夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く

著者 :
  • イースト・プレス
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感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781620121

感想・レビュー・書評

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  • 引き込まれ一気に読んだが何度も読み返したい。アントーノフ先生とは師弟関係より強い縁を感じていたのでは。出会った先生方や友達との交流はまさに一期一会。青春記であり、詩の鑑賞からロシア政情や世界の紛争まで考えさせられる本。

  • ロシア文学の言葉に浸る愉しさ、学び、知ることへの喜びに溢れている!本当に好きで好きでたまらないんだろうなあ。こんなに好きなことがあって、ある意味うらやましいとさえ思う。私自身はロシアの小説や詩に馴染みがないけれど、奈倉さんが留学していた文学大学の内容を知ると、ロシアでの文学への敬意の深さにおどろきました。

    そして奈倉さんは文学を学びつつ、留学先の先生、ルームメイト、クラスメイトとの日常の交流を通して、社会情勢や文化などに視点を広げ、自身の眼で観察、考察していくところもこの本の素晴らしいところ。ロシアとウクライナの関係などについても、現地に住んでいたからこそ体感していたものが率直に書かれていて、今のニュース報道とは別の方向から考えさせられます。

  • 大丈夫、ロシア文学の知識がなくてもそこそこ楽しめた笑 ただ列車に揺られるように身を任せ、筆者の記憶の広野を渡る。

    翻訳家である筆者の自伝なんだろうけど、彼女が大好きなロシア文学で彩られた紀行文にも見て取れる。こちらが作家や作品名を知らずとも、簡潔明瞭に解説してくれるおかげで、気になる作品もちらほら出てきた。(近寄り難くなった時には本書に助けを求めよう) そのかたわらで、真面目な筆者とルームメイトちゃん達とのやり取りがコミカルで可愛かったりする笑

    文学だけじゃなくて、ロシア語をマスターしていく筆者の成長も垣間見られ、気が付けば語学に一生懸命だった頃を回顧していた。「若い」&「目的がある」の条件さえ揃えば頑張れるのは頷ける。でも学習の中で筆者に訪れたという「思いがけない恍惚とした感覚」にはまだ至れていないんだよなー笑
    現地の大学進学を経て、看板にまで文学的ユーモアを見出した時には上達の早さもさる事ながら、「ついに来るところまで来ちゃったかー!」と圧倒された。(これぞ理想的なレベルアップ…)

    「語学をはじめたときにはただの記号だったものが、実態となり、さらに実感となる」

    ガイドブックに「最も警戒すべきは警官」と書いてあるような国にハタチになりたての子が単身で留学とは…留学中にテロや最寄駅では殺人事件も発生したりしてご本人やご家族も気が気じゃなかったと思う。本当に命があって良かった。。(ご家族の反応が明記されていない…という事はしょっちゅう衝突されていたのか?と近所のオバチャンみたいに勘繰っていた汗)

    筆者がテロの脅威にもめげずベランダで詩を朗読する姿を見ていると、これまで革命やらで殺気立った世の中をサバイブしてきた人達も、こうして言葉に救いを求めたから国内で文学が盛んになったのかなと思えてくる。

    後半以降はウクライナとの紛争等政治と絡めたエピソードが所狭しで、筆者の解説にしがみついていないと簡単に読み飛ばしてしまいそうだった。こちらは彼女が見た/見ている景色をただ眺めているだけだが、向こうで出来た大好きな友人や恩師を取り巻く環境を追わずにはいられない、追うことで少しでも彼らとの繋がりを感じていたいんだろうな。

    そう解釈した途端、自分は今まで自分の「大好き」と真剣に向き合えていなかった事を痛感、筆者の前で小さくなっていたのだった。

  • 『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』素晴らしい本です!|椿 由紀(Yuki Tsubaki)|note
    https://note.com/tsubaki_yuki/n/nde84828630c2

