死の海

著者 :
  • 洋泉社
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本棚登録 : 95
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800316721

作品紹介・あらすじ

64年前のあの日、いったい何が起こったのか。 そして、女子生徒たちを海へと引きずりこんだ、幽霊の正体とは、いったい……日本で最も有名で、最も恐ろしい「幽霊事件」の全貌と真相が、今明らかになる!

感想・レビュー・書評

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  • 【ときとして怪談は”不都合な真実”を隠すためのツールとして、絶大な効力を発揮してきた歴史がある】(文中より引用)

    遠浅の海で突如として学生らが溺れ始め、36人の犠牲者を出すことになった昭和30年の「中河原海岸水難事故」。同事故が原因で流布した「防空頭巾をかぶった何十人もの女性に引き摺り込まれた」という怪談が、いかにして発生し受容されてきたかに迫る作品です。著者は、事件の起きた三重県に在住している後藤宏行。

    怪談話そのものを紹介するのではなく、その怪談話がどのような経緯で生み出されたかを「合理的」に解明しようと試みた意欲作。オカルト・ミステリーとも言える作品としてページを繰る手が止まりませんでした。

    こんな事件があったということも知らなかったのですが☆5つ

  • やむに已まれず裁判を起こした遺族に対しても苛烈な誹謗中傷があった、との記述から、石巻市・大川小学校の遺族が県・市を相手取って訴訟を起こしたケースと同じ構図が浮かんできた。たしか『津波の幽霊たち』という題名の本だった。
    「お上」に立てつくなんて、という地方都市の封建性も関係しているのだろう。

    事後になって「俺は水難事故を直感して水泳授業をとりやめた」ことを自慢していたという他校の校長。彼を批判することはできない、という著者の姿勢に共感する。
    同時に、自分の発言がどういうメッセージ性をもち、他者、ことに事故の関係者はどう受け止めるだろうか、という俯瞰の視点を持てない人物が教育職に就いてはいけないのだとも思う。

    良書であるし、おそらく筆者も認識しているようだが、遺族に取材していない点は致命的な欠落だろう。遺族は教員や学校や市教委を糾弾するより何よりまず事故の原因を知りたかったはずだ。
    日本の刑事司法では10年ほど前まで、被害者・遺族に事件・事故の真相を伝える配慮がされてこなかった。被害者・遺族にはごく基本的な知る権利さえ保障されていなかった。
    大切な家族を突然喪った遺族が願うのは、「なぜ我が子がこんな目に遭ったのか」「どうしたら防げるのか」知りたい、この一点に尽きる。遺族のこのささやかな願いは、ほかの多くの犯罪・事故遺族と同様、叶えられなかったはずだ。酷いことである。

  • 【一言感想】
    メディアが内容を面白くしようとすると誇張等の手法を使ってしまい、それが別の解釈でそもそもの内容から段々とかけ離れていってしまう

    アンビリバボーでも取り上げられたことのある三重県で実際に起きた「中河原海岸水難事故」を題材としたノンフィクション作品

    かつてアンビリバボーでは事故後の証言から"防空頭巾を被った女の子に足を引っ張られた"ためこの事故は発生したのかもしれない、と放送していたがそもそも戦時中にその様なことは無かったと本書では伝えている

    "幽霊"の存在に関しては、個人的には事件を風化させないためや危険な場所に対しての教訓的な意味合いが強いと考えているが、本書を読んで面白おかしく伝えていくことのメディアの罪深さを感じた

    何か事件を取り上げるときには一時的な視点だけでは無く、過去の関連するであろう出来事も精査をし、しっかりと繋げた上で伝えていく重要性を感じる一冊であった

  •  昭和30年代に三重県で起きた女子中学生36名がなくなった「中河原海岸水難事故」につてのノンフィクション。この事故が有名な理由は「防空頭巾をかぶった人たちに足を引っ張られた」という怪談としてだと思う。私も過去にそういった再現映像を見たし、とても恐ろしい心霊事件だと思っていた。

     けれども、実は生き残った女性は幽霊を見たとは言っていない。
     どういうこと? ではどうして現在このようなイメージがついているの? というところを丹念に説明してくれる。
     そうして、怪談にならざるを得なかった背景が本書で明かされる。腑に落ちるというか、つらいというか、京極堂シリーズの謎解きのシーンのような感じであった。ノンフィクションが嫌いではない方にお勧めしたい。

