総理にされた男 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

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  • / ISBN・EAN: 9784800287359

感想・レビュー・書評

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  • 2023.10.13 読了 ☆9.4/10.0


    「政治家たちは何をやっているんだ」
    こんなふうに毒づいたことは誰しもあると思う
    「自分が総理大臣だったら、日本をもっといい国にできるのに」
    などと思ったことはありませんか?

    だったらやってみてはどうですか?
    突然、総理の替え玉にさせられたこの主人公・加納慎策のように…


    本書は、小説でありフィクションでありながら、日本の抱える問題を詳らかにし、具体的な政治経済、金融などの知識を交えながら優しく説いてくれる入門書であるのです。



    〜〜〜〜〜印象に残った言葉〜〜〜〜〜



    “景気の良し悪しというのは詰まるところ、カネの循環がいかに大きく速いかということなんです。生き物に喩えるなら血のようなものです。動物が活発に動くためには血液が多く、そして速く行き届かないといけない。それと同じです。

    景気を回復させるには、どこかで眠っているカネを動かす必要があります。言わずもがなその在処は富裕層です。そういう人たちがカネを遣ってくれないと経済は活性化しない。だから過去の景気政策というのはおおかた、金持ちにカネを遣いやすくするための政策なんですよ

    酷な言い方ですが、貧乏な人は余分なカネが入ってきても、すぐに遣わず溜め込むでしょう。そうすると結局カネの流れは止まってしまう。
    優先順位に則って対策を行えば、早く恩恵に与かれる者とそうでない者に別れるのは自明の理。
    景気がいい、というのは国民全員が等しく潤うということではなく、あくまで全体の平均値が上がることなんです”



    “政治というのは正しさの追求ではない。意見が対立する者と擦り合わせ、妥協し、着地点を見つけることです。
    正論は正しいが、正論を振りかざすことは全く正しくない”



    “政治が人間の所業である限り、それを動かすのは理屈じゃなくて情だ”



    “親の地盤を受け継いだ二世議員も、弾みで当選してしまったタレント議員でさえも、最初は子供の目をしていた。それが政争に巻き込まれ、カネと権力に塗れ、理想と現実の狭間で揉まれるうちに初志を忘れて、薄汚れた政治家の目になっていく。

    カネも権力も汚れたものだから、塗れていれば人間が汚れるのもまた当然。議員に必要なものは、選挙民に向けた偽りの真摯さと、汚泥の中で生息する術だ”



    “国民全員が裕福になることなどまずあり得ない。誰かが潤えば誰かが渇きを訴える。資金が偏在することが資本主義の特性だ。好景気とは経済上の言葉であり、単にモノとカネの流れが活発であるという事実に過ぎない。
    景気とは読んで字の如く〈気分〉によって語られる部分が大きい。それを数値化するというのは、喩えて言えば、喜怒哀楽を血圧で表示するようなもの”



    “しかし、こうして総理大臣と内閣官房長官が声を上げても、システムは変わらない。誰かが変えようとしない。誰かが変わることに断固反対している。

    何故、国民によって選ばれた議員たちが国民のために働けないのだろう?”



    “本来、自衛官は感謝されてはいけない存在です。自衛官が国民から歓迎され感謝される時は、外国から攻撃を受けた有事の時だ。自衛官は日陰者である方が国民や日本は幸せなのだ。

    同じ公務員でも、霞ヶ関でふんぞり返っている連中とは抱く矜持も懸けるものも違う。報われない仕事、感謝されない存在。それでも彼らは日々汗を流し肉体を酷使することも厭わない。優しき者が銃を担ぎ、気弱な者が死地に赴く。”


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    そして本書最後の、国民全員に向けた慎策の、魂のスピーチは感涙です。日本人であることを誇りに思えます。ぜひ一読を。

    • INSPIRE@JTCさん
      かつて「政治」を学んだものとして、興味をそそる感想!読んでみます、ありがとうございます!
      かつて「政治」を学んだものとして、興味をそそる感想!読んでみます、ありがとうございます!
      2023/12/22
  • 政治色の強い内容。総理の真似をしていた売れない俳優という設定なので、政治も経済も素人総理に分かりやすく説明されてはいるが、やはり本気になって読まないと理解しづらい。途中から素人なりの理想論的な方向に行ったが、その方が一般大衆向けにも読む方にもマッチしているように思う。
    このまま替玉で最後まで行けるかどうか、現実には無理と思うが、エンターテイメントとしては期待感を持ってしまう。
    大使館占拠事件は「月光のスティグマ」とリンクした場面があり、こんな内容に繋がっていたとは。

  • 一国の総理大臣と瓜二つの、売れない舞台俳優が、総理大臣の替え玉となり、あらゆる難題をクリアして行く。
    そんな荒唐無稽な話で
    「んなアホな。。
    政治に興味も関心も寄せていなかった若者に、
    仮にも一国の宰相の替え玉が務まる筈あるかいな」
    と読み進めて行くうちに、何となく、引き込まれて行った。

    総理大臣・真垣統一郎に容姿がそっくりで、総理のモノマネをして、最近ようやく名前を知られては来たが、まだまだ売れない舞台役者・加納慎策が、峰窩織炎に罹って、目下意識不明の総理の替え玉にさせられてしまった。

    「回復するまでの間」との約束だったが、真垣は、病状が悪化、帰らぬ人となった。

    引くに引けなくなった慎策に、次から次へと、問題が持ち上がる。
    そして、とうとう憲法違反騒動へと・・。

    無辜の国民の命を守るために、海外に、自衛隊を派遣する決意をする、(偽)総理。
    それが、正しかったのか、間違っていたのかは、わからないけど、改憲を旗頭に結党した、自由民主党に言いたい。
    「早急に、憲法改正を進めるべき」と。
    改憲を旗頭に結党した、自由民主党に

