- Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794811189
作品紹介・あらすじ
昭和29(1954)年、106日間に及ぶ日本最大級の労働争議「近江絹糸人権争議」が発生し、国民の目を釘付けにした。その10年後、三島由紀夫がこの争議を題材とする長編小説『絹と明察』を世に出している。ところが、関係者に取材をしたはずの三島、なぜか争議の詳細を作品に書き込まなかった。
集団就職で工場に勤めた中卒労働者たちと本社の一流大卒エリートたちが見事に一致団結して経営者に立ち向かったこの比類なき争議を詳しく調べていくと、実に興味深い人間と社会の実相が浮かび上がってくる。労働組合を一貫して敵視し続けた経営者。やがて自殺者まで出るに至る凄絶な緊張感。会社側に肩入れする不可解な警察の介入。解放されたはずの若者たちを襲った「もう一つの争議」等々、そこにはいくつもの特異性と謎がある。
この争議について記した文献のほとんどは彦根工場における活動を中心に描いているが、実は大阪、大垣、富士宮、東京など各地同時多発の全国規模の争議であった。また、一口に争議といっても、ストライキ、ロックアウト、ピケッティング、乱闘、セスナ機からのビラまき、製品ボイコット、不当労働行為、オルグ合戦、募金活動、銀行や省庁への陳情、政治家の動員、真相発表会、裁判闘争などなど、労使双方が多様な戦術を繰り広げ、マスコミ、警察、暴力団、国会すらも巻き込む総力戦であった。そして各地の現場には、仲間を守って闘い抜いたヒーローたちがいた。
争議を経験した若者たちもいまや80歳を超えている。筆者は存命のヒーローたちにお会いして、当時の写真を前に心ゆくまで語ってもらった。するとお話を聞くうちに、写真の中から被写体が飛び出してきて、この事件の謎を解きはじめた!――まるでタイムスリップである。
争議勃発から65年が経過し、平成が終わりつつある現在、働く人びとや経営者が本書を読んで(見て)何を感じるか、ぜひ知りたい。そして、叶うことなら200点を超える未公開写真を掲載した本書を、三島に見せびらかしてやりたい。(ほんだ・かずなり)
感想・レビュー・書評
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東2法経図・6F開架:366.66A/H84s//K
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「三島と労働争議」、面白い取り合わせだと思い興味を持った。
三島由紀夫が『絹と明察』(1964年)という小説で描いた近江絹糸人権争議は1954年に発生した106日間にわたって繰り広げられた日本最大級の労働争議である。
寮生活を強制され、信書を開封されたり、仏教の礼拝を強要されたりと人権を無視した労務管理に若者を中心に労働者が立ち上がった。
ワンマンな経営者の姿に日本古来の父性をみた三島は、旧秩序(父)が新しい世代(子)によって乗り越えられていくさま主題とし小説『絹と明察』を書いた。
三島の作品の文学性を高く評価しながらも、執筆構想のなかに争議を埋め込んだだけで、実相をほとんど描いていないと感じた著者は、三島が心を離した争議のなかで葛藤する若者たちの姿を描こうと決心する。
満載された写真が当時の雰囲気をよく伝えている。