恋する文化人類学者

著者 :
  • 世界思想社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784790716457

作品紹介・あらすじ

これは恋の物語であり、異文化交流の物語である。アフリカで、著者は彼の地の女性アイドル歌手と恋に落ちた。結婚式は、8日間にわたる壮麗なものだった。激しい異文化の渦に巻き込まれた著者が、自らを素材に語る体験的入門書。ラヴ・ロマンス風文化人類学入門。

感想・レビュー・書評

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  • コート・ジヴォワールで現地の有名な歌手・ダンサーと結婚した日本人の文化人類学者が、自らの体験をもとに「文化人類学とはなにか」を描いた、文化人類学の入門書。

    しっかり文化人類学の基礎の基礎を学ぶことができ、同時に面白く著者の経験を読むことができた。特に、著者は結婚という、社会や文化によってあり方が大きく異なるど真ん中に突っ込んで行った。本人の経験をもとにした話はいつでも面白いが、本人がよく知らないうちに即席「スズキ家」が結成され、それを相手方も許容する(というか、鈴木さんのまんまの家族は文化が違いすぎるので、現地流の結婚のためには、本当は血縁がないことがわかっていても「即席スズキ家」が必須)というのがめちゃめちゃ面白かった。

    私も文化人類学を、ほーーーんの少しだけ齧ったけれど、文化人類学の「異文化を理解しよう」とする学問の姿勢自体が好きなんだよね。
    この本を読んで、もともとは「人は同じ方向に向けて進化する。未開の地の現地人は遅れているから啓蒙しなくては=進化論」というところからはじまった文化人類学が、いろいろな経緯を経て、人と人のつながりや他者を理解するために変わってきている様子を見て、学問で面白いし、良くも悪くもいつまでたっても水物だなぁと思った。


    メモ 文化人類学の歴史的な流れ
    進化論→すべての人類は野蛮な状態から文明化された状態と少しずつ進化していく。その過程は皆同じだが、何故か進化の程度は、地域により民族により人種により大きな差があり、それぞれが異なる段階にいるようである。人類の文化が多様なのは実はこの進化の段階の違いによるものである。例えば、生業について言えば、狩猟採集から牧畜を経ての声宗教について言えば、あみにぃズムから多神教して一神教へと言う具合である。そして己の進化の頂点に立つのが、ヨーロッパの白人である彼らは最も優秀であるから、最も早く進化したと言うわけだ。
    ↓ 流石に違くない?
    伝播主義→世界各地に類似した文化が存在しているが、これらはどういう関係にあるのかシンクロによれば、人類全てが同じプロセスの進化を遂げるのであるから、2つの離れた初回が同じ文化良さを持っていた場合、それは同レベルの進化過程に位置していると解釈される。だが、それより何らかの事情である地点の文化要素が別の地点に伝播したと考えた方が合理的なのではないだろうか。
    ↓ あっと驚く新理論
    機能主義→社会はそれ自体独自のものであり、1つの閉じたミクロコスモスとして捉えなければならない。他の社会との進化のレベルの違いとか、隣の社会からどんなものが伝播したかと言うようなことではなく、当該社会そのものがどのような社会構造を持ち、どのような価値観を共有しているのかと言うことが重要であるフィールドワークと言う調査方法を採用することで、それらを社会の内側から理解して行かねばならない慣習や社会的制度が、社会構造の維持のためにどのように機能するかということが問題とされた。
    代表 マリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』とラドクリフ=ブラウンの『アンダマン島民』
    ↓ まだ進化するよ!
    構造主義→人間の知性に焦点を当て、その働きが文化によりどのように異なるのかを分析する。しかしこれは違うことを証明するためではない。ほんとに一見違う文化現象をその根底まで突き詰めて分析することで、実は人類は同じ知的構造を共有していることが明らかになる。構造主義の構造は、機能主義における社会構造とは全く違うものである。

    代表 レヴィストロース

  • フィールドワーク自体はたぶん好きなんだと思う
    「働くことの人類学」を読んでもフィールドワークで得られた知見を読むのは面白い

    ただ文化人類学の理論的なところになるとなんだかとたんに興味が失せてくる…

  • ノンフィクション

  • 文化人類学者という人々が行っている『フィールドワーク』というものがどういうものかを『結婚』という要素からわかりやすく説明している。
    (私的なエピソードを省いているところがよろしわるし)

    以下読書メモ

    『婚姻とは女性の交換である』➡︎氏制に取り込まれるというのはどういうことか

    アフリカのステレオタイプにウンザリ➡︎動物、貧困、ジャンベなどの音楽 様々な民族があるのにアフリカ人としてしか認識していない。

    結婚式のプロセス➡︎分離、通過儀礼、統合

    冗談関係➡︎からかったり、冷やかしたりしてもある一定の信頼関係があれば二者間の関係性にひびが入る事はない。ただ何が冗談で何が無礼かを見極める必要性がある。

  • 文化人類学者が行った先のアフリカで現地のダンサーと結婚し、そこでの実体験を文化人類学の基礎をひもときながら解説する。著者の意図する通り、状況的にも面白く、文化人類学の知識が意図せず入ってkる。

