宇多田ヒカルの言葉

  • エムオン・エンタテインメント
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784789736817

作品紹介・あらすじ

14歳から現在に至るまで。デビュー20周年を迎えた宇多田ヒカルが発表した全75編の日本語詞を執筆順に掲載。宇多田ヒカルとその作品にあてた文章を各界の8名が寄稿。石川竜一/糸井重里/小田和正/河瀬直美/最果タヒ/SKY‐HI/水野良樹(いきものがかり)/吉本ばなな(五十音順・敬称略)

感想・レビュー・書評

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  • 1998年から2017年までに出たアルバムの歌詞集です。 まえがきの中で、宇多田ヒカルが、
     一貫しているのは、作品の中に作者の自我の痕跡を残さないような作風と、アルバムごとに、日本語とより真摯に向き合ってきたことだろうか。
    と、書いているのをよんで、その前に、2010ー2017年にでた、第三期に分けられた作品群について、
     それまでになく己をさらけ出すような作品も、それまでになくフィクション性の高い作品も登場する。と、書かれていたので、  己をさらけ出す事と 自我を表す事とは、違うんだ、と考えさせられました。
    宇多田ヒカルの作品の中でSAKURAドロップス、という歌が、一番好き、という訳では無いのですが、
     好きで好きでどうしようもない
     それとこれとは関係ない
    という歌のフレーズが、頭の中をめぐる時が、しょっちゅうあります。 宇多田ヒカルの魔法にかかったように。
    宇多田ヒカルこそが、好きで好きでどうしようもない存在です。 好きな歌詞、歌、たくさんたくさんあるのですが、、、

    「Another Chance」

    口笛ふけない君
    静かにくちずさんだメロディー
    play backしてる

    きみの涙の振動
    空気をつたわって
    腕をかすかにふれた瞬間

    太陽まぶしくて見逃しちゃったシグナル
    ひとりでいるのには
    広すぎる星 Give me another chance

    こころ重ねると浮かび上がる
    いろ模様
    こんなに natural な感覚が
    間違ってるわけないのに
    記憶のすき間からのぞくと消える
    あの模様
    どんなに遠くはなれても
    あきらめられるはずない   (後略)

    、、、どこか、自分も感じたことがあるような心待ちを、こんなに、繊細に、表現できるんだ、凄い、と思いました。

    「誰かの願いが叶うころ」

    小さなことで大事なものを失った
    冷たい指輪が私に光ってみせた
    「今さえあればいい」と言ったけど そうじゃなかった
    あなたへ続くドアが音もなく消えた  (後略)

    、、、せつない歌詞に心惹かれてしまいます。

    「嵐の女神」

    嵐の女神 あなたには敵わない

    心の隙間を埋めてくれるものを
    探して 何度も遠回りしたよ

    たくさんの愛を受けて育ったこと
    どうしてぼくらは忘れてしまうの

    嵐の後の風はあなたの香り

    嵐の通り道歩いて帰ろう
    忙しき世界の片隅

    受け入れることが愛なら
    「許し」ってなに?きっと・・・

    与えられるものじゃなく、与えるもの
    どうして私は待ってばかりいたんだろ

    お母さんに会いたい

    分かり合えるのも 生きていればこそ
    今なら言えるよ ほんとのありがとう

    こんなに青い空は見たことがない

    私を迎えに行こう お帰りなさい
    小さなベッドで おやすみ


    、、、唐突に、 お母さんに会いたい  という歌詞が、心をギュッと、締め付けられます。

    寄稿文を、吉本ばなな、最果タヒ、水野良樹、SKYーHI、石川竜一、河瀬直美、糸井重里、小田和正、の面々が、載せてあったのも、味わい深かったです。
    糸井重里の、
      メロディに乗せて歌えば、水彩画のように淡くあいまいに微笑んでくれるような ガラスの欠片は、無音の詩のなかにあったら、凶器にさえなるような落し物だった。
    という文章が、特に心に残りました。
    あと、「桜流し」の歌詞が好きです。

    (前略)
    もう二度と会えないなんて信じられない
    まだ何も伝えてない
    まだ何も伝えてない

    開いたばかりの花が散るのを
    見ていた木立の遣る瀬無きかな

    どんなに怖くたって目を逸らさないよ
    全ての終わりに愛があるなら


     

