています。小さくて、柔らかく、かゆみを伴い、水疱様で、皮脂の分泌が少なく、あごやほうれい線やまぶたにできるニキビは「スチュワーデス病」と呼ばれます。毛穴が保湿過剰でふやけてしまっています。原因は化粧品の使い過ぎです(スチュワーデスはきちんと化粧をし、機内の空気が乾燥しているため、保湿クリームも大量に塗ります)。コルチゾンクリームを顔に塗り過ぎて起こる場合もあります。「スチュワーデス病」は「口囲皮膚炎」とも呼ばれます。
    口囲皮膚炎が増加した原因として、ハイビジョンテレビの普及があげられます。フルハイビジョンテレビは、出演者の鼻毛やシワや毛穴まで露骨に映し出します。そのため映画やテレビの出演者はカメラの前に立つ前に、最新のメイクアップを施します。その際に使われる化粧品には残念ながら、毛穴をふさぐシリコンオイルが大量に含まれています。テレビ番組の司会者や俳優の間で口囲皮膚炎が増え、皮膚科医を訪れる有名人が後を絶ちません。男性の有名人も例外ではないのです。

    p152
    皮膚の老化は主に皮膚の地下二階、つまり真皮で起こります。変化にさらされるのは、真皮に散在する結合組織細胞の線維芽細胞とそれから生成される繊維性結合組織のコラーゲンとエラスチンです。繊維性結合組織はよく伸びるストッキングの構造に似ています。
    コラーゲンは丈夫なタンパク質の糸からできているため、皮膚にしなやかさと弾力性を与えます。一方、エラスチンはストレッチ素材製の衣服に似ていて、皮膚に伸縮性を与えます。エラスチンの半減期は、人間の平均寿命、つまり七〇年に相当し、比較的長くなります。ですが生成されるのは生まれてから数年間だけで、それ以降は減少の一途をたどります。
    年齢を重ねると、コラーゲン繊維とエラスチン繊維だけでなく、血管を取り巻く繊維の数も減少します。血管はエラスチンに取り巻かれていますが、血管自体も老化します。

    また表皮細胞も、若い頃は二八日周期で生まれ変わっていたのが、中高年になると五〇日かかるようになります。傷の治りも、爪の伸びも遅くなります。

    p153
    若者の顔の皮膚は潤っていて、デコボコもシワもありません。それは皮下脂肪のおかげです。つまり、脂肪が若々しさと美しさを支えているのです!(中略)若者の顔についている脂肪は結合組織に取り囲まれています。しかし年齢(重ねると、結合組織も疲れてきます。すると脂肪が重力に従い垂れ下がってくるため、突然、頬がこけたり、目がくぼんだりします。

    p154
    結合組織の老化の原因は、性ホルモンと成長ホルモンの分泌の減少と有害な生活環境です。特に紫外線が原因で体内に発生するフリーラジカルは、組織、タンパク質の構造、糖分子、脂質分子、細胞内の遺伝情報を破壊します。身体は一定の限度内であれば、酵素とビタミンを使ってフリーラジカルを無害なものに変えることができます。しかし、頻繁に紫外線を浴び、その上喫煙までしていると、身体は独自の修復機能を発揮できなくなります。すると、フリーラジカルはコラーゲンを破壊する酵素を活性化し、結合組織を弱体化し、皮膚の再生を阻害します。

    p155
    皮膚科医は髭が生えた部分の皮膚トラブルを抱える患者には、新しい剃刀を除菌処理し、水で濡らさずに乾いた状態で使うことをすすめています。髭剃りの前と後に消毒液で皮膚を消毒したり、市販のシェービング剤を使わずに、抗菌薬が少しだけ含まれた低刺激のシェービングクリーム(トリクロサン約一パーセント配合の水性の塗り薬)を薬局で調合してもらったりするのもいいでしょう。アルコールが配合されたシェービング剤やオーデコロンもできれば避けてください。

    p157
    皮脂の分泌が減ると、皮膚のバリア機能が低下し、保湿力も減退します。保湿効果があるヒアルロン酸の体内生成量も劇的に減少します。皮膚は丈夫さと弾力性とみずみずしさと保湿力のすべてを失います。顔の輪郭も歪んできます。「肌トラブル」に見舞われることが多くなり、化粧品業界はそれにつけこんで「高齢者の皮膚」専用のクリームを売り出しています。そのようなクリームには油脂が大量に含まれ、角質を数時間だけ滑らかにする効果がありますが、中年向けのアンチエイジングクリーム同様、それにより皮膚が若返ることはありません。シワの元になっている繊維性結合組織は相変わらず、皮膚の地下二階で、あくびをしながら、だらしなく横たわっています。

