都市と野生の思考 (インターナショナル新書)

  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797680133

作品紹介・あらすじ

京都市立芸大学長、京都大学総長の頂上対談。「京都学派」に代表される「京都の知」を受け継ぐ二人がリーダーシップ、老い、衣食住などをテーマに語り合う。伝統と革新が共存する京都型思考を見よ!

感想・レビュー・書評

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  • ふむふむ なぁるほど
    と これまでの著書を辿らせてもらった
    お二人
    哲学者の鷲田清一さん
    そして
    人類学者の山極寿一さん

    お二人の対談集
    お二人の対談を拝聴しながら
    あれやこれやのことを
    考えさせてもらったり
    途中で
    あの本にあったなぁ
    と振り返させてもらったり

    いい時間を
    過させてもらえました

  • この本は読んでいて気持ちが良い。先に読んだ本が「大学が新しい時代に応えられる人材を…」というような内容だったので余計にそう感じた。

  • 二人の対談は話が深く理解が難しい。京都に対する理解もないので、なかなかなるほど、とはならなかった。求められる学者についても、専門的な狭い視野しかないものではダメで、話を聞ける広い視野を持った学者が必要だと言った矢先にバカな学者、ただ知ることを楽しむためだけに研究に励む学者は大事だという。なかなか理解ができなかった。日をまたいで読んだので、理解が浅いのかも。ゴリラの性質は興味ぶかい。また機会を設けてチャレンジしたい一冊。

  • 様々な知識と広い見識を持つ2人の多岐にわたるテーマの対談はどの話題を取っても好奇心が擽られ読みながらワクワクする。

    ミーティングでは相手を役職名ではなく必ず「さん」付けで呼ぶ。呼び方一つでその場の空気が明らかに変わる。

    リーダーとは自分がいなくても周りがうまく動くようにセッティングする人の事。getting things done by others.
    リーダーは周りの人の適性や能力を的確に判断し、チームワークを先導して目的に向かってみんなをまとめる。リーダー自身は目立たなくていい。
    本当は強いんだけど、それを抑えている事が出来る。これが愛嬌。ゴリラのリーダー。

    ロビン・ダンバー「人間の会話のほとんどはゴシップでできている」

    明治9年までは妻は実家の姓を名乗らなければならなかった。夫の姓を名乗るようになったのは明治31年(1898)とは案外日本の家族の歴史の概念は近年大きく変わったんだな。それまでは養子をよくとるし、そこに外から妻を迎えるなどしたら、〇〇家という完全に血縁はなくなる事があった。

    そもそも人間の子供は共同で保育する様に生まれついている。これが他の霊長類との決定的な違い。人間の赤ちゃんのみ泣く。ゴリラ、チンパンジー、猿も赤ちゃんは泣かない。なぜ泣くか?母親が赤ん坊を離すから。他の霊長類は生まれてから1年間は赤ん坊を胸に抱いて離さない。しかし人間の赤ん坊は重いので母親が抱え続ける事ができない。赤ん坊はひ弱なので自分の不具合を訴えるために泣く。ひ弱なのに抱き続けられないのは脳が急速に発達するために体脂肪率がゴリラの5倍あるから。脳を成長させるには脂肪が必要。ゴリラの4倍近く人間の脳は大きくなる。

    絵画などは学問と同じですでに基礎技術が確立されていて、その技術を使えば感じたものを巧みに表現できる。しかしそれだけだといずれ壁にぶつかる。だから近代の画家は例えば右利きの人が左手で描いたり、ピカソなんかもわざと稚拙に描いた。器用さをあえて封印することで逆にセンサーをフルに機動させようとしたのではないか。

    一般市民にとっていい専門家とは何か?→一緒に考えてくれる人。専門家が寄り添っていく事。

    人間が生きる為に1番重要なのは関係性。関係性を知る手がかりは、相手が何を考えているのか、自分に対して何を望んでいるか知る事。それこそがセンサー。直感力。その上で仲間の意向について自分がどう考えるか。察知しながら行動を規制し、それを前提として自分の行動も規制する。AIにはできない事。

  • 山極さんと、鷲田さん、ゴリラ研究者と、哲学者。
    一見接点がなさそうに見えるが、総長として働いた経験、「人間」がなにかを考えているという面でとても似ており、それをそれぞれの研究領域から見て書かれており、それらについて多面的に理解できた。

    メモ
    P.20
    リーダーは周りの人の適正や、能力を的確に判断し、チームワークを先導して、目的に向かってみんなをまとめる。
    だか、リーダーは目立たなくていい。ネットワークの中に組み込まれていて、ネットワークを動かす原動力になる人が、真の意味でのリーダーでしょう。