  • ミュージシャン・宇多田ヒカルさんが20周年をむかえた2017年12月に発刊された全75編の日本語詞を執筆順に収録した本です。

    宇多田ヒカルさんの音楽史をじっくりと、そして客観的に眺めていくと、三期に分かつことができることに気付くと思います。本書はそういった分かち方をして、合い間で二度区切りながら全日本語歌詞を掲載していく体裁です。

    まず一期は14歳で書いた最初の歌詞からはじまり、1stアルバム『First Love』と2ndアルバム『Distance』までの1998-2001の期間。この時期の歌詞は、10代で書いたものにしても、未熟であるとか稚拙であるとかという言葉を安易にぶつけてしまうならばそれはまるで歌詞を読んでいないことと同義になると思います。自分の脚でしっかりと立ちながら、少女が己の生命まるごとから生みだしているのが彼女の歌詞だからです。少なくはない淋しさや悲しみや怒りや苦しみを感じながら、日々を、きっと力の出ない日などもありながら、しかと生きる道を踏みしめながら生きてきたからこそ書ける言葉たちでしょう。彼女のデビュー当時から僕は彼女の音楽に親しんできましたが、こうやって書籍というかたちでサウンドやメロディーそして声から切り離された形で彼女の歌詞作品にあらためて触れてみると、そうハッとして気付くことになりました。

    無限の葛藤と格闘しながら(それはたぶん今だって続いているのでしょう)培われていく強さ。その強さが確かな客観性をももたらしているのではないか、そう判断したくなるような彼女の歌詞にあるプロフェッショナル性。ちゃんと作品として世に見せる・聞かせる体裁をわかっている出来映えなんです。主観が強くて客観が弱ければ、内容だとか印象のバランスが悪くなったりすると思うんです。それにこれは歌詞というジャンルで、さらにどうやらメロディが先の書き方の歌詞だということですから、字数の制限があるなかで作らないといけない。構築していったり整えたりする客観性がしっかりいていないとできない仕事ではないでしょうか。

    この時期の歌詞に、僕はひりひりと乾いた感覚を覚えます。そして、芯はあるけれど細い言葉たちだという印象。それはそれでとても美しいのです。でも、そんな歌詞から立ち現われてくる心象なり心理なりが受け手へと瞬間的にずどんと伝わる。乾いた端正な文章だけで終わらず、そういったものが出現するのです。これは、書き手の魂(ハート)が燃えているからだろうし、そうであるからこそ芸術を仕事に出来るのでしょう。

    そして、こうしてメロディーや歌声と分離して言葉だけを味わったがためにわかることがありました。宇多田ヒカルさんの声のすごさです。彼女の声でこの言葉たちが発せられると、情感も表現も、その奥深さや謎なんていうものも、100倍くらい複雑かつ豊かになっていることに気付けました。神秘的だと言いたいくらい、不可思議だと首をひねりたいくらいの彼女の声の素晴らしい力なんです。もともと歌声が好きでしたが、より立体的に彼女の歌声というものを理解できたような気がします。

    長くなりました。さて、では二期へ。二期は3rdアルバム『DEEP RIVER』、4thアルバム『ULTRA BLUE』、5thアルバム『HEART STATION』の2001-2008の時期です。この時期は、歌詞に作家性が強くなっています。よりフィクショナルで、技巧で築き上げていく歌詞。一期の、身体性に基づくひりひりしたものがちょっと影をひそめている作品がちらほらでてきている感じがします。実験的なやり方を試すなどして、自分の書き手としての力量を拡大していたのかもしれません。「traveling」だとか「光」だとかが大ヒットして、コアなファンが増えた時期でもあるのではないでしょうか。

    続いて三期。BESTアルバム『SINGLE COLLECTION VOL.2』、6thアルバム『Fantome』、シングル「Forevermore」、「大空で抱きしめて」、「あなた」の2010-2017の時期です。BEST版のあと彼女は一旦表立ったミュージシャン活動を休止しました。そしてその後、再開します。この時期は一期の、感性的な書き方に回帰しながら、その深度は高くなっているし語彙力も技術も高まっていて、ひとりの表現者として結実した時期であると見てもよいのではないでしょうか。結実しながら、今後、変化したり発展したり進化したりするでしょうが、ひとつの「宇多田ヒカル」というタイプの成熟形となった時期だと僕は考えます。この時期の歌では「真夏の通り雨」が僕のなかではもっとも心を捉えられて、当時から聞くたびにざわざわがおさまらないくらいです。ずっとリピートし続けていたいのですがそれがはばかれるような気もして、消費しつくさないように(消費しつくされない強度のある曲ですけども)大切に聞きつづけています。今回、歌詞だけ読んでも、「ああ、すごいな」と感じ入りました。この時期は、お母様のこともあって、そういった事情を考えながら読むと、また一段と歌詞の理解に近づける気がしました(誤解してしまってるかもしれないですが)。

