母親やめてもいいですか

著者 :
  • かもがわ出版
3.66
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本棚登録 : 282
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784780305685

作品紹介・あらすじ

幼い時に父を亡くした私の夢は「家族をつくって平凡に暮らすこと」。だが、不妊治療、流産を乗り越え、ようやく授かった娘は広汎性発達障害だった。娘が幸せになる手がかりを探して療育に奔走するも、わが子と心が通いあわないことに悩む。さらに将来を悲観し、気づけばうつ状態に。チャット、浮気、宗教…現実逃避を重ねるなか、夫に突きつけられた離婚届。娘と離れ、徐々に現実から目をそらし逃げていたことに気づくのだが…「親は子どもの幸せを諦めてはいけない」娘の障害受容ができず、一時は死をも考えるほど、どん底に落ちた著者の絶望と再生の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 私の周りにも発達障害の子を持つ人が何人かいるし、自分自身ももしかしたらその傾向があるかも、とふだんから思っているので、本屋でふと見つけた本書を衝動買いした。
    なにより帯にある「わが子が可愛くないお母さんのために」という言葉が突き刺さってきたせいでもある。
    私の子どもは発達障害ではなかったが、最初の子は「可愛い」と思えなくて長い間苦しんだ。それは子どものせいではなく、もっぱら私の方に原因があったからなのだが、本書を読み進めていく中で、作者の山口さんがたからちゃんを可愛いと思えなかった原因のひとつに、彼女自身の「普通」に対する過大な期待があるのではないかと思ったのだ。
    「普通」という、この実体の無い幻想に、どれだけの人が囚われてしまっているだろう。でもたいていは気づかないでいられる。自分自身も特に問題なく育ち、生んだ子どもにも突出した問題がなく過ごせた場合には、「普通であること」そのものが当たり前すぎてわからなくなってしまうのだ。
    そこへ、「発達障害」という突出したものが出てくると、そのあまりの異質さに激しい拒否反応を起こしてしまう。
    1~2歳ごろの、「目が合うとにっこり笑う」などの反応は、無条件に人に喜びをもたらす。その小さな体から発する愛らしさが、「愛しい」という感情を引き起こすからだ。
    しかし、発達障害があると、まずここで躓いてしまう。反応が返ってこないことで、その子には「人間らしい感情がないのではないか」と思ってしまうのだ。
    私は、山口さんは決して身勝手な母親だとは思わない。そりゃ、逃げずに明るく立ち向かうことができたらそれに越したことはないだろうが、誰もが超人的な態度をとれるわけじゃない。
    自分自身が母親に相談するという思考回路を持たずに成長したからには、疑問点を他人に直接聞くよりもネットで検索しようと思うのも無理はないし、どれだけ尽くしても何も返ってこない、何も理解できない子どもに疲れ果てて、逃避したくなるのも当然だと思う。彼女が「死(心中)」にとりつかれた場面は、気持ちがわかりすぎて苦しくなってしまった。どうしたってそうとしか考えられなくなるよねえ、と、まるで自分の日記を読み返しているかのような錯覚に陥ってしまった。
    そして、つかの間の恋(幻想)にすがってしまった気持ちもわかりすぎて笑ってしまうくらいだった。

    それでも、やはり第三者から見ると、「その苦しみは自分の中にある普通幻想から生まれてきたんじゃないの?」と言いたくなるのだ。
    彼女もやがてそれに気づく。
    第12章で、成長した娘さんと会うエピソードで、娘さんがぽつりと心情を漏らすのだが、私はここから先が涙なしでは読めなかった。
    発達障害の人には感情がないわけじゃない。飲み込みがちょっとゆっくりだったり、理解の仕方が独特だったり、自分の気持ちを瞬時に的確に表現するのがヘタだったりするだけなのだ。
    「普通」にとらわれていると、一般的な基準でそれができないことが許せなくなってしまう(何歳で何ができるようになる、とかそういうこと)

    いちばんつらいのは、「母親なら何があっても絶対に離れたくないと思うもの」という決め付けや、「別れた子を思い自分を責めながら泣き暮らす母親」を求める世間の思い込みだ。
    親子は絶対一緒にいなくてはならない、という決め付けもまた、時には不幸の温床になる。
    子どもを生んだからといって、その瞬間にスーパーマザーに変身するわけではないのに、なぜか人はそれを期待する。期待に応えられない母親は「失格」の烙印を押して責めさいなむのだ。

