文庫 データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 (草思社文庫) (草思社文庫 や 4-1)

著者 :
  • 草思社
4.17
  • (36)
  • (25)
  • (12)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 481
感想 : 30
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794223289

作品紹介・あらすじ

幸福は測れる。幸福感が上がれば、生産性は向上する。
AI、センサ、ビッグデータを駆使した生産性研究の名著。ついに文庫化。

著者は、ウエアラブルセンサを使って職場での従業員の行動を計測、そのビッグデータを人工知能で解析して生産性向上につなげるという画期的な研究を行ってきた。その研究によれば、生産性の向上は、従業員を「管理」するのではなく、逆に従業員の「幸福感」や相互のコミュニケーションを高めることで達成されるという――。
文庫版のために新たに「著者による解説」を追加、「日本の生産性はなぜ上がらないのか」「人工知能は人間から仕事を奪うか」「幸福の計測は何をもたらすか」「幸福になるとなぜ生産性は上昇するのか」など、現状分析と最新の研究成果を語る。


1  時間は自由に使えるか
2  ハピネスを測る
3  「人間行動の方程式」を求めて
4  運とまじめに向き合う
5  経済を動かす新しい「見えざる手」
6  社会と人生の科学がもたらすもの
著者による解説

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文庫 データの見えざる手
    単行本版
    ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
    著:矢野 和男
    草思社文庫 や 4 1

    おもしろかった センサーがもたらす、ビッグデータを解析することで新たな世界が拓けていく

    複雑で、膨大な知識の集大成である社会科学に、ビッグデータという新しいものさしをあてて、新しい法則や原理を発見できる可能性が高まっている。21世紀は、知のブレークポイントになる可能性が高い

    ・計数的な裏付けのなかった定性的な社会科学を、ビッグデータで、定量的な自然科学へと読み替えていく
    ・人間の行動は、1/T=U分布という統計的な法則に従う
    ・世の中には仮説が立てられない問題があって、その解法にビッグデータを用いる
    ・人の運というものを、組織のメンバー間のコミュニケーションの濃さで表現する

    冒頭に、センサーの折れ線グラフ、ライフタペストリ、ソーシャルグラフ、店内の従業員と顧客の動線図などの口絵が乗せられていて、ビッグデータを可視化するためのツール群がいきなり目に入ってくる

    気になったのは、以下です。

    ■イントロダクション

    ・ウエラブルセンサーを使って、社会現象や、人間行動を計測して、大量データを分析することで人間行動や社会現象に関する様々な発見により世界をリードしてきた。その全体像をまとめたのが本書である

    ・社会科学が発達してきたが、物理学などの定量的かつ精密なハードサイエンスと比べる、まだ定性的なレベルにとどまっている
    ・センサー技術により得られた大量データを活用することで、社会現象や経済活動についても、定量的でハードなサイエンスが確立され、科学的な予測や制御が可能となる考えている

    ・人間や社会に関する大量の計測データは、我々の人生における根源的な問いに答えてくれる可能性がある

    ■時間は自由に使えるか

    ・人間や社会の行動に関する大量のデータが得られるようになったことで、人間に関する新たな科学と科学法則が見つかる可能性が大きくなってきた。

    ・時間の使い方が重要であることは認識されてきたが、それは幸福論や自己管理の話題であって、科学の対象とは考えられていない。
    ・しかし、論じるに、まさにこれを否定することである。
    ・あなたが今何に時間をつかうかは、無意識のうちに、科学法則に制約されており、自由にはならないのである

    ・人間行動や社会行動に普遍的に見られる統計分布、U分布を見つけるためである
    ・統計分布がU分布のときは、片対数プロットというやりかたでプロットすると直線になる
    ・U分布は、筆者が幅広い人間行動や社会行動を計測するなかで見出したものだ

    ・熱力学の法則と人間の行動には共通性がある

    ・熱力学の法則
     ⓪温度という概念が存在すること
     ①エネルギーの保存則
     ②エントロピーの増大

    ・エントロピーが最大となる分布をボルツマン分布(=U分布)という
    ・エントロピーとは、乱雑さ、でたらめさ、と理解するのではなく、むしろ、自由さの尺度であると考えた方がいい