    女性は閉経を迎えると、エストロゲンの分泌量が瞬く間に減少します。閉経後五年の間に、皮膚内のコラーゲン量は三〇パーセントも減ってしまうのです。
    不公平なことに、男性は年を取ってもホルモンの分泌量が女性ほど劇的に減少することはありません。特にスポーツマンでやせ型の男性は、テストステロンの分泌量を高齢になっても長期間、維持することができます。

    p158
    皮脂の分泌が減り、皮膚が伸縮性と弾力性を失い、よくする表情が皮膚に刻み込まれて顔のシワが発生します。表情とは怒りや楽しさや悲しみや喜びといった感情を顔に表す際に用いる筋肉のことです。皮膚が弾力性を失えば失うほど、「表情ジワ」は増えていきます。今日では「表情ジワ」を消したい人は、ボツリヌス毒素療法を受けています。皮膚が乾燥するからといって、水をたくさん飲んでも老化は食い止められません。水分を十分補給しても、皮膚の組織に水分が蓄積されるだけです。繊維性結合組織は若返りもしなければ、皮膚の弾力性が元に戻ることもありません。喉が渇くやいなや、皮膚は再びしぼんでしまいます。

    p161
    老人性色素斑は、ソバカスと違い、メラノサイトが拡大します。メラノサイトは長年、休む間もなくメラニンを大量に絞り出してきたのですから、変化して当然です。「もうこれ以上、日光は受け入れられません」という明らかなサインです。あとは本人がどれほどそのサインを真剣に受け止め、日焼け止めクリームを塗ったり、帽子をかぶったりするかにかかっています。

    p162
    ほとんどの人の皮膚に、多くて三〇〜四〇個の色素性母斑(ホクロ)があり、一〇〇個以上ある人も全体の約一五パーセントいます。色素性母斑(ホクロ)は三〇歳までに皮膚の奥深くから姿を現し、五〇歳を過ぎると再び皮膚の奥深くに沈んで、消えてゆくことが多くなります。何のために色素性母斑(ホクロ)ができるのかは、わかっていません。(中略)イギリスで行われた研究によると、色素性母斑(ホクロ)が多い「まだらな皮膚」の人は、「きれいな皮膚」の人に比べて、皮膚の老化だけでなく、身体全体の「老化現象」や骨粗鬆症の発生が遅いとされているのです。
    その理由は、染色体の末端部にあるテロメアと関連しています。染色体の中で、らせん状に連なっている遺伝子の末端をキャップのように塞いでいるのがテロメアです。そのキャップは人間の身体が細胞分裂できなくなり、死に絶えるまで、年齢とともに徐々に使い古されていきます。色素性母斑(ホクロ)が多い人は、テロメアの蓄えが多く、若さを維持し、長生きするための生命タンクが大きいことが、イギリスの研究で明らかにされました。

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    赤外線とは、私たちが日光浴しているときに、暖かくて心地よく感じられる光のことです。この暖かい光線は基本的には無害です。ここではあえて、「基本的には無害」とだけ言っておきます。なぜなら赤外線に密着する赤外線A波は、人間の組織内で皮膚の老化を促進するからです。製薬・化粧品業界はこの不安要素に目をつけ、新たな成分を追加した新日焼け止めクリームを開発中です。

    太陽はまず比較的波長の長いA波を、次にそれよりは波長は短く、よって攻撃的な紫外線B波を、最後に大変危険な紫外線C波を地上に注ぎます。紫外線C波は最も危険な紫外線ですが、他の二つの紫外線と違い、地上には届きません。なぜならオゾン層と空気中の酸素が紫外線C波を捕まえてくれるからです。とはいえ、これはオゾン層の破壊が進まないことを前提にした話です。現在、オゾンホールはすでに、攻撃的な紫外線C波が大量に地上へ届いてしまうほど大きくなっています。そのため、オーストラリアでは皮膚がんの患者数が劇的に増えています。

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    メラトニンはオールマイティーな性質を持っています。身体に疲れを感じさせ、眠りを促す催眠ホルモンであり、抗酸化作用や抗がん作用や老化防止効果、さらには増毛効果まで備えています。メラトニンは暗くなるとセロトニンの前駆体から生成され、睡眠時に、他の遺伝子修復サービス係と合同で日光によりダメージを受けた皮膚の修復を行います。しかし、この修復サービスは完璧ではないため、ときに皮膚がんやシワが発生します。とはいえ、この「皮膚を修復する睡眠」がなければ、私たちの身体は今よりもっと老化しているはずです。
    メラトニンは免疫系を活性化するため、皮膚がん防止にも役立っています。またストレスを抱え、睡眠不足だったり、光に当たり過ぎたりして、血中のメラトニン量が少な過ぎる人は、悲しみを感じやすくなり、老化も早まります。冬になると多くの人が疲れやすくなったり、うつ症状を訴えたりします。それはメラトニン量が逆に増え過ぎるからです。日照時間が短い季節では、催眠ホルモンが十分分解されずに、日中でも残ってしまいます。すると日中でも夜のように感じ、元気がなくなり、やる気も起きなくなります。

    夏は日照時間が長いので、セロトニンがたくさん体内で生成されます(スポーツにも同様の効果があります)。セロトニンは抗うつ作用があるだけでなく、メラトニン生成のための材料も提供しています。

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    メラトニンは皮膚の細胞(ケラチノサイト、色素細胞、結合組織細胞)の中で生成され、代謝されるだけでなく、遺伝子の監視者としても働いています。つまり、皮膚の地下一階と二階にある表皮と真皮で、皮膚生成の素材となる遺伝物質とタンパク質構造を保護しているのです。しかも、同様の機能を果たすビタミンEやCよりも、その能力は高くなります。科学者は、メラトニンのこの働きを日焼け止めクリームの開発や体内の組織再生促進に利用できないかと考え、目下研究中です。なお、抜け毛に対しては、頭皮にメラトニンを塗り込み、毛根を活性化する有効な治療法が確立されています。

