若い読者のための宗教史 (Yale University Press Little Histories)
- すばる舎 (2019年4月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
- / ISBN・EAN: 9784799108048
感想・レビュー・書評
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリーシリーズの「宗教史」。「宗教史」の他に「考古学史」「経済学史」「アメリカ史」「哲学史」が日本語でも出版されている。各テーマで厳選された人がたぶん著者になっているので、系統立てて学びなおすのにやはりちょうどよい。
「宗教史」の担当は、スコットランド聖公会の主教であるリチャード・ホロウェイが務める。特定の宗教の宗教家が、第三者的に他の宗教についても公平に記述しなくてはならない上に、宗教自体についても時に批判的な視点が必要となるような本の著者として適切なものかわからない。だがおそらくは、著者自身も人格神や死後の世界の存在を信じているわけではなさそうだ。それでも主教となりうるのかはわからないが、少なくとも宗教が人生に与える影響については、おおむね肯定的である。宗教が必ずしも良い部分だけではなく、時に狭量な部分が多くあることを認識しながらも、良い影響を与えているべきであると想い、多くの人々がそう同意してくれることを願っている。
いずれにせよ、歴史の事実として、宗教の影響は甚大であった。宗教を信じることはなかったとしても、宗教史についてはよく知っておくべきであろう。本書では西洋のキリスト教だけではなく、古代宗教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教など輪廻転生を基本とした宗教や、儒教、道教、などの中国の思想にも触れている。
中でもやはり、世界宗教としての一神教の誕生とその欧州・中東での歴史はやはり重要であり、ユダヤ教、キリスト教については当然詳しい。中世の西洋における宗教改革が持つ意義に関してもしっかりとした認識が必要であろう。ただ、同じ一神教であるイスラム教については近年の影響力からもう少し紙幅を割いてもよかったように思う。
エホバの証人や統一教会などの新興宗教にも目配せがあるが、一概に否定的ではなくその出自の記述に徹して評価を読者の方に委ねているようにも感じ取れる。
さらに著者は、世俗的ヒューマニズムも宗教の系譜に含めて語る。ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』でヒューマニズムが一種の宗教として扱われていたのと同様だ。ヒューマニズムを現代社会最大の教義として見る観点は、やはり非常に重要である。神が死んだ後にも、何かその代わりとなるものを人類は必要としたのである。そして、著者はそのことを次のように書く。
「人間の本質は真空を嫌う。そのため、西洋ではキリスト教の衰退によって残された隙間を埋めるかのように、世俗的ヒューマニズムと呼ばれる運動が生まれた」
宗教に関して、何より次の最後の言葉が著者の気持ちをよく示していると思う。
「宗教は多くの鉄槌をすり減らす鉄床だ。世俗的ヒューマニズムよりも生き延びるかもしれない。現在宗教は多くの地域で凋落傾向にあるが、まだ地上で最大のショーであり、あなたの近くでも礼拝が行われている。だが、そのチケットを買うかどうかはすべてあなた次第だ」
宗教を、その宗教を信じている人のように信じることをもはやできないが、それを「ショー」と呼ぶことで、ぎりぎりの肯定を表現している。しかしながら、その肯定は個々の宗教の多くの信者にとってはおそらく受け入れがたいものである。それらの人にとって、信仰はチケットを買うような行為とは質的に違う。しかし、著者は自らの思想を最後に表明するにあたり、このような表現をすることを選択したのである。
この譬えは実は根深い。チケットを買ってショーを見る人は、チケットの代金とそこに来るまでにかかった時間と手間を思い、「ああ、やっぱりいいショーだったよね」とその内容の正当な評価によらずに自らに言い聞かせることになる。
どのチケットを買うのかも含めて、本当にあなた次第なのだろうか。そして、世俗的ヒューマニズムのショーのチケットを知らず握りしめている人は何を見たがっているのだろうか。
---
『ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来』(ユヴァル・ノア・ハラリ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309227368
『神は妄想である―宗教との決別』(リチャード・ドーキンス)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152088265
『まんが パレスチナ問題』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4061497693
『イスラエル・パレスチナ問題の根源を知る 聖地・エルサレムから』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/B00HD0BOV4
『神は、脳がつくった 200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4478102953
