茶匠と探偵

  • 竹書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801920385

作品紹介・あらすじ

AIを搭載した宇宙船である有魂船(マインド・シップ)と人間が深宇宙での死亡事故の謎を解く表題作ほか、ネビュラ賞・ローカス賞・英国SF作家協会賞の受賞作を含む9篇を収録した、現代SFの精華〈シュヤ宇宙〉シリーズ短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 作者はフランスとヴェトナムの血を持つフランス人。

    9編の中・短編集は、いずれもネビュラ賞・ローカス賞などを受賞した作品で、同一の世界観の舞台をもとに、本編以外にも数多くの作品が世に出ている。

    物語の世界では多分にアジア的な要素を盛り込んで、独特の舞台を作り上げているが、どこか、欧米人が抱く日本像の映像化された作品を見た時と同じ歯がゆさを感じるのも、奇妙な味わいの要素として、プラスに働いていると思うこともできる。

    どう解釈すればいいのかわからない単語が、何の解説もなくやってきては消えていくことも、なじんでくれば、この不思議な物語の本質の中に浸かることになる。

    ヴェトナムは、過去から中国王朝と密接に関係し「南越」「大越」「越南」などの表記にて記録が多く残っている。さらに、日本とともに中国元朝に征服されなかったアジアの国の一つで、紀元前より歴史を持つ国。
    ヴェトナム戦争のイメージが強く、なかなか本質が理解されにくい国でもあるが、器用で勤勉な国民性から、良質の労働力の場として近年急成長している。

    日本SFや華文SFとは一味違った、アジア的SFを垣間見た。

  • 目次
    ・蝶々、黎明に落ちて
    ・船を造る者たち
    ・包嚢(ほうのう)
    ・星々は待っている
    ・形見
    ・哀しみの杯三つ、星明りのもとで
    ・魂魄(こんぱく)回収
    ・竜が太陽から飛びだす時
    ・茶匠(ちゃしょう)と探偵

    今まで読んだことのないタイプの作品でした。
    シュヤ宇宙という、独自の世界を舞台にしているのですが、それぞれの作品に関連性はありません。

    アジアを彷彿させる大家族主義、先祖崇拝、長幼の序、親孝行、輪廻転生、観音信仰等、私たちにも身近なそれらが、シュヤ宇宙に住む彼らの日常に深く影響を与えている。
    しかし人々は死んでも、その記憶はデータ化されその多くは子どもに受け継がれる。
    多くの御先祖様と実際に暮らす生活。

    彼らの住む大越帝国は、過去に大きな内戦を経験している。
    また、支配する民族と支配される民族に分かれているのに、包嚢を身につけることによって、見た目も文化も支配者の方に合わせていくうちに、アイデンティティが崩壊してくなど、遠い宇宙を舞台にしながらまるで現在の世界のことを書いているかのようでもある。

    私たちの住む世界との最大の違いといえば、宇宙船は船魂を持って、人間の女性から生まれてくること。
    宇宙船はあくまで機械なのだが、精密に設計された機械を女性の体内に入れ、母体に育てられることによって有機的な思考や判断力を身につけ、生まれてくる。
    もちろんそれは母体にとって、とてつもない苦痛と危険を伴うので、生活のためにそれを受け入れるという階層の人たちは一定数いる。
    船には母を同じくする人間の兄妹がいて、いとこがいて…。

    船は深宇宙に人間を運ぶ。
    深宇宙は肉体的にも精神的にも人間に深いダメージを与えるので、性能の良い船が必要となる。
    深宇宙で死んだ人間は宝石になる。

    そういう世界のあれこれ。
    世界についての細かな説明は特にないので、読みながら少しずつ知ることになる。
    それが楽しい。
    設定が突拍子もないので、脳内で視覚化することもできなかった。
    それでも、人々の哀しみ、あきらめ、怒りなど、ストレートに心に刺さった。

    タイトルの茶匠は、船です。
    人間が深宇宙に行くときに精神が壊れないように、その人に合わせて調合されたお茶(という名の合法的麻薬じゃないかな)を提供する船。
    イメージできんが、そういうこと。

  • 図書館で。
    この作者の描く世界を知らない初心者が、まず最初に読む本としてはちょっとハードルが高かった。めっちゃシリアスだし。と言う訳でとりあえず1話は読みましたが、なぞ単語となぞ事件となぞトラウマのオンパレードで、まぁなんか指南書っぽい作品があるのならそれから始めた方が無難かな、と思いました。

  • 大ベトナム帝国と紅毛(ギャラクティカ、いわゆるEU圏的勢力?)が覇を争う宇宙世紀の短編集。評価は星3つ。要約すると、

    ・民族的な文化描写が半端で浅い
    ・文章はそこそこ良い
    ・ドラマは70点

    なせいで、逆に胃がむかむかする。
    飯の話と一族祖先の話してりゃ民族描写だと思ってるんかい、と。

    民族的な文化や、歴史事件を織り込んだ描写の名手といえば、ケン・リュウが真っ先に思い浮かぶ。
    ついつい対比してしまうのだ。
    たとえば、格言や言い回しひとつひとつに、文化は現れる。
    選ぶモチーフや意匠の一つ一つに、登場人物の人格や人生が反映されているかどうか。

