「現代優生学」の脅威 (インターナショナル新書)

著者 :
  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797680690

作品紹介・あらすじ

優生学はかたちを変え、何度でも甦る
一度は封印されたはずの「優生学」が奇妙な新しさをまとい、いま再浮上している。優生学とは「優秀な人間の血統のみを次世代に継承し、劣った者たちの血筋は断絶させるか、もしくは有益な人間になるよう改良する」ことを目的とした科学的社会改良運動である。
かつて人類は、優生学的な思想により「障害者や高齢者、移民やユダヤ人といったマイノリティへの差別や排除、抹殺」を繰り返してきた。日本では「ハンセン病患者の隔離政策」がその典型である。
現代的な優生学の広がりに大きく寄与しているのが「科学の進歩」や「経済の低迷」、そして「新型コロナウイルスの感染拡大」だ。新型コロナウイルス感染症の本当の恐ろしさは、病気が不安を呼び、不安が差別を生み、差別が受診をためらわせることで病気の拡散につながっているところにある。
今こそ優生学の歴史を検証し、現代的な脅威を論じる。

●養老孟司氏、内田樹氏、推薦!
●優生学の歴史から、ゲノム編集や行動遺伝学など最先端の生物学研究までを解説
●新型コロナウイルス感染症が持つ「三つの顔」とは

目次より
第一章 甦る優生学
積極的優生学と消極的優生学/マルティン・ニーメラーの言葉/「神聖な義務」論争 ほか

第二章 優生学はどこから来たのか
「優れた血統」への欲望/ダーウィン進化論の誤用/改良と断種 ほか

第三章 ナチス・ドイツの優生政策
優生学と人種主義の融合/T4作戦/ナチス・ドイツと現代日本の類似点 ほか

第四章 日本人と優生学
日本の優生学の源流/「国民優生法」の成立/日本の「優生保護法」とナチスの「遺伝病子孫予防法」の共通点 ほか

第五章 無邪気な「安楽死政策」待望論
嘱託殺人/「役に立つ」という言葉が切り捨てるもの/「安楽死」と「尊厳死」はどこが違うのか ほか

第六章 能力や性格は遺伝で決まるのか
知能はどれほど遺伝するのか/ゲノム編集の問題点/エンハンスメントと優生学 ほか

第七章 “アフター・コロナ"時代の優生学
浮き彫りになった「健康格差」/チフスのメアリー/生権力/新型コロナウイルス感染症が持つ「三つの顔」 ほか



【著者略歴】
池田清彦(いけだ きよひこ)
生物学者、評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。1947年、東京都生まれ。「構造主義生物学」を提唱。縦横無尽に展開される論説はテレビ番組でも人気を誇る。
『進化論の最前線』(集英社インターナショナル)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『自粛バカ』(宝島社)など著作多数。

感想・レビュー・書評

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  • 津久井やまゆり園事件とナチスT4作戦。思い上がった為政者気取りが、生殺与奪を握る。人間は誰しも平等な命とは言わないが、反知性的な正義感で弱者を殺害するとは何事か。社会にとって有益か有害か、そんな価値観でトリアージした所で、その裁判官も制度設計も万能ではない。虚しい沈澱物同士による些少な淘汰スパイラル。澱みが浮き、水は濁る。

    優生学の逆転現象として頑健な兵士が死に、兵役を果たせない弱者が残る戦争という行為に反対した学者。何だかヤンキー子沢山、大卒共働き子なし、という現代にも通ずる逆淘汰問題だ。いや、しかしこれは価値観の違いで、人真似し、テストの点数を競うような無気力な集団より、ヤンキーの方が生存力があるなら、単にヤンキーの方が種として有能だという証明にしかならない。この場合の沈澱物はどちらだ、という事だ。

    衆愚政治を嫌ったプラトン。ソクラテスも優生学を支持したのだと。しかし、対話の場として機能したはずのアカデメイアでも独裁を担う哲人は現れず。独裁を礼賛する思想こそ、能力値の高い人間による判断を神聖視する考え方だが、無能や弱者不要論と親和性が高い。

