ロッキング・オンの時代

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794969408

作品紹介・あらすじ

1972年、渋谷陽一、橘川幸夫、岩谷宏、松村雄策の4人の創刊メンバーでスタートした「ロッキング・オン」。レコード会社側からの一方通行の情報を伝えるファンクラブ的音楽雑誌と一線を画し、リスナーがミュージシャンと対等の立場で批評するスタンスで支持を集め、いまや音楽雑誌の一大潮流となった「ロッキング・オン」は、いかなる場から生まれたのか。創刊メンバーの一人である橘川幸夫が、創刊の時期から約十年の歩みを振り返るクロニクル。ロックがいちばん熱かった時代、70年代カウンターカルチャーの息吹を伝えるノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  •  1972年、渋谷陽一らとともにロック雑誌『ロッキング・オン』を創刊した著者が、創刊からの約10年間の舞台裏を綴った書。

     私自身が『ロッキング・オン』を読むようになったのは1979年のことで(いまはもう読んでいない)、創刊当時のことは「伝説」としてしか知らない。が、私が読み始めたころの同誌には、草創期の青臭さ・文学臭がまだ濃厚に残っていた。普通の商業ロック誌でしかない現在の「ロキノン」とは別物なのだ。

     少年時代に毎月買っては貪るように読んでいた、あのころの『ロッキング・オン』の空気感が本書にも濃密に流れていて、懐かしくなった。

     創刊当時の著者や渋谷は、まだ大学生。出版界の常識も何も知らないまま、試行錯誤の連続で新しいメディアを創り上げていくプロセスが、読んでいてすがすがしい。

    《今の学生であれば、世の中の仕組みをそれなりに理解しているから、いろいろ始める前に事業計画を立てたり、出資を募ったりすることもあるのだろう。当時は、そんなことを考える学生はいなかった。まずやりたいものを作る。あとは、成り行きで動いていくしかない。》

     当時のことは、渋谷の著書『音楽が終わった後に』でも章を割いて綴られていたが、橘川の視点から見るとまた違う景色が見えてくる。

     『ロッキング・オン』という一雑誌の歴史であると同時に、「ロックがいちばん熱かった時代、70年代カウンターカルチャーの息吹を伝えるノンフィクション」(版元の惹句)として、読み応えのある一冊。

     橘川は、読者からの投稿のみで成り立っていた「全面投稿雑誌」『ポンプ』の創刊者でもある。
     本書には、ソーシャルメディアの源流のような雑誌『ポンプ』の、草創期の舞台裏も綴られている。無名時代の岡崎京子(『ポンプ』にイラストを投稿していた)との思い出などは、大変興味深い。

    《「参加型メディア」は今では「CGM(Consumer Generated Media)」と呼ばれ、一般的になったが、「参加型メディア」という言葉を使ったのは僕がはじめてだと思う。当時、言葉もなかったし、そういうコンセプトでメディアに向かっていた人は、他に知らない。》
     
     ……と書いているとおり、橘川のメディアの未来を見通す慧眼は群を抜いていたと思う。

     これはうろ覚えで書くので細部は違っているかもしれないが、80年代初頭の『ロッキング・オン』で、橘川が打ち出した「ファクシミリ・マガジン」なるコンセプトに対し、渋谷陽一が批判をしていた。
     「ファクシミリ・マガジン」とは、“既成の雑誌の好きなページだけを読者が選んで買い、ファクスで送ってもらい、自分だけの一冊を作れる雑誌”……というアイデアだったと思う。
     それに対して渋谷は、「そういう“足し算の発想”ってダメだと思う」「いまあるもので間に合わせられるものって、けっきょく大したことはないんだ」などと批判したのだ。 

     だが、現時点から振り返れば、橘川の発想のほうが、ネット時代のメディアのありようを正確に予見していた。
     「note」のように欲しいコンテンツのみを個別に買ったり、好きなウェブページのみをブックマークして読んだりするという、いまではあたりまえのメディア享受の姿勢は、「ファクシミリ・マガジン」の発想そのものだ。
     ネットなど影も形もないころから、ネット時代のメディアを見通していた橘川の慧眼畏るべしである。

  • やはりこの時代の話は面白い。そして、羨ましい。
    僕も高校〜大学生の頃に読んでいたロッキングオン(僕はJAPANの方がよく読んでたけど)の創刊時代のお話。
    僕が読み始めた頃には橘川さんは既にいなかったから、知らなかったけど、創刊当時のメンバーがつくったメディアや記事は知らないあいだに目を通してそう。
    橘川幸夫、岩谷宏の名前は覚えておき、また、調べてみようと思う。

