- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797680645
作品紹介・あらすじ
日本中が熱狂した政変の謎に迫る!
明治11(1878年)年、大久保利通が暗殺され、日本の舵取りは突如、次の世代――大隈重信、伊藤博文、井上馨、黒田清隆らに託された。
彼らに託されたのは議会開設、憲法制定、貨幣制度など、「国のかたち」を作るという難問である。
しかし、さまざまな思惑が絡み合い、政権内に不協和音が生じ、「明治十四年の政変」へと発展していく。
大隈と福沢諭吉はつながっていた? マスコミに情報をリークしたのは誰か? 黒田がなぜ政権内にとどまれたのか? 五代友厚は官有物が欲しかった? 政変の黒幕は誰なのか? 政変が近代日本に与えたものとは?
「複雑怪奇」と呼ばれる政変にまつわる“さまざまな謎"を、気鋭の政治史学者が鮮やかに読み解く!
――「終章」より
政変の当事者たちは、幻影に突き動かされて、議会開設の主導権をめぐる政治的アリーナに担ぎ上げられた。本書で述べてきたように、明治十四年の政変には、脚本家がいなかった。大隈、伊藤、井上馨、黒田、岩倉、井上毅、福沢らは、政治的アリーナに登壇する演者の一人であった。彼らのなかには、政治的アリーナに立たされたことに自覚的でなかった者もいよう。しかし、日本国中を熱狂させたそのアリーナからは、終幕を待たずに降りることが、誰にも許されなかった。
こうしたなかにあって、伊藤の演技は巧みであり、しなやかであった。機をみるに敏であった。他方で、福沢は政治の中心におらず、大隈や岩倉、黒田も長く東京を離れていた。そう考えれば、伊藤には運もあった。演技、洞察力、運ーー「政治」には、これらの要素は欠かせない。
――目次より抜粋
序章 「最も肝要なる時間」――明治10年代という時代
維新の三傑と明治日本/三傑後の明治日本――本書の主要人物たち
第1章 三傑後の「政治」――明治11・12年
開明派三参議の台頭/積極財政の動揺
第2章 薩長の角逐――明治13年
財政論議/「国会年」としての明治13年
第3章 第二世代の分裂――明治14年前半
議会開設をめぐる政争と大隈の意見書/大隈意見書の波紋
第4章 政変――明治14年後半
開拓使官有物払下げ事件/政府内の分裂、そして政変へ
第5章 それぞれの政変後――明治15年以降
在野/政府内
終章 再・「最も肝要なる時間」――明治10年代という時代
【著者略歴】
久保田 哲(くぼた さとし)武蔵野学院大学教授。1982年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専攻は近代現代日本政治史。
著書に『帝国議会』(中公新書)、『元老院の研究』(慶應義塾大学出版会)、共著に『なぜ日本型統治システムは疲弊したのかー憲法学・政治学・行政学からのアプローチ』(ミネルヴァ書房)などがある。
感想・レビュー・書評
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誠に奇妙な政変である。
当時の新聞も、勝者の思いが挫かれ、敗者の建言が通ったこの政変を不思議がった。
明治六年の政変のような閣議での激しいやり取りがあったわけではなく、維新三傑の突然の退場に伴う主導権争いが起きたわけでもない。
政府から追放された大隈は、天皇の信任も厚く、伊藤や岩倉らから仕事ぶりを高く評価されていた人物。
それゆえ下野した西郷と同じく、薩長藩閥を批判する勢力を糾合するのではと大いに恐れられたが、当の本人は沈黙を保つ。
真相を語る当事者としては、大隈とともに敗者の側に立つ福沢諭吉の証言が知られている。
本書は、その福沢諭吉でさえ知り得なかった、伊藤の背後で暗闘する井上毅のフィクサーぶりを描いている。
それが真相の解明につながっているのかは釈然としない。
というのも、伊藤にとって大隈を追放することがどれだけ本心に叶ったものなのか甚だ疑問で、政変後に心身のバランスを崩した一端も、「最も肝要な」時に有能な人物が閣外に去ることの悔恨にあったのではないかという気がしてならない。
議会開設は濃淡こそあれ概ね同意しているため、これが路線対立を生んだわけではなく、争点は財政政策を巡る対立にあったのだが、遺した結果は重大だ。
著者によれば、伊藤博文の「巧みでしなやかな」手腕で、藩閥政治は強化され、財政の主導権を握った松方正義は、財政健全化を実現し、金融制度の近代化を成し遂げたとする。
しかし実態は、「松方デフレ」と呼ばれる深刻なデフレ不況を引き起こし、社会的混乱を招いた。
これに対して、大隈重信が主導した財政は、短期的に通貨価値の安定を強行するのではなく、長期的な視点から、経済発展を促進するために必要な紙幣を供給し、国際収支を均衡せしめ、政府紙幣の価値を安定化させようというもので、いまでは松方財政よりも高く評価されている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明治一四年の政変について改めて考える新書。政変についての一般書は少ないので、平易なかたちで理解することができる本が出てきたことはありがたい。
政変のきっかけについて、大隈陰謀論が政府内で流布したと一般的にいわれるが、本書では「幻影が幻影をよんだ」というかたちで評価をする。
また、政権のバランサーとして伊藤博文の動向を中心に描いているのも印象的だった。内閣制度の創設も、伊藤中心の政権が出来たという印象をもっていたけれど、そうでもないというのが本書の主張で、そこは論争になりそうだなと思った。 -
九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1381054 -
東2法経図・6F開架:312.1A/Ku14m//K
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明治十四年の政変。
1881年に起きた、大隈重信を追放する一連の政変である。財務卿として、実力を保有した大隈が追放された政変にも関わらず、高校の日本史の教科書にはごく僅かな記載にとどまっている。
この政変は実に奇妙で、難しい。
明治六年の政変のような熱さがないからなのか。
こういった不可思議な歴史の事象に対して、平易な文で記述された本書は、歴史学を学ぶ、学ぼうとしている人に読んでもらいたい。
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書評はブログに書きました。
http://dark-pla.net/?p=1500