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    脂性肌でニキビができやすい人は、薬局で日焼け止めクリームを買う際に、薬剤師に「ノンコメドジェニック処方」のものが欲しいと伝えましょう。ノンコメドジェニック処方の日焼け止めクリームは「毛穴を塞がない」ため、ニキビができにくくなります。コメドは油分を多く含んだスキンケア製品を使うことで、毛穴が塞がれ、発生することがあります。また紫外線A波を浴びるとニキビができやすくなります。

    太陽アレルギーで最も大事なことは、かゆみを伴う炎症を引き起こす紫外線A波を防ぐことです。もちろん、できる限りアレルゲンを含まない製品を選ぶことも大事です。特にホテルに設置されているオシャレなボディーソープやボディーローションには気をつけてください。

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    「フリーラジカル」は、相方の原子との結合がうまくいかないため、過度に活動的で、攻撃的な酸素原子のことです。ご存知のとおり、酸素の元素記号はOで、酸素分子はO2です。O2は二つの酸素原子が結びついた、平和的な二重結合で構成されます。
    日焼け、喫煙、老化、運動、ストレスが原因で、フリーラジカルは生成されます。フリーラジカルは酸素の一匹オオカミといってもいいでしょう。手ぶらであるため、つねに結合できる相手を探しています。多くの場合、その相手を私たちの身体の組織や遺伝子の中に見つけ、強引に合体してしまいます。この危険な合体が、皮膚の組織を破壊させ、老化を早め、皮膚がんの発生を促すのです。

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    ありがたいことに、私たちの皮膚には紫外線に対する自己防御機能が備わっています。その一つが日焼けによる色素沈着です。紫外線A波は色素沈着を素早く促進します。日光を浴びている間、またはそのすぐ後に色素沈着は始まります。皮膚の中の生成済みのメラニンの粒子が皮膚の表面に浮き出てくるだけでなく、メラニンに前駆体までもが化学的に色づけされるため色素沈着が素早く起こります。しかし、紫外線A波の影響で皮膚表面に出てきた色素は、茶色というよりは灰褐色で、色持ちは悪く、遺伝子を保護する力もほとんどありません。
    一方、紫外線B波は、新たな色素の生成を促します。色素生成には三日ほどかかりますが、生成された色素には遺伝子を保護する力があります。色は銅褐色からこげ茶色です。人間の身体がつくり出すこの色素は、メラニン色素と呼ばれ、紫外線を浴びると、細胞核に貼りつき、日焼け止めクリームのような働きをして、危険な紫外線から皮膚を守ります。紫外線B波を浴びると、メラニンの生成は加速します。
    皮膚の自己防御機能の二つ目は、表皮の肥厚です。表皮を分厚くすることで、危険な光線が皮膚へ侵入するのを防ぎます。表皮の防御壁の生成は長くて三週間かかります。(中略)休暇後、皮膚の皮がむけると、多くの人が訴えるのは防御壁の脱皮のせいです。

    皮膚科医がすすめる対策法は「避ける、着る、塗る!」です。

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    UVインデックスと呼ばれる指標があります。これは紫外線B波の強さを指数で表したものですが、昼の時間帯はこの指数が特に高くなります。UVインデックス三以上なら、日焼け止め対策が必要です。UVインデックス三は秋の中欧でも観測されます。ちなみに赤道付近のUVインデックスは一一以上です。UVインデックスは毎日、インターネットで公開されています。

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    紫外線A波は一〇時〜十六時の間に最も強力になり、日が沈むまで大量に待機中にさ迷い続けます。日陰や日傘の下であっても、紫外線A波は最大でも五〇パーセントしか防ぐことができません。自動車や飛行機の窓も通過します。ですから飛行機のパイロットはら皮膚がんの前段階や皮膚がんが発見されることが多く、悪性黒色腫の発症率は地上で働いている人のの二倍以上です。

    水深五〇センチでは、紫外線は六〇パーセント到達可能です。さらに水または雪による光の照り返しが加わると、紫外線量は五〇パーセント〜九〇パーセント増加します。注意すべきことはまだあります!曇りの日でも紫外線の量は一〇パーセントしか減少しません。

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    日焼け止めクリームが効果を完全に発揮するには、大人の場合、ショットグラス一〜二杯分のクリームを身体全体に塗る必要があります。

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    男性の日焼け止め対策は重要な問題です!男性は基本的に脂性肌なので、日焼け止めクリームのべたつき感を嫌がります。ですが最近は、薬局に行けば、ジェルやローションタイプのものが購入できます。そういうタイプの日焼け止めは、油分を含まないノンコメドジェニック処方で、皮膚への浸透も早く、クリームが発汗を妨げることもありません。

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    日焼け止めクリームを購入する際は、SPF値が高い(五〇以上)かだけでなく、紫外線A波を十分ブロックするかをチェックする必要があります。パッケージにEUの基準に準拠した丸印のUV-Aマークがついていれば問題ありません。このマークがついていない日焼け止めクリームは、紫外線B波のみを防御するため、有害な紫外線A波は皮膚に直接浸透してしまいます。

    「ウォータープルーフ 」とは「泳いだあと、クリームの五〇パーセントはまだ皮膚の上に残っている」という意味に過ぎません。ですから塗り直しは必須です!