    ■ハピネスを測る

    ・幸福度を、「質問紙による調査」で計測すると、およそ半分は遺伝的に決まっていることが明らかになった
    ・うまれつきになりやすい人と、なりにくい人がいるということだ
    ・遺伝的に影響を受けない残り半分は、後天的な影響である。半分は、努力や環境変化で変えられる

    ・行動を起こした結果、成功したかが重要なのではない、行動を起こすこと自体が人の幸せなのである
    ・「行動の結果が成功したか」ではなく「行動を積極的に起こしたか」がハピネスを決めるというのは、実は、私たち一人一人にとっては、とてもありがたいことだ。

    ・重要なことは、仕事ができる人は成功するので幸せになる ではなく、
     幸せな人は仕事ができる ということだ
    ・ハピネスレベルを高めるのは、成功を待たずとも、今日ちょっとした行動を起こすことで可能なのである

    ・行動量を計測することで、幸せは、加速度センサで測れる

    ・コールセンターの受注率:電話の応対には、性格的な向き不向きがあるとも考えられてきた。しかし、このパーソナリティと受注率との相関を調べてみても相関はなかった。
    ・実は、受注は意外なことと相関していた。それは、休憩所での会話の「活発度」である。

    ・結論をひと言でいえば、「活発な現場」では、「社員の生産性が高まる」し、
     一方「活発でない現場」では、「社員の生産性が低くなる」のは普遍的・一般的な傾向である

    ・ソフトウエア開発、研究開発、装置設計、管理職など630人の社員を調べたデータセットがある
    ・そのデータを分析すると、質問紙による調査した職場のストレスレベルの平均はやはり加速度センサで測った集団的な身体運動の活発度と強く相関していた。

    ・ハピネスレベルが高いと、業務の生産性は37%も向上し、創造性は300%も向上する

    ・現場の活発度が、生産性やコストに直結することは、企業のITにも大きなインパクトがある
    ・しかし、ここで明らかになった「現場の活発度」の重要性は、従来、IT設計にまったく考慮されていない

    ■「人間行動の方程式」を求めて

    ・人と対面したり、一人になったりという変化を大量データから解析した結果によれば、再会の確率は最後に会ってからの時間が経過するに従って低下していく。最後にある人にあってからの時間をTとすると、再会の確率は、 1/T に比例して減少していく これを1/T法則という

    ・時間は、一様に流れるのではなく、面会間隔が空くほど、速く進むようになる

    ・1/T法則はU分布から統一的に導くことができる 

    ・古代ギリシアでは、時間を表す言葉が2つあり、
     機械的に流れる時間:クロノス時間
     人の内的・主観的な時間:カイロス時間
     といい、明確に区別していた

    ■運とまじめに向き合う

    ・運を人生や社会で確率的に起こる好ましい出来事と定義してみよう
    ・すなわち、人生やビジネスにおける、望ましい確率現象、と捉えるのである

    ・組織の盛衰は、組織のリーダの運が大きく影響することは明らかだ
    ・ここで注意すべきは、リーダーのコミュニケーション相手をむやみに増せばいいということではない
    ・むしろ、重要なのは、組織のメンバーどうしのつながりであった
    ・メンバー間に三角形のつながりが多いと、その組織のリーダの運がよくなるのだ

    ・望ましい会話や会議を科学的に定義し、その品質を測れるだろうか。
    ・答えはイエスだ
    ・すでに、指標がいくつか見つかっている
    ・その指標とは、会話の双方向率である

    ■経済を動かす新しい「見えざる手」

    ・人の行動は、人と、コンテキスト(文脈)との相互作用から生まれる
    ・着目する人だけを分離したり、コンテキストだけを分離せず、両者の複合システムとして捉える必要がある
    ・このような考え方はすでに近年、人の発達や教育などを理解するのに、取り入れられていて、DST(動的システム理論)と呼ばれている

    ・人工知能Hが店舗について、顧客の動線を分析したところ、ある特定な場所に従業員がいると売上が伸びる、高感度スポットというものがあることが判明した。
    ・高感度スポットに、従業員をおけば、売上げが15%増え、営業利益が5%アップした

