絶望の林業

著者 :
  • 新泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787719195

作品紹介・あらすじ

「日本の林業は成長産業である」。
最近よく耳にする言葉です。その証左はどこにあるのでしょうか。そしていま、日本の林業現場で何が行われているのでしょうか?
補助金漬け、死傷者続出、低賃金、相次ぐ盗伐、非科学的な施策……。林業の現場には時代遅れで、悲惨な現状が隠されています。
若者の就労者が増えたことで、成長産業と期待されている日本林業。しかし、その実態は官製成長産業であり、補助金なくしては成り立たない日本の衰退産業の縮図といえます。
30年にわたり森林ジャーナリストとして日本の森、林業にかかわってきた田中淳夫だからこそ書けた、林業業界の不都合な真実に鋭く切り込んだ問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 民間業者に皆伐を任せて、その後の再植林は義務化しないという政府の方針に暗澹たる気持ちになって手にとったが、
    CLT材もバイオマスエネルギーも救世主にはならず…と本当に絶望いっぱいの内容だった。

    最後にこうすれば希望が生まれるのでは、ということが書いてあるが優秀なフォレスターを育てて地道に森林に手を入れていくしかない、と言うことなのだろう。

    林業が盛んなあの土地の図書館には所蔵していなかった、それはどうなんだろうと思った。もちろん再生エネルギー買取が終わって、CLT材の補助金がなくなった後のことまで考えて施策を打っていこうとされていると思うが、だからこそこう言う情報も提供していくのが図書館の役目じゃないのかなと思ったりした。

  •  現代日本の林業の課題を網羅的に解説した本。
     最近、木材自給率が上昇し、木材チップを使ったバイオマス発電や、木造建築の再評価など林業が注目され始めているが、現実はまったく楽観視できない状況であり、むしろ日本の林業が衰退に向かっていることを、森林ジャーナリストが独自の視点で語っている。

     表面的に盛り上がっているように見える日本の林業が衰退していく原因はいろいろあるが、林業自体がサイクルの長い産業であることと、もっとも大きいのは補助金に頼ってきた体質と、サプライチェーン全体を誰も把握できていないという前時代的な構造にありそうだ。
     次の文章からもかなり末期的な状況であることが感じられる。

    ”改革が必要、とは業界内でも何十年も前から言われ続けているのだが、正直、私にはどこから手を付けたらよいのかわからない。おそらく、ほとんどの林業関係者が改革の必要性を感じつつも、何をやったらよいのかわからず戸惑っているのではなかろうか。さらに言えば、やる気を失い改革自体に興味を持たなくなっている。
     そもそも林業は近代経済に馴染まない、とも思う。なぜなら商品(木材)が完成するまで、短くとも数十年かかるからだ。つまり、今から製造(植林)を始めて販売できるようになるまでのタイムラグが数十年あるわけだから、それは人間社会がつくる経済活動に適さないと思えるのだ。”(P.250~251)

     著者は、理想の林業は経済性と環境維持を両立して持続させることが重要と説く。そのための青写真を、うまくいっている数少ない林業家をヒントに描いて見せるが、驚くほど経営の要諦そのものになっている。それだけ、これまでの林業は補助金頼みで経営者が育ってこなかったこと、かたや環境維持ばかりに目を向けて経済性や付加価値を考えてこなかったことがわかってくる。
     今後、林業に関する報道を見るときは表面的な掘り下げになっていないか、見方が変わってきそう。

  • ないものねだりと文句をいうだけの、全く非生産的な内容。本当に林業のジャーナリストか疑いを持つ。自分なりのあるべきモデルもなく、時間の無駄だった。

  • そもそも林業はスパンが超長期
    素材としての用途が多いために低級が売れる
    長いスパンで育てたのに価格は二束三文
    そもそも山の境界線がわからない
    境界線の調べ方もかなり面倒
    外材のほうが安く品質もいい
    獣害対策や機械化は高コスト
    機械化すると仕事量を増やさないと効率減
    低間伐技術で他の木を傷つける
    木材流通の利害関係者が多い
    事故率15倍の労働環境
    労災に消極的な空気感
    補助金漬けゆえ補助金がないと動こうとしない
    災害復旧にも出動しないことも
    山主が地元にいないこともあるため無断伐採横行
    木材の在庫管理がガバガバ
    木育が小手先だけで無意味
    合板なら安い低級木材でも可
    産廃なのに未利用材と偽る業者
    国産材が輸出で売れるのは安いから
    ついに主伐にまで補助金が
    クリーンウッド法は抜け道だらけ
    むしろ林野庁が抜け道を教えている
    教育機関で教えられたことが現場の先輩がしてない
    耳の痛い視察アドバイスはスルーする林野庁
    任期中に成果を求める林政担当者


    林地は、ほかの金融資産と負の相関を持つことから、長期的には安定しており投資のポートフォリオに組み込める

  • 知り合いの大工さんに
    「こんなことが この国の山では…」
    と お話したところ

    全く、その通り!
    のお話が山ほど(!)出てまいりました

    それでも、僕(たち)は「木の家」を
    創っていきたいのです
    いきなり 暗い難しいお話をしても
    なかなか人は聞いてはくれないので
    こうやって 話が届いている人と
    この現状を語り合いたいのです

    日本には
    まだ この国の山を憂いている
    まだ この国の木を憂いている
    人が 少ないだろうけれど
    確実に いる

  • 戦前の薪や木炭による広葉樹林需要は、広葉樹林は趣旨から自然発芽するため、苗を植える習慣が無かった。
    戦後の高度経済成長期に、エネルギーが石炭、石油に代わり需要減、また建築ブームが起きたため、林を針葉樹林に転換していった。

