エンド・オブ・ライフ

著者 :
  • 集英社インターナショナル
4.25
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本棚登録 : 3163
感想 : 269
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797673814

作品紹介・あらすじ

◎ベストセラー『エンジェルフライト』『紙つなげ!』に続く、著者のライフワーク三部作の最終章。

◎著者がこだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に、真っ正面から向き合ったノンフィクション。

◎2013年に京都の診療所を訪れてから7年間、寄り添うように見てきた終末医療の現場を感動的に綴る。

200名の患者を看取ってきた友人の看護師が癌に罹患。「看取りのプロフェッショナル」である友人の、死への向き合い方は意外なものだった。
最期の日々を共に過ごすことで見えてきた「理想の死の迎え方」とは。
著者が在宅医療の取材に取り組むきっかけとなった自身の母の病気と、それを献身的に看病する父の話を交え、7年間にわたる在宅での終末医療の現場を活写する。
読むものに、自身や家族の終末期のあり方を考えさせてくれるノンフィクション。

佐々涼子(ささ りょうこ)
ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。
2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。文庫と合わせ10万部を売り上げた。
2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、
ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など数々の栄誉に輝いた。

感想・レビュー・書評

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  • ずっと読みたかった一冊を図書館にてお借りしました。

    第三の医療と言われる在宅医療のリアルな現実が描かれていました。

    気がつけばここ最近、こんな感じの書籍を続けて手にしています。
    特に何かがあった訳でも、必要に迫られている訳でもありませんが、やはり手にして良かったと思える作品でした。
    ただ、このタイミングが必然でないことを願います。

    決して美談ではありません。
    しかし、誰にでも平等に訪れる「死」に対し、私は常日頃から考えている訳でもありません。

    「死ぬ時は畳の上で死にたい」
    中学生か高校生の時の作文で書き出しに使った私の心の声。

    つまり、当時からいつか訪れる人生の幕引きを私は病院のベッドではなく、自宅で迎えたいと思っていたんだと思います。

    今で言う終末期の「在宅医療」です。

    家族やまわりの人の負担を考えれば単なる自分のワガママなのかも知れません。

    ただ本書を読み終え、改めて「在宅医療」の素晴らしさと大変さを教えて貰った気がします。

    平均寿命から考えれば私も人生の折り返しを過ぎました。

    いかに生き、いかに最後を迎えるか。

    過去の読書を通じ、「死の受容過程」という考え方も知る事が出来ました。

    どこかのタイミングでしっかりと考えないといけない...

    気がつけば臆病者の私は自分に都合の悪いことから逃げてばかりいた。

    改めて大切なことを教わった一冊でした。



    <あらすじ>
    在宅医療の現場を取材したノンフィクション作品です。物語は、在宅診療のチームで働く男性看護師が、自身の死期が近づいていることを知り、患者や家族、医療者との心の交流を通じて「死」を見つめ、「生」を輝かせる姿を描いています。

    この本は、人生の最終段階について考えさせられる一冊です。在宅医療の現場での苦悩や喜び、人々の心の揺れを繊細に描写し、読者に感銘を与えます。また、著者自身も在宅医療の現場で多くの人々と向き合い、その経験をもとに書かれています。

    「死」をテーマにしたこの本は、人々に「生きること」を考えさせ、希望を持たせてくれる一冊です。



    本の概要

    全国の書店員が選んだ
    「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年 ノンフィクション本大賞」受賞作

    ベストセラー『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』の著者が、こだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に真っ正面から向き合った。
    2013年に京都の診療所を訪れてから7年間、寄り添うように見てきた終末医療の現場を感動的に綴る。


    「命の閉じ方」をレッスンする。

    200名の患者を看取ってきた友人の看護師が病を得た。「看取りのプロフェッショナル」である友人の、自身の最期への向き合い方は意外なものだった。
    残された日々を共に過ごすことで見えてきた「理想の死の迎え方」とは。
    在宅医療の取材に取り組むきっかけとなった著者の難病の母と、彼女を自宅で献身的に介護する父の話を交え、7年間にわたり見つめてきた在宅での終末医療の現場を静かな筆致で描く。
    私たちに、自身や家族の終末期のあり方を考えさせてくれる感動ノンフィクション。