    ・店舗の実態として、データは、顧客、店員、棚、商品、行動など大量、多様である
    ・データの属性の選択肢がありすぎで、仮説をどうやってつくったらよいかわからない
    ・人間では、仮説をつくりようもないのだ 
     ⇒ 
     自ら学習するマシンである人工知能Hは、このアナリスティクスを不要にする

    ・人工知能には3つの分類がある
     ①運転判断型⇒アナリスティクスを不要とする
     ②質問応答型⇒GPT、ワトソン博士
     ③パターン識別型 写真、音声などの識別

    ・ビッグデータで儲けるには
     ①向上すべき業績を明確にする
     ②向上すべき業績に関係するデータをヒトモノカネに広く収集する
     ③仮説に頼らず、コンピュータに業績向上策をデータから逆推定させる

    ・営利活動を4層で捉える
     ①財務層
     ②需要層
     ③業務層
     ④設備と投資層

    ・コンピュータにできないこと ⇒ 人間にしかできないこと
     ①学習するマシンは、問題を設定することはできない
     ②学習するマシンは、目的が定量化可能で、関係するデータがすでに多量にある問題しか解けない
     ③学習するマシンは、結果に責任をとらない。⇒人間にしか、責任はとれない

    ・アダム・スミス
     国富論 経済的な豊かさの本質
     道徳感情論 人間らしい生き方の意味
     両者が協調しあってうまくいく体系であることがアダム・スミスの主張である

    ■社会と人生の科学がもたらすもの

    ・今後、世界中の現場で、日々蓄積されるデータを使って、人工知能と対話しながら、問題を科学的に
     高速に解決することが可能になる と期待できる

    ・データ規模が拡大するとセンシング技術やデータ収集技術の発展を促し、これらのシステムや運用のコストが下がり、これによってデータ収集規模がさらに拡大する
    ・収集したデータが役立ちはじめると、データ収集や蓄積の価値を理解する人の数も増えていく

    ⇒ サービスの拡大と科学技術の発展とかデータを共有しつつ共進化する
     
    目次
    イントロダクション
    第1章  時間は自由に使えるか
    第2章  ハピネスを測る
    第3章  「人間行動の方程式」を求めて
    第4章  運とまじめに向き合う
    第5章  経済を動かす新しい「見えざる手」
    第6章  社会と人生の科学がもたらすもの
    あとがき
    著者による解説

    参考文献

    ISBN:9784794223289
    出版社:草思社
    判型:文庫
    ページ数:288ページ
    定価:850円(本体)
    発売日:2018年04月09日第1刷

  • めちゃくちゃ良かった。

    ウエアラブルセンサーを用いてビッグデータを集め人間の運動解析をしたうえでの話なので、説得力が半端じゃない。
    生きるとは呼吸する事ではない。行動する事だ。
    (ジャンク・ルソー)の名言にもある通り、動く事、行動する事で幸せになれる事を今一度理解し、読んでいて気分が高揚した。

    この本に出会えて本当に良かった。ありがとうございます。

    メモ
    ・U分布は、一方向に右肩下がりなので、身体の動きが活発な行動を、静かな行動よりも長時間行うことは許されない。

    ・U分布では、より素速い行動の時間は、より静かでゆったりとした行動よりも常に少ない時間しか許されない。

    ・人間の運動がU分布に従うことを考えると、結局、1日の時間を有効に使うには、さまざまな帯域の活動予予算を知って、バランスよくすべての帯域の活動予算(エネルギー)を使うことが大切だと気づく。これを無視して、ToDoリストを作ったり、1日の予定を決めたりしても、結局はその通りにはならない。

    ・人間の活動は、まさに熱機関と同じ制約下にあることがわかったのである。

    ・幸せは、およそ半分は遺伝的に決まっていることが明らかになった。うまれつき幸せになりやすい人と、なりにくい人がいるということである。

    ・この環境要因に含まれるものは広い。人間関係(職場、家庭、恋人他)、お金(現金だけでなく家や持ち物などの幅広い資産を含む広義のもの)、健康(病気の有無、障害の有無など)がすべて含まれる。驚くべきことに、これら環境要因をすべて合わせても、幸せに対する影響は、全体の10%にすぎないのだ。