    というようにですね、宇多田ヒカルさんは闘ってこられた方であって、そうした過程で磨きがかかっている。必死に生きてきたら表現者として磨きがかかっていた、というところはしっかりあると思います。もともと容姿がきれいな方ですけど、顔つきもどんどん美しくなっていきますよね。あまりに美しいから、前にNHKの『SONGS』に出演されたときには忘れず録画をし、録画終了後、即効でメディアに保存しました。いつでも見直せます。

    それはいいとして。本書は20周年のささやかな記録でありながらも、あらためて宇多田ヒカルという表現者をみなおす、あるいは再発見するための役割すらもっています。彼女の歌が好きだったなあ、好きだった頃があってその頃を思い出すなあ、という方にとっても、正面から向き合って彼女の表現を受けとめようとするならば、とても価値ある読書時間となり得ます。僕にはとてもよい時間でした。……いろいろ聞き直そうかなあ。

    • りまのさん
      ますく555さん
      こんにちは。はじめまして!
      宇多田ヒカルさん大ファンの、りまのです。
      心が震えるような、素晴らしいレビューを、ありがとうご...
      ますく555さん
      こんにちは。はじめまして!
      宇多田ヒカルさん大ファンの、りまのです。
      心が震えるような、素晴らしいレビューを、ありがとうございます!
      いいね 10コくらい、付けたい気持ちです!
      感動しました!

      りまの
      2022/03/05
    • ますく555さん
      りまのさん、はじめまして! うれしいコメントをありがとうございます。
      この歌詞集には、宇多田ヒカルさんの心が息づいていると思います。それだ...
      りまのさん、はじめまして! うれしいコメントをありがとうございます。
      この歌詞集には、宇多田ヒカルさんの心が息づいていると思います。それだけしっかりと、彼女が一作品ごとに心血を注いでこられた証でしょう。
      宇多田ヒカルさんの大ファンであるりまのさんから、このレビューに共感頂けたことで、なんだか書いてよかったなあというような満ち足りた気分になっていますー。
      ありがとうございます!
      2022/03/05
  • えー、やや大仰に、しかも長々と書きます笑。

    宇多田ヒカルさん(←さんづけ)について今さら何を言えるものでもないのであるが、私のイメージは「仏師」である。

    なにやら密室に潜り込んで真剣な顔でコンコンと何かを彫り進めている。様々な角度からためつすがめつして試行錯誤している風ではあるがその内面は窺いしれない。
    しかしほどなくして、えーとできました、と作品を置いていく。それに気づいたひとはなんとなく佇んで見惚れて、あるいは聴き惚れてしまい、ふと我に返ると一礼して手を合わせて去っていく。
    そう、もうその楽曲群は尊い仏様に近いのである。

    だから、というか、こう言ってはなんだが宇多田ヒカルは決してライブでカリスマを爆発させるタイプではない。気恥ずかしそうに、むしろちょっとオドオドさえしながら満場の観衆にそれでも精一杯の共感を示そうとしている。オーディエンスもそんな彼女を仰ぎ見ながら全くもってロックンロールぽくない仕方で静かに満たされている。
    マタイの福音書にある、集まり過ぎた群衆にイエスがほんのわずかな魚とパンを配ると、皆が満腹になった、というあれである。

    聖書、といえば、かんがえても見てほしい。
    エヴァンゲリオンの新劇場版四部作は、宇多田ヒカルなしには成立しない。映像にフィットした音楽とかいう次元ではなく、もはや宇多田的世界観にエヴァがシンクロして再起動したというか暴走したというか、言うなれば宇多田の主題によるエヴァンゲリオン変奏曲とでもいうべき作品になっているではないか。

    というわけで、要するに宇多田ヒカルは仏師でもあり、そして預言者でもあるのである。

    「私の声が 聞こえてますか? 午前1時の Heart Station 今もぼくらをつないでる 秘密のヘルツ」
    それを感じ取ろうと、リスナーは多分皆それぞれ独りで、ヘッドホン越しにそのヘルツを感じとる。

