新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている

著者 :
  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800238078

作品紹介・あらすじ

東日本大震災でわかった緊急時の行動と心理。災害対策の第一人者が提唱する「悲劇の予防線」。自分と家族を守るための心の防災袋。

感想・レビュー・書評

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  • 山村は「防災心理を知っているか知らないか、その違いが生死を分ける」と訴える。本書を読んでいれば東日本大震災を生き延びることができた人々もたくさんいたに違いない。読みながら痛恨の思いに駆られた。災害心理学は新しい学問だが、認知科学に基づいており信頼性は高い。生存者の手記やインタビューの多くは愚行と偶然性に支配されていて読めたものではない。単なる僥倖(ぎょうこう)から他人が学べることは耳かきほどもあるまい。
    https://sessendo.blogspot.jp/2016/07/blog-post_8.html

  • ■防災上支障となる心理的バイアス等
    ・感情弱化バイアス
     不快感情を快感情よりも弱化させる心理的傾向
    ・楽観主義
     物事や事態の成り行きをすべて良い方向に考えようとする心理的傾向
    ・認知バイアス
     経験などから先入観、思い込みで判断・行動する心理的傾向
    ・感情バイアス
     心地よい感情効果のあることを信じたがり不快情報や精神的苦痛を与えるような厳しい事実を受け入れたがらない心理的傾向
    ・正常性バイアス
     先入観にとらわれ異常事態でも「正常の範囲」と誤認し対応を誤る心理的傾向(正常性の偏見ともいう)
    ・アンカリング
     船が錨(アンカー)の鎖の長さしか動けないのと同じように最初にインプットされた数字や情報で全体を判断したり行動や判断の自由が限られたりする心理的傾向。繋留効果ともいう。
    ・エキスパートエラー
     警察、消防などプロの防災関係者が危機管理において犯す判断ミスをいう。また、誤った専門家情報を過大評価して対処を誤ることをいう。
    ・バイアスの盲点
     自分は偏見が少ないという思い込み、偏見から抜け出せない心理的傾向。
    ・凍りつき症候群
     予期せぬ事象が突発的に発生したとき心と身体を緩慢動作にしてしまう心理的傾向。
    ・確証バイアス
     先入観に一致する情報だけを受入れ、更に思い込みを強化していく心理的傾向
    ・後知恵バイアス
     生じた事象について「そうなると思っていた」と後づけるする心理的傾向
    ・経験の逆機能
     過去の事例や経験だけにとらわれて判断を誤る心理的傾向
    ・現状維持バイアス
     未知・未体験のものを受け入れず現状を維持しようとする心理的傾向
    ・集団同調性バイアス
     集団に依存し異なる行動をとりにくい心理的傾向(多数は同調性バイアス、同調性バイアスともいう)
    ・内集団バイアス(内集団ひいき)
     所属する集団の成員は外集団の成員に比べ実際には優劣の差がないにもかかわらず人格や能力が優れていると評価する心理的傾向
    ・認知不協和
     自分の中で抱えた矛盾を認知不協和といい、不快と緊張をもたらす。それを解消するために自分に都合のよい理論を構築して認知しようとする心理的傾向
    ・ステレオタイプ
     物事をいつも一面から見て(型にはめて)決めつけることをいう
    ・心理的バイアス
     思い込みや偏見による認識ゆがみ
    ・楽観的無防備
     自分にとって望ましいことが起こる確率は高く、望ましくないことが起こる確率は低いと考えてしまうこと
    ・集団依存
     集団に依存し異なる行動を取りにくい心理的傾向
    ・パニック過大評価バイアス
     必要以上のパニックを想定した状態のこと
    ・防衛的乱集行動
     自分の安全を守りたいという強い意識にとらわれ他人のことを考える余裕がなくなった結果として周囲に危害を加えてしまう行動のこと
    ・集団的手抜き
     集団で仕事をしているときに無意識に自分が全力を出さなくても影響ないだろうと思う心理的傾向
    ・ヒューリスティック依存心理
     思い浮かべやすい事例は起こりやすいと判断してしまう人間の一種の手抜きのこと
    ・恐怖の心象
     自分が見聞きしたことをもとにして心の中に描かれる恐怖のイメージのこと
    ・アクション・スリップ
     頭の中では正しい方法が分かっていて習慣的になっている行動をうっかりミスすること。外的要因による混乱状態でも生じる
    ・数字バイアス
     数字のマジック(統計データを検証せず具体的数字を掲げることで信頼を獲得しようとする)偏見
    ■ジョン・リーチ(イギリスの心理学者)は運悪く不意の災害に見舞われたとき人の取る行動は三つのカテゴリーに分かれるとしている。
    ①落ち着いて行動できる人(約10%)
    ⓶我を失って泣き叫ぶ人(約10~15%)
    ③ショック状態に陥り茫然自失で何もできない人(約75%~80%)
    ・ジョン・リーチ氏によれば「予期せず突発的に災害や事故の直撃を受けたとき脱出や避難できるチャンスが十分にあるにもかかわらず避難が遅れて犠牲になる主な要因は目の前で経験したことのない事象が急激に変化・展開することについていけず脳の認知的情報処理機能のプロセスが混乱し自己コントロールを失ってしまうことによるもの。脳の空転状態のため思考は生産的な適応性を失って停止又は反対にとりとめなく拡散し焦点が定まらない状態になってしまう。その結果、心と身体が凝結してしまう」
    ■生死にかかわることは自分の五感で確認した情報に基づき自分で意思決定をすることが重要。
    ■2003年9月26日に発生した十勝沖地震で津波警報や避難勧告が出た地域の人々について、
    ・津波が必ず来ると思った(30.7%)
    ・津波が来るかもしれないと思った(56.8%)
    ・津波は来ないだろうと思った(9.7%)
    ・津波のことはほとんど考えなかった(1.9%)
    であり、確信の持てない曖昧な判断をした人が多かった。
    ■津波警報発令後市町村の避難勧告を知った人は一体どういう行動をしたのかが問題。
    ・すぐに避難しなければならないと思った(34.2%)
    ・すぐに避難した方がいいかもしれないと思った(23.4%)
    ・警戒の必要があるが海の様子を見てから判断した方がよいと思った(17.4%)
    ・大した高さの津波ではないので避難の必要はないと思った(15.6%)
    ・全体に男性より女性の方が「すぐに避難しなければならない」と思った人が多く男性の方が「海の様子を見てから判断した方がよい」と持った人が多い傾向にあった
    ■正しい知識が生き残るための条件
     どんな大災害でも生き残る人はいる。生き残るか生き残れないかの差は運ではない。無事に生き抜くためにはそれを支える確かな知識が必要でありその知識をもとにした的確な避難行動が不可欠である。
    ■出火したときに優先緊急行動4原則
    ①知らせる
    ⓶消す
    ③助ける
    ④逃げる(逃がす)
    ■何かトラブルが発生したら「知らせる」から始めること。これが防災・危機管理の共通する優先順位である。
    ■防災・危機管理には「2S2H」が必要。それは「ソフト」と「システム」の2つのSと「ハード」と「ヒューマン」の2つのHである。
    ■防災民度が上がれば災害被害は減る。
     どんなに堤防を高くしてもそれを壊し乗り越える津波が必ずやってくる。どんなに強靭な建物を作っても自然の力には勝てないこともある。そうしたハードだけに頼らず人々の防災知識を啓蒙し防災意識を高くすること、心の堤防を高くすることの方がより重要である。