    対比して気づくが、アリエット・ド・ボダールの本作にはこの二つが欠けている。

    まず格言が出てこない。全然ない。
    意匠というか、浅い理解の風水はでてくるが、物語内での重要なファクターではなく、あっさり解決されている。
    要は、『彩りとして取り入れてはいるが、非・EU的価値観が物語の構成にまで落とし込まれているか?』という疑問がある。
    全編を読んで、『星々は待っている』以外にうまく描写できている感じは受けなかった。
    犯罪に手を染めた末裔が、祖先、一族の記憶の保持という「本分」に立ち返る一幕を描いた『形見』にしても、
    「なんか知らんうちに、唐突に、そういう理解に至りました」
    的な感触を受ける。
    著者にも掘り下げが浅いまま、表層をなぞった描き方しかしていないため、読者にもそれが不消化な印象を与えている……のではないか。
    それこそ、『形見』内で、紅毛のジャーナリスト、スティーブン・ケアリの「再現した」都市を、
    「ありとあらゆる点で、微妙に、実に不愉快な形でずれている」
    としたくだりが、皮肉なことに『茶匠と探偵』収録の全作にもぴったり、しっくりくる。

    魚醤、大蒜、醗酵肉といった食物を出していれば、それで民族性は表現しえているのか?
    米でできた食品、フォー、ライスペーパーは全然出てこない。(ごはんやジャスミンライス、粽は出てきた)

    虎に翼が生えて強くなる(もともと強いものがさらに勢いを増すこと)、水牛の耳に音楽を弾く(馬の耳に念仏とほぼ同義のことわざ)といった言葉は全く出てこない。

    著者にとっての仏教や祖先信仰の理解にも、疑問がつきまとう。
    描写されるのは、「子が仏壇に線香をささげてくれること」を中心に、表層に現れる行為が大半である。
    まさに
    「描いているものは(中略)信ずるとはどういうことか、理解することができない」
    という、『形見』で述べた非東洋文化圏のまなざしを、著者も同様に持っているのではないか。
    もちろん「非・東洋/仏教文化圏読者に合わせた文章表現」という理由も考えられる。
    つまり、
    「まさにその東洋、仏教文化に漬かってる我々には、苛っとくるのも仕方ない文体」
    である可能性だ。

    アリエット・ド・ボダールの短編が受けた賞は、訳者あとがきによると、

    ローカス賞1回、ネビュラ賞3回、英国SF協会賞2回、英国幻想文学大賞1回受賞

    とのこと。
    この程度に薄まった民族的文化描写、この深入りはしないがチクリと刺す(内戦難民の心情描写や、記念館の表現に対する風刺)表現手法。
    それこそが、EU/USA/英語圏の読者には好まれたと見える。

    宇宙世紀ガンダムシリーズや『精霊の守り人』とケン・リュウの洗礼を受けた読者としては、
    「技巧はあるが、描写が浅い」
    として、星3つである。

    各編ドラマの筋立てとしては、竹書房の『竜のグリオールに絵を描いた男』のような、文学的過ぎて理解しがたいレベルではないが、
    「なんか平凡……テクノロジーの問題を別にすれば、現代社会でも起きえるドラマじゃね……?」
    という内容であったことは申し添えたい。

  • 表題作を残していたけど、ようやく読了。
    はっきりいって、面白いとは思わない。
    ぼったくり画廊の商品みたいなカバーアートも、「これはダメ」のサインだった、か。

    大島豊+竹書房といえば「オルガスマシン」だけど、あれも死蔵状態。
    また、大島豊といえばアイルランドだけど、チーフタンズの伝記も中断して放置したまま。
    どうもあまり相性が良くないようで。

    訳者あとがきに「ボタール」という誤記が2箇所もある。
    タイプミスとも思えないけど、ま、ゆる~いなぁ、と…

  • 東アジアをベースにした“シュヤ宇宙”を舞台にしたSF短編集。日本独自に編まれた作品集のようだが、この作者の作品を初めて読む私にはこの世界観がなかなか飲み込めず、最後の2編位でようやく少し理解できてきた感じだ。祖先や一族をものすごく大切にしてすごく家父長制的な世界だが、ただしこの世界で中心にいるのは父ではなく母なのだ。母や祖母や叔母たちが支配的地位にいて子供や孫に命令している図は、抑圧的であると同時に一体感を感じる。船の中枢を、人間の女性が実際に妊娠して産むというのがグロテスクで絶句した。でも船が意識を持ち化身に自らを投影して探偵役となる表題作『茶匠と探偵』は楽しかった。この作者の他の作品も翻訳されるといいな。

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