    で、宇多田ヒカルの詩集を読んでみた。
    なんつう言葉選びだ、、、という場面は多々ある。

    「戦争の始まりを知らせる放送も アクティビストの足音も届かない この部屋にいたい もう少し」

    って、、、いったいアクティビストを歌詞に織り込む歌い手が他にどれだけいるというのか。つまり(宇多田ヒカル本人かは別として)この歌の主人公は、戦争と暴走する金融資本主義に何より心を脅かされているんだろう。これが預言でなくてなんであろうか。

    が、実は詩集として宇多田ヒカルの言葉を読むというよりはやはり音楽とパッケージであるほうが好きである。「初めてのルーブルは なんてことはなかったわ」は、やはりあのカランコロンのサンプリングの後に響いてほしい。

    んじゃなんで手に取ったんだ、というと、小田和正の寄稿が読みたかったからである。
    彼のこころに一番響いていたのは、「降り止まぬ 真夏の通り雨」の一節。そうか、降り止まないのか、通り雨は、、、とまさに立ち尽くすかのような文章。
    オフコース時代の名曲に、

    「あたたかい雨の降る水曜日 少しだけ心も落ち着いた 夕方には 晴れるから」

    という歌詞があったが、思えばこの歌が男の心情だとするならば、降り止まないわよこの通り雨は、というのは女性からの応答のようにさえ思える。

    いや、なんかすごいよ。
    というわけで妄想言説はこの辺で。

  • デビュー20周年を記念した日本語詞75篇の歌詞集
    吉本ばななさんや小田和正さんなどが寄稿されています。
    手に取っただけで胸が高鳴る…

    宇多田さんは以前、タワレコのポスターで今はどんな時代だと思うかその中での音楽の役割とは?という問いに対して「時代と関係ないところで生きてきたので分かりません」「音楽に責任はありません」と答えていました。とても印象に残っています。

    初期の頃の宇多田さんは「何が起きたっていいじゃん
    楽しいことをするよ。恋したり失恋したりしながらさ」と言いながら夜のネオンと月と星の空を軽やかに駆け抜けていた。 背後に不安や何かの予感を背負いながら。いつも飄々としながらも切なく歌っていたような気がします。
    でも今、地に足が着いて立ち止まった宇多田さんが歌う歌はどんどん輪郭がはっきりしていく。悲しいことが起こったら悲しい 楽しいことは楽しい 愛してるだけが愛じゃない 好きだから一緒にいれない 好きだった 嫌だった もっと一緒にいたかった。

    歌詞はどんどん深化してるのに宇多田さん自身はいろんなものを脱ぎ去って軽やかになっていく。

    きっとこれからも宇多田ヒカルの歌を口ずさみながら生きていくんだなと思える1冊でした。


    • naosunayaさん
      すごくいい文章ですね
      すごくいい文章ですね
      2021/10/14
  • 音楽はメロディと歌詞の二重構想の中で成り立ち、こんなにもマッチする音楽を作れる彼女は本当に才能があり、カリスマ性がある。彼女の言葉は誰もが一度は口にしなくても考えたことがある言葉が幾多にあり、共感できるのではないだろうか。彼女の中には常に明と暗、光と影の表裏一体した感情がセットされていて、その思考を言語化できる能力があり、本当に素晴らしい人だ。大好き。

  • 宇多田ヒカルの曲をそんなに聞いていないかも。と思っていたら知っている曲ばかり。
    自然に聞いていたんだなぁ。
    すごく引っ張り上げてくれるというわけではなくて、自然に腑に落ちるというか。そこにいてくれるような印象。光とか桜とか願いとか。
    個として存在する人。

  • デビューから、20周年ライブ前に親友からプレゼントとしてもらって、読んだ。

    ライブの想い出とともに、読んだ。
    良いことも、悪いことも、全て彼女を構成してて、
    歌を通して、彼女の感情を感じられる。

    20年やったからこそ、
    どの時代を切り取ってもすごく素敵なアーティストだと思う。

    思いのままに行動することって素敵だなぁ。

  • 学生(らいすた)ミニコメント
    宇多田ヒカルの歌詞集です。元気を出したいときに読んでみてほしいです

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/658327

  • 宇多田ヒカルについて語る人たちの言葉の部分が好き。難しかったけど、宇多田ヒカルはすごいんだ。

  • 歌詞。
    萩原朔太郎を読みたい。

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