小説の設計図(メカニクス)

著者 :
  • 青土社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791763955

感想・レビュー・書評

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  • いい小説とはどんなものか?
    読者を感動させるもの。これに間違いありません。
    たとえば太宰の『走れメロス』。人々は感動し、男の友情に胸を熱くします。

    ただ、これは本当に名作なのか?
    落ち着いて冷静に読んでみると、メロスは短絡的で独り合点で猪突猛進型の迷惑男。
    周りを振り回してばかりいます。
    そんな読み方をした評論です。

    著者の分析にかかると、作品の表向きの顔とは違う、あやしげな位置関係が浮かび上がってきたりするのがすごいところ。
    まるであぶりだしされた手紙のようです。
    紹介されるのは、小説5作と漫画1作。
    川上弘美の『センセイの鞄』は、女性なら涙なしには読めないような作品ですが、実はセンセイとヒロインは、SM的な支配-従属関係だったという著者。
    それが、文中に挿入されたたった1行から明らかになっているのだそうです。

    小川洋子が『博士の愛した数式』の語り手である家政婦の語り落とし(見落とし)を恣意的に利用することで、作品の虚構性をいかに排除しているかも、著者の解説にかかるとクリアに見えてきます。
    「ノーヒット・ノーランのゲームを興奮して観戦することができるのは、試合全体を俯瞰できる者だけだ」
    たしかにその通りですね。指摘されないと気が付かないのは、私の読解力の至らなさと作者の技術力の高さでしょう。
    専門的な難解さのため、よくわからない章もありますが、久しぶりにきちんとした文学評論を読んだ気分。

    巧みに隠された作者の意図を読み解いていくと、作品はまた違う様相を見せてくるものだと語ります。
    著者は作品批判をしているわけではなく、小説作法の技法を解説し、隠された「小説の設計図」を見せてくれており、非常に注意深くテキストを読み込むことで、またちがう作品の読み取り方ができるということを教えてくれています。

    たしかに・・・メロスはよく考えれば面倒な男です!

  • 難しいところは飛ばした。少々くどくて、私には難しすぎることが書かれていてわかりませんでした。

    過去に『センセイの鞄』『博士の愛した数式』を読んだけど、私はちっとも感動できなくて、違和感しかなかったのが気になって、それで中古で買ってこの本を読んでみた。

    センセイと月子のただならぬカンケイ。わ、わかるぞー!ここまで深く考察できなかったけど、純愛でないことは確かで「ふむふむ、なるほど」読んでよかったなと思いました。小川洋子さんも同じ。考察が深くて、もう一度読み直してみよう。
    松浦さんの『葬儀の日』と『犬身』気になるなぁ。

  • 玄人からの評判も良い作家たちの、いわゆる代表作に関する論考。それもあって、既に読んだものないし、近い将来読む予定のものばかり。各作品に対する書評というより、それぞれを通して見えてくる作家像とか、周辺作品の紹介とかを通しての文学論、っていう感じ。未だ、どうしても目先の楽しさを求めてしまう読み手としては、小難しいというか、理解が面倒な内容も多かったのは事実。やっぱり結局、自分は文学からは縁遠く、専らエンタメしかダメなんかな、と改めて思わされちゃいました。

  • 2008年3月20日、初、並、帯付
    2016年12月8日、津BF

  • 文学批評。
    文書の構成、言葉を客観的に見つめる。
    物語に隠された記号を読み解く。
    いやいや、それはという程無茶苦茶な読み方も多いがそれはそれで面白い。
    物語の面白さを再確認。

  • 先生の授業をもう一度受けたくなります。
    「疑うこと」の楽しさと深さを初めて知り、小説ってなんなのか、考えるようになりました。
    斜めから逆さまから世界を見るような視点がたまらないです!

  • 一つ一つの話の筋は分かるが全体を通すと分からないというところで、
    おそらく万人受けはしないだろうし、その難解さにギブアップするのも分かるが、
    ひとつひとつのヒントが実は、恣意的に読書という体験をカスタマイズし、
    小説を再構築するという働きを呼び起こしていて、非常に発展的にものを解釈する力を
    養ってくれると、僕は思った。
    初読ではあきらかに、作品背景の基礎知識が不足だったので再読は必要。

  • 小川洋子『博士の愛した数式』分析は、へ、へーってな感じで面白かったです。ルートのあの頭はそういえばそうだ(ひょっとしてみんな気がついていたのか?)。数字は表のテーマだけじゃなく背景にもさまざまなところにちりばめられていたのか。

  • 「博士の愛した数式」、「センセイの鞄」などをこの著書名通り丁寧に噛み砕いて中身を見せてくれてます。

    「センセイの鞄」の映画とか本の感想で感動したとかいうのがよくあって、わたしは川上弘美さんは初期の作品しか読んでいないからなんだか想像がつかなかったけど、この本を読んで、あーやっぱり川上弘美じゃないかぁとどこか安心したりした。

    芥川賞とった人がお涙頂戴の売れ線に走ってるのかと思ってなんか悲しかったから、とりあえず読んでみようという気になった。

  • 早稲田文学編集長の別名「前田塁」名義。扱っている作家は、特別読解が難しいものではなく、川上弘美や小川洋子などなので読みやすいと思う。

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