    佐々涼子(ささ りょうこ)
    ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。
    日本語教師を経てフリーライターに。
    2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。
    2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など数々の栄誉に輝いた。
    2020年、『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)で第3回Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年 ノンフィクション本大賞を受賞。

    • かなさん
      そうそう、これこれ!
      読んでほしかった作品です(^^)/

      私もその時何が遺せるのか…
      色んな事を考えました。
      そして、迎える死を...
      そうそう、これこれ!
      読んでほしかった作品です(^^)/

      私もその時何が遺せるのか…
      色んな事を考えました。
      そして、迎える死を受け入れることの重みも
      感じましたよ。
      2024/04/03
    • ヒボさん
      本作を読んじゃうと、エンジェルフライトは手にしないといけない気がします^^;
      本作を読んじゃうと、エンジェルフライトは手にしないといけない気がします^^;
      2024/04/03
  • 2020ノンフィクション本大賞受賞作

    先日、死に関する世界的名著と言われているキューブラーロスの「死の瞬間〜死とその過程について〜」を読み、興味をもった。そんなこともあり日本人ライターによる死がテーマの本書を手に取ってみた。

    生老病死は、人間であれば、いや生物であれば絶対に避けては通れないものだ。
    にもかかわらず、日本人は特に自らの「死」について深く考えることをしていない気がする。日本では宗教が形骸化、形式化しており、欧米や中東などのように信仰が広く根付いていないことも影響しているのだろうか。

    本書は京都のとある在宅医療を専門とする緩和ケア診療所を取材した記録。
    人の生き死にを生業にして真剣に取り組んでいる人の言葉は時に重い。

    医療の現場では、医療にとっては死は敗北であり、あらゆる技術を駆使して病に勝つこと=治すことが至上命題とされている。故に、苦しみを取り除くことは二の次だという空気があるらしい。助からない患者、治らない患者の治療には全く興味を示さない医師も少なくないそうだ。
    このような思想から緩和ケアは内科や外科に比べて下に見られるという。
    そんな風潮のなかで、近いうちに死が避けられない患者に真剣に向き合う医師も含めた医療従事者のその使命感に感銘を受けた。
    死を自覚した患者とその家族とともに最後の思い出を残そうと潮干狩り行ったり、命がけディズニーに同行したりと本当に頭が下がる。

    なかでも取材対象の診療所に勤める森山さんをテーマとした記録はぐいぐいと引き込まれた。
    死を前にした森山さんの気持ちの変化、医療のプロとしてではなく一人の人間として考え出した結論や生き方の変わりようは今後生きていくうえでとても参考になった。

    ノンフィクション本大賞受賞も納得のオススメの一冊。

  • 皆さまの素晴しいレビューのあとで、この本の趣旨とは違う感想かもしれませんが本音を一応書きます。

    本屋大賞だったので読みました。
    私は現実を突きつけられて、読まなかった方がよかったとも思いましたし、読んでおいてよかったとも思う矛盾した二つの気持ちがありました。

    200人以上の患者在宅医療で看取った看護師だった森山文則さんに2013年から2019年まで在宅医療で出会った人々を取材し、その姿を書き且つ、森山さん自身が在宅看護により癌でなくなるまでを全うした記録です。

    この本に出てくる人々の多くは自ら死を選び取って果敢に亡くなっていきます。

    自分はこんな風にできるものなのかと、こんな素晴らしい手記を読みながら考えに考えたけれど、答えはNOです。
    NOと答える人が少しでもいなくなるようにと、著者はこのような本を書かれたのだと思いますが。

    あまり直視したくない現実を目の当たりに読んだ気がしました。
    私もいい歳ですが、自分の死後のことは考えたことがほとんどないので、一度良く考えておいたほうがいいと思いました。
    私はなぜか「自分はぽっくり逝く」としか思っていなかったので、いい勉強でした。

    もし癌になったら、この本を思い出してもう一度読んでみたいと思います。
    人は誰もが亡くなるものだということをあらためて考えさせられました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      まことさん
      今度逝く時は、若い人が自ら命を粗末にするのは良くない。と思って貰えるようにしたいなぁ〜
      まことさん
      今度逝く時は、若い人が自ら命を粗末にするのは良くない。と思って貰えるようにしたいなぁ〜
      2020/12/25
    • まことさん
      猫丸さん。
      「確かに」なご意見ですが、
      >今度逝く時は…
      って、猫丸さんは「100万回生きた猫」だったのですか?
      よくわからない??...
      猫丸さん。
      「確かに」なご意見ですが、
      >今度逝く時は…
      って、猫丸さんは「100万回生きた猫」だったのですか?
      よくわからない???
      2020/12/26
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      まことさん
      にゃ〜
      まことさん
      にゃ〜
      2020/12/26