    乳幼児は、二歳までは直射日光を避けて生活すべきです。もちろん、それが難しいことは十分承知しています。ですからまずは、脚と腕を隠す、通気性のよい衣服を着せてあげましょう。SPF値が高い乳幼児用の日焼け止めクリームは比較的安全ですから、常用しましょう。クリームに含まれる添加物より日焼けの害の方がむしろ危険です。日焼けの影響は晩年まで残る可能性があるからです。(中略)というのも薬局で販売されている乳幼児用の日焼け止めクリームはすべて製造基準が厳しいため、どのタイプも安全性は高いからです。

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    女性の多くは、UVカット剤が配合されたデイクリームやファンデーションを使い、日焼け止め対策は万全だと思い込んでいますが、それは間違いです。デイクリームやファンデーションの多くは紫外線B波に対しては効果がありますが、紫外線A波は防御しません。特にSPF一五くらいで、紫外線A波がブロックできない化粧品については、それだけ塗っていると知らない間に、シワが増えたり、皮膚がんの発症リスクが高まったりします。

    朝、デイクリームを塗り、その上に日焼け止めクリームを塗ると皮膚に負担をかけ過ぎます。できれば日焼け止め効果も保湿効果のあるメイクアップ仕様のオールインワンクリーム(紫外線A波もB波もブロックするもの)を選びましょう。

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    緑黄色野菜や果物を食べましょう。トマトペースト(トマトのりトマトペーストのほうが濃縮されているのでおすすめです)や人参やほうれん草やキャベツやビーツや緑茶や赤ワインに少量含まれるリコピンやベータカロチンは皮膚を内から健康にします。皮膚がんとシワの発生メカニズムは同じなので、抗酸化作用のあるファイトケミカル(訳注:しょぬぶつが、紫外線や昆虫などの有害なものから身を守るためにつくりだした色素や香り、辛み、ネバネバなどの成分のこと)やビタミンを摂取すれば、シワ予防にも皮膚がん予防にもなり、一石二鳥です。

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    残念なことに世間では、洗顔後に化粧水をつけて肌を整えるのが常識とされています。「肌がよみがえる」、「肌が健康になる」という謳い文句は化粧品メーカーのデマです。「化粧水を使った後は油性の保湿クリームを塗りましょう」というのもあり得ません。
    化粧品メーカーがすすめるスキンケアは皮膚に対する攻撃です。皮膚がまったく健康な人であっても、そのようなスキンケアをすると、皮膚が乾燥したり、かゆみが生じたり、ときには接触皮膚炎を発症したりします。私たちが皮膚に対してやっていることは、過失傷害に近いものなのです!
    お忘れでしょうか。表皮が薄い角質層を再生するのには、四週間を要します。角質層は皮膚のバリア機能のすべてを担っています。それなのに私たちはいったい何をしているのでしょう。ブクブクと泡立つ、色と香りのついた洗浄剤で皮膚膜、つまり防御壁のレンガとレンガの間を埋めているモルタルを洗い流し、皮膚が苦労して築いたバリアを破壊しています。とどめに、弱った皮膚に香料や合成着色料や乳化剤や防腐剤などのアレルゲンをなでつけているのです。これは皮膚に対するテロ行為です。

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    基本的にお湯だけで洗うなら、毎日、シャワーを浴びてもいいでしょう。水は中性ですから、洗浄剤ほど皮膚を乾燥させることはありません。それでも洗浄剤、つまりボディーソープを使いたい場合は、無香料のもの、できれば泡立ちの少ない無着色のものを選びましょう。石鹸がオイルや油脂に苛性ソーダを混ぜてつくられる一方で、合成洗浄剤は人工的につくられた化学物質を主成分としています。合成洗浄剤の方が洗浄力は強いのですが、皮膚を保護したり、保湿したりする成分や油分を肌に残す成分が加えられているため、石鹸よりも皮膚には優しい。また、pH値も「弱酸性」に調整されていることが多くなります。

    一般的な石鹸はアルカリ性で、本来弱酸性である皮膚のpH値を不健康な七〜八に変えてしまいます。そうなると皮膚が正常なpH値を取り戻すまで、二〜六時間かかります。この時間帯は皮膚が保護機能を失うため、健康的な皮膚フローラが危険にさらされる可能性があります!皮膚の修復時間が長いと、その間に病原菌や有害な細菌や真菌が繁殖したり、ウイルス感染が起こったりすることがあるのです。石鹸で弱酸性の保護膜を洗い流し、皮膚の上の門番である健康な微生物たちがダメージを受けて病原体の侵入を許してしまうと、そういうことが起こります。

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    皮膚に油分を残す、固形またはクリーム状の洗浄剤が最適です。また毎日、身体全体を洗浄剤で洗う必要はありません。足や脇の下や股やお尻の割れ目などにおいやすい場所だけ洗えば十分です。その他の場所はお湯だけで汚れを落とせます。汗も埃も垢も水溶性だからです。一方、表皮が四週間かけて全力で生成した皮脂は皮膚の上に残しておきましょう。洗浄剤で洗い流してはいけません。

    一時間も泡風呂に入ったら、アルカリ溶液に浸かったも同然。指先がふやけて白くなります。皮膚バリアが洗い流されて、表皮が縮むとそうなるのです。破壊された表皮のバリアを蘇らせるには、入浴後、保湿ケアをする必要があります。

    腕と脚は大変小さい皮脂腺がまばらにしかないため、特に乾燥しやすいのです。表皮を覆う油分は皮脂腺から出る油分により補完されています。両方の皮脂が混ざり合うことで、滑らかな皮脂が形成され、それが皮膚にハリとツヤを与えます。

