僕らは星のかけら 原子をつくった魔法の炉を探して (ソフトバンク文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797332445

作品紹介・あらすじ

物質はすべて原子で成り立っている。私たち人間も例外でなく、「星のかけら」たる原子の集まりなのである。古代ギリシャの原子仮説から、ビッグバンや超新星爆発という現代宇宙論への系譜を、「元素の起源」というテーマに沿って面白くわかりやすく解き明かした、科学啓蒙書の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 宇宙における物質(=元素)誕生の壮大な物語、そしてその謎を解明した物理学者たちの飽くなき探求の物語。良質な科学読み物だった。中高生の頃に宇宙の成り立ちや物質に関するサイエンス本(主にブルーバックス)を夢中になって読んだことをちょっと思い出した。宇宙の謎、あの頃からかなり解明が進んだんだな。

    「最も軽い原子をつくった灼熱のビッグバンと、その他すべての元素をつくった恒星」、「超新星は新しい元素を生み出すだけでなく、生み出した元素を、星が一生をかけてつくった多くの元素とともに、宇宙の風に乗せてまき散らす」、「私たちの身体を構成する重い元素の大部分は、間違いなく、天の川銀河で生まれて死んだ初期世代の星でつくられたものだが、その重い元素の一部は、私たちの銀河系が生まれるはるか前、時の始まりそのものに近い頃、銀河形成以前の世代の星でつくられた可能性がある」。身の回りの物質を構成している元素、特に重たい元素の中には、銀河系形成以前に星が誕生しては燃え尽き、超新星爆発して宇宙に撒き散らされたものが含まれている! 要するに、宇宙の成り立ちの痕跡が至るところに残っているという。話が あまりに壮大すぎて、くらくらするな。

    様々な元素が生成されるプロセス(水素・ヘリウムから順次重たい元素が形成されていく6つの核融合プロセス)、ほぼ解明されてるとのこと。神のみがなせる超絶技巧の錬金術、知らなかったな。

    「最も軽い元素である水素を二番目に軽い元素であるヘリウムに変換する「水素燃焼」」、「三つのヘリウム核を結合して炭素一二を形成する三重アルファプロセス」、「元になる炭素にヘリウム核、すなわちアルファ粒子を次々と加え」て酸素16・ネオン20・マグネシウム24・シリコン28・アルゴン36・カルシウム40を形成する「アルファプロセス」、そして緩急2種類の中性子蓄積プロセス(「一〇万年に一個の割合で中性子が衝突する、気が遠くなるほど遅いSプロセス」と「毎秒一個の割合で中性子が衝突する、超高速のRプロセス」)、陽子獲得プロセス(Pプロセス)。

  • 20世紀初頭の、原子核物理学と天文学がわくわくしていた時代の、
    科学者たちの人間ドラマを描きます。
    すごく面白い科学史ですよ~。
    20170331

  • 原子を追ってマクロからミクロへと歩み寄り、原子の由来を追ってミクロからマクロへと展開する。謎が謎を呼ぶ展開に、まるで、長い旅路を過ぎこしたような感覚を、読了と共に感じた。ある程度知って読まないと、意味不明に感じるかもしれない。