    人は、他人のことはすぐに「身勝手だ」と非難するけれども、誰だってみんなそれなりに身勝手なのが人間だと思う。身勝手だと非難するだけではなにも解決しない。
    この先、もっとこういった障害やその周辺の事柄が知られていくといいと思う。いじめなどの問題も、ここから派生していることが多いのだから。

  • 自分にとっては限界なのだと、自分の弱さを認めることも最悪の事態(虐待、親子心中)を避けるためには必要なのだろう。著者にとって、たまたま委ねる(逃げる)選択肢があったのだから、それを選ぶのもありだと思う。大抵は母親以外に責任を負ってくれる人がいないのが現実だけれど。
    古今東西《逃げる父親》なんてごまんといるだろうに、やっぱり母親が逃げるというのは許し難いことに思われてしまうのだな。

    不倫や育児放棄、ありのままの子供を受け入れられない苦しみが赤裸々に綴られているとは聞いていたが「手足が不自由とか、目が見えないとか、世の中にはいろんなハンディを持った子がいる。こんなこと言ったら怒られるだろうけどそういう障害なら良かった。不便なことはあっても人の輪に入っていければそこそこ楽しく生きられる」そこそこ…か…。こういう気持ちは母親の誰もが思っていても口に出せない本音なのだろうか。この赤裸々さには複雑な気持ちにさせられた。
    療育施設職員の何気ない発言「2人目産んでよかったね。普通の子供は親を癒してくれる」に傷つく母親達のエピソードが印象的。

  • 本屋さんにて立読みで読み切った。
    だからといって、読みやすかったわけではない。
    本屋さんと筆者の方には悪いけれど、周りの音が聞こえないくらい集中してのめりこんで読んでしまった。

    全てのことに真面目に真剣に向き合おうとするあまり、現実に打ちのめされて絶望し、逃避しようとしてしまう母親。
    苦労してやっと産んだ子供が発達障害とわかったら。
    気持ちを理解して寄り添ってほしかった夫とはどんどん距離が開いていき、孤独感を深めていく気持ちが自分のことのようにわかって、読んでいて本当につらかった。
    最終的に母親が取った浮気や育児放棄、家事放棄という行動はあまりにわかりやすい逃げで、周囲も(特に夫が)楽に責めることができただろう。
    でも、孤独を理解しようとしなかったこと、君が産みたいと言ったんだからいつも笑顔でいてほしいと突き放したこと、先に逃げた夫の罪はどうなるのだろう。
    離婚し娘が夫に引き取られてから、夫の実家での義両親と3人での子育ても壮絶だったという。
    それを妻一人に押しつけて見て見ぬふりをしていた夫が妻を壊したのではないのか。
    あとがきで1人になった筆者は元夫と娘にメッセージを書いている。
    時間が彼女を落ち着かせたのか、穏やかな文章にはなっているが、きっとたくさん泣いたことだろう。
    一番欲しかった子供と平凡な家庭を捨てることになってしまったことは一生、彼女の傷となって残ることだろう。
    それは、捨てさせることとなってしまった夫にも、傷となって残っていてほしいと思う。彼女と同じくらいの深さで。決して被害者ではないのだから。

    高齢出産をめざしている私にとって、この本に描かれていることは十分自分にも起こりうることだ。
    自分が同じ状況に置かれたとして、笑顔で子育てができるかも、夫が向き合って一緒に戦ってくれるかどうかも、家族に理解を得られるかどうかも、全く自信がない。
    きっと同じように孤独の中でもがくことになるだろうと思う。
    しかしこの筆者のように最後には、きっと子供を産んだことを後悔しないに違いない。せめて、そうだといいなと思う。
    決してハッピーエンドではない本だったけれど。

