トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794220097

作品紹介・あらすじ

9.11 の衝撃以降、アメリカはテロとの闘いを「戦争」と呼び、それに関するあらゆる情報を機密扱いにする
ことを正当化してきた。政府機関のみならず民間機関も組み込まれた機密情報機関網は、莫大な予算が注ぎ
込まれて巨大な規模に膨れあがり、情報は錯綜し重複し、統御の限界を超えて機能不全に陥っているという。
その実態はどうなっているのか。長年にわたって米国政府の機密情報を取材してきたワシントンポストの敏
腕記者による衝撃的なレポート。

感想・レビュー・書評

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  • 政治
    ノンフィクション

  • 赤の広場で、泥酔者がウオッカの空瓶を振り回しながら喚いた。
    酔っぱらい「ブレジネフのバカ、アル中、くたばりぞこない
    そこに駆けつけた
    K.G.B.「同志、静かにしたまえ、お前を逮捕する。」
    酔っぱらい「なに~、俺がなにをした。あーそうか 国家元首屈辱罪か」
    K.G.B.「ちがう、国家重要機密漏洩罪だ」

    これはソ連時代の笑い話だが、国家にとっての重要機密が雪だるま
    式に膨れ上がっているのが現在のアメリカだ。

    9.11アメリカ同時多発テロ以降、「テロとの戦い」を最重要課題と
    したアメリカで留まるところを知らずに膨れ上がる情報機関と
    情報産業の実態を10年に渡り取材した著者の渾身の作品が本書。

    既にエドワード・スノーデン氏によって告発された令状なしの
    盗聴や検閲は勿論、「アメリカにとっての脅威」とされた人物
    の指名殺害。ぜ~んぶ「トップシークレット」にしてしまえば、
    一般市民は自国が何をしているのか知る由もない。

    情報機関の組織は増え、それに伴って機密を扱う資格を持つ人間
    も増える。次々に「トップシークレット」に指定される情報の
    分析をこなすのにいっぱいいっぱいで、その情報を活用しきれない。

    金食い虫だ。アメリカの一般市が納める税金が、湯水のごとく
    情報機関に、民間の情報産業につぎ込まれて行く。

    9.11の首謀者とされたウサマ・ビンラディンは既にシールズに
    よって殺害された(これはアメリカの憲法が禁止している暗殺
    だと思うわ)。

    それでも、アメリカからテロの脅威は去らない。そりゃそうだろう。
    無人機を飛ばし、テロ容疑というだけで人を暗殺し、一般人を
    巻き添えにする。これで反米感情を持つなという方が無理だろう。

    機密にがんじがらめになり、巨額な予算をつぎ込んで、国民の
    プライバシーをないがしろにする。これが「自由の国」アメリカ
    の現実だ。

    何もアメリカだけの話じゃない。日本でも特定秘密保護法が施行
    される。その運用については非常に曖昧だ。日本の自衛隊が
    アメリカの軍や情報機関のような暗殺を行うとは思わないが、
    この法案の運用次第では日本にも近い将来、金食い虫になる
    機関が生まれるのではないか。

    アメリカは未だ「テロとの戦い」に勝利していない。手にを得ない
    ほどに膨れ上がった情報機関と情報産業がまともに機能していた
    のなら、あのボストン・マラソンでのテロは防げたのではないか。

    最終章で機密と言われる情報の流出現場を、著者が目撃した場面が
    描かれている。幾重ものセキュリティで守っても所詮は人間が扱う
    もの。流出の可能性はゼロではない。

    多くの機密を作り出したはいいが、実は迷宮と化しているじゃない
    のか?自国にどれだけの国家機密があって、それがどのように活か
    されているか。全体を把握している人間はいないんだろうな。

    テロの恐怖を煽り、国家安全保障という錦の御旗を掲げて、それ自体
    が正体不明になっているようだ。これが近い将来の日本の姿にならない
    ことを祈る。

    尚、無人機による指名殺害を繰り返すアメリカ・オバマ大統領からは
    ノーベル平和賞をはく奪してくれないだろうか。

  • 借りて読む。
    ・全体的にパキスタンとかで活動しているアメリカの活動は全部CIAと思ってたけど、そんなことはなかった
    ・DNI長官は権限がなくて機能していなかった(今はわからない)
    ・ホワイトハウスの要請などでJSOC(統合特殊作戦コマンド)がサイバーも含めた能力を9.11以降着実に肥大していて、既存インテリジェンス・コミュニティーの領域を侵食している
    ・CIAなどの情報機関の活動は実態があきらかになった場合に否認できる。軍の場合否認はできない。
    →選挙など内政に干渉する作戦はいぜんとして情報機関しか実施できないということか