    ・それでは、残りの40%は何だろう。それは、日々の行動のちょっとした習慣や行動の選択の仕方によるというのだ。特に、自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要なのだ。自ら意図を持って何かを行うことで、人は幸福感を得る。

    ・ここで、明らかになったのは「幸せな人の身体はよく動く」という単純で共通の事実である。

    ・休憩時間の活発さを向上する施策として、同世代の4人のチームで休憩を同時にとるようにした。その結果、休憩中の活発度が10%以上向上し、さらにその結果、受注率が13%向上した。

    ・新しいITは、社員の積極行動を後押しするものにしなければならない。

    ・最適経験=フロー」を経験すると、人は楽しさや充実感を得る。一方で、注意を向ける対象が時々刻々飛び移り集中できないときは、精神的なエネルギーが浪費されたように感じ、楽しさや充実感を得にくいことを明らかにした。

    ・身体を継続的にやや速く動かせるような状況をつくることにより、仕事や生活に楽しさや充実感を得ることが期待される。

    ・運を「確率的に起こる好ましい出来事」と定義したが、これをビジネスの上でのことについてより詳しく定義しなおすと、「確率的に、自分が必要とする知識や情報や力を持っている人に出会うこと」といってもよいだろう。

  • 普段つけているウェアラブル機器であなたの行動は丸裸!的な内容かと思って読んでみたら全然違いました。

    なぜかはわかりませんが、なんとなく感想を書くのが難しく感じています。なんでかな?

    面白かったと思います。
    幸せは半分は遺伝的に決まっているとか、生まれつき幸せになりやすい人となりにくい人がいること。動きが増える。活動温度が高くなる。

    運を掴むには会話の質も重要。運すらも指標を通して化学的に高めることができる。

    莫大な量のビックデータとAIをうまく組み合わせることで様々な問題解決や成長などが見込める。

    本当かよ!とかなるほど!とかウエアラブルを使って調査・数値化して解明していて素直に凄い人だなと感じました。

    個々の感情や性格や能力や体調で色んな変化が起きるとどんな影響するかなどがあれば、現代を生き抜くバイブル的な本になり得たのかなと思いました。

    科学者で、研究の結果・データを書いてもらって根拠を示しているのは十分理解するのですが、算出方法などが私にはとても難しく、なかなか内容が入ってこなかったり、『』や()が多くて個人的には読みづらかったです。

    内容の8割でも理解するにはまだまだレベルが足りませんでしたので、今2周目突入しましたが…

  • 今や当たり前になっているスマホやアップルウォッチなどによるビッグデータの活用について8年前に書かれた本。

    ・活動予算のU分布
    一日の活動は色々な活動量(速さ?)によりはじめから分けられているという。U分布で考えると激しい運動をすると全体的に活発になるのでは?と思ったがどうなんだろう。経営者とかジムで体を鍛えている人が多いのはそういうことかな?とも思った。

    ・運について
    人とのつながりによる「到達度」が重要であるということ。確かにJCでのつながりができてからは仕事の速さと質が上がったように感じる。何か困ったことがあっても相談できる人がすぐに見つかる。

    ・活気ある職場にするには?
    この部分が一番この本で参考になった。自分は効率を求め、従業員が仕事中に関係ないおしゃべりをしていると腹が立ってしまう。それが良いかは置いといても社員同士のつながりや会話などの重要性が科学的データとして書かれていたので納得感があった。ただ、じゃあどうしたらいいの?というところが今一分からずモヤモヤしているが社員旅行・運動会など一見仕事とは関係のない行事の大切さというのはこの本を読まなければ分からなかったと思う。

    ・会話に動きがあると質が上がる
    スティーブジョブズは会議を歩きながらしていたという話を聞いたことがある。とても理にかなっていたのだということ。

    ・AIと今後の人間の役割
    ビッグデータをもとにAIが出す仮説にもとづいて事業を改善できるという内容があり、人間よりAIが優れている点、劣っている点なども書かれていた。これから更にAIに人間の仕事をしてもらう中で人間でしかできない仕事、それは課題の設定、問題提起など。確かにこういう力が必要でその解決のために発達したデジタル技術を使っていくことが今後の仕事の仕方になっていくのだと思う。

