文庫 果てなき渇望 (草思社文庫 ま 1-2)

著者 :
  • 草思社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219039

作品紹介・あらすじ

仕事も家族も犠牲にし、禁止薬物に手を出してまで、なぜボディ・ビルダーたちは異形の巨躯にこだわるのか。人間の意識の深淵に迫る。文春ベスト・スポーツノンフィクション第1位。

感想・レビュー・書評

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  • ボディビルに憑かれた人々を書いたノンフィクション。
    アメリカの世界大会などの超メジャーな大会を除けば、優勝してもメダルが貰えるだけで賞金がでるわけでもない、それなのに何故そこまで自分の体を虐め抜き、生活を犠牲にして、果てににはドーピングにまで手を出してまでボディビルに拘るのか?
    自己顕示欲?自己実現欲求?性への反逆?単純にどこまで大きくなれるのかという疑問?
    徹底的に管理したスケジュール・食生活の元で己の身体を肥大化させ、コンテスト前には過激なダイエットで体を絞り、理想的な体型を手に入れる。
    それは一般的な美的感覚とは異なり、異形とまで言えるような肉体である。
    何が彼ら・彼女らをそこまで惹きつけるのか?
    ボディビルは肉体的な強さよりも、精神的な強さを必要とする競技だ。
    最後の最後まで挫折せず、最後にもう一回、あともう一回だけ持ち上げることが出来た者にだけ勝利は舞い込んでくる。
    鍛錬という自分との戦いを他者と対戦する競技へと昇華させたボディビルは面白いですね。
    確かにボディビルダーは異形な体型(特にドーピングしてる人たちは)だけど、どこかに根源的な美しさがあると思います。
    正直ああいう風になれるならなってみたいですね。
    そこまで鍛える精神力も才能もないですけどw
    ボディビルが、1つずつ着実にステップアップでき、その度にそれを実感でき、達成感を得て、それでいて誰でも出来る競技っていうのは言われてみれば確かにそうですね。

    男性・女性・ためらいもなくドーピングする人・シニア
    それぞれの話がどれも濃密で面白かったです。
    自分の知らない世界はたくさんあるなー。

    本文中に理想的な体型が書いてある(文庫版p107~108)ですけど、想像してみると強烈ですよw

  • 100冊ビブリオバトル@オンライン第8ゲームで紹介された本です。オンライン開催。
    2020.08.22〜23

  • 怖さも感じるノンフィクション。色々な世界がある。

  • ようやく読むことのできた本。
    一部匿名で出てくるものがありますが
    すでに該当人物は大会履歴を見てしまえば
    容易に特定可能ですし特定されています。

    やはり一番言われるのは禁止薬物ですね。
    私も鍛えている人(大会には出んよ)の
    一人ではありますがあれを使ったものは
    正直「気持ち悪い」に尽きるんですよね。
    不自然なんですよ。

    その一方で生涯競技としての
    ボディビルも出てきます。
    この作品が出た当時は今のようにSNSも
    動画投稿サイトも発達していなかったので
    より一層視線は厳しかったはずです。

    レジェンドですらやっかみを受けるほどだったんですから…

  • 女性ボディビルダーとステロイドユーザーのところがおもしろい

  • ストイックさに共感できるところもあり、振り切れてるところに驚きももちながら、楽しく読みました。

  • ボディービルに取り組む(取り憑かれたとも言える)人達を扱ったノンフィクション。ボディービルと言えば、正直なところマイナースポーツという印象は否定できないと思います。この競技を、男性ビルダー、女性ビルダー、ドーピング、生涯スポーツという4つの面から描いています。
    より大きな筋肉を得るために内蔵にダメージを被るまで追い込むトレーニングに取り組み、体脂肪を落としつつ筋肉を落とさないために食事制限と減量を並行して進め、コンテスト前にはより筋肉を際立たせるためにボクサー並みの減量や水分の制限にまで取り組む男性ビルダーの様子。
    より大きな筋肉を欲しつつもコンテストでは”女性らしさ”を求められ、自分の体の理想像と、コンテストで求められる美しさとのギャップに悩む女性ビルダー。
    究極の体形を求めて、自らの健康を阻害することを承知の上で禁止薬物を利用する男性ビルダー。理想的な筋肉を得る事を目的とするなら、薬物の効果は絶大で、それ故にボディービルはオリンピック種目にそぐわないとまで言い切る様子に共感はできませんが、そこまで分かったうえで禁止薬物の使用を続けるのなら、それはその人の生き方の問題なのかなとも思えます。
    ただし大部分のボディービルダーはドーピング検査をきちんと受けて、禁止薬物とは無縁の競技生活を続けていることを付記しておきます。上述したのはあくまでも極端なケースです。
    ”世間がグロテスクと嗤うなら、それでもいい。むしろ世間の基準から大きく逸脱した肉体である方がうれしい。”このように自らの望みを語る男性ビルダー。なかなかマスコミで取り上げられることのない競技の実情に、ここまで深く掘り下げたノンフィクションは滅多にお目にかかれません。20年近く前に出版された本なので、ボディービル界の現情とは乖離しているかもしれませんが、興味深く読めました。ちなみに本書は2000年文藝春秋ベストスポーツノンフィクション第1位受賞作です。

  • ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞
    筋肉の呪縛◆コンテスト◆女子ビルダー◆禁止薬物◆生涯をかけて

  • ボディビルに取り憑かれた人たちを描いたノンフィクション。
    コンテスト、女子ビルダー、禁止薬物、生涯をかけての4章から構成されています。

    渇望ってタイトルがぴったりはまりますね。
    望んでも手に入らない、完全なる肉体。
    登場人物はそれぞれやり方は違えども、皆それを求めて
    取り憑かれたように、ボディビルに打ち込んでいます。
    なかでも、禁止薬物の章が面白いというか興味深かった。

    ボディビルのノンフィクションは少ないから、とても興味深く読めました。

  • ノンフィクションとしては、異色の出来だと思います。
    一気に読んでしまいました。扱うテーマがボディービルダーというのも、
    かなりマイナーです。
    彼ら、彼女達が、なぜ、それほど肉体改造に、狂信ともいえる姿勢で、
    望んでいるのか、その理由を垣間見ることができました。

    ある偶然で出会ったものに、惹かれていくというのは、よくあることです。
    それは、野球でもサッカーでも、テニスでも、本質は変わりません。
    それらには、技術をどんどん上達したいという成長欲の他に、
    社会的なステータスを獲得したい、また獲得できる機会があります。

    しかし、ボディービルディングでは、仮に日本一になっても、
    それだけで食っていくことはかなり困難です。
    また、やはり周囲の好奇な目も強い。
    私自身も、筋肉を増やして、それをキレイに見せて、いったい何になるのかと思っていますが、
    この著作を読んで、彼ら、彼女達も、同じ疑問にぶつかっていることが、非常に意外でした。
    知っているけど、やめられないという状態です。

    個人的にはボディービルは、欧米の個人主義と切っても切れない関係だと思います。
    鍛えれば鍛えるほど、筋肉が増えるという理論と実践は、
    客観的に何事も把握したい、数字化できないと落ち着かないという
    欧米の文化にぴったりの競技だと思います。

    また、大きな視点で見れば、今は、努力と結果が、
    結びつかない時代ということにも関係があるかもしれません。
    生活全般、また仕事にしても、不確定要素があまりに多く、
    自分でコントロールすることは、至難の業です。
    よって、多くの人が日常的に不安を抱えています。

    そういった状況の中で、人は、何かに打ち込むことができて、
    それが、自分の精神上の安定につながるものを求めてしまいます。
    それは、ボディビルダー達の多くが、元から非常に恵まれた身体ではないことでもわかります。
    一種のコンプレックスと、不安を打ち消したいという動機があります。

    狂信的にトレーニングをして、その結果が筋肉の量と質に転化することが快感につながり、
    本人の自信になっているのなら、それは、とても良いものだと思います。

    ただ、何事も限度というものがあります。バランスとか、中庸という言葉がありますが、
    あまりに狂信的に何かを突き詰めて行うと、やはり、バランスが崩れます。
    その崩れた例は、この著作でも、述べられています。
    筋肉を増やすためだけに、薬物を使用するというのは、
    その最たる例だと思います。もちろん副作用を知っての行為です。

    ボディビルはあくまで手段で、目的は、健全な肉体と精神の維持、向上に努めるというのが、
    大前提だと思いますが、そこに競技における勝ち負けという要素が入り、
    また、それに深く魅せられた者は、手段と目的を混同するようになります。

    傍目から見て、完全にバランスを失っていると思われますが、本人達もそれをよくわかっています。
    筋肉を増やすためなら、どうなったっていいという状態が、個人的には、非常に興味があります。
    それは、筋肉じゃなくても、別にいいからです。お金に置き換えても、まったく同じだと思います。

    なんで、この著作が面白いのかと思ったら、やはり、バランスが崩れているからだと思います。
    生活も仕事もバランスよくこなして、そして、趣味のボディビルも、バランスよくこなして、
    常に日本一になっていますという物語を聞いても、「凄いですね」で終わってしまいます。

    やはり、人間は、不可解かつ、理解不能なことをしてしまう面があることを認識する必要があります。
    今は法律に照らして、道徳的な、バランスの良い人間が善しとされていますが、そんな人間は、空想上のものです。
    多くの人が、バランスを失って生きています。
    その失い方に、美学があるとするならば、ボディビルダー達のバランスの失い方は、
    非常に、美しいと、個人的には思います。

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著者プロフィール

増田 晶文(ますだ・まさふみ)
作家。1960年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。人間の「果てなき渇望」を通底テーマに、さまざまなモチーフの作品を発表している。文芸作品に『稀代の本屋 蔦屋重三郎』(草思社文庫)、『S.O.P.大阪遷都プロジェクト――七人のけったいな仲間たち』(ヨシモトブックス)、『ジョーの夢』(講談社)、『エデュケーション』(新潮社)など。デビュー作『果てなき渇望』で文藝春秋ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞および文春ベスト・スポーツノンフィクション第1位を獲得、『フィリピデスの懊悩』(『速すぎたランナー』に改題)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。日本酒の神髄を描いた『うまい日本酒はどこにある?』『増補版・うまい日本酒をつくる人たち』(ともに草思社文庫)も話題に。

「2021年 『文庫 絵師の魂 渓斎英泉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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