  • 以前読んだ佐々さんのノンフィクション「エンジェルフライト」にいたく感動し、忘れられない書となったので、こちらもぜひ読んでみたかった
    ちなみに「エンジェルフライト」は国際霊柩送還士のこと
    海外で何らかの事情で亡くなった方のご遺体を日本の他へ戻す壮絶な職業だ

    一方本書はエンゼルフライトでノンフィクション賞受賞後、在宅医療について取材を編集者から勧められたことがきっかけで執筆に至る
    在宅医療とは、通院が困難な人や、退院後も治療が必要な人、自宅で終身医療を望む人などのために、彼らの自宅に医者や看護師が訪問して行う医療だ

    「エンジェルフライト」の時は確か無かったと思うのだが、佐々さん自身のことに触れている
    やはり「死」をテーマにしているため、「死」が集まってきてしまい
    人の不幸を生業としてきたことに対する違和感を感じていた…とある
    不幸を嫌いながら不幸を覗き込むことをやめられない自分
    自律神経のバランスを崩し、長い間執筆活動が困難であったようだ
    「エンジェルフライト」を読んでも思ったのだが、生半可なエネルギーでは立ち向かえないであろうし、まさに身を削る執筆活動であったと察する
    だからこそ、多くの人たちに感動を与えたのだろう

    そんな佐々さんがあるきっかけで再び執筆を再開することに…
    今回の在宅医療の取材で出会った本書のメインとなる森山だ
    彼は200名の患者を看取ってきた看護師であるが、ステージⅣの膵臓癌が発覚する

    印象的な森山の言葉
    〜僕は僕自身であって「がん患者」という名前の人間ではない
    病気は僕の一部分でしかないのに、がんの治療にばかり目を向けていたら、がんのことばかり気にする人生を送ることになってしまう…略…
    普段はがんを忘れ、日常生活という、僕の「人生」を生きていきたい〜

    彼の命の閉じ方は彼の生き様でもあるのだと、痛感した

    他にも様々な事情で在宅医療や在宅介護をしている人達の真実の物語がいくつもある

    介護する側もされる側もやり場の無い怒りや悲しみがじっとり張り付く
    綺麗事などひとつもない
    その中にも救われる様な、家族愛の話しもあるものの、出会う医師や病院により途方もない格差がある事実も知ることに

    その中でも印象的なのは、佐々氏のご自身のご両親の話だ
    佐々氏のお母様は難病を患い、完全看護の必要な状態であり、お父様がご自宅で看ておられる

    自身は他人の介護医療の取材をしているが、自分の母親の面倒は父親に任せきり…
    と、複雑な心中を明かす

    リアルな介護内容であり、身内のそのような姿を赤裸々に描くのは、相当な勇気を持って書かれたことがよくわかる

    愛情を持って手厚くお世話しているお父様と、一時入院され、看護師が業務的にお世話された時のあまりにもの違いに驚いた
    こういう看護師さんばかりではないと思うのだが、これほどの差が出るとは…

    自分自身が介護に関わったことが一切なく、家族や親族の病院へのお見舞いさえも気が重くなる
    こんなんでいいのか…という自問自答があり、一度はこういう本を読むべきだと思ったが…

    もちろん目を逸らしたくなる内容や、受け入れ難い事実も沢山ある
    介護される側の人の気持ちや、死を前にした人の心境
    わかっているようでわからない、自分がその立場にならないと理解できない事実もたくさんある

    その人の肉体の生死を超えた、存在意義みたいなものの尊さ
    自分が誰かに与えられるとしたら…
    そう、誰かの中で存在し続けるのだ

    死があるから生がある
    生があるから死がある
    もしかしたらある意味イコールなのかもしれない…

    決して誰もが避けて通れない
    嫌でも向き合う時がくる

    読んで良かった
    本書の出会いに感謝する
    (佐々氏のノンフィクションはどうやら自分的に受け入れやすいようだ)

  • 亡き人から私に届いた
    大きな贈りもの。

    それは、人生が有限で
    あることの教え。

    限られた上映時間の中、
    どんな役をどう演じる
    べきなのか。

    むやみやたら怒ったり
    拗ねたりしている場合
    じゃない。

    そんな端役でいいの?

