国道16号線スタディーズ

  • 青弓社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787234353

作品紹介・あらすじ

ショッピングモールやチェーン店が立ち並ぶ「没個性的で均質的な空間」としてネガティブにイメージされがちな郊外だが、私たちは紋切り型で郊外を理解しているのではないか。

本書は、2000年代以降の郊外を国道というインフラとの関わりから考察する。具体的には、国道16号線――神奈川県横須賀市から千葉県富津市までの首都圏の郊外を環状に結ぶ、いわば郊外が濃縮された国道――を実際に車で走り、街を歩き、国道と土地の歴史の調査やトラックドライバーへのインタビューを積み重ね、現在の郊外とロードサイドのリアリティを描き出す。

同時に、16号線沿いの街を物語るテキストや表象――『ドキュメント72時間』『闇金ウシジマくん』『学校の近くの家』『木更津キャッツアイ』など――を読み解き、また鉄塔や霊園などのモノや空間にも目を向ける。それらの考察を通して、少子・高齢化や人口減少など、現代日本の郊外が抱える課題を明らかにし、郊外の現在を理解するための新しい視点を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 国道16号線にまつわる研究。郊外の一風景として殺伐とした没個性的な雰囲気を16号線的なるものと定義。社会学的な郊外論が語り損ねてきたことを16号線を走ったり歩いたりしながら解き明かす。

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  • 主に社会学を専門とする8名の研究者による研究会から生まれた、国道16号線を対象とした研究のアンソロジー。

    国道16号線のイメージとしては、ロードサイド型商業施設が立ち並ぶ郊外の環状線というものが強いのではないかと思う。本書によると、主に1990年代に郊外が商業マーケティングの世界でポジティブに取り上げられるようになり、これらの風景が形成されてきた。

    しかし、本書はこうして作られた風景を「ファスト風土」という紋切り型の視点から見るのではなく、沿道の各地域それぞれの「ジモト」の視点に立ちながら、国道16号線沿線の社会を研究しようとしたものである。

    1990年代の都心対郊外というヒエラルキーに基づく価値観から、2000年代の「ジモト」志向への転向という時代背景にも沿った視点であると思う。

    結果として、何か統一的な「国道16号線文化」が見えてくるというより、沿道の多様性が見えてきたようなアンソロジーになっていると感じた。

    それぞれの地域がそれぞれの歴史を抱えており、その背景が今の都市空間や社会の形成に大きな影響を与えている。

    横須賀街道が国道16号へと重ね書きされた横須賀・横浜区間では、商店街や旧跡が沿道に現れ、単なる幹線道路ではなく、街道の性格をもった空間が広がっている。

    基地や軍用地が多く立地していた相模原市の区間では、それらが転用された文教施設や大規模商業施設が立地し、それらの間を国道16号線が走りに抜けていく。

    一方で同じく基地の町でありながら、狭山や入間の地区では、基地が存続しながらもそのうちのいくつかは小学校や住宅地といった比較的日常的な施設用地へと転用され、地域社会の中に溶け込んでいく。

    千葉県内では、八千代のように70年代になるまで宅地開発がなされず、その後大規模団地や大規模霊園が立地するようになった地区がある一方、木更津のように東京の郊外というにはあまりに遠く、むしろ漁村から工業地帯へという土地利用転換が国道16号線の両側に対照的な街を発展させた地域もある。

    これらを見ていくと、何か統一的な国道16号線的風景があるとは見受けられない。

    しかし印象的だったのは、本書で紹介される国道16号線をテーマにしたテレビ番組での街頭インタビューで見られるように、それぞれの地域に住む人たちはそれぞれの「ジモト」を自らのものとして受け容れており、その「身の丈」の環境から幸福感を得ながら生活しているということである。

    都心から30~40km圏という距離感で、都市のヒエラルキーから自由になった生活圏の姿が描かれているように感じた。明治以降、首都圏という都市構造の中で都心をサポートする郊外として位置づけられてきたこれらの地域が、21世紀に入ってふたたびそれぞれの町としての存在に戻りつつあるのかもしれない。

    一方で、それぞれのジモトが形作られるプロセスの中で、国道16号線が果たした役割というのは、それほど大きくないように感じた。むしろ、存在感が弱いというのが、率直な印象である。

    本書の中でも「国道16号線はまちを作らない」、「まちの外を走り抜けていく」といったことが語られている。

    そうであれば「国道16号線」を語ることの意味はどこにあるのだろうか、ということも気になった。

    本書の第1章では、国道16号線は首都圏を作動させるOSであったとも書かれている。そして、そのOSは場所によってはアップデートされているが、別の場所ではすでにその沿線地域というアプリケーションには適合しない、古いOSになってしまっているとも述べられている。

    このような差異のある現状を「国道16号線」という横串で敢えて比較しながら見ることで、社会の移り変わりにインフラや都市空間がどのように適応していくのか、また適応できずにいるのかを考えることができるというのが、本書で得られた大切な視点だったのかもしれない。

  • 国(酷)道本ではありません。
    東京近郊をぐるっと一周する国道16号線を考察すること
    により、戦後の高度経済成長から現代の空き家問題を
    抱える自治体の悩みまで、すべての答えを導き出すこと
    ができるアカデミックな本です。

    まさに文化と歴史が詰まった国道16号線こそ「郊外」
    の象徴であることが非常によく理解できます。

    マイルドヤンキー達はそこら辺に多数生息している
    ことから、国道16号線をよく知らない人でも何となく
    想像できるのではないかと思います。

  • 東2法経図・6F開架 685.2A/Ts52k//K

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著者プロフィール

相模女子大学学芸学部講師。専攻はメディア文化論、都市研究。共編著に『国道16号線スタディーズ』、共著に『アイドル論の教科書』(ともに青弓社)、論文に「米軍基地文化の形成と展開」(「人間と社会の探求」第88号)など。

「2020年 『フーディー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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