消えた横浜娼婦たち 港のマリーの時代を巡って

著者 :
  • データ・ハウス
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781700168

作品紹介・あらすじ

港町ヨコハマに立ち続けた外国人相手の娼婦たち-港のマリー。昭和初期の名物娼婦「メリケンお浜」、戦後の"パンパン"の生き残りであった老娼婦「メリーさん」の二人を核に、横浜開港から現在までの裏面史を追った渾身のドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • ●著者自身の手による解説●

    横浜が「オシャレな街」と言われ出したのは、じつはそれほど古い話ではない。むかしは「エキゾチックな街」だったのだ。その当時、横浜にはある種の物語があり、よく映画の舞台になった。

    みなとみらいや山下公園、中華街といった観光化された場所にも語られない過去がある。その分かりやすい象徴として、本書では外国人専門娼婦を押し出した。「街のためになると思いますか」などと言われたが、本物のハマッ子はこういう反応はしない。
     
    馬車道にある県立歴史博物館に委託販売をお願いしたときのことだ。売店の責任者の方に「このタイトルですが、大丈夫でしょうか」と伺ったところ、「この辺りの人は、過去にこういう歴史があったということをよく知っています。来館者は男性が中心ですし、問題ありませんよ」と即答された。繰り返しになるが、横浜にはある種の物語がある。埋もれてしまった歴史もすくなくない。
     
    横浜港に出没したという海賊や密輸業者、船乗りの現地妻、根岸家のミステリー、作家・野坂昭如や漫画家・上村一夫らが取りあげた「メリケンお浜」など、掘り起こされた逸話の数々。「横浜が霧の街だった」という話などは、生粋のハマッ子でさえ意表をつかれると思う。

    本書制作に関して写真のセレクトにも力を入れた。神奈川新聞写真部OBの秘蔵写真は必見である。

    有名な「メリーさん」を取りあげた「横浜市民公認映画」ともいうべき「ヨコハマメリー」よりも数年遅れて発表したため、そこから一歩も二歩も進んだ取材をすることは必須だった。また「ヨコハマメリー」との差別化を図るため、あえて賛否両論分かれる記載やきわどい事実も公表した。批判に関しては甘んじて受け入れる覚悟だが、安っぽいスキャンダルに堕していないことだけは断言できる。

    取材中「メリーさんについて調べています」というと、見下されたような反応をされることが何度かあった。「横浜の黄金時代」を知る人たちにとって、メリーさんを取りあげることは小僧っ子の仕事に見えてしまうのだ。そこで改めてメリーさんを横浜史の流れの中で位置づけ、「かわいそうなパンパン」としてではなく、もっとちがう意味を持たせようと意図した。結果、メリー物語の解体と新しいロマンの付与が出来たと思いたい。

    今風の「ディープ横浜」という言葉では言い尽くせない内容に仕上がったと自負するが、いかがだろう。

  • 横浜は自らの手で何も生み出してこなかった都市だ、という一文が沁みる。IR誘致問題も結局そういうことなのではないだろうか。

  • 消えた横浜娼婦たち 読了
    中学の宿泊学習で、鎌倉・横浜に行った。そのとき初めて横浜について興味を持って、観光雑誌や何やら何冊も広げてみたけど、それは表の顔でしかなかった。
もし中学の私が今と同じ嗜好を持って横浜に行ったなら、きっと色々なものが見えたんじゃないかと思う。まあ、子供が近寄ってはいけない辺りだけど。
    戦前からの繁栄、戦後の復興。
今の綺麗な横浜しか知らない平成っ子の私には想像出来ないぐらい、横浜はカオスな土地だった。日本の上海。
出来る限りその面影を偲ぶものを、追い掛けてみたい

  • 横浜という街の歴史の、その陰の部分に存在し続けた娼婦たちに焦点を当てた本。

    というと、映画にもなった白塗りの老娼婦「ハマのメリーさん」の本であると思う人もいるかもしれないが(事実、メリーさんについては多くの分量が割かれているが)、しかし本書の主眼は必ずしもそこには置かれていない。本書が注目するのは、開港以来、港町横浜が様々に生み出してきた日本人娼婦と「異人さん」の間の物語である。

    遊郭(らしゃめん)、チャブ屋、外人バー、パンパンなどなど。時代とともに微妙に変遷しながらも、そうした娼婦の仕事が存在していた。

    メリーさんは、あくまでこうした無数の娼婦たちの中の一つのアイコンにすぎない、と著者は述べている。

    「奇しくも終戦後の横浜には「港のマリー」と呼ばれた女たちが何人もいた。すでに忘れ去られた存在だったが、年配者はメリーさんと結びつけて語る。さらにさかのぼれば、開港以降昭和四〇年ごろまで、横浜には外国人専用の娼婦たちの系譜が脈々と続いていた。メリーさんはこの系譜の末裔、横浜裏面史のアイコンである」(p187)


    ある種のエキゾチックさを伴ってイメージされた横浜という街が、「ただの大都市」になるまでの歴史を記録したものとも言える。横浜市民として一読の価値あり。「大岡川の向こう側」という章で、黄金町のことにも少し触れられている。

  •  横浜に縁のない人は全く興味が湧かない内容だと思います。でも少しでも地理感がある人には非常に興味深い内容です。データハウスの本なので、サブカル的なのかと思われそうですが、とても真面目な内容です。
     横浜市民なら誰もが知っている『横浜メリー』の話はとても興味深い。
     教科書のサブテキストとして採用してもいいくらいだと思います。

  • 横浜の風俗の変遷を追ったノンフィクションもの。
    結構丁寧かつ横浜に詳しくない人も楽しく読めるものになっている。

    読むと関内〜伊勢佐木町界隈〜大岡川沿いを散歩したくなる本。

  • ペリー来航から現代に至るまでの横浜の裏面史が語られている。スラムの中に分け入っていくような感じで、娼婦にスポットライトを当てていて、彼女たちのドラマが興味深い。

  • 春をひさいだハマのおんなたち。

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著者プロフィール

1970年東京生まれ。ノンフィクション作家。法政大学法学部政治学科にて戦後の横浜市の枠組みをつくった田村明のゼミで学ぶ。舞台活動を経て文筆業へ。著作に『ヴードゥー大全』(夏目書房)、『消えた横浜娼婦たち』(データハウス)。共著に『太平洋戦争―封印された闇の史実』(ミリオン出版)。

「2018年 『白い孤影 ヨコハマメリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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