矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る

著者 :
  • イースト・プレス
4.04
  • (26)
  • (28)
  • (17)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 297
感想 : 31
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781617268

作品紹介・あらすじ

建前ばかりの社会が目を背け続ける「透明化された存在」の話を始めよう。

ネット上で賛否を巻き起こした『白饅頭note』、遂に書籍化。



社会が「自由」を謳歌するには「不自由」をこうむる人柱が必要不可欠であり、

耳あたりのよい建前の背後で、疎外された人びとの鬱屈がこの世界を覆っている。

現代社会の「矛盾」に切り込み、語られることのなかった問題を照らし出す。



「かわいそうランキング」下位であるということは、

ほとんどの人からかわいそうと思ってもらえないどころか、

その存在を認知すらされず「透明化される」ことを含意する。

場合によっては、「自己責任だ」「自業自得だ」と

石を投げられることすらあるかもしれない。

そうした人びとの、誰の目にも触れることのなかった小さな祈りを

本書の19編にまとめたつもりである。(本文より)



【目次】

01 「かわいそうランキング」が世界を支配する

02 男たちを死に追いやるもの

03 「男性 “避” 婚化社会」の衝撃

04 外見の差別・内面の差別

05 「非モテの叛乱」の時代?

06 「ガチ恋おじさん」――愛の偏在の証人

07 「無縁社会」を望んだのは私たちである

08 「お気持ち自警団」の誕生と現代のファシズム

09 デマ・フェイクニュースが「必要とされる社会」

10 「公正な世界」の光と影

11 橋下徹はなぜドナルド・トランプになれなかったのか

12 なぜ若者は地元から去ってしまうのか

13 「働き方」の呪縛

14 ベーシックインカムが解決できない問題

15 疎外、そして近代の甦生

16 「ひきこもり問題」のパースペクティブ

17 この社会には透明人間がいる

18 「社会的な死」がもたらすもの

19 相模原事件の犯人を支持した人びと

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自分自身にも思い当たる、認めたくない事実が淡々と書かれており、世の中は白黒では決して解決できない事象が組み合わさり成っているのだと思い知った。今後の考え方に影響を与えてくれた一冊。

  • 綺麗事を簡単に口にする人種が、無かったことにしている不都合な真実を明確に提示している。しかしどうしたらいいのか。

  • 「自由」な生き方を謳歌できる世の中になった一方で、その代償を背負って生きている人たちがいる。「かわいそうな人」の中にも明らかな序列が存在し、世間の同情を集められる人がいる一方、その存在すら認められずに「透明化された存在」として扱われる人もいる。本書はそのような人々にスポットを当て、建前だらけの現代社会の闇の部分を見事に炙り出している。ポリティカルコレクトネスが喧騒される現代社会だが、その主張に含まれる矛盾に気付かせてくれるという点において有益な一冊だった。ベーシックインカムに関する論考も一読の価値あり。

  • Twitterで有名な著者による本。
    現代の承認欲求について様々な角度から言及している。これまで学問の対象にならなかったような「モテ」のような素材を現代日本の問題として料理していて勉強になる。
    現代日本を生きる男性で、原因がよく分からないけどモヤモヤイライラする人におすすめ。

    <アンダーライン>
    ・人々は不安にさらされたとき「早く説明を受けて安心したい」と願う。そこにデマの付け入るスキがある。たとえるなら、デマがシンプルでわかりやす「物語」なら、一方で真実とはたいていは複雑で理解するのに時間も労力もかかる重厚な「説明書」だからだ。

    ・金銭的な富は富める者に集中しやすい性質を持つが、承認にもそのような傾向があることは留意すべきだ。

  • [出典]
    「「逆張り」の研究」 綿野恵太

  • 感想
    弱者男性の議論。彼らは社会の循環構造に巻き込まれた存在。カルチャーを生むと同時に危険を生じさせる。お金では解決しきれない問題。

  • 『#矛盾社会序説』

    ほぼ日書評 Day667

    女性の社会進出の遅れた国、ワーストから数えた方が早い日本で、男性の自殺者が女性のそれの2倍近くに上るのは何故か?