  • 2016年11月29日。 著者は橘川幸夫。

    1972年にロック雑誌「ロッキング・オン」を創刊した4人のうちの1人が、創刊からの10年を中心に書いた本。

    ぼくは1994年から2001年くらいまで「ロッキング・オン」をとても熱心に読んでいたので、その歴史が知りたくて読んでみました。

    大学生が集まって始めた雑誌なのだが、試行錯誤しながら軌道に乗せていくまでの展開が面白い。 淡々として文章なので盛り上がりに欠けるのだが、それそれはめんどくさくなくていい。 これ映画化したら面白いと思います。

    編集長である渋谷陽一が、大卒の銀行家の息子で、目白のお屋敷が実家とか全然ロックじゃないのが笑えた。 ボンボンだったのか。

    当時の文章が多めに引用されているのだが、観念そのまんまみたいな訳のわからないのが多くてすごい。 まあそれがロッキング・オンなのだが、今読むとただただかったるかった。 ディスクレビューが一番すごくて、95%くらいは音楽に触れてなくて、自分の日常やら思想を綴っていて、やりたい放題です。 これが受け入れられてたのにも驚いた。

    年老いた人が人生を回想する文章は、面白い事が多い。 この人もやりたい事やって生きて、楽しそうです。

    当時はロックが今よりもずっと影響力を持っていて、そんな時代を垣間見れて楽しかったです。

  • 3月9日。読み終えた。
    鎌倉の図書館で借りた。
    2016年11月初版なのでまだ最近書籍、David bowieの★にも触れていた。
    ロッキングオンは、生涯唯一買い続けている雑誌で、1979年から欠かさず購入しているので、40年以上の付き合い。
    渋谷陽一の話しにも興味があったが、

  • 紀伊国屋久留米?

  • <blockquote>
    「ロキノン」という言葉がある。ロッキング・オンを嘲笑した言葉で、音楽雑誌なのにライターが自分の事ばかり書いていて、音楽雑誌なら音楽の事だけを書け、という立場からの批判的ネーミングだろう。Twitterに「えかきのルロアさん」が次のツイートをしていた。

    「ロキノン系」、読者を指して言う場合は、創刊メンバーの橘川幸雄が1970年代の「ロッキング・オン」で志向した「ロックに仮託した私語りでつながる人たち」の事であって、同誌がメジャー化する上で、渋谷陽一が1981年に橘川への批判も込みで「ロキノン系」という読者層を「捨てた」んだよ。

    なるほど、今、言われている「ロキノン」とは僕のことであったようだ。(P.54)</blockquote>

  • ロッキング・オンが同人誌から始まりどのように成長したかがよく伝わる読み物。

  •  著者は4人の共同メンバーと共に始めた、雑誌の創刊時代から回顧する。出版の素人たちが、自費で印刷した同人の投稿誌を、自ら書店に持ち込むような黎明期。これは、自分にとっても洋楽と出会った頃の物語。
     ヒットチャートの記録を続け、ロックについての理解にも飢えていたあの頃。もちろんネットも動画サイトもない。雑誌の顔とも言える渋谷陽一は、当時のFM番組のクールな語りで、そんな欲求を満たしてくれた。
     40年経った今、音楽はいつ、どこでも手のひらの上でも再生可能になった。しかし、あの時代は、間違いなく自分の血肉の一部となっているはずなのだ。

  • 764.7

  • 大学の頃出会った思い入れのある雑誌。10、20代頃の気持ちと重なる部分があるように感じた。

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著者プロフィール

1950年2月4日、東京生まれ。'72年、渋谷陽一らと音楽投稿雑誌「ロッキング・オン」創刊。'78年、全面投稿雑誌「ポンプ」を創刊。その後、さまざまなメディアを開発する。'83年、定性調査を定量的に処理する「気分調査法」を開発。商品開発、市場調査などのマーケティング調査活動を行う。80年代後半より草の根BBS「CB-NET」を主催、ニフティの「FMEDIA」のシスオペを勤める。'96年、株式会社デジタルメディア研究所を創業。インターネット・メディア開発、企業コンサルテーションなどを行う。アーツカレッジ・ヨコハマ(旧神奈川情報文化専門学校)のマルチメディア科を立ち上げプロデュースを行い専任講師。武蔵野美術大学非常勤講師、日本デザイン専門学校講師などを経験。現在、多摩大学経営情報学部客員教授。キーマン・ネットワーク「コンセプト・バンク」を運営。
〈著作〉
『企画書』『メディアが何をしたか?』『なぞのヘソ島』『一応族の反乱』『生意気の構造』『暇つぶしの時代』『やきそばパンの逆襲』『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。 』『希望の仕事術』『森を見る力』ほか共著、編著多数

「2016年 『ロッキング・オンの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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