ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと

  • 青土社
3.94
  • (12)
  • (12)
  • (10)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 162
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791773978

作品紹介・あらすじ

なぜアフリカのアスリートは足が速いのか
男子マラソン世界記録TOP5のうち3人のランナーはエチオピア人であり、多くのエリートランナーが輩出される――。ランナーたちは標高3200メートルのエントト山にこもり、午前3時から薄い大気の中でトレーニングを開始する。時には岩山に寝泊まりし、時にはハイエナがうろつくサバンナでトレーニングを続けるものもいる。彼らは、マラソンの世界記録を樹立することにより夢を実現できると信じて過酷なトレーニングを続けている。フルマラソンを2時間20分で走るエジンバラ大学の社会文化人類学の准教授が、15ヵ月にわたりエチオピアのランナー達とトレーニングを共にしたフィールドワークの記録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • エチオピア人の考えや練習方法を知ることができました。"ジグザク走"やってみたくなりました。

  •  悪い本じゃないけど、ランしようというモチベを上げるものじゃなかった(あまりにもすごすぎて)。
     というか、むしろ、そういう内容じゃなく、エチオピアという国に、いかにマラソンが文化として — スポーツという枠をはるかに超えて — 国民の生活に強く結びついているかを解き明かす、現地に入り込んで体験してきたルポルタージュだ。

     また、アフリカ諸国のランナーが一様に速いことに関して、「人種的身体能力」や「日々、走ってるから」、あるいは「貧しいから」というステレオタイプな認識を改めてもくれる。
     これはエチオピアの国民性なのかどうかは分からないが、彼らはけっして身体能力に任せて走りまくって強くなったのではないということも良く分かる。

    「成功するランナーは、足を動かす前に目で見て頭で考えるランナーである。」

    「才能や生まれつきの能力ではなく、成功するランナーは練習をうまく計画して、管理する能力に長けているランナー」

     マラソンは斯様に、思索的であり、ある意味、近代的な管理能力も問われる極めて高度なスポーツであるということも認識させられる。なにより「賢く走る」ことが求められるのがマラソンなのだ。

     このレポが成功したのは、なにより著者自身が2:20:53でフルマラソンを走れる超エリートランナー兼学者(文化人類学)だったということだろう。そんな彼でも集団走にまともにはついていけないながらも、共に走り、彼らと密に過ごしたことで導き出された結論は、実に説得力があった。「参与観察」という調査手法らしいが、この著者をして初めて成し遂げられたことだろう。 異邦人としてではなく、同じランナー仲間と徐々に認められるクダリは印象深い。

     かつての宗主国から来て、上から目線で、研究対象としてエチオピアのランニング文化を眺めていただけれでは得られなかった貴重な体験と気づきは、この著者をしてでしか無しえなかった成果だったろうと思う。

    「練習では主に仲間と一緒に走る。これはエネルギーを分かち合うことである。」

     彼らは決して1人では練習はしない。それは「健康のために走る人がやること」だという。ではなぜ集団で走るのか? それは「自分を変えるため」。
     うーん、なんかものすごい教訓が含まれていそうだ。確かに、部活の集団走には意味があったなと、思い出される。それで、人生を変える、ってことはなかったけど、それがエチオピアではあり得るのだ。

     エチオピア文化に根ざす集団性、その中での切磋琢磨、そして理知的な思考と人生観。あれこれメカラウロコの好著。

  • アフリカのアスリートの見方が変わる本です。
    ただ走っているだけでなく科学的な部分も取り入れつつ経験的な部分の練習もやっており、ただやみくもにやってあの成績が出ているわけではない事を知れました。弛まぬ努力がある。そして、1人じゃなくやはり仲間で競い合っていかなければならないこと、走る事に夢があることなど色々と気づかせてもらいました。
    そして、ここに出てくるエチオピアのランナーのタイムは速いですね。私は到底一緒に走れません。

  • 文化人類学者のマイケル・クローリー。
    フルマラソン 2時間20分ぐらいのランナーでもある。
    エチオピアのランナーの練習に入ってランニング文化を知る、考察する。

    標高3,200m
    考えただけでも息苦しい!