    建前社会? 自由からの逃走? 過去にも同様のテーマでの議論は数多なされてきたが、そこに敢えてあらためて切り込もうとする姿勢が面白い。

    "社会が「自由」を謳歌するには「不自由」をこうむる人柱が必要不可欠であり、耳あたりのよい建前の背後で、疎外された人びとの鬱屈がこの世界を覆っている"

    そうした人たちは、「透明人間」になる。
    物理的には存在しているにも関わらず、存在していないものとして扱われる。
    失業者統計に載ることのない非自発的失業者、あるいはホームレス等。

    そうしたカテゴリに属する(と認識される)人たちの思いを、可能な限り言語化しようとする試みは、興味深い。

    一方で、発刊から5年の本書で語られる「事例」が、当時はかなりのショックを世の中に投げかけたものであるにも関わらず、今日においては「そういえば、そんな事件もあったな」くらいに記憶が薄れる、この移ろいの速さに、逆に驚かされるものである。

    https://amzn.to/41rDVwS

  • p112 自由な社会において、「何か・誰かを選ぶ」ということは「選ばれない何か・誰か」がセットになって生じうることを、往々にして人々はあまり認識しない。人々がそれぞれの立場、それぞれの視点で日々行っている選ぶという行為の積み重ねによって生じだのが40代一人暮らし+独身、貧困、男性なのだ

    p142
    デマと真実は、運用・拡散ともにデマの方が遥かにローコスト
     一つのデマを潰す真実が一個できる間にデマは10個の子孫を産む
     デマは悪意ではなく、「不安を解消したい」という願いによることも少なくない
     人々は不安に晒されたときに、「早く説明を受けて安心したい」と願う。そこにデマの付き入るスキがある。例えるならば、デマがシンプルでわかりやすい物語なら、一方で真実とは大抵は複雑で理解するのに時間も労力もかかる重厚な説明書だからだ
     デマに踊らされるような人がいるからこそ真実にはプレミアがつく
     賢く情報を集めて結果的に特をする人がいるためには、間違った情報を集めたりそもそも情報収集を怠る人が必要になる
     デマが渦巻く社会とは、多くの人が豊かに暮らす社会が産んだ代償としての側面がある

    p143 公正世界しんねんとは、人々が持つ「倫理的・道徳的な道理」に自然に沿うような考え方、あるいは、このようは最終的に善性が優勢になるようなバランスの素で構築されていると考える信念のことである。簡単に言えば、ある行いには、その行いの内容によって、のちに公正な結果を伴うとする考え方のことである

    p149 公正世界信念とは、日々を前向きに生きようとする態度に少なからず付随してしまう観念でもある。希望を抱かずに将来の夢を描けないのと同じように、自分の行いが報われないと信じないで、日々の積み重ねを継続できる人はそう多くはない。人間とは希望を抱かずにはいられない生物だ。
     頑張る人が報われる(と信じる)社会」と「犠牲者が落ち度を責め立てられる社会」は、まるで別個のものではない。むしろそれはコインの裏表であり、一つの社会を二つの異なる側面から見たものでしかないのだ

    p161 彼(トランプ)ほどの成功者でも、生まれがそうでなければ、エリートにはなれない。アメリカには経済的階級の上昇を認める寛容性はあるが、社会的階級の情報には極めて不寛容な実情がある。トランプは比類なき大富豪ではあることは間違いないが、純正のエリートでは決してない

    この階級の移動しやすさこそが、橋下徹がトランプになれなかった最大の原因である

    p167 日本社会において、いまだ掘り起こされていない鉱脈は、政治右派、経済左派のポリシーを持つ無党派層であると言える

    p175 絆という字は、古くは「ホダシ」とおまれ、人々の心や自由を妨げるもの、人の行動や思いを制限し束縛するものーすなわち手枷や足枷のことおをさしていた

    p178 あなたにとって、地域社会のつながりは絆だったろうか、それともしがらみ(柵)だったろうか?