    人生にはやるべきこと
    が他に無数にあるよね、

    と気付かせてくれます。

  • 1万円選書で紹介された一冊。
    京都の渡辺西賀茂診療所の訪問看護師、森山文則さんのエンド・オブ・ライフ。
    訪問看護師として200人の人の死と向き合い、送ったあと訪れた自分の死の時。
    訪問看護師を生業とした人だからこそわかる、医療や介護の欠点。
    この方が安楽だろうと押し付けられるサービス。それがよくないとは言わないが、本人の気持ちは後回しになりがち。
    好きなものを食べ、好きな人と一緒に好きな場所にいく。本人が思いを全うできたのは、よき仲間、そしてswの奥様あってだと思う。奥様もまた
    swとしての自分を全うされていて素晴らしいと思う。
    私も渡辺西賀茂診療所で働いてみたい。
    呉々もこれからこの本を読まれる方は、家で読まれることをおすすめします。

    • かなさん
      ひまわりさん、こんにちは!
      この作品…私も心を打たれました。
      そして、はっとさせられることもありましたね…!
      私も、渡辺西賀茂診療所で...
      ひまわりさん、こんにちは!
      この作品…私も心を打たれました。
      そして、はっとさせられることもありましたね…!
      私も、渡辺西賀茂診療所で働いてみたいです(#^^#)

      一万円選書って、すごいですね…!
      ひまわりさんがこれまでに読まれた作品
      すべてステキな作品ですもんね。
      2023/07/02
    • ひまわりさん
      コメントありがとうございます。かなさんと子の本が共有できたらいいなと思っていたのです。
      ご本人の望む暮らしをサポートするって、大切だけと難し...
      コメントありがとうございます。かなさんと子の本が共有できたらいいなと思っていたのです。
      ご本人の望む暮らしをサポートするって、大切だけと難しい。
      私は森山さんのように、一人のおばあさんのために一匹のドジョウ?、鰻を町中探せる自分でいたいです
      2023/07/02
  • ズンときた。

    200名の患者を看取ってきた訪問看護師・森山のガンが発覚する。ステージⅣで余命が決して長くないという。森山の患者との過去の関わりと自らの死との向き合い方、選んだ最期の生の生き方を交互に描くことで、決して長さでは測れない「命の質」について浮かび上がらせる。

    僕ら健康な者は、なぜ、未来は永劫続くような錯覚をするのだろう。
    誰でもいつか死ぬ運命のはずだ。余命宣告されたがん患者とのちがいは、死の訪れがいつなのか予測がつかないことだけなのに。

    そして、限りがあることに気づいた時、何が見えてくるのだろう。

    エリザベス・キューブラー=ロスは死の受容のプロセスを5段階に分ける。

    1.否認と孤立:頭では理解しようとするが、感情的にその事実を否認している段階。
    2.怒り:「どうして自分がこんなことになるのか」というような怒りにとらわれる段階。
    3.取り引き:神や仏にすがり、死を遅らせてほしいと願う段階。
    4.抑うつ:回避ができないことを知る段階。
    5.受容

    この本で森山は、この5段階を経て、安らかな「命の最後」に至る。200人看取っても、否認や怒り、取引の段階がある。

    だか、結末は重く苦しいものだけはでない。
    森山は懸命に生ききる。そして、生ききったことへの満足がある。なぜか読後感は暗くならず、未来すら感じる。

    ー 亡き人がどう生き、どういうメッセージを残したかは、残された人に影響を与える。

    ー 死は遺された者へ幸福に生きるためのヒントを与える。亡くなりゆく者がこの世に置いていくのは悲嘆だけではない。幸福もまた置いていくのだ。

    だからこそ、命の閉じ方は大事だと思う。
    そして、死の訪れがまだいつか分からない者は、死との対比で生を考える機会を持つことが必要だと思う。

    人は生きてきたようにしか死ねない。
    大切に生きよう。




    ・がんサバイバーは、若いのにかわいそうって言われるのが一番つらい。
    がんになることによって、時間の進め方や、景色の見え方が変わる。がんになっても、素敵なことや、幸せなこと、喜びもいっぱいあるのに、若いからってどうして悲劇のように言うのかと。自分の人生の何がわかるのかと。