  • 最後まで新しい知見に溢れた内容で、非常に勉強になりました。この内容で2014年に書かれているのが本当に驚きです。人の行動を読み解くことで、今まで科学とは無関係に考えられていた「運」との関係性の説明は非常興味深いものでした。 
    本のタイトルだけでは、書かれている内容についてイメージが沸きにくいかもしれませんが、人の行動記録から読み取ることのできる考察は、本当に凄いです。また、読み返したい本です。

  • 面白い(主観)!
    最近読んだ本の中ではダントツ(主観)!

  • この本 もっと早くに読んでおくべきでした。得られた知見が本当に多かった。まず、データを取って客観的にみることですね。

    まず、技術者らしくエネルギーの保存則の話から。これらの方程式が自然法則の基本であり、それらがすべて保存則、とくに「エネルギーの保存則」から派生する式だとすれば、「エネルギー」の概念こそが、自然現象の科学的な理解の中心にあることから始まって、人間が1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は、法則により制限されており、そのせいで自分の意思のままに時間を使うことができないことをウエアラブルセンサの計測結果から示している。見事に指数分布(本ではU分布と書いてある)に従うらしい。そこには「繰り返しの力」という人間が普段感覚として意識していない力が働いて、世の中を動かしているという。学生時代に読んだフェラーの「確率論とその応用」でもそんな話が出ていたことを思い出した。勝ち負けは偶然に起こったとしても、それを繰り返していくうちに、凄く勝つ人と負け込む人に偏りが生まれるという話だ。にわかに信じがたい話だけど、ちょっと考えるとすぐわかる。例えば、最初に1回、偶然勝ったとして、+1とすると、+1の状態が-1になるためには2回続けて負けないといけない。その確率は1/4。つまり1度勝つとなかなか負け側には行かないし、逆もまた真。フェラーを勉強した時に、割と最初が肝心だと思った記憶があるけれど、その話がまた出てきた。「繰り返しの力」ってそういうもの。だから貧富の差ができる。実社会ではこれに本当の意味での能力差があるから、より格差は広がる。ただ、ここで言いたいのは格差のことではなく、人間の活動自体が指数分布に従っているということ。具体的には1分当たり60回以上の動きをするのは1日の半分だが、1分当たり120回以上の動きとなると1/4、180回以上となると1/8になるということらしい。筆者いわく1日の時間を有効に使うには、さまざまな帯域の活動予算を知って、バランスよくすべての帯域の活動予算(エネルギー)を使うことが大切だと気づく。これを無視して、ToDoリストを作ったり、1日の予定を決めたりしても、結局はその通りにはならないということらしい。

    あと、ハピネスは計測できるという話。まず、人間にとって、自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要らしい。心理学の調査結果によると、人は自ら意図を持って何かを行うことで、幸福感を得ることが判っている。具体的には人に感謝を表す、困っている人を助けてあげる、そういう日常の簡単なことで人間はハピネスを感じているらしい。つまり、行動を起こした結果、成功したかが重要なのではないく、行動を起こすこと自体が、人の幸せだというのだ。幸福な人は、仕事のパフォーマンスが高く、クリエイティブで、収入レベルも高く、結婚の成功率が高く、友達に恵まれ、健康で寿命が長いことが確かめられている。定量的には、幸せな人は、仕事の生産性が平均で 37%高く、クリエイティビティは300%も高い。重要なことは、仕事ができる人は成功するので幸せになる、というのでなく、幸せな人は仕事ができるということだ。そして、ハピネスと身体活動の総量との関係が強い相関を示しているらしい。ハピネスを研究しているリュボミルスキ教授とのコラボの結果は興味深い。毎週、「良かったこと」を書き出してもらった対象群と、単に「できごと」を書き出してもらった対象群では、「良かったこと」を書き出してくれた対象群の方がハピネス度が高かった。そして、その対象群の方が活動量が活発だったという実験結果が出ている。