  • 911がアメリカにもたらしたもの。対テロの名のもとに作られた「カネのなる木」、「報復ゲーム」、そして「国家総トップシークレット化」。それはいわば、歪んだ「夜警国家」とも呼ぶべき究極の疑心暗鬼社会。興味深いのは、アルカイダの脅威が一段落ついた今、本来ならば911以前の社会に向けてソフトランディングしてもいいようなものだが、そこに現れた新たな脅威は、対テロ予算縮小を懸念する国内の民間団体。政府との癒着網を構築し、既にサイバーセキュリティとインテリジェンス市場を確保しているようだ。一度甘い汁を吸うと止められない人間の本性。ナオミ・クラインのショックドクトリンが霞んで見えてしまうぐらいの衝撃を受けた。

  • 4〜5

  • 【109冊目】9.11以降、無制限に(組織も人員も予算も)増殖し続けるアメリカのインテリジェンス機関の問題を鋭く突いた本。いわゆる興味本位の暴露本類ではなく、今のアメリカのどこに問題があるのかを真摯に告発する「ジャーナリズム」の本。

    いわゆる興味本位の暴露本であれば、政府は国民を監視しているとか、ビンラディンが死亡という説は陰謀であるとか、そういう類の話が書かれるけれど、本書は違う。
    機密指定された情報が多くなり過ぎ、作戦の遂行に支障をきたしているとか、非効率的な行政運営になってしまい、然るべき立場の人が自組織の活動の全体像を把握できていないとか。あるいは、インテリジェンスにつぎ込む予算を医療や犯罪対処に回すべきなのではないかとか。

    行政的な視点から読んでも面白かったけど、ショッキングだったのは「無人機作戦」と題された第10章。アメリカにいながらにして、アフガン等の外国で何人殺害するかということが決定されていく過程が描写されていた。中でも、民間人の犠牲が何人出るかということが作戦決定の計算の中に組み込まれていることがショック。やっぱり、外国で武力を行使するということは、こういう現実と向き合うことなんだなぁ、と。

    あと、秘密保全法に興味がある人の参考文献にもなると思う。大量に機密指定された情報がどういった弊害をもたらしているのか。まぁ、アメリカと日本は同じ状況にはならないと思うけれど。

    ※追記
    この本はSnowden以前に書かれた本です。

  • 特定秘密保護法成立後の日本もまず間違いなくアメリカの足跡を辿るのだろう。誰も理由を説明できない情報管理に膨大なコストをかけながら。本当にひどい話。

  • 911後のアメリカにおける対テロ産業及び
    軍、官の現状について詳細にレポートした一冊。
    対テロを名目に機密が機密を呼び、
    生じたカネによって産業が起こる有様と、
    それによりできあがった異常とも言えるシステムを解説する。
    注が多いがそれなりに読みやすく、面白い。

  • 始まりは、ひとつの秘密だった。
    一つの秘密を隠すために、次の秘密が生まれ、そしてその秘密を隠すために、次の秘密が生まれていった。
    すべての秘密に触れる資格がある限られた人はいたが、秘密が多すぎて、その人でもすべての秘密をみることができなくなった。そして、秘密のすべてを理解しているひとは、誰もいなくなってしまったのかもしれない。

    911テロ発生以後、ブッシュ政権の下で急速に拡大したテロとの戦い。そして、それに伴い休息に拡大していった、アメリカの秘密主義。
    テロと戦うために得た情報は、秘密。その情報を扱う人は秘密。その情報を元に行う作戦内容は秘密。その作戦行動を行う人の情報は秘密、その作戦行動を行う人を選定する人の情報は秘密。秘密は、秘密を産み、さらに秘密を再生産する。
    その秘密の元で、すべての国民は監視され、無人機は作られそして国内の空すら無人機のカバーの下にある。捕虜は、秘密に作られた秘密収容所で、秘密に拷問されている。

    昨年、我が国でも特定秘密保護法が成立し、国家の秘密を守ることが明文化された。ただし、秘密の概念は「等」という言葉によって曖昧なものにされた。
    秘密は「等」をもつことによって、拡大解釈し再生産することが可能になる。
    そして、秘密にかかわる人員は増大し、軍産複合体による秘密ビジネスは、原子力ムラに代わる新たなビジネスとして発展しうる。
    まさに、いま、我が国はそんな段階にあるのではないだろうか?

    そして、とても大事なことは、この「トップ・シークレット・アメリカ」は、情報公開ルールが整備されたアメリカだから書けたということ。
    情報公開の概念すらほとんど持たない我が国の秘密、そして政府・官僚の行動には疑問をはさまない方針とすら思える我が国のマスメディア、ジャーナリストたちプレイヤーの下では本書は決して書かれる事がないだろう。

  • 情報保護法が話題になっているが、アメリカでは機密指定が多すぎて、最早誰も全体増がわからなくなって税金が軍需産業と膨張する対テロ組織に食い潰されている実態を生々しく描き出している。
    対テロということでタガがはずれてしまい、組織も予算も縮小出来ない様はなにか原子力ムラと似たところがあります。
    一読の価値あります。

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著者プロフィール

ワシントンポスト紙記者。国防省や情報機関についての調査報道で知られる。CIA の対テロリズム活動の取材などによって2 度、ピュリツァー賞を受賞。

「2013年 『トップ・シークレット・アメリカ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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