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    皮膚を洗い過ぎなければ、クリームの使用量はほんの少しで足ります。皮膚がひきつったり、かゆくなったり、粉をふいたりときだけ、クリームは局所的に塗るのがいいでしょう。顔は基本的には頬と唇にだけクリームを塗りましょう。おでこや眉毛の部分や鼻や顎、いわゆるTゾーンは皮脂が多く生成されるので、クリームを塗る必要はありません。

    髪がベタつきやすく、毎日洗髪する必要があるひとは、弱酸性の頭皮に優しいシャンプーを使いましょう。(中略)「酢リンス」は酸性であるため、頭皮の細菌・真菌感染を防ぎ、髪にツヤを与えます。また、毛先の乾燥は、純正のシェアバターを温めて、それを髪に馴染ませると、改善されます。

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    女性の外陰部や男性の陰茎の包皮の内側には口の中同様、粘膜があります。粘膜は石鹸やその他の洗浄剤で洗う必要はありません。お湯で洗浄するだけで十分です。身体の分泌物や尿や垢は水溶性です。水だけで落とせます。洗浄剤をつかって陰部を洗うことは、口の中をボディーソープで洗うことと同じです。そんなことをすれば粘膜が傷つき、粘膜を保護する皮膚フローラが破壊されて、かゆみや炎症が発生するでしょう。体臭を消したいからと、においの元になるアポクリン腺を石鹸で洗い尽くしている人にも、同様のことが言えます。アポクリン腺はつねににおいの元になる分泌物を放出しています。洗い尽くしては、かゆみが発生し、医師の元へ駆け込む、といった悪循環を繰り返している人が少なくありません。

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    鉱物油たっぷりの化粧品を厚塗りしていない限り、水だけで洗顔しても、肌に残った化粧品はタオルで十分落とせます。アルコールが含有されたクレンジング剤や皮脂抑制効果のある化粧水や洗顔料をつかって「ナイトケア」するより、スキンケアはそこそこにして、皮膚に化粧品を少し残しているくらいの方が、肌にとっては健康的です。
    洗髪の際には、顔に大量のシャンプーの泡が流れ落ちてきます。実はこれだけで「毛穴の奥まで洗浄」していることになります。

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    ピーリングが有効なのは、皮膚の角質が過剰に起こり、それがニキビの元になるときです。それ以外の状況で、ピーリングは必要ありません。化粧品メーカーの売り上げを増やすだけで、皮膚にとっては害になります。なぜならピーリング剤は皮膚のバリア機能を破壊するからです。

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    特に肌に優しいのは、鉱物油ではなく皮脂に似た油分が配合された、毛穴を塞がないクリームです。「デルマ・メンブレン・ストラクチャ」原理を用いてつくられたクリームが最もおすすめです。表皮の皮脂を人工的につくり、皮膚バリアにより近い構造が再現されています。一般的なクリームと違い乳剤ではないため、敏感肌の人におすすめです。乳剤は水とオイルと乳化剤からつくられますが、皮脂を除去し、アレルギーを引き起こす可能性があります。また皮膚により近い構造でつくられたクリームは毛穴を塞ぎません。

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    身体を洗い過ぎると、それらの部位の皮膚は皮脂を失っていきます。表皮の皮脂に似せてつくられたバリア脂質が配合されたクリームは、皮膚に優しく、塗ったあとも皮膚の状態を安定させ、毛穴を塞いで、発汗を抑制することもありません。薬局でよく売られているリポローション(訳注:人工的につくられた皮脂様の脂質が配合されたローション。ドイツでは複数のメーカーがリポローションとして販売しています)もおすすめです。アレルギーを引き起こす添加物がほとんど配合されていないため安全です。
    乾燥肌におすすめなのは「ウレア」配合のボディーローションです。「ウレア」という言葉はとても科学的に聞こえますが、いわゆる「尿素」のことです。


    尿素は水と結合しやすいため、安全な自然由来の保湿成分として使用され、化粧品などによく配合されています。
    高濃度の尿素は角質を柔らかくします。そのため足裏に塗ると、固くなった角質が柔らかくなります。

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    よく妊婦さんはオイルで身体やお腹をマッサージするとよいと聞きます。これについても注意してください!繰り返しオイルを使用すると、皮膚が乾燥し、乾燥性湿疹を引き起こしかねません。かゆみが出たり、皮膚が赤くなったり、切れたりするおそれがあります。そうなると「亀裂性保湿」が起こるのは時間の問題です。赤ちゃんにも優しくオイルを塗るといいという人がいますが、無意識に赤ちゃんをいじめているのと同じです。オイルを塗ると、赤ちゃんの皮膚は大量の水分を失います。

    乾燥肌の保湿ケアには、油脂や尿素が配合されたクリームや軟膏やリポローションを塗った方がより効果的です。

    p231
    ボディ・スキンケア用品に含まれる香料は私たちの購買欲を掻き立てますが、香料は他の添加物同様、接触皮膚炎の原因になります!

    p233
    局所的な湿疹をきちんと治療せずに放っておくと、湿疹が全身に広がる可能性があります。これが「連鎖反応」と呼ばれるものです。

    洗い過ぎて皮膚が乾燥していたり、除菌剤を使用し過ぎて皮膚膜が破壊されたりすると、皮膚バリアが穴だらけになります。そんな表皮には接触皮膚炎が発生しやすくなります。

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    ですからスキンケア製品を買う際は、パッケージに「無香料」とはっきり記載されたものを買うようにしましょう。

    p235
    接触皮膚炎は一度発症するとそう簡単には治せません。再発を繰り返します。それは仕事熱心で用意周到な記憶細胞が、長期的に皮膚組織内をパトロールし、アレルゲンとの接触があるたびに警報を鳴らすからです。ですから大事なことは、いち早くアレルゲンを見つけ、将来的にそれを避ける方法を考えることです。

