天使たちの都市 (韓国文学セレクション)

  • 新泉社
3.75
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本棚登録 : 56
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787722232

作品紹介・あらすじ

《遠のく女にわたしは訊いてみたかった。
 これからわたしはどこへ行くべきか、どこへ向かうべきなのか——。》

傷つきながらも声をあげられずにいる人、社会から見捨てられた人たちへの、“同感”のまなざしが光る珠玉の短篇集。

米国に養子に出され、十五年ぶりに一時帰国した十九歳の〈きみ〉、結婚移民としてウズベキスタンから渡韓した高麗人三世の〈彼女〉、父の家庭内暴力の跡をからだじゅうに残している〈わたし〉——。
癒えない傷を抱えた人の心を繊細に描き、世代を超えて支持される七篇の中短篇。

「韓国人男性が女性にやさしいのは知ってるわ。韓国ドラマを毎日観てるから。これからはうちの姉も韓国人よね。だから韓国の男の人が韓国人女性に接するように、同じように大事にしてあげてね。お義兄さんに望むのはそれだけ」

「韓国人と結婚したからって韓国人になれるわけではないってことを、わたしもわからなかった。たとえ運良く韓国籍を取得したとしても、わたしは端から何者にもなれない境界線に佇む人間でしかないの。結局、わたしも父も、同じ列車に乗っていたってわけね。つまり……目的地を持たない貨物列車はいまなお走り続けているのよ。わたしは身ひとつで、行き先もわからない列車の中から外を眺めているだけ」

感想・レビュー・書評

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  • かそけき声を掬うような7作品
    どれも闇いろ、夜空の濃い藍色のなかに生きている人々の物語
    色のイメージがすんなりと登場人物の気持ちを伝えてくれる
    一瞬だけ明るい色がさすのだけれど。長続きはしない、社会のヘリに佇む人を描く。

    「そして、一週間」「背後に」がとくに好きだ
    共感しつつも怖い作品だった

    現代韓国文学の王道をゆく作家だと思うチョ・ヘジン
    新刊を必ず読みたい。

    扉絵がすばらしくて、見惚れた。

  • チョンは韓国語教師。韓国に来た外国人に韓国語を教えるのだ。彼らは最初三か月のコースに入ってくる。一日2時間で週に三日の授業だ。母語との大きな違いに彼らは戸惑い、二か月を過ぎると休みだす者が出てくる。そんな中で君は最後までクラスに出ていた。出席者が少なくてクラスが閉講になると彼に会う回数が増えた。(天使たちの都市より)趙海珍(조해진)の短編集。他者の心に視線を寄せる作品を書き続けているという。

  • この七編の小説の登場人物は全員背景がとても重い。
    海外養子についてはこれまでもよく小説やドラマ(韓流ヒットドラマにも普通に出て来る)にも出てきたし、朝鮮族も知っていたが高麗人三世とかウズベキスタンとのつながりとかまでは知らなかった。
    半島である韓国は日本より民族や国境に関わる色々な事情がある。
    また貧富の格差、競争社会のし烈さは有名だ。お金がほしい、それでなにかというわけではないけどお金が要る、この国では金が要ると顧客の金に手を付け家族を、最終的には自分自身という存在すら失ってしまう男やセクハラが横行する研修や舞台のチャンスを眼病で失ったことですべて無くす駆け出しの女優などその激しい社会に置いていかれてしまった人たちばかりが出て来る。
    「そして、一週間」の孤独から外国で突発的に性行為を行ってHIVに感染したかもしれない女性がとどめとばかりに「推している相手」からストーカー扱いされやんわりと出禁を食らう話、アイドルなどではなくそんなに有名でもなさそうなアナウンサーというのもきつい。彼女的には自分の身の丈にあった推し相手と判断してたのではと思えるし、その親近感を一方的に覚え拒絶されるのだから。

    けれどやりきれないほどのダメージを受けないのだ。キム・ヘジンやキム・エランの小説で受けるような苦しみの海に沈められるような感じはあまりしない。
    それはおそらく針さき程の光をそこにいれているからだと思う。「女に道を聞く」でナツメの木は死んではいなかった、そのなかに命があったという描写に通じるものがだいたいの小説にはある。
    訳者のあとがきを読むと色彩の描写がモノクロになる世界に差し込むことでその雰囲気を作っているようだ。彼女を見出したひとりがチョン・セランだったと知り、確かに彼女の世界にも通じるものがあるなと納得した。チョン・セランの小説は一見明るくきらきらしているけど「アンダー、サンダー、テンダー」のような一筋の光を描くのが彼女の真骨頂じゃないかと思うので。
    チョン・ヘジンのこの短編集の光は本当に細いけれどそれでもちゃんと世界を照らしている

  • https://cool.obirin.ac.jp/opac/volume/918330

    千駄ヶ谷にもあります

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著者プロフィール

1976年、ソウル生まれ。2004年『文芸中央』新人文学賞で登壇。13年に『ロ・ギワンに会った』で申東曄文学賞、16年に「散歩者の幸福」で李孝石文学賞、『夏を通り過ぎる』で無影文学賞、18年に『光の護衛』で白信愛文学賞など、数々の文学賞を受賞。19年には本作で第27回大山文学賞を受賞している。〈歴史的暴力〉に傷を負った人々に寄り添う作品を発表し続け、高い評価と幅広い読者の支持を得ている。

「2021年 『かけがえのない心』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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