  • 総理大臣にそっくりで、劇団の前座でモノマネをしていた加納慎策がいきなり拉致され、病気で倒れた本物の総理の替え玉をさせられることになってしまう。最初の辺りの乗り切り方が痛快だ。型破りでユーモアがあり、相手の心にも入り込むことができる総理を演じるのだが、慎策、うーん、上手くいきすぎ。この後はなかなか大変なことになっていく。国会での施政方針演説、内閣人事局設置法案の提出、アルジェリア日本大使館へのテロ組織の占拠。自己中心的な官僚組織への取り組みへの族議員や官僚の抵抗、憲法第9条に縛られたテロへの対処の難しさなど非常に大きな問題を取り上げていて、日本人としては簡単に見過ごせないことなのだ。慎策は、国会議員・日本のトップという総理大臣の原点に回帰することを自分自身に突き付ける。最後のテレビを使った解決とレストランでのやり取りは、ほこっとするね。
    中山七里は上手い!テーマもプロットも人間の描き方も素晴らしい。官房長官の樽見には思わず感情移入してしまう。本当の官房長官もこうだといいが。さて、現実の日本政府のトップたちはコロナ禍をどう解決してくれるのか。慎策ならどうしていただろうか。

  • 総理にされた男 中山七里著

    想定外 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

    中山さんは、主人公がピアニスト、検事、解剖医師、銀行員と、まったく違うタイプを執筆されます。
    まず、その時点で驚愕です。
    さらに、その内容は、相当の調べをされた上で執筆されていることも読み取ることができます。

    そして、いよいよ国、政府、首相を主人公に、、、。

    主人公は、総理と似ている舞台俳優です。
    主役ははれず、ひなたにでることなく数年の下積みの繰り返しです。
    さて、そんな彼が誘拐されて、連れてこられたのが首相官邸です。

    なんで?!

    この主人公が自身の置かれた状況の理解に努め、一つひとつ役割をこなしていきます。
    そう、環境に適応することのできるタイプです。

    欲はなく、ただ、ただ、実直に務めを果たす。

    物語の面白さだけではなく、主人公の彼から、生き方、考え方を教えてもらう人も多くいらっしゃるのかもしれません。

  • 総理大臣に、似てるからって急に代役!
    (重症で本人ヤバイ…)
    な〜んも、政治経済の事も分からんのにどうなるの?って感じ。
    強みは、青臭さだけという…
    でも、魑魅魍魎の政治の世界では、新鮮な感覚に見られ、みんなを徐々に魅了する。あんな妖怪だらけのとこで、仕事したくないけど^^;
    何事も初心にかえるのは、重要やな。長く続けると垢が溜まって、あかんし。当然、磨かれる部分もあるやろうけど、思いとかそういうのは、1からってのも大事やと思う。
    今の政治とか、玉虫色な判断とか多いし。それを分かってて、そのまま…
    そろそろ、白黒つける時やな!
    こういう総理大臣の時がチャンスやな!
    なかなか面白かった!
    現実見ると、総理大臣、急に総裁選出んとかなってるし…
    みんな初心にかえって!

    PS
    主人公のように、子供ように目がキラキラやったら、良いけど、もう濁ってそう^^;
    白内障ではないです!!!

  • 役者志望でヒモのような生活を送る加納慎策。
    総理大臣に瓜二つの容姿を活かし、精巧なものまね芸で人気が出てきていたところだった。

    そんなある日、意識不明に陥った総理大臣の替え玉を依頼されあれよあれよと言う間に総理大臣の椅子に座ることに!!


    なんちゅー突拍子もない話やねん!!!
    とたまげたが、これが超面白い。

    政治なんて全然分からないアホな私が読んでも、ページを捲る手が止まらなくなるほど。
    この先どうなるの!?ちゃんと元の家に帰れるの!?
    もう心配で、心配で、心は慎策の母にでもなったかのよう(笑)

    クライマックスの場面は、あれ?私この映像どこかで見てる。。。。
    なぁ~んて既視感が。

    それもそのはず、この場面は中山先生の他の本でしっかり読んでいた。
    読めば読む程、そうだ!確かそうだったと確信に。


    政治苦手の女性でも、かなり勉強になる素晴らしい本じゃないかなぁ~と思う(*^-^*)
    もちろん、話の内容もかなり面白い(*^-^*)

  • ありえないような話ともおもいつつ、絶妙にリアリティがあって、法律を調べて書かれているところも勉強になるし、なによりスリルがあっておもしろい これを読めば選挙の投票率もすこし上がるかもしれない

  • 政治に関心を持つきっかけにいいかも。
    総理大臣にそっくりなことから、総理のモノマネをしていた売れない舞台俳優が、ある日突然拉致されて、総理の替え玉になる!
    アメリカ大統領の替え玉をした人の映画「DAVE(デーヴ)」を思い出しました。(これもおもしろかったです。おすすめ!)
    庶民感覚を持ったままのニセ総理が日本を良くするためにと考えて実行していくのは小気味よいです。なおかつ、舞台が日本で、取り上げられた課題がリアルな分、政治の勉強にもなりました。

  • 役者志望の慎策さん、総理にソックリで意識不明の総理代役にさせられるお話。

    政治まったく分かりませんが、色々勉強になりました。
    慎策さんと一緒に成長できた気がします。(笑)
    展開もドキドキで慎策さんの演説が凄かった。

    面白かったです。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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