  • 第1部 【原子】
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❶原子という概念が生まれ、その2,500年後、走査トンネル顕微鏡によって原子の粒を見ることができるようになる。
    ▶B.C.450年頃、デモクリトスは直観により、万物は"a-tomos(これ以上分割できないもの)"により生成しているはずだと考えた。
    ▶18世紀前半、ベルヌーイは空気の見えない原子が飛びまわっていると仮定したうえで、ニュートンの運動法則を利用して、気圧(密封された気体の分子が壁に及ぼす力)と気温の関係を明らかにした。
    ▶1803年、ドルトンは水を構成する水素と酸素の質量の割合が常に一定であることから、原子が化合物をつくる際には規則があることを発見した。
    ▶1905年、アインシュタインは、ブラウン運動の原因は水分子が花粉の粒に衝突することと考え、ブラウン運動に関する数学の理論を編み出した。それにより、原子の大きさは10億分の1メートルと予想された。
    ▶20世紀の終わりころ、ビーニッヒとローラーは走査トンネル顕微鏡で原子の粒を見ることに成功した。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❷原子のおぼろげなイメージから、原子の構成物が明らかになるまで。
    ▶19世紀前半、アンペール「気体は原子が二つくっついた分子によって構成されている」→→→アボガドロ「同じ温度、圧力、体積の気体は、同じ数の分子が含まれている」→→→プラウト「あらゆる気体の分子は水素分子の整数倍の質量を持つ」。
    ▶19世紀末、トマソンはそれまで謎であった陰極線が、原子から飛び出した電子の流れであるとし、原子はマイナスの電荷をもつ電子と、プラスの電荷をもつ何かとでできているとした。また、電子の大きさを水素原子の二千分の一と計算した。
    ▶20世紀初頭、ベクレルは、ウランが未知の放射線を放ち続けていることを発見した。キュリー夫人はラジウムがウランの百万倍以上も強い放射線を出していることを発見した。ラザフォードは放射線には二種類あることを突きとめ、物質の貫通力が弱い方をアルファ線、強い方をガンマ線と名付けた。すぐに、アルファ線はヘリウムガスであることがわかった。………ということは、ラジウムなどの放射性元素はヘリウムという別の元素を放出しているということになる。そして、ヘリウムという元素を放出したあと、ラジウムはラドンという別の元素に変化することにもなる。
    ▶ラザフォードによるアルファ粒子の散乱実験により、原子にはプラス電荷をもつ原子核があることがわかった。原子と原子核の半径の比は約104:1、すなわち原子の大部分は空き領域で構成されているというのだ。
    ▶原子は原子核と電子でできている。しかしたとえば、ある原子のマイナス電荷の2倍の電荷を持つ原子が、もとの原子の約4倍の質量を持っていたりする、これがなぜだかはわからなかった。のちにラザフォードは、原子核はプラス電荷をもつ陽子と電荷をもたない、陽子と同等数の中性子からできていると考えた。この考え方だと、ウランがアルファ粒子(ヘリウムの原子核)を放出してトリウムになる説明にもなった。
    ▶ラザフォードの計算によれば、アルファ粒子のスピードは毎秒25,000km。1グラムのラジウムが放射するアルファ粒子の量は毎秒100億個以上。アルファ粒子は比較的大きいので貫通力が弱い。よってほとんどがラジウムのサンプルの内部にとどまってしまう。そんなアルファ粒子のエネルギーが熱に変わってサンプルを温め続ける。ラジウムのサンプルから熱を逃がさないようにすると数時間でラジウム自体が溶けるほど熱くなる。1kgのラジウムは1kgの水を45分で沸騰させることができる、しかも何千年にもわたって!