    いろいろ考え過ぎて帰り道はゆっくりゆっくり歩いてしまい、倍の時間がかかった。
    星は三つにしたが、本当は点数などつけたくない本。

  • この辛さ、わかる。
    家の次男も、たぶんこんな感じだった。でもうちは幸い4人兄弟に恵まれたので、家族中で何とか乗り越えてこれた。いや、二十歳の社会人の今でも本人ともども苦労している。母の私もどれだけ頭を下げたか、どれだけ悔しい思いをしたか数知れず…でも、もういいです。いいのです。子育てなんてそんなもんです。
    かこさんのこの告白が、これからのお母さんたちに少しでも力になってあげられるといいな、と思いました。

  • これはすごいよ。すごく響く。
    特に中盤以降は半べそで読んだ。
    たからちゃん側の気持ちもカコさん側の気持ちもわかる。
    同じだよ同じだよ。
    わかるわかるわかる。

    最後のお母さんからたからちゃんへの手紙。
    発達障害を持つすべての人に読んでほしい。
    私も、私への手紙だと、メッセージだと思って、またがんばってみようと思います。

    • クープさん
      あたしも読んでみたくなった。
      あたしも読んでみたくなった。
      2013/03/16
  • 発達障害と診断された男児をふたりもつ母の立場から率直な感想。(※長文です)
    本書を読む前も読後もネット上のいろいろな感想を読んだ。賛否両論あるようだが、こういう本はあっていい。
    (賛否両論が生まれた時点で出版社としては成功なんだろうけど)

    共感できる部分も多いにあるし、作者と私の共通点が多すぎて、読んでいて主人公もしかして私?と錯覚しそうだったw
    マイブラとか出てきた時には正直震えたww

    程度や方向性は違うものの、作者と私は性格がネガティブというのが絶対的な共通点、他にも年代や行動パターンや状況が似てる。
    ネットで情報を集め知識を増やし、療育に通って、先生のアドバイスをもらい、ママ友もいて、旦那は温和、子供を預けられる親もいる。
    まして私は障害者福祉の仕事をしていたという経験者…。(←むしろこれが強迫観念となっている部分もあり)
    客観的に見れば恵まれた状況である。

    なのにどんどんネガティブに落ちていく現実。
    私の場合はそのキーポイントが旦那。(詳細は割愛。)
    作者の旦那もうちの旦那と似てる部分があったけど、漫画の描写を見る限り圧倒的に夫婦間のコミュニケーションがとれてなかった。これは、旦那側にも少なからず問題があるんじゃないかなあ?
    彼女がひとりで抱え込んでいたのに、ただ見ていただけ?
    それが彼の優しさ?それとも無関心?

    漫画の中での彼のセリフ:「たとえ、たから(子どもの名前)が障害でも 君が笑ってくれたら僕はそれで良かったんだ…」
    漫画ではこのセリフはポジティブな位置づけなんだろうけど、私は不愉快に感じた。
    まさに「笑顔のお母さん像」の押し付け。
    お母さんが笑顔でいれば家族もハッピー♪ってそりゃもっともだろうけどさ、どんだけお母さんは強くて器の大きい人間でなきゃならないの!?強迫観念の強い私は、巷の育児本や体験談の数々が、母(特に発達障害児の母)はこうであるべきという理想像を無意識に押しつけているように感じる。

    私は弱い人間だ。もとの性質が超ネガティブで神経質で強迫観念も強く自己肯定感がすごく低い。
    細かいことを気にせずガハハと笑ってすませられるような肝っ玉母ちゃんにはとうていなれない。ママの笑顔が大事!なのはわかっているのだけど、どうしてもできない。そうするエネルギーなんてない。
    むしろ怒りの感情がコントロールできなくなって、向精神薬を飲み続けてなんとかやり過ごしてきた。こんなママ失格。人間失格。ほんと、産んでごめんね…。
    それぐらいネガティブになった人はどうやってそこから這い上がればいいのですか…。

    だから本書のようなネガティブ本は歓迎である。
    それで、冒頭の賛否両論の件。
    もちろん感想は個人の自由なのだけれど、本書に限ってはあえてコメントを。
    結果としての彼女の行動(エゴの押し付け、心中願望、宗教、不倫、離婚etc…)を見て
    共感できないとか後味悪いと感じるのは経験と想像力がない人、
    もしくはかわいい絵柄とコミックエッセイというジャンルでミスリードしてしまった人。
    ただ単に酷評してる人は、思考力がない人。("釣り"もあるかもしれんが)
    そういう私は他人の感想を批判してるネガティブな人ww

    ともかく困難を乗り越えれば美談ともてはやされ、何かにすがれば逃げてると非難され、セキララな告白はタブーという風潮がメインストリームだとしたら、思考力低くないか?