    ・病を得ると、人はその困難に何かしらの意味を求めてしまう。
    人は意味のないことに耐えることができない。

  • 【感想】
    私は余命について考えたことがない。死を迎えるのはまだ何十年も先のことであり、人生を回顧するにはあまりにも若すぎる。だがもし、自分の寿命が急にあと半年に縮んでしまったとしても、果たして姿勢を正して人生と向き合う気持ちが湧くのだろうか。
    残りの人生の過ごし方を考えに考え抜いた人であっても、いざカウントダウンが始まってしまえば、全く違う余生の送り方が脳裏をかすめ、有り得たかもしれない選択に後悔し続けるに違いない。
    結局のところ、がん患者の気持ちは、がんになった者にしか理解できないのだ。
    効き目の怪しい民間療法に頼る人を見て、自分はああはなるまいと誓う人。延命治療など受けずに、潔く最期を迎えたいと思っている人。そうしたゆるぎない信念を持っている人こそ、是非この本を読んでほしい。その決意は続くことなく、生と死の狭間で最期まで揺らぐことになるだろう。

    この本は、訪問看護師として死を看取ってきた男が末期がんになったとき、残された時間をどのように過ごすのかを綴るノンフィクション作品である。

    末期がんにかかった森山は、かつては訪問看護師として何人もの死を看取ってきた。患者の側に寄りそう中で、死を前にした人間達の葛藤をありありと目にしてきた。
    そんな森山は、自分の死が眼前に浮かび上がったとき、治療を行わないばかりか怪しげな自然療法にのめりこんでいった。
    きっと彼の周囲の人間は、口に出さないまでも訝しがったことだろう。「少しでも長く生きる可能性に賭けないのか?残り少ない時間を、何故怪しげなエセ医療で無駄にするのか?」
    この本を読む自分も、ページをめくりながら戸惑いを隠せなかった。「筆者と共著を書くつもりの人間が、何も言葉を残さずにのんきに過ごしている。他人の生と死を見続けて、自分もその渦中に加わった人間など、世界でも数えるほどしかいない。それなのに何故、後のない人生を無為に過ごし、自分の価値を無駄にし続けるのか?」一読者の自分であっても、そんな思いを強く抱いていた。いわんや森山の関係者たちは、彼の意思を尊重する思いとやりきれない気持ちの間で葛藤していたに違いない。

    見込み通り、彼のがんは治ることは無かった。自由に動けなくなった彼は自宅のベッドで治療を行う生活になった。いよいよ今際の際が見えてきたとき、筆者は森山に尋ねる。「訪問介護について思うことはあるか?」それは筆者の誠実さから出た、もうじきいなくなる男の生きた証を少しでも言葉として残しておくための質問だった。しかし、この質問に対して、森山は半ば苦笑しながら告げる。
    「これこそ在宅のもっとも幸福な過ごし方じゃないですか。自分の好きなように過ごし、自分の好きな人と、身体の調子を見ながら『よし、行くぞ』と言って、好きなものを食べて、好きな場所に出かける。病院では絶対にできない生活でした。」絶え絶えに絞り出した言葉には、彼の死生観と生きざまが強く表れていた。

    私は思わず涙ぐんでしまった。
    死の淵にあって、ここまで強くいられるものなのだろうか?
    森山の境遇を考えれば、弱音や後悔を口にしてもおかしくない。それなのに、彼はこの短い数か月がまるで天寿を全うするよりも尊い時間だったというような素振りで、集まった人々に感謝の意を述べたのだった。

    「あのとき森山が治療を受けていれば、もう少し家族と長くすごせたかもしれない」「がんが転移した臓器を移植することができれば、健康体に戻って幸せな生活ができたかもしれない」
    そう考えるのは我々がたくさんの選択をできるからだ。しかし、選択はいつだって結果論だ。「ああしておけばよかった」という後悔は、結果が上手く運ぼうとも頭を離れることはない。

    何人ものがん患者が、宗教や自然療法の道に進む。最先端医療でなら助かるかもしれない道を捨て、自分の意思と気力だけを信じ、勝ち目の薄い方法に賭けていく。私は高慢にも、そうした選択をする人間を愚かだと思っていた。可能性の低い選択をむざむざ選ぶ理由など無いと考えていた。