    第2部 【原子と星明り】
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    ❸太陽の正体について、一歩ずつ近づこうとする。
    ▶様々な分野の科学者から数々の仮説が提案されたものの、太陽のエネルギー源については全く謎のままであった。この問題に付随して、太陽と地球の年齢も諸説唱えられていた。
    ▶20世紀初頭、ラザフォードは、ウランがアルファ粒子を放出して原子崩壊を繰り返しながら最終的に鉛になる現象をもとに、地球各地の岩石を採集、そこに含まれるウランと鉛の比率を調査した。その結果推察された地球の年齢はそれまでの諸説をはるかに上回る長さ、約40憶年であった。ということは太陽は当然それ以上に長寿であり、それだけ長く光り輝いていなくてはならないはずだった。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❹絶対に手が届かないものの正体が、手に取るようにわかるようになる。
    ▶1811年、24歳で眼鏡工場の重役に抜擢されたフラウンホーファーは分光器を自作、太陽光の屈折度の違いを調べていた。その最中スペクトルの中に700本もの暗線(フラウンホーファー線)を発見、他の星の光も分光器を使って分析し、つぶさに記録を残した。しかしその暗線の物語る意味を知ることのないまま彼は39歳の若さで結核によって亡くなった。
    ▶1859年、ブンゼンとキルヒホフは、ブンゼンバーナーで熱せられたさまざまな物質が放つ光を分光器で分析、それぞれの物質が固有に持つ輝線を発見した。
    ▶さらにキリヒホフは、スペクトル中の輝線とフラウンホーファー線との奇妙な一致に気付いた。彼はオングストロームが残した気体とスペクトルの研究をもとに、光源のスペクトルを分析することによって光源にどんな元素が含まれているかわかることを発見した。そして太陽スペクトルを分析。ついに、太陽は既知の元素だけで出来ていることを突き止めた。
    ▶1870年、ロッキャーは太陽のプロミネンスを分光器で分析、そこにそれまで未知の物質であったヘリウムを発見した。地上ではヘリウムとはアルファ粒子が電子をうけとって生成するものであるから、ここで太陽と放射性元素との関係がにわかに注目された。しかしいくら分光器で調べても、太陽にはラジウムもウランも見当たらなかった。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❺原子核の融合が確認される。
    ▶トムソンとアストンは陰極線の実験により原子には同じ原子の同位体が混ざっていることを発見した。これにより、各原子の質量が水素原子の質量の整数倍になっていない理由が説明できた。それにしても、他の原子はそれぞれの質量が整数比として表せるのに対し、水素原子だけは例外的に1.008になってしまっていた。
    ▶1905年、アインシュタインの特殊相対性理論。光のスピードを唯一不変のものと位置づけると、時間と空間は同じものと解釈できた。そして質量とエネルギーも同等と。計算上では石炭が燃え尽きるともとの質量より1億分の1だけ質量が減ることになる。しかしこの場合は変化が少なすぎて観測はできない。ラジウムが崩壊すれば100分の1も質量が減る。しかしこれもサンプルが少なすぎて実際に調べることは不可能だった。
    ▶アストンはアインシュタインの説にとびついた。水素1.008が結合することで質量が消費され、おおきな原子の質量は1の整数倍になっていたと考えた。
    ▶1919年、ラザフォードはアルファ粒子を窒素(14)の原子核に衝突させた。するとその結果、水素(1)と酸素原子(17)が生じることとなった。
    ▶この現象を敷衍すると、もし太陽に十分な量の水素と100億度という途方もない高い温度があれば、水素の核が激しくぶつかって融合し質量がエネルギーに変わり、何十億年も熱を放射し続けることが可能となるはずだった。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❻エディントンが恒星の内部構造を明らかにする。
    ▶1906年、エディントンは太陽の構造を明らかにするに先立って、太陽より温度の低い(表面温度三千度・赤色)が、太陽よりも明るい赤色巨星に目を付けた。それは巨大だが希薄なガスの球であった。