    17
    “走ることはたしかに苦しいが、他のスポーツでは味わえない、自分の中にある深いものを掘り起こしてくれるような感覚”

    19
    “成功するのは、足を動かす前に、目で見て、頭で考えるランナーだ。感情だけで走る者は成功しない”

    ハードな練習をたくさんやっても、楽にはならない、速くなるだけだ…
    速くなるためのトレーニングだから、いつまでたっても楽になることはない。

    エチオピアの人は成功して大金を得るために、お金のために走る。

    森の中、自然の中で、自然からの力を得て走る。
    非科学的なものも信じ、走る。

    練習する環境を与えられたものだけが練習できる。
    練習すれば勝てると思っている。

    仲間と走ることは重要。

    “走ることは生きること”

    エチオピア選手のようにハードなことはできないけど、走ることは生きることを実感する様々な要素が詰まってるから、やめようと思わないんだろうなぁ。

  • 男子は2時間8分切り、私はエチオピアで知り合ったアスリートが(マラソンで人生を変える)と語っていた時に目指していた数字だ。

    アルコールは禁止だ。それから彼女や彼氏も必要ない。


    ある程度の経済力がなければランニングには打ち込めない。

    誰と走るかと同じ位重要なのがどこを走るかだ。

    1人で走るのは健康のため。

  • これを読むととにかく走りたくなる。
    そういう本

  • エチオピアのランナーはどのような生活をし、練習をしているのか。人類学者で、自らもフルマラソンを2時間20分で走る著者が、エチオピアのランニングクラブのメンバーと1年3か月の間、生活を共にした記録です。

    ・レースで賞金をもらうことで人生を変えたいと願うランナーたちの走ることに対する姿勢は真剣そのもの
    ・シューズが買え、クラブに入れるようなある程度経済力のある人しかランナーにはなれない
    ・練習は集団で一定のペースで走る。前のランナーの足を見て、同じリズムで走る。一人で走ることはあまりない(夜中にハイエナに襲われる危険があるからという理由もある)
    ・森の中、トラックで走るのが基本。アスファルトで走るのは週に1回だけ

    エチオピアのランナーが大切にしているのは、仲間との絆、自然との共生、自分を信じること、夢にチャレンジすること。速くて強いランナーが次々と出てくる理由がわかる気がします。

    いつかそのうち、森の中や草の上を自由に走れる環境に住み、走ってみたいものです。

  • 仕事で十数年ぶりにエチオピアに本格的に関わるようになり、そのタイミングで定期購読しているランニング雑誌にこの本が紹介されていて、偶然、すぐに手に入る状況に恵まれたので、買って一気に読了。

    フルマラソン2時間20分台の文化人類学者であるイギリス人の著者が、エチオピアで1年以上、エチオピア人ランナーと過ごして間近で彼らを観察し、一緒に走ることで、エチオピア人にとっての「走ること」の意味や動機をリアルに伝えている。

    「お金が無くて靴が買えない」「片道数時間の道のりを走って学校に通う子ども」といった偏見は、本書では一蹴されている。世界のマラソン大会で鎬を削るエチオピア人は実際のところ、ある程度の経済的な余裕がなければその舞台まで辿り着けないようである。
    また、世界トップクラスに速いランナーだからこそ、「足場の悪い場所を遅く走る」ことが重視されているところなどは、ファルトレクやトレイルランの効果を裏付けているようで、同じくランナーの端くれとしては、こういう情報が取れるだけでも面白い。この本を読んでから、普段のランニングで芝生や未舗装の道を探して距離を踏むようになった。
    そして、トップクラスのランナーたちは孤独に走ることはせず、必ず誰かと一緒に走ることや、ペースメーカーを交代して務めて「集団として速く走る」ことを当然としているというのも、面白い発見だった。速いからこそ孤独に走るのかと思いきや、真実は逆。周りと協力するからこそ個人としても全体としても速くなる、というのは、最高峰のマラソン大会のトップ争いを見ていると納得できる。

    エチオピア人ランナーにとって、世界規模のマラソン大会に出場し、勝つことは文字通り人生を大逆転させ、親族も含めて富裕層の仲間入りをするための必須条件。ただし、うまく走れるかどうかは努力の積み重ねの結果というよりも、「自分が勝つと定められたかどうか」といった、ある種の霊的な考え方があるらしい。
    多額の賞金が出るような世界規模の大会であっても、30キロあたりでトップ集団にいられなかった時は意外なほどにアッサリとレースを止めるランナーがエチオピア人に多いのは、そういう「今回は自分の番ではなかった」という考え方が根底にあるからなのかもしれない。五輪も含めて、大きな大会で途中棄権するランナーが多いことが前々から不思議だったが、この本のおかげで、少しだけその謎が解けた気がする。

  • 物性研の所内者、柏地区共通事務センター職員の方のみ借りることができます。
    東大OPACには登録されていません。

    貸出:物性研図書室にある借用証へ記入してください
    返却:物性研図書室へ返却してください

  • エチオピアン・ドリーム。

    うっとりするような言葉。

    そのために、食事も、睡眠も、息抜きですらランニングのために行う。

    エチオピアで『走る』ということは、趣味ですることではないようだ。

    生きるために走る。

    日本人でそんなランナーはいるのだろうか。

全25件中 1 - 10件を表示

マイケル・クローリーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×