    これを企業の生産性と結び付けるところもあって、研究によると、身体運動の活発度は、人から人へと伝染するらしい。まわりの人たちが活発だと自分も活発になりやすく、まわりの人たちの身体運動が停滞すると、自分も停滞する。結果、ハピネスとは実は集団現象だということになる。ハピネスは、個人のなかに閉じて生じると捉えるより、むしろ、集団において人と人との間の相互作用のなかに起こる現象と捉えるべきものらしい。そして、集団にハピネスが起きれば、企業の業績・生産性が高まる。「活発な現場」では「社員の生産性が高まる」し、一方「活発でない現場」では「社員の生産性が低くなる」のは普遍的・一般的な傾向ということになる。

    もうひとつ、運も計測できるという話。仕事がうまくいく人は、共通して「到達度」が高いというのである。「到達度」とは、自分の知り合いの知り合いまで(2ステップ)含めて何人の人にたどり着けるかというもの。あと「三角形」が多いことも重要らしい。つまり自分の知り合いAとBがお互いに知り合いであり、そこには「三角形」ができるということ。三角形が多いと、リーダーが直接的に介入しなくても、現場で自律的に問題が解決される可能性が上昇するためらしい。まあ、一言でいうと職場のコミュニケーションなのだけど、情報を集中させるのではなく流通させることで組織の成果は高まるということでしょうか。

    色々なセンサーで体の動きを計測すると、このコミュニケーションの密度も判るらしい。まあ、それは何となく判らないでもない。積極的に話に入り込んでいけば、体の動きも出るだろうし、興味がなければ、あるいは聞き流していれば、体は動かない。それが数値化できてしまうという話。

    最後はAIの話でしたが、これはこれで面白かったけど、ここまでの話の知見に比べるとそんなに新しいものではなかったような気がする。まあ、書かれた時期を考えれば凄いのかな。とりあえず、色々な知見を得られる良書でした。

  • ウエアラブル技術とビックデータ解析で世界を牽引してきた著者が、人間の行動を科学的に分析している。「どうすれば幸福感を高められるか」や「どうすれば幸運に巡り会えるのか」といった研究の中で実践方法を説明しており、知的好奇心をそそられる。科学的根拠にもとづいた組織マネジメントについても大いなるヒントとなるし、AIに関する考察も面白い。時間をおいて、再読したい本。  

  • 「データの見えざる手」
    読後、最適なタイトルだと思った。アダム スミスやピーター ドラッカーが理想とする社会が到来しようとしている。昨今のAI・ビッグデータ、働き方改革“ブーム”は本書が発信源でないかと思えるほど。『国富論』とともに『道徳感情論』を書いたスミスが言いたかったのは、「経済性と人間性とは、相反するものではなく、互いに関係しあうこと(p235)」。一見理系的な内容だが、「第1章 時間は自由に使えるか」や「第2章 ハピネスを測る」は良い意味で予想を裏切られた。すべての組織人に薦めたい久しぶりの最高評価!
    #卒業生が薦める山形大学生に読んでほしい本30選

  • 原子と力学の観点から、ミクロの行動を知らなくてもマクロの行動は法則に従う、という観点が面白い。その考えから、人の行動には法則がある、として、データから統計的に証明している点がすごい。
    運の章はとても参考になり、いいチーム、職場を作るときに、今の状態をつながりという観点で、分析するのは面白い。そして、それを運と呼ぶ著書もすごい観点!

    とっても勉強になった一冊でした。

    ハピネスを高める努力をして、生産性を上げるぞ!生産性を上げる努力ではない!!

全30件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

矢野 和男(やの・かずお)
株式会社日立製作所フェロー。株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO。1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。91年から92年まで、アリゾナ州立大にてナノデバイスに関する共同研究に従事。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ解析を研究。論文被引用件数は4500件、特許出願350件を超える。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、開発したウエアラブルセンサが「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道などの幅広い分野に適用され、産業分野へのAI活用を牽引した。のべ1000万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。2014年に上梓した著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。

「2021年 『予測不能の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

矢野和男の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
リンダ グラット...
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×