    ▶星は熱を宇宙に放出するとその分冷えて収縮する。収縮すると温度が上昇して再び膨らみだす。宇宙に放出する熱とは放射エネルギー(光/赤外光)のことだが、この光は星の内部で生まれ、ガスの粒に行く手を邪魔されながら長い時間をかけてやっと星の外に放出される。ちなみにエディントンが計算した赤色巨星の中心部の温度は700万度だった。
    ▶一方1913年、ボーアは水素の原子内に電子の軌道があると仮定し、電子が特定のエネルギーを得た場合は外の軌道へ移動、電子が特定のエネルギー(光)を放っては内側の軌道へ移動すると考えた。この特定のエネルギーの値は計算上、水素のスペクトルに合致した。
    ▶高温のもとでは電子が分離し水素原子はイオン化される。つまり元の水素原子の数より多くの粒がそこで動き回ることになる。エディントンは自分の仮説を修正し、赤色巨星の中心温度を500万度とした。
    ▶エディントンは太陽の中心の密度は水の13倍と計算した。一方ミルンは、個体より高い密度でもプラズマ状態は変わらないことを計算した。ここでエディントンは太陽も赤色巨星と同じくガスの球であること、赤色巨星で得た知識を太陽にも適用できることを知った。1924年エディントンは『恒星内部構造論』で、太陽の中心密度は水の77倍、温度は4千万度と結論付けた。しかし太陽のエネルギー源は未知のままだった。エディントンは水素が核融合によりヘリウムになることで0.8パーセントの質量がエネルギーに変わるに違いないと考えてはいた。しかしそんな反応が起きるためには計算上、10億度の中心温度が太陽には必要だった。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❼トンネル効果により低い温度でも核融合が可能になることがわかる。
    ▶ラザフォードの計算に寄れば、ウランから放出されたアルファ粒子の持つエネルギーは7MeVであるはずだったが、実測してみるとそれは4.2MeVしかなかった。こんなエネルギーではアルファ粒子が原子核から飛び出ることは不可能なのだが。
    ▶ガモフは、アルファ粒子は粒子だが、波として考えれば少ないエネルギーでも少ない可能性ながら一部は外に漏れ出ることができると考えた(トンネル効果)。
    ▶フーターマンスとアトキンソンは、トンネル効果の逆の反応が可能なら、エディントンが予想した太陽内部の温度でも水素原子はじゅうぶん核融合できることを証明した。
    ▶しかしこの頃、ヘリウム原子核は4個の陽子でできていると考えられていた。中性子の存在がわかると、フーターマンスとアトキンソンの理論は完ぺきとは言えなくなった。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❽恒星での核融合反応が明らかになる。
    ▶ヴァイツゼッカーが、原子核内で陽子が中性子になりニュートリノを放出するプロセスを解明した。
    ▶ベーテが炭素窒素サイクルを完成させた。すなわち、炭素原子が最初に陽子と核融合した後、核融合を繰り返しつつ、陽子の一部は中性子となり窒素、酸素の同位体へと変化し、ニュートリノと陽電子、そしてガンマ線を放出しながら、最後はヘリウム原子と炭素原子が生じるという循環型のサイクル反応。この場合、水素原子を消費しヘリウムを発生しながらエネルギーを発生し続ける。これは太陽より大きく熱い恒星での主要な核反応である。
    ▶一方ベーテやヴァイツゼッカーは、陽子陽子連鎖も完成させた。つまり、陽子2個が核融合して重水素の原子核となり、その時ニュートリノと陽電子を放出し、そこにもう1個陽子が核融合してヘリウム3の原子核となる。それがもうひとつのヘリウム3の原子核と核融合して、ヘリウムと陽子2個になる。以下繰り返し。これは太陽や太陽より小さく温度の低い恒星での主要な核反応である。
    ▶太陽で起きている核融合反応は水爆のそれとは全く違っている。たとえば、同じ体積で比較すると、太陽と人間とでは人間の方が発生する熱量が大きいくらいなのだ。また太陽は、何らかの原因で核融合反応が過剰になると温度が上がって体積が大きくなり、核融合反応が抑止される。逆に核融合反応が停滞すると温度が低くなって体積が小さくなり、核融合反応が促進される。