    そのためにはメンバーの能力を把握しておく必要があります。人の意見を聞き、対話を通じて多様性を知り、いろいろな事態に対処できる知識を持っていることも必要です。


    リーダーの条件
    ・愛嬌
    ・運が強そう
    ・後ろ姿
    →ゴリラと同じ

    P.101
    中井久夫さん
    微分回路
    変化を感じる、その徴候を読み取り未来を先取りする。
    早いがノイズ多い
    狩猟文化
    仮説検証

    積分回路
    過去の経験を索引として参照しながら、入力を整理し、事態に対処。
    安定的だか、遅い
    農耕文化
    現場検証

    制服
    身分。階級、職業も関係ない服装




  • 鷲田さんは哲学者、山極さんはゴリラの研究者。お二人とも京大の院に進まれ、国立大学の総長を経験されている。対談では、互いの専門分野を越え、生きる力としてのアート、ファッション、食と性、家族というフィクション、語源、研究者のあり方、教養、AIにまで及ぶ知的な会話がテンポ良く生み出される。山極さんの言葉にはハッとさせられることが多く、鷲田さんの語源の話は興味深かったので色々な言葉の語源をもっと知りたくなった。

    p26
    山極 勝つ論理はもう必要ないと思います。求められるのは負けない論理はさであり、そのゴールは相手と同じ目線に立つことです。

    p30
    山極 人間のコミュニケーションは本来、生物学的な感性と文化的な感性、それと科学技術が渾然一体となって行われるものです。生物学的感性とは五感のことです。五感は、人と接して面と向かい合うからこそ得られる感覚で非常に重要です。文化的な感性は、相手の言葉、服装、仕草などで表現されるアイコニック(図像的)なもので、これもコミュニケーションにおいては欠かせません。科学技術はこれをサポートするものだったわけですが、今はこの技術だけがどんどん先行してしまっている。

    p53
    山極(前略)連綿とした歴史の重みを感じれば、人はおのずと居住まいを正すものです。歴史の息吹を孕む空気が、今の世界だけを基準に考えていてはだめだと教えてくれる。

    p85
    山極 お金以外で人が動いてくれる。それが人と人とのむすびつきの力ですね。
    鷲田 知恵って、誰に頼んだらうまくやってくれるかをわかっていることでしょう。

    p87
    山極 僕は、家族もフィクションだと思います。それこそ人間がつくった最古のフィクションではないでしょうか。雌雄関係は互いの欲求にもとづいたもので、そこにフィクションは入り込まない。けれども父親はフィクショナルな存在です。
    鷲田 父子関係自体がフィクションとは。それは大胆な意見だな。
    山極 母子は、出産という直接体験を通じてつながっています。ところが、父親は母親から「これはあなたの子どもです」と手渡されてはじめて、父親になる。一生を通じての保護者の役割を与えられる。

    p89
    鷲田 自分は両親の子どもだと思っているけれど、それには何の保証もない。たまたま辻褄が合っているから、そう思い込んでいるだけで、結局はどういう物語をつくるかに行き着く。「出自」の語りは個人のアイデンティティを形づくる不可欠の要素で、ここでひどいダメージを受ければ人格すら崩れかねない。

    p110
    鷲田 だから生きる力をつけるために、コミュニケーション力をつけようみたいな話になりがちなんですが、そこでアーティストならブリコラージュする。つまり、あり合わせのものを使って自分で道具までつくり、なんとかするわけです。
    山極 言い換えれば、自分の生活を
    自分の感性と力で磨き上げていく能力ですね。今のようにすべてが既製品で、人から与えられたものだけで暮らしていたら、生きている実感なんてなくなって当然です。自分では何もつくらず、選ぶだけなんだから。
    鷲田 これからは生きる力としてのアートが必要ではないかと思います。(後略)

    p120
    鷲田 人間の体にはホメオスタシスが働いているから、僕は意外に心配していない。たとえば、長電話しているときなどは、紙に意味のない文字を書くじゃないですか。あれは電話で聴覚しか刺激されないとバランスが崩れるから、感覚比率を戻すために字を書いている。

    p121
    鷲田 音楽にしても語りにしても、発信者が注目されがちだけれど、実際には受信者がいて初めて成立するものです。

    p132
    山極(前略)つまりゴリラの場合は、一頭ないし数頭のオスが複数のメスと子どもと一緒に暮らしていますね。それが一つの単位になっていて、家族集団が移動する範囲はかなり広い。けれども、その中に別の集団が入ってくるのは自由なんです。各家族集団は、お互いに独立性を保っているけれども、土地によって棲み分けたりはしません。
    鷲田 サルやチンパンジーも同じですから、
    山極 これがおもしろいところで、チンパンジーには家族的な集団が一切なく、逆ちコミュニティをつくって、オスたちが複数でテリトリーを争っています。
    鷲田 それは人間社会に似ていますね。

