寄港地のない船 (竹書房文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801903555
#SF

作品紹介・あらすじ

その船はどこから来て、どこへ向かうのか。もはや知る者は誰もいない。巨大な宇宙船の内部で、いまや人間たちは原始的な生活を営んでいた。かつて船を支配していたという巨人族、猛烈な勢いで繁茂する植物、奇怪な生物たち、そして"前部人"と呼ばれる未知の部族を恐れながら…。世界が宇宙船であることも、わずかに伝承に残っているのみだった。ある時、狩人のロイは司祭マラッパーから、この船を支配するために世界の"前部"へ向かおうと誘われる。だが、仲間たちと"死道"へ旅立ったロイを待っていたのは思いもよらない出来事の連続だった。そして、彼が旅路の果てに見たものは-。幻の傑作SF、待望の邦訳。

感想・レビュー・書評

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  •  光速は越えられない。
     その厳然たる物理学的事実に従うか従わないかでストーリーは大きく変わる。ワープのような超光速航法を導入すると、宇宙は地球上と大差なく移動可能な場所となる。ところが光速が越えられないならば、亜光速で飛んで目的地に到達するものの、戻ってきたときにはウラシマ効果で数世紀がたっているといった話になるか、そこまで加速できない宇宙船ならば船内で幾世代を経ながら子孫が目的地に到達するという話になる。後者が世代宇宙船である。

     ブライアン・W・オールディス。イギリスSF界のビッグ・ネームだ。『地球の長い午後』『グレイベアド』、そしてSF評論というかSF史の『十億年の宴』。現在、齢90で二、三年前にも小説を出版、来年には旅行記が刊行予定という作家にもかかわらず、翻訳紹介はかつてのサンリオSF文庫に少し、21世紀に入って、この竹書房に少しという体たらくだ。
     本書はオールディスの処女長編『ノンストップ』の初訳である。60年もまえの本であるが、世代宇宙船ものの代表作である。「ノンストップ」は本文内では「無寄港」と訳されているが、日本語にしようとすると、まあそうなるしかないか。それで訳題は『寄港地のない船』。「ノンストップ」の簡潔さから比べると、何ともまどろっこしい。当然、この船は宇宙船なので、大西洋を彷徨っている豪華客船ではありません。

     ロイ・コンプレインはグリーン一族の狩人であるが、狩りの最中に同道した妻を別の部族にさらわれてしまう。罰を受けるコンプレイン、すっかり生活に嫌気がさしていると、牧師のマラッパーに部族の住む〈居住区〉を出て〈前部〉に行こうと誘われる。〈前部〉に行けばこの船を支配できるというのだ。
     コンプレインはこの世界が船であるという言い伝えをいまだ信じられない。かつて巨人族がこの地に高い文明を築いていたといわれ、その遺物が残っている。また〈前部〉人は文明が進んでいるという。他方、〈よそ者〉やミュータントもあたりにはいるらしい。マラッパーの選んだ3人とともに〈居住区〉を抜け出したコンプレインは次第に世界のありさまを目の当たりにしていく。
     つまり世代を重ねるうちに宇宙船内の文明が崩壊し、船内に生い茂る植物を苅り、小動物を狩る前近代的な生活に退行していたのだ。船の秩序がなぜ失われたのか、船がどこに向かっており、現在はどこにいるのかは物語の大きな謎として解明を待つ。

     『スターウォーズ』冒頭の帝国の軍艦の巨大さを見せつける映像をすでに知っているわれわれにはちょっと想像できなくなっているが。本書が書かれた1958年、巨大な宇宙船なんて映画にも出てこなかったんじゃないだろうか。そういえば藤子不二雄(Fのほう)が『スターウォーズ』の軍艦の中が広すぎて兵士があちこち用事を足していると歩くのが嫌になってしまうというパロディマンガを書いていた。
     宇宙活劇といえば英雄的な主人公が登場する1950年代のアメリカSFに抗って、本書では文句タラタラ(その名もコンプレイン)のしがない男を主人公に据えたのもイギリスSF界の気概だったようである。意外に古くさく感じないのはそんなところもあるし、ますますわれわれは宇宙船地球号に乗っているという意識が強まっているご時世もあるのかもしれない。

  • 面白いとか面白くないとか以前に、翻訳が酷すぎる。そこは「を」じゃなくて「が」だろ、といった細かいものから文章全体がおかしいもの、もはや意味がわからないものまで、気になって仕方ない。

    最後まで読めたので面白くないわけではないのだが、ここまで翻訳がひどいと感じた本は初めてかな。

  • オールディス氏の処女長篇。およそ60年前の作品がなぜか今邦訳、刊行された。世代間宇宙船もので、船内はポニックと呼ばれる生命力の強い植物が蔓延り異形と化している。世代を重ね、船の記録ははるか昔に失われており、一部を除き、人間は外に世界があることさえ知らない。デッキとポニックで隔てられた人々は各地で小さなコミュニティを作り暮らしており、はみ出し者の主人公は司祭たちと共に旅に出るが・・・。この後に書かれた「地球の長い午後」に繋がるような設定に胸熱必至。ハインラインの「宇宙の孤児」とはまたひと味違った傑作。

  • ところどころ破綻

  • 久しぶりに骨太なSFを読んだ気がする。面白かったなぁ。
    こう、新語を不親切にぶつけてくる感じが好きなんだよね。なんだろうこれは、となけなしの想像力をフル回転させながらページを繰っていって、段々とその言葉が自分の中に形作られていく感覚。
    あとがきによると世代宇宙船もの、という小説の古典、らしい。初めてこういうのを読んだなぁ。読んでいる途中からもたげたある種の疑念が、読み進めていかうちに明らかになっていくのはいつになってもワクワクする体験。

  • タイトルからイメージはしていたが、SF系もおもしろい。ある種の人体実験。

  • 世代宇宙船の中で繰り広げられる物語。原書は1958年の作品だ。著者の初期の作品である。ハードSFというわけではないので、設定に疑問を持つところもあるが、物語としては楽しめた。読むのが辛かったのは最初の部分。物語がふわふわとしていて、世界観を理解できなかった。我慢して読み進めると、冒険が始まり、いくつもの困難を乗り越えて話が進む。そこまで来るとどんどん面白くなる。最後の方は意外な展開があり、ハラハラドキドキさせられる。面白かった。訳者後書きでは翻訳に苦労した話が紹介されていた。最初に読みにくかったのは原書で使われている言葉が独特だったためなのかもしれない。

  • ネズミ人間の件も深めても面白そうだけど、そっちにはいかなかったのね。

  • J・G・バラードとともにニュー・ウェーヴSFの中心的な存在として知られたオールディスの処女長編。
    その後のニュー・ウェーヴに発展するモチーフを内包しながらも、本作ではまだそこまで突っ込んだ思考実験はなされていない。その分、SFとしてとっつきやすい長編になっているのではないか。
    硬質な世界を描き出したバラードとは違い、本作で描き出される異形の世界は妙に生々しく、ぬるぬるした感触や高い湿度といった皮膚感覚に訴える読後感があった。
    それにしても、本作のラストはハッピーエンドなのだろうか……?

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