    第3部 【魔法の炉】
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    ❾重い元素にも核融合の可能性が予想される。
    ▶スペクトル分析が進化して、太陽は90パーセントが水素、残りのほとんどをヘリウムが占めることがわかった。
    ▶宇宙の元素のだいたいの構成要素もわかった。軽い元素、特に水素とヘリウムがだんとつに多くて重い元素が少なる傾向がある。例外があってLi、Be、Bは極端に少ない。Feは多い。
    ▶恒星で核融合が起きている、ということから、重い元素は核融合の結果恒星で誕生したと容易に想像された。しかし、重い元素が核融合するには太陽の温度では低すぎるし、元素によってはその生成条件が極端であったりして(ケイ素は130億度必要)全ての元素の成り立ちを説明するのは険しい道のりに思えた。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ❿ビッグバンによって数々の元素が誕生したのか?
    ▶ハッブルはフッカー望遠鏡を使ってふたつの重要な事実すなわち、①我々が属する天の川銀河は無数に存在する銀河のほんのひとつに過ぎないこと、 ②宇宙が膨張を続けていること(つまり時間を遡れば宇宙が極小の一点にまで収縮する)、を発見した。
    ▶ガモフは宇宙が誕生する際(ビッグバン)の超高温で、重い元素が作られたと考えた。しかし、中性子の寿命(10分)、ビッグバン直後の大量の光子の問題などに阻まれて研究は進まなかった。ただし彼の弟子アルファとハーマンは、ビッグバンによって宇宙の原子の25パーセントを占めるヘリウムが誕生したことをつきとめた。
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    ⓫赤色巨星の謎が解明され、その内部でより重い元素が作られたことがわかる。
    ▶赤色巨星からヒントを得て太陽の内部構造を明らかにしたエディントンであったが、逆にそれで赤色巨星自体の説明がつかなくなった。というのも、赤色巨星は大きすぎて中心部に集中すべき総重量が弱く、とても陽子陽子連鎖を促進する温度にはならないのだ。
    ▶ホイルとリトルトンは、赤色巨星とは年老いた恒星であり、星の内部は二層で構成されていると考えた。つまり、数十億年の期間の陽子陽子連鎖を経たことにより中心核の水素燃料は使い果たされ恒星は収縮する。中心核に水素の4倍の質量を持つヘリウムが集結して高圧、高温化が進む。その熱によって外殻に残っている水素が発火する。それによってヘリウムの灰が中心核に降り注ぐ。中心核はますます収縮しながら加熱する。
    ▶中心核のヘリウムは、本来の容積の10億分の1にまで圧縮され温度は1億度まで上昇する。こうなるとヘリウム同士が核融合してより重い元素が作られる。炭素が集まってさらに内部の核となりますます高温となる。そこでまた核融合がなされ重い元素が作られる……はず。
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    ⓬超新星でも核融合が。
    ▶ホイルはプルトニウム爆弾からヒントを得て、超新星でも爆縮が起こっていると考えた。その場合「核の熱平衡」が実現し、Feまでの重い元素の大半が誕生することができると考えた。
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    ⓭ベリリウムの謎と炭素の誕生。
    ▶サルピーターによれば、赤色巨星の中心核でヘリウム核が衝突しベリリウム8が生成される。これにさらにヘリウム核が衝突すれば、炭素12ができる(三重アルファプロセス)。ただし、このベリリウム8の寿命は10の17乗分の1秒である。三重アルファプロセスの第二段階であるこの反応が起きる確率は極めて低く、とても現実的とは言えなかった。
    ▶しかしホイルは、実際に炭素が宇宙に存在する以上、赤色巨星の中でこの三重アルファプロセスが起こっているはずだという強い信念を持っていた。もしかりに、ベリリウム8とヘリウム4のエネルギーの合計7.65MeVと炭素12の励起状態のエネルギーの値がたまたま等しければ、三重アルファプロセスの第二段階はいとも簡単に成功する筈である。しかしそれまで行われたあらゆる実験により、7.65MeVという炭素12の励起エネルギー状態は存在しないとされていた。
    ▶それでもホイルは諦めきれず、実験核天文物理学の創始者ファウラーをつかまえ、実験グループを構成し、7.65MeVの炭素の励起状態を模索させた。10日後、実験グループはその存在を確認、ホイルの信念が現実となった。
    ▶つまり…… ①一瞬しか存在しえないベリリウム8の寿命の短さが恒星をあっという間に燃え尽きさせず、重い元素の誕生に道筋をつける格好となっている。 ②炭素12の励起状態のエネルギーは7.6549MeV。一方ベリリウム8とヘリウム4のエネルギーの合計は7.3667MeV。赤色巨星の高温が足りない分に助力して炭素12が生成する。これも信じられない偶然だった。 ③炭素12ができたとしてもさらにその核にヘリウム4が衝突すれば、酸素16ができる(アルファプロセス)。しかしこの場合、すぐに酸素16ができるようであれば炭素12の絶対量が少なすぎることになる。逆だと酸素が少なくなる。ホイルはここで三重アルファプロセスでの経験を活かして計算した。すなわち、炭素12とヘリウム4の合計エネルギーは7.1616MeV。一方酸素16のエネルギーは7.1187MeV。非常に近い数値だが、恒星内部の高温は核の運動エネルギーを増大する効果はあっても減少させることはない。このギリギリの数値の設定が炭素と酸素の両立を成功させているのだ。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ⓮すべての元素の由来が解明される。
    ▶恒星内の中性子は、10分で消滅するか、それより早く他の原子核にとりこまれて消滅する(電気的に中性なので簡単にとりこまれる)。恒星内でより重い元素が作られるには多くの中性子が必要となるため、中性子は新しくどんどん供給されていなければならない。
    ▶キャメロンは、ヘリウム4と炭素13が核融合して酸素16と1個の中性子を生じるプロセスに注目した。この反応により中性子が絶え間なく供給されているのではないかと。カギとなるのはまれにしか見当たらない炭素13で、次にキャメロンは炭素13を生じるプロセスを探しはじめた。それには前述の炭素窒素サイクルが適当であった。
    ▶ファウラーとバービッジ夫妻により、Sプロセスが解明された。鉄などの種となる核に中性子がひとつずつ衝突してより重い元素に姿を変えていくというのである。SはSLOWの頭文字。中性子一個が他の原子の核に衝突するのは10万年に1回のことである。
    ▶逆に、中性子が豊富にあればRプロセスが進行する。あるいは中性子でなく陽子が陽子に衝突することもある。それは異常な環境のもとでしか起きないことである。すなわち超新星が爆発するその瞬間である。