    p139
    山極 まさにおっしゃるとおりで、究極の自由とは、究極の不自由なんです。人間が自由を感じるのは、他人から何かを期待されたり、他人とかかわりを持つなかで、自分の行為を自分で決定できるときだけなんです。自分一人で何をしてもいいという状況、まったく孤独な空間の中では、逆に自由を感じることはないし、おそらくは何もできない。他者との関係性を利用しながら、自分の考えを紡いでいくのでなければ、そもそも自由な発想などというものは成り立ちえない。

    p156
    鷲田(前略)ファッションはもともと変身や憑依による自己誇示のメディア(媒体)だった。それが十八世紀の終わりぐらいから、男性が女性を自分の所有物、つまりpossessionとして誇示する手段になりだした。かつての男性の華美な服装はモノトーンの地味なものになり、逆に自己の所有物としねの妻や娘や愛人をきらびやかに着飾らせることで、おのれの勢力を象徴的に誇示するという、そういう変化がこのころ起こった。おもしろいでしょう。同じpossessionという言葉なのに、いつの間にか憑依から所有へと意味が反転しているのだから。

    p171
    鷲田 hospitalityは客を温かく迎えることで、hostilityは相手を敵としてみなすこと。けれども、語源は同じです。ホスペスhospesはラテン語で、ホストとゲストの両方を意味します。異邦からの客は見知らぬ物品や情報を持ってきてくれる大事な存在で、だから厚くもてなしますが、一方でしかし邪悪な意志を持った侵入者かもしれない。つまり敵(hostis)でもありうる。同じ語源から、迎え入れることと敵対すること、つまり正反対の状況を表す言葉になったんです。

    p176
    鷲田 哲学は知の基本だと言われます。自然学から法学、医学に至るまであらゆる学問の根本にあるのが哲学。かつて哲学者といえば、世界の知恵を司る人、そんなイメージがありませんでしたか。
    山極 たしかに哲学は学問の王様というイメージですね。

    p192
    鷲田 そもそも、何かの役に立てようという発想がないでしょう。彼らを突き動かしているのは、知りたいという純粋な欲求だけです。(後略)

    p198
    鷲田 かつてはね、経済人にも矜持がありました。今では自分の組織の生き残りしか考えていないけれど、たとえば、渋沢栄一のような人物は違ったでしょう。彼は、自分の会社の利益や、個人的か収入など眼中になかった。放っておくと西洋列強から取り残されかねない日本を憂慮し、世界情勢の中で日本が生き残っていくためには、どんな産業が必要なのかと、それだけを考えてひたすら行動した。その結果、何百という会社を興したわけです。
    山極 当時の日本の状況を踏まえて、今は銀行が必要だとか、鉄道が必要だという発想ですね。確かに自らの知性を、まったく私的には使っていません。その孫の渋沢敬三さんは、実は日本の民俗学と霊長類学の父なんです。

    p200
    鷲田(前略)liberalの第一の意味が「気前のよいこと」なんです。ほとんどの辞書で、自由はliberalの下位の意味ですよ。「たっぷりある」ことも上位にきます。
    山極 富があるということですか。
    鷲田 いや、富に限らず、です。お酒でもなんでも、たっぷりあること。語源をたどればラテン語のliberoで、これは解き放つことを意味します。
    山極 そうか、まさに個人的所有を解き放って共有するということですね。

    p211
    山極 人間が生きるために、いちばん大切なのが関係性なんですね。そして関係性を知る手がかりは、仲間が何を考えているのか、自分に対して何を望んでいるのかを知ること。これこそがまさにセンサーではないでしょうか。その上で、仲間の意向について、自分がどう考えるのか。仲間を察知しながら、その行動を規制し、それを前提として自分の行動も規制する。そんなやり取りをしているわけです。
    鷲田 そのやり取りにはきりがないですね。けれども、それが人間の行動を本質的に決定している。
    山極 それをAIが代替できるかといえば、おそらくできない。情報が不正確だとAIは対処できないからです。対処するためには、人間が情報を定義してAIに送り込んでやらなければならないけれど、人間自身が、自分がどのように情報をキャッチしているのかわかっていない。だからAIに埋め込みようがないわけです。
    鷲田 コンピュータがみずからデータを解析し学習するという、あのディープラーニングにしても、そのレベルなんですか。
    山極 情報処理をどんどん掘り下げていくと、ある結論が浮かび上がってくるのは確かです。けれども人間は、そんな思考パターンをしているわけではありません。だから、第八章で述べた直観力が非常に重要なわけです、直観力はAIにはないはずで、これが決め手ではないでしょうか。

  • 鷲田さんと山極さんの対話形式で進み、様々なテーマについてそれぞれの知識や経験から考え出された事を分かりやすくまとめてくれてあり、どれも面白かった。お二人のようにに開かれた専門家を目指したい。

  • [第1刷]2017年8月12日

  • この場合都市というのは京都のこと。この2人なので。

  • f.2017/10/16
    p.2017/8/10

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著者プロフィール

鷲田清一(わしだ・きよかず) 1949年生まれ。哲学者。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

鷲田清一の作品

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