    多くの人が自然派化粧品なら安全だと信じていますが、残念ながら、そうとは限りません。植物成分の中には危険なものも多数あります。アレルゲンが多く含まれており、中にはまだアレルゲンとして認知されていないものもあります。

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    ウイルス性イボと水虫から完全に守られている人はいません。(中略)最も感染しやすい場所は、ホテルのカーペットの上と公共のシャワーとプール(特にスプリングボードと更衣室)とサウナです。

    裸足で歩くと、「その場所を少し前に裸足で歩いた人」の菌に感染する確率はかなり高くなります。

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    かかとなど足の裏に亀裂ができている場合は、まずその亀裂を油脂で「埋める 」ことが大切です。就寝前に足裏に軟膏を塗り、通気性のあるポリウレタンフィルムで足を覆いましょう。軟膏が角質層の奥深くまで到達しやすくなります。ポリウレタンフィルムは薬局で購入可能です。

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    ボツリヌス毒素は、神経伝達物質であるアセチルコリンが神経終末から筋肉へ輸送されるのを阻害します。注入後、数日で効果が現れ、効果は約五ヶ月続きます。五ヶ月を過ぎると、すべて「元」の状態に戻ります。とはいえ、興味深い副次的効果もあります。ボトックス注射後、少なくとも五ヶ月間は、注射した部分の筋肉が活動を停止するため、その間に眉をひそめたりするなどネガティブな表情の癖を治すことができます。顔面の筋肉といえども、ボディービルダーや重量挙げ選手の上腕二頭筋と変わりません。使わなければ、退化します。表情筋が退化すると、その上にある皮膚があまり収縮しなくなるため、シワもでき難くなります。つまり、ボツリヌス毒素の効果は薄れても、シワ予防効果は持続するということです。もちろん退化した筋肉はまた徐々に増えてきます。

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    ボトックス注射の効能は、精神科でも利用されています。ボツリヌス毒素を抗うつ剤として患者の皮膚に注入しているのです。たとえば、眉間にシワをよせ、怒ったような顔をしていると、その情報は脳へと伝達されます。ですがボツリヌス毒素を注入し、眉間のシワができないようにすると、脳はこう思うのです。「ああ、もう怒る必要はないんだな。再び幸せな気持ちでいよう!」このような効果は、みなさんもきっとご存じでしょう。憂鬱な気分でも、何度か笑っていると、気分が良くなることってありますよね。感情が表情を生み出すだけでなく、表情も感情を生み出すからです。

    たとえば神経科では、頭痛と偏頭痛の治療にボツリヌス注射を使用しています。頭痛や偏頭痛は、緊張した筋肉が神経を圧迫することにより起こりますが、ボツリヌス毒素を注入し、筋肉の緊張を緩和すると、痛みが治まります。歯科では、ボトックス注射で大顎の咀嚼筋を収縮させ、歯ぎしりやエラの張りの治療を行っています。

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    ヒアルロン酸注射は、美容業界の分野では、皮膚を美しく見せたり、くすみやクマを消したり、皮膚のくぼみを改善したり、皮膚の組織に水分と弾力性と柔らかい輪郭を与える手段として利用されています。たとえば唇は、ヒアルロン酸を注入することで、官能的な形にしたり、ボリュームを出したり、愛らしいラインをつくったり、上唇と下唇のバランスを整えたり、口角を引き上げたり、上唇の曲線を調整したりすることができます。

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    実は私たちの身体はヒアルロン酸を自ら生成し、それを身体の組織の充塡のために利用しています。組織には「細胞外マトリックス」と呼ばれる繊維質でヌルヌルした基礎物質が含まれています。

    ヒアルロン酸は「細胞外マトリックス」の中で、水分を貯める役割を担っています。一グラム当たり六リットルの水と結合し、肌のみずみずしさと弾力と健康を維持します。しかし残念なことにら年を重ねると体内のヒアルロン酸の量は大きく低下します。すると貯水槽はゆっくりと空になり、七〇歳になると多くても二割しか水分が残っていません。それどころかまったく残っていないこともあります。私たちの皮膚が老化すると干からびて、シワくちゃになるのはこのためです。
    ヒアルロン酸は、特に大きな分子で構成されているため、皮膚に塗った場合、皮膚の最上部の角質層にしか浸透しません。それ以上奥には入り込むことはできません。とはいえ、ヒアルロン酸は角質層だけに留まっていても、多かれ少なかれ水分と結合するので、肌をふっくらさせることができます。しかしその効果は数時間しか続きません。
    ですから老齢になって皮膚の水分不足が加速する場合は、皮膚の地下二階、つまり真皮にまで、ヒアルロン酸を届ける必要があります。そのためには表皮と基底膜を貫通する注射針を使うしかないのです。アンチエイジング効果を大々的に謳う高価なヒアルロン酸美容液を皮膚に塗っても、意味がありません。化粧品業界が得をするだけで、消費者の出費は増え、若返り効果も持続しないからです。

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    けれども、組織に注入されたヒアルロン酸はときとともに消化されます。ですから再注入は必須です。効果が持続している間に限り、皮膚は潤いとハリを保つことができます。