    しかし、この本を読んでからその認識が変わった。何が正しくて何が間違いなど、誰が決められるというのだろうか。命の長さと人間らしい生活のどちらに価値があるのか。自分が納得する生き方と家族が喜ぶ生き方のどちらが正解なのか。
    ――森山の選択は、果たして正しかったのだろうか。

    その答えは誰にも分からない。けれども、彼が息を引き取った後、残された人々からは溢れんばかりの拍手が送られた。

    きっと、それが答えなのかもしれない。


    【本書のまとめ&メモ】
    院長「僕らは、患者さんが主人公の劇の観客ではなく、一緒に舞台に上がりたいんですわ。みんなでにぎやかで楽しいお芝居をするんです」
    「この渡辺西加茂診療所は、それ以上の見えない何かを、患者さんからいっぱいもらってきたんです」
    「おせっかいすることには大変なことがたくさんあります。なにか行動しようと思えば、軋轢もある。でも、得られるものはそれ以上です。それを知っているから動いてしまうのかもしれません」

    森山の仕事は、患者が死を受容できるように心を砕き、残された時間を後悔のないように生きるよう導くことだった。しかし、既に自分が終末期に近づきつつあることを知った彼は、「生きることを考えています」と言った。

    森山「若いのにかわいそうとか、大変だとかということばで片付けてほしくない。そこには長さで測れない、命の質というものがあるはずなんです。かわいそうというマイナスな言葉でくくってしまうのではなく、病の中にある幸福を照らし出せないかと思うんです」

    森山は代替医療、ホリスティック医療と呼ばれるものに急激に惹かれていた。自然の中に身を置き、自然食品を食べ、湯治に行く。森山の言い分は、「そもそも身体の声を聞かずに、ストレスを貯めたからがんは顕れた。だから、自分の身体が喜ぶ場所に行きやりたいことをやる。それが自然治癒力を高めることにつながる」ということだ。

    こうした急激な宗旨替えに家族も同僚もついていけない。

    彼は信じているというより、迷っているように見えた。治るのだと信じきれない自分を何とか信じる方向へ持っていくように懸命になっていた。そして周囲の戸惑いに自分を投影してしまうのか、「周りが信じていないから、自分も完全に信じきれないのだ」と八つ当たりをしていた。
    周囲の人間は、彼の今までの看取りの経験が彼自身を救うのではないかと期待をしていたが、病状が進むに連れ本人は仕事から遠ざかり、在宅医療や在宅介護から距離を置く一患者となった。しかし、たくさんの人を看取ってきた森山は、自分に降りかかる死への心の準備をしていなかった。
    「がんの言い分も聞き、環境を変えて自分の行動も変えることで、潜在意識の中にあるセルフイメージも変えてしまえば、がんも消えてくれる」。森山はどんどんスピリチュアルに傾倒していった。

    しかし、彼のがんへの態度の中には、森山自身の死生観と看護師としての仕事観が根付いていた。

    森山が前職の臓器移植について語る。
    「生きていてほしいんです。どんな手を使ったって」
    だが、そうやって頑張らせることがその人にとって幸福だろうか。そこまで頑張らせてこの世に引き留めることが、その人のためだろうか。妻が自分へのドナーを拒否したために離婚を決意した夫、自身の免疫治療のために住んでいる家を売ろうとする夫とそれを止める妻、臓器移植はドナーの関係者に道徳的正義のあり方を突き付ける。
    助かるための選択肢は増えたが、それゆえに、選択をすることが過酷さを増している。私たちは諦めが悪くなっている。どこまで西洋医学にすがったらいいのか?西洋医学の道を捨て自然療法に頼るべきなのか?患者と家族には奇跡が見たいという欲望、わずかな可能性に賭けたいという思いが絶対にある。しかし、私たち人間に正しい答えは分からない。

    「どれだけ医師が手を尽くしても、再移植、再々移植をしなければならない子はいる。患者は、そしてその家族はどこまで頑張ればいいのか?誰も決められない判断を親が下せというのは酷ではないか?」
    「僕らは本来、そういった希望を持てなくなってしまった人の背中を押して、不安を煽らない医療やケアをどれだけしてきただろう。人間の本来持ってる力はそんなもんじゃないんだよと言ってきただろうか。」

