江戸・明治 百姓たちの山争い裁判

著者 :
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794222848

作品紹介・あらすじ

江戸時代の百姓たちにとって山資源の確保は死活問題だった。山は近隣の村々で共同利用されたが、山のどこまでが自村の領域かをめぐって村々はしばしば対立し、領主や幕府にしきりに訴訟を起こした。百姓たちはどういう戦略で裁判に臨み、武士はどう裁いたか?全国に残る史料からその実態に迫る。映画『超高速!参勤交代』『殿、利息でござる!』など時代劇が人気の今、百姓をメインに据えた異色の時代読み物として注目の一冊です。

感想・レビュー・書評

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  •  江戸から明治時代にかけての、山林をめぐる百姓たちの争いごとを、詳細な事例をもとに紹介した本。漁業を舞台にした、同じ著者の『海に生きた百姓たち』が面白かったので、出版は前後するが本書を手にとった。

     江戸時代、山村で生活していた百姓たちにとって、山や林は田畑の肥料や燃料、食料などがとれる貴重な資源プールであり、しばしばその境界や領地をめぐって村同士のいさかいが起きていたという。
     本書を読んでもっとも認識を新たにしたのは、江戸時代の百姓たちが力づくで解決するのではなく、どんなことも訴訟を起こして裁判で決着をつけようとしていたことだ。幕府から争いを禁止されていたこともあるが、百姓たちにとっては日々の生活を脅かされることなので、相当な数の訴訟を起こしていたという。江戸には、百姓たちの裁判を支援する、今でいう法律事務所のような商売もあったらしい。
     さらに、藩と藩をまたがる村同士の争いの場合は、自藩の領土にもかかわることなので藩の上層部が裏から手を回して百姓たちの後押しをしていた証拠も見つかっている。百姓と武士が身分の差を越え、タッグを組んで裁判に臨んでいたというのも新たな発見だった。

     本書では『海に生きた百姓たち』同様、貴重な古文書を読み解いた上で、訴状や書簡も著者なりに現代語訳してくれているので、当時の状況が非常にわかりやすく、まざまざとリアルに浮かび上がってくる。
     生活の糧を突如奪われる百姓たちの困惑ぶりと怒り、お上に対して堂々と自己主張する百姓たちの意地、未成熟な裁判制度に振り回され苦悩する村の代表たちの生の声がよみがえってくる。

     『海に生きた百姓たち』を読んだ時もそうだったが、”百姓”に対する画一的なイメージを良い意味で壊してもらった。今後も渡辺尚志氏の百姓シリーズを読んでみたい。

  • 証拠とロジックと情

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著者プロフィール

1957年生まれ、東京都出身。東京大学大学院博士課程単位取得退学、博士(文学)。一橋大学名誉教授、松戸市立博物館長。専門は日本近世村落史。著書に『近世の村と百姓』(勉誠出版、2021年)、『川と海からみた近世』(塙書房、2022年)、『藩地域論の可能性 信濃国松代藩地域の研究Ⅶ』(岩田書院、2023年)など。

「2023年 『金原明善 日本の〈偉人〉を捉えなおす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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