    現在の日本の林業は、投資したコスト以上のリターンを見込めず、補助金を大量投入して食いつないでいる。→成長していない。
    買い手がいないから木材がだぶつき、市場価格が下がり、利益が出ず、仕事はいっぱいあるのに赤字状態。

    現在、日本では木余りにより「国産材を使おう」という政策が実施されている。しかし、これは木材の質を考慮しておらず、一番高いA材(建築用)は住宅減により売れず、それ以下のB材(合板用)、C材(チップ)、D材(燃料)ばかりが売れる。そうすると山林の所有者はA材の価格低下により儲けが出ない。安定して収益が生まれる構造になっていないのだ。

    間伐には「保育間伐(残した木の成長をよくする、使い道無し)」と、「利用間伐(売る)」の2つがある。間伐はオマケ行為ではない。また、列状間伐と切り捨て間伐の際、ずさんに作業すると、残った木を傷つける恐れもある。

    また、木材は他の建築材料と比べても安い。それなのに、家を建てる際になんとか安くしようとすると、たいていの建て主は木材部分の単価を削ろうとする。工務店も、仕入れルートが代わり高くなるため、国産材の代わりに外材を推そうとする。国産材は取り扱いが少量になるため、色々不都合なのだ。

    森林は境界線の確定が大変であり、所有者と隣の山林の所有者の協力のもと行わなければならないが、そこまでする価値がなく、放置する人が多い。

    また、事故率がかなり高く、安全意識も低い。

    森林組合が、とにかく補助金に依存(作業費の7割~10割)しているため、改革・カイゼンの意識が無い。また、大量の補助金によってモラルハザードを起こしている。

    ほとんどの利益を伐採業者・加工業者が持っていくため、肝心の山主にはまったく利益が入らない状態だ。

    建て主は木を好み、建築家は木を嫌う。

    木育という、木と子供たちが触れ合うイベントが各地であるが、「木のおもちゃで遊ばせるだけ」となりがち。肝心なのは、「自然界に対する知識と自らの行動をつなげ、未来を考える訓練をすること」。

    合板は、鉄筋コンクリートの基礎の型の部分や、建築部分にも多く使われるようになった。

    木質バイオマス発電はCO2の排出量がゼロ(木を燃やしたときに出るCO2と、その木が吸ってきたCO2が釣り合うという理論)だが、そもそも伐採、輸送の時に化石燃料を使っているため、ゼロではない。

    世界的にも日本的にも、森林面積は増えている。しかし増えているのは造林をした針葉樹林で、広葉樹林はどんどん数が少なくなっている。

    【輸出】
    中国向きのスギ丸太が一番輸出されている。その理由はなんと「世界一安い」から。質ではない。しかし、生育コストは「世界一高い」。また技術が低く、中国やベトナムの木材加工技術がどんどん上がっているため、ピンチ。

    間伐でスギ花粉は減らない。間伐すると空いたスペースに枝葉が広がり、日光もよく当たるようになるため、切った木以上に花粉が出る。

    【これからの林業を復活させるには】
    ・間伐材の利用を目的とした、多様な商品群の開発。付加価値を上げる。
    ・恒続林(定期的に間伐をし、間伐部分は自然の樹木が種子を落とし生えてくるように誘導、森を持続させていくような異年齢広針混交林)の生育
    ・長期的な視点で動く森林経営を支える別の収益源を持ち、分散投資と多角経営をする。
    ・森づくりを「森林生態系の健全化」を目標年、樹齢・樹種・製品の多様化を目指す。

    一般の市場では消費者の欲しがるものを生産して提供すべき(マーケット・イン)だが、林業にはそぐわない。プロダクトアウトであるべき。それには新技術、デザイン、売り方、宣伝、営業がカギを握る。

  • 友人が何を思いたったのか『林業王に!!!俺はなるっ!!!』とい言い出して、東京から家族を捨てて幸福度日本一のここ福井県で林業を始めた次第で、いや、家族は捨ててませんね、M一家の繁栄と長寿をお祈り申し上げます。
    さてこの『絶望の林業』。
    まさに絶望感でお腹一杯です。食後のコーヒーすら喉を通りません。なんと申しましょうか、絶望の一つとして林業での事故率が全産業平均の15倍と言う安全義務の低さ、まあ、これも『習うより慣れろ』の世界で始まり、慣れる前に死んでしまう若者、おいw結果高齢者しか残っておらず、死亡者の7割が50歳以上という、うーん絶望感。
    林業の救世主と言われたバイオマス燃料、セルロースナノファイバーの矛盾、補助金だらけの為に成長していかない業界、環境破壊へ繋がる伐採方法等、うーん絶望感。

    しかしです。筆者は最後に『希望の林業』を提言してくれています。是非このような林業界になるよう望み、そして我らのM君ならきっと変えてくれるはずです。
    ですのでM君、安全義務をしっかり遵守し、慣れる前に死んではいけません。心より成功をお祈り申し上げます。

  • ひと頃は落ち目産業とされていたが、このところポジティブな話題が取り上げられるようになった林業。そこに文字通り冷や水をぶっかける本書。

  • 配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
    https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01426709

  • 日本の林業における様々な課題や問題がわかる一冊。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『虚構の森』『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』 (イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)など多数。ほかに監訳書『フィンランド 虚像の森』(新泉社)がある。

「2023年 『山林王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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