危険な「美学」 (インターナショナル新書)

著者 :
  • 集英社インターナショナル
3.25
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本棚登録 : 105
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797680447

作品紹介・あらすじ

「美しさ」そのものに潜む危険!

芸術作品が政治利用されることの危険についてはあらゆる本で論じられてきましたが、
本書は、「美」あるいはそれを感じる感性そのものに潜む危険を解き明かした一冊です。
第1部では高村光太郎の詩「必死の時」やジブリ映画「風立ちぬ」を例に、
「美」は人を幻惑し、判断をくるわせてしまうことを説き、
第2部ではトマス・マンの『魔の山』で描写された結核患者の美や戦時中の「散華」を例に、
「美」が負を正に反転させてしまう恐ろしさについて論じます。
いわば、「美学」という学問の画期的な実践編です。

(目次)
序章 美と感性についての基礎理論
一 真善美の思想
二 「十大」ならざる「三大」
三 「一大」ならざる「三大」
四 真・善・美と知性・理性・感性
五 美と芸術の自律性
六 美とは何か
七 美の恵みと危険

第一部 美は眩惑する
第一章 「美に生きる」(高村光太郎)ことの危険
一 戦争賛美の詩「必死の時」
二 詩の分析
三 光太郎の戦後
四 「美に生きる」こと
五 「悪かつたら直せばいい」
六 光太郎を越えて
七 眩惑作用がもたらす美への閉じこもり
八 高村山荘
九 光太郎の戦争賛美と智恵子

第二章 アニメ『風立ちぬ』の「美しい飛行機」
一 『風立ちぬ』における「美しい」の用法
二 美の働き
三 戦闘機と美
四 夢
五 「美しい夢」の危険
六 美の眩惑作用

第二部 感性は悪を美にする
第三章 結核の美的表象
一 健康と美
二 非健康の感性化
三 小説『魔の山』
四 文豪が描いた結核患者像
五 隠喩理論
六 美的カテゴリー論
七 感性の統合反転作用理論
八 感性の特異な働き
九 感性の危険

第四章 「散華」の比喩と軍歌〈同期の桜〉
一 「散華」の比喩
二 美化と美的変貌
三 特攻と「散華」
四 軍歌〈同期の桜〉
五 自ら歌うということ
六 音楽は他人ごとを我がこととする
七 「散華」と感性の統合反転作用
八 メコネサンス理論
九 美と感性の危険性

(著者プロフィール)
つがみ えいすけ 美学者。成城大学文芸学部教授。一九五五年、東京生まれ。東京大学文学部および同大学院修了。博士(文学)。フライブルク大学で音楽学を専攻。同志社女子大学専任講師、成城大学助教授を経て現職。その間、イェイル大学客員研究員、ストックホルム大学客員教授。著書に『あじわいの構造』(春秋社)、『メーイのアリストテレース『詩学』解釈とオペラの誕生』(勁草書房)、共訳書にD.J.グラウト、C.V.パリスカ『新西洋音楽史』(音楽之友社)などがある。

感想・レビュー・書評

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  • 7/25

  • 美学が戦争サポートに使われてきた、ということを言いたいらしい。
    しかし、戦争を賛美する「芸術」、戦争絵画や戦意高揚音楽は美しくない。
    危険なのは美を装うことで美学とも美そのものとも関係ない。

    美学って美に関する哲学だから危険という認定は成立しない。美と美学は別物だし、「男の美学」は学問的な美学とは字面が同じだけ。

  • 音楽やアニメなど生活に深く浸透している作品。それらを通して我々が感じる「美」が時として、あらぬ方向へと導くことを指摘する一冊。 建築学科4年

  • 美に潜む危険性。

    NOTE記録
    https://note.com/nabechoo/n/n2393869c89af

    「美」っていうと、もう単純に絶対的にええもんだと思ってたけど、浅はかだった笑 真善美の言葉からしてイメージ良いし。

    「美の追求は人を惑わせ、時には結果として人を死に至らしめる」

    「美の幻惑作用」「感性の統合反転作用」

    このようなことを、高村光太郎や堀越二郎、戦争、散華、病的なことなどを例にして語られる。美しい戦争賛美の詩、美しい戦闘機、桜の様に散る特攻隊、病による魅力。美に潜む危険性。言われてみるとすごい納得いく。とはいえ、美しいものには弱いよな~。

    本書を読まなかったら、ずっと幻惑させられ続けていたかな。自分は感覚的人間なので、美しいものは、真で、善で、素晴らしい!と鵜呑みで、浸っちゃうから。やはり、美しいものには棘が、毒が、あるんだろうか。気を付けよう。とか思いながらも、ここで言う危険性は死だったりするけど、個人的には死を否定的には捉えてないので、盲目的に自己の美の中での死も悪くないんじゃないかと。美には、人間の価値観を超越するものがあったりするんじゃなかろうか、とか思ったり、思わなかったり。よくわからんくなってきた。。。

    勉強になりました!(^^)/

  • ①美とは私、つまり主体に快と感じられるもの、対象の良さである。

    ②美を味わうとは感性を働かせ続け、対象の形や響きをもっとよく捉える、捉えようとすること。

    ③美が人に強く訴えるがために、その後ろや脇に偽や悪があることに人の注意がおよびにくくなる。

    真善美、知情意

    散華

    メコネサンス

  • タイトルに惹かれて購入。美が人に恵を齎す一方で、美には危険性があるという。本書は高村光太郎の「必死の時」、アニメ「風立ちぬ」を例にひきながら美が齎す眩惑作用を明らかにし、トーマス・マンの「魔の山」、軍歌「同期の桜」を例に、感性が悪を美化するプロセスを考察する。とても興味深く読みました。特に「魔の山」で描かれる結核について、この病が作品が書かれた当時の、ひとつの「美学」であったことに驚きました。結核という当時不治の病であった忌まわしい疫病が患者を魅力的に、美しく見せる作用があることを見事に解説しています。当時の知識人や芸術家達がこぞって結核になりたいと望むのも今となっては奇異に思えますが。第四章の軍歌「同期の桜」では「散華」という言葉を糸口に桜の持つイメージと死にゆくことの美化、特に戦時下の特攻の美化について考察しています。読みながら今の時代も物事を美化して誤魔化していることの多さに危機感を覚えます。美はいいこと、快である故にそこに悪い面があっても見落とされがちです。寧ろ権力者はそこを利用して悪い面を美の眩惑作用で見せないようにします。「美しい」ことに惑わされてはいけないなと考えさせられる1冊。

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著者プロフィール

1955年東京生まれ。東京大学文学部および大学院で美学を、ドイツ、フライブルク大学で音楽学を専攻。博士(文学)。同志社女子大学を経て現在、成城大学教授として美学を担当。その間、イェイル大学、ストックホルム大学で研修。著書に『あじわいの構造:感性化時代の美学』(春秋社、2010年)、『危険な「美学」』(集英社インターナショナル新書、2019年)、『メーイのアリストテレース『詩学』解釈とオペラの誕生』(勁草書房、2015年)、Girolamo Mei: A Belated Humanist and Premature Aesthetician(同、2021年)、編書に Girolamo Mei, De modis(同、1991年)、訳書にグラウト・パリスカ『新西洋音楽史』(戸口幸策、寺西基之と共訳。音楽之友社、1998-2001年)など。2021年から赤塚健太郎らと放送大学「西洋音楽史」(ラジオ科目)を担当。

「2023年 『美学の練習』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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