    p179 人によっては、都会が自分に対して徹底的にむかんしんでいてくれることに、無上の喜びを感じることすらあるだろう

    p181 優秀な若者こそ地域に残ってほしいのであれば、優秀な若者たちを自発的に東京に差し向けるような「学校生活の永続化」と「片務的な絆」の社会観を地方から拭い去る必要がある。すなわち自由で無関心な世界の成分を地方に混入させるということだ

    自由とは、何かを選ぶと同時に何かを拒否することである。煩わしいつながりを拒否する自由を若者たちに与えなければ「絆」から外れることを望む一定数の若者たちは地域に残らないし戻ってはこない。煩わしいつながりを拒否する自由な若者たちの姿を「けしからん」とい憤っているようでは、東京からの人的搾取に地方が抗う方法はほとんどないだろう

    p183
    人間関係とは往々にして「めんどくささの対処」に終始するものであり、地縁的共同体が時として一部の人々にその負荷を残酷なまでに押しつけたりする態度は、「大多数の構成員のめんどくささを最大限に減らす」ための合理的であったことを、都市の若者はやがて認めることになるだろう。和を乱す人間は敬遠して当たり前、負担金をhしはらわないものには共益を与えないのが当たり前、みんなが負担すべき労力を支払わないものは低く扱って当たり前、ー地縁社会でいやというほど見されてきた風習が、実は共同体の運営の根幹を成していることにも気づくことになるだろう

    だが、そこからが始まりだ。かつて自分を縛り付けてきた因習を追体験し、合理性の中に差別性を見つけた時、人はどのように振る舞うべきなのか。新たな中間共同体の構築を託された都市の若者たちは、間もなくその問いに直面することになる。協同体の安心・安全・調和とは、勝手気ままな自由や気楽さとはトレードオフの概念なのだ

    p184 絆の二面性は誰にとっても均一に現れない。ある人にとっては、秩序と包摂、別のある人にとっては、束縛と排除の概念として機能する
    地域社会から若者の流出を食い止めるには、絆の持つ機能の批判的な再検討、再構築が必要である
    人間関係とはめんどくささの連続である
    コミュニティの運営とはめんどくささの処理の最適化の工程である

    p196 今この国を呪い続けているものの正体は、「便利で安いもの」「高品質で安いもの」を求めようとする客であり、それに応えようと「やりがい」を持って働く企業の従業員でもあり、そしてそれらがウロボロスの輪のように食い合っている構造である
    従業員として働くときはさながら奴隷のように、客として街を歩くときはさながら王のように そんな両極端な社会とは訣別しなければならないのだ

    安い報酬なら手を抜く、安い対価なら上等なものを期待しないことが、この国の呪いを解くための第一歩となる

    p217 我々が自由という概念を考えるときに、上述したような「選ぶ自由」のことをまっさらに考えがちである。しかしながら、選ぶ自由とは「選ばない自由」とほとんど必ずワンセットとして存在する自由であることまで想像する人は多くない

    自分が関わりたくないもの、ごめん被りたいものに対する拒否権が拡大した時代となったとも言える

  • 「かわいそうランキング」の着眼点とその呼称は秀逸。

    橋本徹はなぜトランプになれなかったのかも、今の彼の態度で答え合わせができる。

  • 新刊が出てから慌てて4年前の本を読みましたが、これは予言書?今の時代でもそのまま問題として留まっている(あるいはだんだん発露している)事柄について触れられていて……新刊も楽しみだ。早く読もう。

    読んでいるうちに、ウンウン、社会にはこんな問題があるよね〜、という遠くから眺めていた自分が実は問題に近いところというか参加していて「えっ!?もしかして私この文脈にいる!?いるね……」とバツが悪くなるのもまた、テラケイさんの優しく問題に向き合わせてくれる文章の巧みさのおかげかと思います。

    もっと早く読みたかったけど、note毎日書かれていてそれを摂取するだけでお腹いっぱいに考えさせられるので、それ以上を読もうとする時は気合が必要ですね。
    でもえいや!で読んで良かったです。
    みなさまもこの地獄をどうぞ。

全31件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

御田寺圭(みたてら・けい)
会社員として働くかたわら、テラケイ、白饅頭名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた本書が初の著作となる。

「2018年 『矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

御田寺圭の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×