    有性生殖を選択した本義は多様性の獲得にあるのだから、強制的な選別など、愚行。後天的に弱者になり得る社会なのだから、その社会的負担のあり方こそ福祉で考えるべきなのだろう。自らを絶対視し、生産性を崇め、学歴や出世の権威、年収やIQの数値を神聖視する誤ちに気付く必要がある。ソクラテスの言う、無知の知とは。

  • この本を一言で言うと生権力のこわさを感じた。
    生権力は一言で言うと人間の健康です。
    この健康であるために、医師は人々の不安を作り、その感情を医療によって救われると説き、それを繰り返すことで、患者は信者に移り変わっていく。
    医療は誤謬性を認めないので宗教と紙一重になりやすい。
    それを医師は分かっていない。
    医療が、現実的に存在することを示すために、そしてカルト的宗教に陥らないために、わかってることも、わかってないことも、同時に語らなければならないことである。
    ある医師が語っていたが、わかっていることは多弁に語るが、わからないことは語りたがらない。
    医師は人間であり、人間は不完全であること。これが思想的保守。
    医師は「自分を当てにするな」と言わなければならない。
    高校で精神疾患を教えて、「メンタルヘルスの事案を抱えたら、即時メンクリへ」なんて宣伝している場合かと思う。
    これこそが生権力であり、健康による差別・分断であり、優生思想に繋がるのである。

  • 消極的優生学と積極的優生学についても論じられていて興味深い。
    個人的には、優生学思想は視野が狭いと感じる。人類としてみた場合、多様性こそが強いのではなかろうか。

  • 現代的な差別はこれかもしれない

  • 優生思想はナチス特有のものではなく、日本を含む世界全体で見られたもの、そして今後も見られる可能性があるものだという学びがあった。
    今必要な、いい勉強ができたと思います。

  • こんな思想のヤツに合意できないわ。
    偉そうに俺様感性で倫理観を振りかざすとか無理。
    尊厳死に関して、自己決定かつ家族の同意があったとしても否定するとか何様?
    自分の娘が酷いレイプにあって廃人になっても犯人を許すタイプ?
    現政権の批判ばかりで極左的。特にあとがきは酷い。
    読まなくていいよ。読むにしても立ち読みが妥当。

  • 1995年まで優生保護法が続いており、優性思想としてはつい最近まで残っているため、たとえ政策が変わってしまっても人々の意識にはまだまだ優性思想が残っている印象。

    満州での支配において、国民の健康増進が軍事課題であり、1940年にナチスをモデルとした「国民優性法」がとられる。総力戦体制の一環と捉えられ、現在の体育行政や学校教育への影響が見られる。アメリカでも優性運動が生まれたが、好景気による経済問題解消から、いずれ衰退。日本では1970年代前半までは遺伝性疾患をもつ子供を産まないべき、という考えが珍しくなく存在したが、1970年代後半から障害者運動が始まり少なくなる(これも経済問題解消による効果か?)

    現在日本では経済問題が深刻化し優性思想が前面に出るようになり、今まで以上に注意が必要である。ナチスは特異な思想をもった悪の集団として突然現れたわけではない

    (それにしても本当に学校体育嫌いだったな~、身体を動かすことは好きだったんだけど)

  • 後半の、古市さんと落合さんの対談に対する批評が秀逸だった。あと、恥ずかしながらチフスのメアリーについても知らなかった。

  • 妖精学の歴史をさっくりと追ったあと、コロナに対する国民感情に優生学的な匂いを嗅ぎ取っている

  • 優生学ときいてピンとくる人は少ないだろう。わたしもその1人であった。しかし、この本を読みこんなにも優生学がこの世界で、日本で生きづいていることを知った。過去のこと、自分には関係ないと思わないで多くの人に読んでもらいたい。コロナの世界になって、「人間は自分の身に危険が及ぶようになると心の寛容さを失い他人を排斥するようになる」 過ちが再び繰り返されないようにひとりひとりが自分が思う倫理観を持つことが必要だと思う。

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著者プロフィール

池田清彦(いけだ・きよひこ) 1947年生まれ。生物学者。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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