  • まったくこの分野の知識がなくても読み進められる本でした。

  • 単行本「僕らは星のかけら - 原子をつくった魔法の炉を探して(マーカス・チャウン)」(無名舎、2000/06)の文庫化。
    元素の起源に関する本。

  • ~これらの星の死には一つの無駄もない。なぜなら、一つ一つの星が重い元素を宇宙の風に乗せてまき散らすからだ。まき散らされた元素は、超新星の残骸によって濃縮された恒星間の雲から生まれる新しい星に取り込まれ、まったく無駄になることがない。銀河系の誕生以来、無数の星が死に絶え、別の無数の星が不死鳥のごとく灰の中からよみがえった。~

    ~私たち人間が生きる条件を整えるために、何十億、何百億、あるいは何千億という星が死んだ。私たちの血液に含まれている鉄、骨に含まれているカルシウム、息を吸うたびに肺を満たす酸素は、すべて、地球が生まれるはるかに前に死に絶えた星の炉でつくられていた。~

    受け入れる、全てをゆるすと万物とつながれる、ということなのだろうか。
    まだまだ、自分にはその道は遠い。

  • 宇宙と僕らをつなぐ、「原子」の物語。周期律表を暗記する代わりにこの本を読みましょう。

    理図書 429.1||C57 11873915

  • 量子力学と天文学。物質というものがいかにして創造されたかについての壮絶なドラマ。人間はそのドラマの中で幸運に恵まれて産まれた。
    「人間は好奇心を持った原子」
    「宇宙は、なぜ原子が自分自身に興味を抱く能力を獲得するような構造になっているのか」はいまだに解明されない科学の大きな謎の一つ、というのが締めくくりの言葉。ドラマはこれからも続く。

  • ギリシアの哲学者と職人を対比しているところに個人的な状況を重ね合わせて考えてしまった。

    デモクリトスをはじめとした思索家たちが壮大な原理について思索にふけることが得意な一方、その仮説の真偽を問うことに欠けていた。
    また職人たちは万物に働き掛けて反応を調べることが得意でも、哲学的思考に欠けていたという記述(p.19)があるが、ここで、哲学者=研究者、職人=現場ではたらく人というふうに置き換えれば、現在自分の周りで起こっている状況に酷似している。
    今、私の先生(研究者)と、先輩(もともと現場ではたらいていた人)が、なんとなく相入れていない状況がある。先生は理論を重視し、先輩は現場主義であるためであろうが、この本を見て、古代ギリシアでも私の目の前で起こっていたような状況があったんだな、と思うとおもしろかった。

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著者プロフィール

マーカス・チャウン:受賞歴を誇るサイエンスライターで、科学番組の解説者。元カリフォルニア工科大学の電波天文学者で、現ニューサイエンティスト誌の宇宙論コンサルタントを務める。

「2023年 『世界で一番美しい太陽系図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マーカス・チャウンの作品

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