    話題の本:『夕暮れに夜明けの歌を』 奈倉有里著 イースト・プレス 1980円 | 週刊エコノミスト Online
    https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220308/se1/00m/020/074000d

    早春は残酷な記憶 人間の根よ、目覚めて驕るな 翻訳家・文芸評論家・鴻巣友季子〈朝日新聞文芸時評22年3月〉|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14590855

    書籍詳細 - 夕暮れに夜明けの歌を|イースト・プレス
    https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781620121

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    岩波書店 図書 2022年6月号
    <対談> 戦争文学で反戦を伝えるには
    逢坂冬馬、奈倉有里

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      女の本屋 > 著者・編集者からの紹介 > 奈倉有里・著『夕暮れに夜明けの歌を――文学を探しにロシアに行く』 ◆イーストプレス・穂原俊二 | ...
      女の本屋 > 著者・編集者からの紹介 > 奈倉有里・著『夕暮れに夜明けの歌を――文学を探しにロシアに行く』 ◆イーストプレス・穂原俊二 | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network
      https://wan.or.jp/article/show/10040#gsc.tab=0

      (インタビュー)ロシアの中の声 ロシア文学翻訳者・奈倉有里さん:朝日新聞デジタル(有料会員記事)
      https://www.asahi.com/articles/DA3S15314640.html
      2022/06/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      編集部便り〈その232〉文才に恵まれた姉弟
      「新潮新書」メールマガジン[461号] 2022年7月10日発行 | 新潮社
      https://w...
      編集部便り〈その232〉文才に恵まれた姉弟
      「新潮新書」メールマガジン[461号] 2022年7月10日発行 | 新潮社
      https://www.shinchosha.co.jp/mailmag/shinsho/shi20220710.html?shi20220710
      2022/07/12
  • なんて美しい本なんだろう。ひたひたと押し寄せてくる感動。早く読み進めたいけど、ゆっくりゆっくり味わいたい。と、おもいつつも、後半は泣きながら一気に読んでしまった。

    深い信頼とおもいやりに満ちた関係は、切ないけれども温かくて。自分自身が少しずつ生まれ変わり、いつのまにか、かつての自分といまの自分はまったくの別人というくらい内面が変わるような人に出会うということに深い感動があった。

    文学の力を信じ愛している人たちの思いにあふれた本。今この時期に読めてよかったとおもう。

  • ロシア文学者の著者によるロシア留学エッセイ。

    はじめに著者の言葉への愛に引き込まれ、最後にかけては目頭が熱くなる読書だった。最近(絵本は楽しんでるけど、活字の本で)特大ヒットがあんまり出てきてなかったので、余計に嬉しさを噛み締める素敵な時間でした。

    私にとっての本書の魅力の一つ目は、言葉と文学への愛。文学への愛を共有する学友との友情が甘やかに語られ、学問の喜びを教えてもらった恩師との特別な関係性が熱くそして静かに語られる。勉強にのめり込む様や、図書館に向かう情景が、自分の学生時代と重なる部分もあって胸がきゅっとした(著者ほどには熱心じゃなかったけど、それでも図書館に囲まれた木々から漏れ込む陽の光や、図書館の静けさのもたらす心地よさと、図書館で出会う書物から受ける知的興奮など、やっぱり贅沢な、良い思い出だな)。

    もう一つは、留学中の体験一つ一つから滲み出るロシアのお国柄。連邦制の時代から続く周辺国との繋がり・関係性からくる歪み、強権国家・ロシア正教を国教とするロシアの姿が炙り出され、断片的ではあるもののとても勉強になった。空気感が伝わったというか。
    『熱源』を読んで「日本のお隣さんなんだ」と気づかされたロシア、ウクライナ侵攻以降ますます「隣国としての付き合い方」を考えさせられるロシア。スローペースにはなってしまうけど、引き続き理解を深めていきたい。