    人は、何に癒やされ、どんな治療を受けるのか。何を信じて、どう死んでいくのか。唯一絶対の正解などどこにもない。それを森山は知っており、自分の命に覚悟を持っている。知っているからこそ、自分の意思の力を信じて西洋医療と袂を分かったのだ。


    昔は患者を死なせないことが大切であった。そして、医者はそのためには手段を選ばず、人間を人間と扱っていなかった。しかしながら、患者にとって一番大切なのは「苦痛を和らげること」である。そのためには治療を受ける場所は関係ない。病院でも、自宅でも、患者が一番幸せだと思う場所で看取ってあげるのがいい。そしていい死に方をするには、きちんとした医療知識を身に着けたいい医師に巡り合うことだ。


    全ての治療を止め、ついに床に臥した森山は、臨終の間際で在宅医療の素晴らしさを語った。
    「これこそ在宅のもっとも幸福な過ごし方じゃないですか。自分の好きなように過ごし、自分の好きな人と、身体の調子を見ながら『よし、行くぞ』と言って、好きなものを食べて、好きな場所に出かける。病院では絶対にできない生活でした」
    終末期の取材。それはただ、遊び暮らす人とともに遊んだ日々だった。そして、人はいつか死ぬ、必ず死ぬのだということを、彼とともに学んだ時期でもあった。たぶんそれでいいのだ。好きに生きていい。森山はそういう見本でいてくれた。

    2019年4月27日6時40分、多くの人に見守られながら森山は息を引き取った。看護師としての人生を全うした森山には、溢れんばかりの拍手が送られた。

  • 前作もすごくよかったし、今作も期待通り素晴らしい作品でした!筆者の佐々涼子さんが、7年にわたり訪問看護師の森山文彦さんを追うことで「在宅医療」の現場に迫る…。森山さんとは友人関係になっていてもいたが、ある日森山さん自身が末期がんに侵されていることが判明する…。佐々涼子さんも自身の体調に不安もあり、また母親の介護問題も抱えている状況でもあった…。
    命の長さ…たとえ短くとも精一杯家族を愛し自分のやりたいことをやり尽くし、充実した時間を過ごせたかどうかでその価値は決まってくるのかもしれないと感じました。森山さんの奥さん、あゆみさんとても素敵な女性だと思いました。
    人が生きそして亡くなるということ…大切な人が亡くなるのはつらいけれど、『死は遺されるものへ幸福に生きるためのヒントを与える。亡くなりゆく人がこの世においていくのは悲嘆だけではない。幸福もまた置いていくのだ。』作中のこの言葉にあったかいものを感じました。

  • ここ最近、「最期」に関係する本をよく読んでいる。
    小説が多いのだけど、ずっと読みたかったこの本はノンフィクション。 
    「現実は小説より奇なり」の言葉通り、まさにドラマのようなエンドオブライフが描かれていた。
    人それぞれの寿命は決まっているという考え、この手の本を読むようになり、最近はすっかり自分の中に浸透している。
    今回新たに考えさせられたのは、「病気になった途端に、人は患者さんになってしまう」という部分。
    それまで普通に自分の人生を歩んでいたのに、急に「患者」になり、身体面はもちろん精神面も制約を受ける。その人自身は変わっていないのに…。
    こういう部分が苦しみの一つなのかなと思う。
    自分や家族が何か病気になったとしても、その人らしさを持ち続けられるようにしたいなと思った。

    • ゆーき本さん
      「スピノザの~」とテーマが繋がってますね(*´`)
      しかも京都の診療所!
      「スピノザの~」とテーマが繋がってますね(*´`)
      しかも京都の診療所!
      2024/04/17
    • ねこさん
      ゆーき本さん

      そうそう。京都の診療所で、設定かぶります。
      が、ノンフィクションな分、こちらの方がズドンと重くくる感じです。
      スピノザ…と連...
      ゆーき本さん

      そうそう。京都の診療所で、設定かぶります。
      が、ノンフィクションな分、こちらの方がズドンと重くくる感じです。
      スピノザ…と連続だと、哲学的なモードに突入する可能性があるけれど、機会があったら読んでみてください(^_-)
      2024/04/17
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著者プロフィール

ノンフィクション作家。著書に『エンジェルフライト』『紙つなげ!』など。

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