  • 読む前は自分もタイトルどおりに思っていたけど、読み終わって、そうじゃないんだなと理解した。

  • 一人でも多くの人に読んでもらいたいと思う一冊です。

    「新」とあるように、10年ぶりの改訂版です。前著も読みましたが、東日本大震災などを経て、また、その余震や各地の噴火の発生に触れ、改めて手に取った次第です。

    多分、平均よりも危機意識は高いと思います。10年前に出版されたこの本を読んでいますし、他にも非常時に備えるべく注意喚起された本を何冊か読んでいます。非常用持ち出し品も揃えていますし、水もたっぷり備蓄しています。
    この行動、3・11 発生前までは揶揄されることもありましたが、あの災害により、周りの見方は変わりました、「ホンの一時期」。

    自分の安全や命すら、行政や周りの他人に委ねる行動を取る人を多く目にします。
    「集団同調性バイアス」にがんじがらめになっている多くの人のうち、一人でも二人でも、解放される人が増えればいいと思います――自戒を込めて。

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著者プロフィール

防災システム研究所所長。報道番組での解説や、執筆・講演活動を行いながら、企業や自治体のアドバイザーを歴任し、防災意識啓発に取り組む。主な著書は『南三陸町 屋上の円陣』『互近助の力 ~隣人と仲良くする勇気~』(以上ぎょうせい)、『台風防災の新常識 災害激甚化時代を生き抜く防災虎の巻』(戎光祥出版)など。

「2022年 『ぼうさい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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