  • 日々悲しいニュースが溢れるなか、まさに文字の羅列を無自覚に取り込むのではなく、思考に繋げる必要を感じた…
    巻末の地図を見ながら、文中の魅力的な人々と平和を想わずにいられない。
    僕にも本当に今読むべき本でした。

  • 星5では足りない。この本は今後、何度も読み返すことになる。
    "どうしたら「人と人を分断する」言葉ではなく「つなぐ」言葉を選んでいけるのか"
    文学の役割を信じて、善き読者でありたい。

  • ロシア文学の翻訳をされている奈倉有里さんのロシア/主にモスクワ留学中の文学にまみれた日々を綴るエッセイ。
    30話に分かれており、1話は短く非常に読みやすいのですが、著者の日本語表現が本当に巧みで、各エピソードが本当に美しく、先生も同級生も素敵なエピソードばかり、どんどん読むのがもったいない。

    ルームメイトのユーリャと罵倒語を使い心を通わせた日々、窓の外の雪景色に現れた鳥と魔法をかけられた瞬間、マーシャと数えた66歩+1歩、旧友と同じユリという著者の名前を愛でる巨匠、歴史図書館で出会う酔いどれアントーノフ先生、ニーチェを拒絶するオーリャ、徐々に言語統制が近づくロシア、そしてアントーノフ先生との別れ。

    もし自分の学生時代にこういう風にロシアを描く本を読んでいれば、ロシア世界にはまっていそう。一方、自分が大学生のころだとこの本に多く出てくる文学を愛する人たちの想いは理解が及ばない気もしたし、何より後半に”暗くなっていく”ロシアの風景は2020年代のリアルな風景。著者が描くように、やはり読書は出会いだと思いました。
    ロシアという国の解像度が変わった本。言語を学び新たな文化に触れることの慶びを感じるし、憧れを持つ。紅茶を飲みながら、じっくりと読みたい一冊です。

  • 米原万里さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読み終えた直後、不思議と引き寄せられるようにして、本書と出会った。奈倉さんのロシア語や文学への真っ直ぐな情熱や、留学で出会った恩師や友人との交流に心温まるものを感じた…で終わるのだと思っていたが、終盤になり思いの外テーマが広がり、良い意味で裏切られた。
    しかし、一貫して根底にあるのは「言葉」の持つ力についてではないだろうか。「人と人を分断する」言葉ではなく「つなぐ」言葉を選んでいけるのか―

    『嘘つきアーニャ』の読書記録の最後で、「こういう時代だからこそ、もっと彼女の発信を聞きたかったとつくづく思う」というようなことを記した。勿論米原さん奈倉さんはロシア語を学んだという共通点はあるものの、違う人格、個性の方であって、お互いが代わりがきく存在ではありえない。しかしながら、其々が果たす役割り(持って生まれた)があるならば、米原さん亡き今、奈倉さんの今後のご活躍を楽しみにしたい。
    とりあえずは、奈倉さんが作品の中で言及しておられる、ご自身が翻訳したシーシキン著『手紙』、タイトルとジャケットに見覚えがあったこともあり、早速ネットでチェックした。簡単なあらすじによると、届かない筈の手紙にまつわる話とか。この作品を、後に「届かない筈の手紙を受け取った」彼女が訳すことになった偶然性(必然だったのか?)に驚いた。『手紙』を読んだあとこの作品をもう一度読んでみたいと思う。

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著者プロフィール

1982年東京都生まれ。ロシア文学研究者、翻訳者。ロシア国立ゴーリキー文学大学を日本人として初めて卒業。著書『夕暮れに夜明けの歌を』(イースト・プレス)で第32回紫式部文学賞受賞、『アレクサンドル・ブローク 詩学と生涯』(未知谷)などで第44回サントリー学芸賞受賞。訳書に『亜鉛の少年たち』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、岩波書店、日本翻訳家協会賞・翻訳特別賞受賞)『赤い十字』(サーシャ・フィリペンコ著、集英社)ほか多数。

「2023年 『ことばの白地図を歩く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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