『若い読者のための経済学史』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4799106848
『宗教を生みだす本能 ―進化論からみたヒトと信仰』(ニコラス・ウェイド)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4757142587詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これまでのシリーズと違って、単線的な記述では無い。「ジグザク」進む。
宗教の定義が一神教的な神を前提にしているのが気になるが、欧米の出版だから、ある程度の偏りは飲み込むか。
そのような制約はあるものの、宗教の話題を幅広く扱っており、読後は圧巻だ。過去と現在をめぐる記述に嫌気も可能性も感じる。
シク教とクエーカー教が好み。
#メモ
・ジャイナ教が非暴力運動の源流
・煉獄が認められたのは12世紀 -
途中までしか読めぬまま期限が来てしまった。読みやすくて面白かったけど、やはり何度も中断すると集中力が切れてしまうなあ。名前は聞いたことあるけど……という宗教について、あーそんな成り立ちだったのか!と広く知れる感じ。まあなんかみんな宗教を都合よく解釈するし、何より預言者って本当に神の声を聞いたのか?でっち上げたのか?精神疾患だったのか?と思ったりもする。でもみんな同じような行動をとるんだから本当に神の声が聞こえているのかも。それにしては、日本人神の声聞こえてなさすぎる気がするけどなあ。
最後まで読み終えたので改めて書く。人は自分を正当化するための巨大な後ろ盾を求めていて、その点で神ってのは非常に便利で有力な存在なんだなあって思った。自分も教会関係者?なのに、「神は道徳的なのになぜ他者を攻撃させたがるのか」という矛盾を解決するために「神を信じないのも一つの手段」ってスッと出てくるのがすごいなと思った。まあ神を信じてるからお前も信じろ、信じるべきだってのはまた別の話だけど。自分は神はいないと思ってるから、宗教での対立ってなんか不思議だなと思うし、なんで信じるんだろうなって思うけど、でもたまたまだとしても苦しい時に救われたら信じるだろうし、小さい頃から神はいるんだよって教えられたら信じるんだと思う。あ、それといわゆる「エホバの証人」が新興宗教なのも初めて知った。キリスト教を布教する人のことを「エホバの証人」と呼ぶのだと思ってた。色々あるね、世の中。 -
予想してはいたけど、白人、男性の目線から歴史が語られる見本のような本。これを日本語に訳して、(他の言語にも?)これが宗教史!としてばーんと出すことにめっちゃ疑問を感じる。は、言い過ぎかもしれないけど、別の角度からも読む必要があるなーと思う。
でも、発見もあるし読みやすいしで一気に読めた。苦難の連続だからこそ、そして頼る偶像や言葉の入れ物がなかったからこそここまでの力があるのかも。分かりにくいことに宿る力。
ゾロアスターやモルモン、シクなどもぼんやりとしか知らなかったけど整理できてよかった!
ジャイナ教、シク教、クエーカー派そしてバハイ教を知ることで救いも感じる。総じて欧米って、、、
びほう
ヒンドゥー教→ひたすらの輪廻転生
仏教→それを断ち切るための方法、欲望をなくすことで
ジャイナ教→一切の殺生を禁止する。とてもピースフル。
ゾロアスター教→善が悪に勝つ、地獄の考え方、この生の先
アブラハム、イサク、ヤコブ(イスラエル)、民は神の声を聞く。
-
数多の宗教のオードブル解説本。自分の気に入ったものを信仰しよう。
本書では統一教会やモルモン教など、新興宗教についてもしっかり解説されている。新興宗教については胡散臭いイメージが先行し、敬遠していたが、本書を読んだおかげで明確に拒絶することができるようになった。 -
面白かったです。いくつかカテゴライズしたそれぞれの宗教の中での歴史を解説しながらも、宗教史として大きな時代の流れを作りながら語られる構成で、1章1章はそこまで長くないので、サクサク読み進めることができます。
とても良いと感じたのは、どの宗教についても批判的な(クリティカルな)目線で評価していることです。良い所もあるだろうが、こんな矛盾や不合理を抱えているという点を包み隠さず「学問」として論じている姿は良かったです。
世界から暴力をなくす方法は宗教をなくすことである、という指摘や、暴力の原因に宗教がある事に人類が悩むのはなぜか、という問いは本当に興味深いものだった。 -
面白かった。このシリーズは本当に読みやすい。
-
宗教史を物語のように読める。ヒンドゥー教、仏教、神道も登場する。
それぞれの専門家による解説ではなく、スコットランドの元主教である著者が全て執筆している。そのため、細かいところで修正が必要とされる可能性はある。 -
終章に取り上げられていた世俗的ヒューマニズム。特定の信仰は持たなくても、宗教の思想から精神性を享受できる考え方。人生の節目にあたる儀式は、過去には宗教が独占していたけれど、今では当人に個人的な意義を与えることができるものになってることが一つの例。
日々の生活に超自然は受け入れられなくても、願うことだけじゃなく、祝うこと悼むことなんかに対する基本に、神やら仏を基準とする宗教が間違いなくある。とすると、宗教は物事の考え方に対する糸口を与えてくれるものになるんだろうなと。
若くなくてごめんなさいシリーズ、読むのはアメリカ史、経済学史に続いて3作目。相変わらずダイナミックで歴史の情熱を感じられる読書でした。日本の神道も取り上げられてて、内容とは直接関係ない締めの俳句が最高に粋でした。