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    リップクリームの多くには、サランラップのように皮膚に張りつく鉱物油が含まれています。塗った直後は、唇は潤っているように感じられますが、問題なのは、唇の皮膚から出た水分がクリームのせいで蒸発できなくなることです。結果、水分は塗ったクリームの下に蓄積されます。するとおむつかぶれと同じことが起こります。水分の蓄積により皮脂膜が洗い流され、皮膚が乾燥してしまうのです。乾燥はリップクリームにグリセリンが多く含まれていればいるほど強くなります。グリセリンは天然の保湿成分ですが、あまりにも高濃度だと、デリケートな唇の皮膚に有効に働きかけることなく、逆に水分を引き出してしまいます。
    そのため定番のリップクリームでは唇の乾燥は解決できません。その代わりに、シアバターやカカオバターなどの皮膚に近い天然の植物性脂肪や、蜜蝋やウールワックスなどを使った、栄養価の高い軟膏をおすすめします。はちみつをそのまま唇に塗るのもいいでしょう。

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    吸収される栄養成分は二つのグループに分類されます。第一グループは、炭水化物やタンパク質や脂肪などの栄養価の高い多量栄養素。第二グループは、ミネラルや微量元素やビタミンやアミノ酸や植物二次代謝物や必須脂肪酸などのカロリーのない微量栄養素です。

    p322
    アルコールを摂取すると、身体から水分が失われ、皮膚が乾燥します。アルコールには利尿作用があるため、尿を介して必要以上の水分やミネラルが排泄されてしまうからです。

    p326
    脂質はダイエットにも役立ちます。香りがよく、満腹感を与えるため、少し食べただけで満足できるからです。とはいえ本当に健康的なのは、微量栄養素を豊富に含んだ脂質だけです。菜種やココナッツ、亜麻仁やナッツ類、アボカドや脂肪の多い魚から採れる、工業的に精製されていないものだけがトップレベルの脂質です。
    ナッツ類は健康的なのに、カロリーが高いためにつねに嫌われものです。ですが実際は、ナッツのカロリーは一部しか身体に吸収されません。ナッツは口の中で完全に砕かれず、消化器官でも完全に分解されないため、大部分が未消化のまま腸から排泄されてしまうからです。

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    ナッツアレルギーのない人は、毎日適量のナッツを食べるといいでしょう。心血管疾患やがんや臓器の炎症の発症リスクを低減できるだけでなく、不飽和脂肪酸とミネラルと繊維とビタミンと植物二次代謝産物のユニークな組み合わせが持つ作用により、長寿と若返りが期待できるからです。

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    微量栄養素が不足すると、細胞の老化が早まり、細胞や遺伝物質がダメージを受け、健康が脅かされます。すべての臓器に悪影響が及び、それはまず皮膚に顕著に現れます。ハリがなくなり、シワが増え、皮膚がんが発生しやすくなるのです。

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    ビタミンBが欠乏すると、口角のひび割れ、唇の炎症、舌の刺激感、顔や頭や耳の脂漏性湿疹、皮膚の炎症、肌荒れ、抜け毛、爪の脆さ、皮膚感染症などの症状が現れます。

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    私たちの身体は通常、十分なコエンザイムQ10を生成しているため、クリームを塗ったり、サプリメントを飲んだりして、外部から取り入れる必要はありません。それが必要になるのは、重篤な病気を患っていたり、過度なストレス状態にあったりする場合に限られます。化粧品業界は、コエンザイムQ10をアンチエイジングの強い味方のように宣伝していますが、決して全員に効果があるわけではありません。
    私たちの身体は抗酸化物質を自ら生成していますが、それで必要量のすべてをまかなえるわけではありません。外部からの助けにも依存しています。そのため、食事により抗酸化物質の足りない部分を補っている人は、シワができ難く、目に見えて若々しく、がん、動脈硬化症、甲状腺炎、リウマチ、神経障害などの器質的な病気にかかりにくい傾向があります。
    抗酸化物質は、工業的に加工されていない植物性の食品を食べることで摂取できます。特に緑黄色野菜、果物、ナッツ、種子、穀物、ハーブ、全粒粉には、「オール・イン・ワン」と呼べるほどの量のビタミンや植物二次代謝産物や繊維質が豊富に含まれています。一回食べるだけで豊富な栄養素が摂取できるのですから、こういった食品に「スーパーフード」という名がつけられてもおかしくありません。

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    ビタミンやミネラルといった微量栄養素が豊富な食べ物は、「ファーストフード」とは真逆の食べ物です。ファーストフードには、多量栄養素である脂質と炭水化物が大量に含まれていますが、微量栄養素はほとんど含まれていません。