    まずは彼女の民族名を通じて、状況に応じた呼称の使い分け。
    8日に渡る結婚式の儀式を通じて、分離儀礼、過度儀礼、統合儀礼の局面を紹介。また結婚の申し込みにあたって、現地に身寄りのない自分が知人を使って一族を形成し、血族と血族が結びつくのが結婚だという事例を紹介する。また結婚後彼女の親族との関係が親密になる中で日本では失われたであろう、いとこや、叔母、叔父とのつながりを記述する。

  • 文化人類学の入門書として、とてもおもしろく身になった。
    内容は、コートジボワールの女性と結婚した文化人類学者の著者が、
    その経験を実体験と文化人類学的な視点からわかりやすく解説するというもの。

    1、文化人類学を学問として学んだ著者が、一般向けにわかりやすく書いていること。
    2、自分の実体験にもとづいて、結婚というパーソナルな経験を(文化人類学者の視点も忘れずに)書いていること。
    この2点を満たす本はなかなかないだろう。

    これだけでももちろん興味深いのだが、
    個人的には、とこどどころに書かれている著者の歩みや
    考え方などに惹かれた部分がある。
    結婚というのは、おそらく都会から離れるほど、
    しきたりやその文化のシステムに組み込まれがちだ。
    この本では、現代日本の都会人には想像しにくい
    さまざまなシステムを理解するための視点を提供してくれている。

    それなのに、文化人類学者という、
    異文化を理解するある意味スペシャリストをもってしても、
    最後のほうに著者は、
    「イージー・ライダーのように自由を求めて日本を出て海外に出たのに、部族社会での結婚という、自由とは正反対の立場におかれた」
    「いつかまたイージー・ライダーのようにまた旅立つ日が来るのか。それとも地縁と血縁にまみれながら、自由の境地に達する日がくるのか」
    といった趣旨のことを短く書いている。
    正直、この著者の言葉は、本書の構成のなかでは
    少し飛躍しているというか、若干浮いている印象がある。
    それだからこそ、この結論には著者の心のあり方や
    さまざまな思いを感じさせられた。

  • 面白くて一気に読んでしまいました!
    僕自身は小さいころ、祖父の関係で大学に来ているケニアの人や中国の人がホームステイに来ていた記憶はありますが、その後はいわゆる国際的な異文化交流の経験はないままです。
    それでも在宅医療で色んな家やその家族をみることで日本にも多様性があるなぁ、と思っていましたが、以前読んだ「玄関開けたら異文化ワールド」って言葉により納得です。家族志向ではないですが、結婚期はお互いの文化のすり合わせでもありますしね、文化は意外と身近にあるものですね。
    解説もわかりやすく、文化人類学の入門としてはとてもよい本だと思います。

  • おもしろかったです。
    文化人類学者の日本人が研究対象だったコートジボワールの女の子と結婚した話なのですが、奥さんとの馴れ初めの話とか具体的な日常の話はそんなになくて、ほぼ文化人類学の入門書です。
    ケーススタディに奥さんのことや自分の結婚式のことを使ってるくらいです。

    短くて読みやすいのでちょっと読み足りないところもありましたが、事例もおもしろく、過去の文化人類学者がどう考えて今の理論が出来上がったかなどが紹介されていてよかったです。

  • アフリカ女性との結婚の一部始終が書かれているのだと期待して読んだら、違っていた。どちらかというと文化人類学に興味を持ってもらうための撒き餌のような感じで、本人のなれそめは断片的にしか書かれてなかった。そこの部分こそが読みたかったので残念。格好つけずにあらわにして欲しかった。

  • コートボジワールのストリートミュージックの調査にいった若者が現地のアイドルと恋に落ち結婚した。

    いまや大学の教授となった著者が当時を振り返り、文化人類学とはどういう学問であるかを自分の体験を横糸に、文化人類学の歴史的発展を縦糸に織り込んだのがこの本。

    恋のなれそめもあまりかかれておらず、彼女の魅力もあまり掛かれていないので 題名に引かれてよむと肩透かし。

    文化人類学になじみのない人にもわかるような解説がありがたい。

    youtubeで奥さんの属していた女性3人ユニットの映像をみたが 即座にだれか奥さんかわからないことが面白かった。

    結婚の意味や家族、親族の意義などアフリカのことを鏡に人類について考えることができる良書、

    それでも もっとエピソードをよみたかったなぁ。

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著者プロフィール

国士舘大学教授。
専攻は文化人類学。慶應義塾大学出身。西アフリカの都市音楽およびマンデのグリオ文化を研究。妻はギニア出身の歌手・ダンサーで、マンデのグリオでもあるニャマ・カンテ。調査と家族づきあいが渾然一体となった生活を楽しむ日々を過ごす。
主な著書:
『ストリートの歌――現代アフリカの若者文化』(世界思想社、2000年、渋沢・クローデル賞〈現代フランス・エッセー賞〉受賞)
『恋する文化人類学者――結婚を通して異文化を理解する』(世界思想社、2015年)
主な訳書:
エレン・リー『アフリカン・ロッカーズ――ワールド・ビート・ドキュメント』(JICC出版局、1992年)
エレン・リー『ルーツ・オヴ・レゲエ――最初のラスタ レナード・ハウエルの生涯』(音楽之友社、2003年)
マビヌオリ・カヨデ・イドウ『フェラ・クティ――戦うアフロ・ビートの伝説』(晶文社、1998年)
レヴィ=ストロース『神話論理 Ⅳ――2』(共訳、みすず書房、2010年)

「2015年 『アフリカン・ポップス!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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