  • 1950年代、三重県の中学校の水泳訓練中に多数の女子生徒が溺死した「中河原海岸水難事故」を追ったノンフィクション。
    事故直後の現場の悲惨な状況、その後の教員バッシングと裁判、未だ解明されていない原因、市にも学校にも存在しない事故記録、「防空頭巾の亡霊」の怪談。普段オカルトは「うーん」という立場なのだけど、証言から怪談が完成するまでの背景と検証、性差問題は特に興味深く読んだ。

    「見たいものしか見ない、聞きたいことしか聞かないというのが人間という生き物」p207
    「そっとしておくのも正しいと思うし、私のように無神経にほじくり返すのも、風化させない、事故の記憶と記録を保全するという意味ではなんらかの役には立っているだろう」p330

    当時在校生だった大川氏の著作は昨年出版されているようなのでこちらも読みたい。あと、水木しげる氏による絵がとても怖かった(夜中に思い出してビビりました)……。濃い内容でした。

    ※付記
    2020年2月1日付で版元解散、店頭在庫限りとのこと(著者Twitterより)。もう1年経ってるのでこれから読むには図書館で借りるしかなさそう。たかが一地方の話かもしれないけど、こうして埋もれてゆくのは残念ですね。

  • 三重県で発生した生徒の溺死事故にまつわる怪談話の実状について扱っている。
    小学生の頃、塾の先生から実際に起こった話として教えてもらったのが最初だったなぁ。

  • 書店で平積みを見かけ、気になったもの。テレビでも幾度となく取り上げられている事件みたいだけど、本書を紐解くまで知らんかった。同じ内容が繰り返される部分も少なからずあり、冗長に感じられることも。

  • 曰くつきの怪談ありきで、その筋では音に聞こえた一件でありながら、著者が言うようにこの水難事故をがっつり扱った単著は確かにこれまで見たことがなかった。
    構成が整理しきれていなくて、引用の重複や同じ主旨の記述が散見されるなど、話があっちに行ったりこっちに行ったり、相当に粗い印象はあるが、その意味では、一連の裁判の記録や津市民の声など、今まで知ることがなかった様々な情報に触れられたという収穫はあった。
    今でいうところの、フェイクニュースが伝播したメカニズムの一例を紐解いた、という一面もあるだろう。

  • 昭和30年に三重県で起きた海難事故。
    中学の水泳授業で女子生徒ばかり36名が死亡するという、非常に大きな被害がでた事故に関するノンフィクション。
    真相を追うとか謎を解くというよりも、事件が後になぜ心霊現象と結び付けて語られるようになったのかといったあたりに焦点をあてている。

  • 昭和30年7月28日、三重県津市の中河原海岸で水泳の授業中であった女子中学生36名が溺死するという痛ましい事故が発生しました。この事故が世に知られるようになったのはその犠牲者の多さだけではなく、溺れかけて助かった生徒が「防空頭巾を付けた大勢のもんぺ姿の女性に足を引っ張りこまれた」という証言がマスコミを通じて広がり、心霊現象と結びついてしまったためです。
    著者はこの事件の関係者に丹念に聞き込みを実施しています。事故が発生した中学校の当時の在校生、救助に関わった地元漁師、そして前述の「防空頭巾を付けたもんぺ姿の女性」の証言をしたとされる本人にも。そこで浮かんできたのは、証言している本人はそのような亡霊は見たとは言ったことがないという事実。
    事故をめぐってはその責任の所在を当時の指導教師に全て負わせるかのような雰囲気があり、一方で事件の責任をめぐる訴訟も起こされました。事故は予見でき、教師の注意不足が招いた事故なのか、予見不可能な事故であったのか、司法の判断も別れました。またこれだけ大勢の犠牲者が出たにもかかわらず、その真の原因も沿岸流説、噴流説、蹴波説など様々な説が浮かんできたものの、決定的な原因は分からずじまいでした。原因不明の溺死事故の原因を心霊現象と結びつける事を当時のマスコミが意図した可能性があり、生徒への取材についても「マスコミが聞きたい事を聞いて報道する」という結果として、この様な心霊現象と結びつけられた可能性が高いとの結論に至ります。
    本書はこの事件をめぐる報道で、どういう事実背景とプロセスで心霊現象と結びけられていったのかを丹念に取材して明らにしています。

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