    ビタミンだけでなく、植物二次代謝産物(訳注:(中略)代表的なものはカフェイン、カテキン、タンニン、フラボノイド、セサミンなど)も抗酸化物質に属します。

    たとえば紅茶に含まれるタンニンは、粘膜や皮膚の傷や炎症を鎮める効果があるため自然薬として活用されています。リスクのない非常に効果的な薬なのです。
    では、私たちの健康に役立つ
    植物性色素の代表的なものをここにあげておきましょう。
    トップワンは、黄色とオレンジと赤色の果物や野菜に含まれるカロテノイド。自然界には六〇〇種類以上のカロテノイドが存在し、そのうち約五〇種のカロテノイドがプロビタミンA(訳注:生体内でビタミンA効力を示す物質に変換されるものの総称)を活性化する能力を有しています。特にβカロチンとリコピンは、私たちの皮膚にとって絶対的に有用な物質です。両物質は、たった分子一個で一〇〇〇体以上の破壊的な活性酵素を撃退することができます。βカロチンは体内でビタミンAに変換されます。ビタミンAは私たちの免疫系を正常に機能させて、がんを予防したり、細胞の増殖や皮膚の再生や目の健康を促進したりする重要な物質です。一方、リコピンは究極のスキンケア物質です。特にトマトペーストには高濃度のリコピンが含まれているため、食べると、どんな化粧品よりも高い効果が得られます。化粧品を超えるのです!トマトペーストがなければトマトジュースでもいいでしょう。それにオイルを一滴加えると、脂溶性ビタミンが腸で吸収されやすくなるため、効果が高まります。さらにリコピンは、シワや日焼けによる皮膚のダメージだけでなく、心臓発作、乳がん、胃腸がん、加齢性の眼疾患の予防にも効果的です。
    おすすめの植物性色素はまだあります。ほうれん草、レタス、ブロッコリー、パセリ、ウィートグラスに含まれる緑のクロロフィル、緑茶、柑橘系、ベリー、玉ねぎ、サンザシ、ダークチョコレートに含まれる黄色のフラボノイド、青ブドウ、赤ワイン、赤キャベツ、ナス、さくらんぼ、ブルーベリーに含まれる青色のアントシアニンも大切な物質です。

    p337
    強い抗酸化作用を持つ微量元素であるセレンには、皮膚や髪や爪や甲状腺などの細胞を保護する重要な働きがあります。

    p338
    セレンはブラジルナッツ、ココナッツ、ブロッコリー、白菜、キャベツ、玉ネギ、にんにく、きのこ類、アスパラガス、レンズ豆などの豆類に多く含まれています。動物飼料にはセレンが添加されているため、肉や魚や卵を食べても、セレンを摂取できます。

    亜鉛は私たちの身体のいたるところに存在する微量元素です。三〇〇種類以上の酵素の働きをサポートしています。酵素はタンパク質からなる生体触媒であり、代謝時の化学反応に関与し、反応を制御しています。また、遺伝物質の構築、タンパク質の生成、皮膚や爪や髪の毛の細胞分裂など、体内や皮膚の様々なプロセスに関与しています。頭皮の角質を整え、保護バリアをつくって髪の毛を強くし、傷の治癒を早め、免疫系の働きをサポートします。抗酸化作用があり、男性ホルモンの過剰分泌を抑えたり、細菌やヘルペスウイルスの感染を予防したりします。そのため皮膚科医は、皮膚の炎症や感染症やニキビや脱毛に悩む患者には、亜鉛の湿布や服用をすすめています。(中略)亜鉛不足を予防するためには、肉と内臓、牛乳、チーズ、卵などの植物性食品やナッツ類、全粒粉、貝類などを定期的に摂取するよう心がけましょう。

    p339
    銅は体内酵素の重要な働きを助ける微量元素です。強くて伸縮性のある皮膚の結合組織を生成したり、メラニン色素を合成したり、有害なフリーラジカルを除去したり、血液循環を調整する神経伝達物質を生成したり、遺伝物質を細胞内で変換したりするために必要な物質です。主に穀類や豆類から摂取できます。

    p340
    珪素はスーパー微量栄養素とも呼ばれます。私たちの身体の中では、鉄、亜鉛に次いで三番目に多い微量元素です。私たちの皮膚は、ケラチンや皮膚バリアを正常に生成するために珪素を必要とします。珪素が十分補給されると、爪や髪は健康になり、毛根も太くなります。皮膚のハリや身体の形は結合組織の状態で決まりますが、珪素はその結合組織にまで入り込むことができます。ですから珪素を摂取すると、シワやセルライトや妊娠線の改善が見込めます。
    珪素は特に豆類や穀類(特にキビ)、ビールやミネラルウォーターに多く含まれています。

    ご存じの通り、鉄は酵素の運搬や赤血球内で赤血球色素ヘモグロビンを形成するために使われている微量元素です。(中略)またコーヒーや紅茶を過度に飲む人も、鉄の吸収が阻害されるため、鉄欠乏症にかかりやすくなります。食べ物から鉄分を上手に吸収するには、ビタミンCを一緒に摂取するといいでしょう。オレンジジュースを数口飲むだけで鉄は身体に吸収されやすくなります。鉄は、肉、レバー、卵、アンズタケ

  • 皮膚科医である著者が、皮膚の構造からはじまり、その一生、陽の光との関係やにおいなど、身近で大事な問題との関係を分かりやすく解説する。
    皮膚に常在する様々な菌、また感覚器としての皮膚は危険回避やセックスとも密接に関連することが、ドライにしかも面白く描かれる。
    皮膚も身体の一部であることから、食べ物との関係もあり、まるで体丸々皮膚との関係で説明できてしまいそうで興味が尽きない一冊。

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著者プロフィール

ヤエル・エルダー
1973年、フランクフルト生まれ。皮膚科医。性病科医。長年、医学研究に従事した後、2007年にベルリンで医院を開業。皮膚科医のかたわら一般向けの講演会をドイツ全土で開催。わかりやすく、ユーモアたっぷりに皮膚科学を解説する女医として人気を博す。2016年に出版された本書はドイツの有力誌「シュピーゲル」のベストセラーリストでナンバーワンに輝いた。これまでに20か国語に翻訳されている。

「2021年 『皮膚の秘密 最大の臓器が、身体と心の内を映し出す』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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