    それで、この本と私の経験を踏まえて、現時点でのネガティブなお母さんを救うためのまとめ。(というか、自分向けのまとめである)

    ・ネットの情報は万能ではない。現実はけっこうかたよってると思う。(発言小町の意見とかよくわからん団体の統計とかw)
    ・情報過多がかえって混乱を招き、ネガティブ思考を助長することもある。(ネットや本、講演会など)
    ・老若男女、生の人間とたくさん関わること。会って、声に出してしゃべること。
    ・療育機関や発達障害関連の本は母親の心理状態にもっともっと焦点を当てるべき。
    ・母子分離の時間は必要。(相談やカウンセリングの時間を定期的にとる)
    ・療育のお母さん達同士で(子供抜きで)ゆっくり話す機会を多く設ける。(飲み会とか飲み会とか飲み会とかw)
    ・旦那との適度な距離感を保つ。(旦那に関してはある程度割切ることも必要。)
    ・子供との適度な距離感を保つ。
    ・母は強くなくていい!!
    ・いろんな人に助けてもらって子育てする!!
    ・仲間・味方をいっぱい増やすべし。
    ・子育てに正解はありません。(私自身が言語療法の先生に言われて救われた言葉。)


    ちなみに私自身は他人から「ポジティブで子育て楽しんでるお母さん」に見られてるらしいww

  • 広汎性発達障害の子を持つ親の気持ちがマンガと文章で赤裸々に書かれている。1組の親子とその周りの人達の奮闘や確執、そして希望が描かれている。
    あとがきに賛否両論とあったが、障害を持つ子の親に限らず、この本を必要とする家族は少なくないと思う。
    赤裸々な文章は胸を打つ。不安な気持ちで毎日を過ごす誰かの為に、リスクを背負ってつくられた気持ちの入った本だと感じた。必要な人に届くと良いな。

  • きつい、苦しい本でした。でも今までに読んだどの本よりも正直に何を隠すこともなく負の部分を書いていたと思う。
    「母親をやめる」ってところは大なり小なり共感出来る部分があるのではないかなと思う反面、そこからの巻き返しはその人それぞれの性格によるところが大きいのだなとも思いました。
    辛くて苦しい時、そこからどうするかは結局はその人の性格次第なんじゃないかと・・・。
    きっと同じ状況にいてもかこさんのようになる人もいれば、そうはならず明るく幸せな家庭を気づける人もいると思うから、本全体の共感度としては半々くらい。
    一番最後で、作者自身が気づけていたことが唯一の救いでした。
    あと娘さんの成長ぶりも。
    周りで理解しようと思っていても、かこさんのように自分の中でだけで答えや未来を決めつけていたらちょっと何も手助け出来ないかも・・・。
    読む側としてはこういう事例もあるんだという、知ることに繋がったので書いてくれてよかったと思います。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「明るく幸せな家庭を気づける人もいる」
      逆に、子どもを窮地に追い込んだ親も、、、家族だけでなく、地域や学校で、体温が伝わるくらいの距離から...
      「明るく幸せな家庭を気づける人もいる」
      逆に、子どもを窮地に追い込んだ親も、、、家族だけでなく、地域や学校で、体温が伝わるくらいの距離から、サポート出来れば良いなぁ、、、
      2014/04/04
  •  発達障害児を持つ母親のノンフィクション。コミックなので読みやすい。残念ながらバッドエンドだけどそういう境遇の母親がいかに辛いかというのがリアルに伝わってくる。、

  • 2018/10/25読了


    明るく前向きで頑張るママ
    ではなく
    挫折してしまった、折れてしまった、「負け」ではないけれど
    光と影とでいえば影のルートに進んでしまった、母親の奮闘記。
    こういうものこそ読んでみたいと思ったり。ポジティブばかりの「がんばらなくては」に押しつぶされそうな人ほど、求めている「事実」なのだと思う。
    本人の生活や戦いだけではなく、ご主人とか、母親とか
    あらゆることがきっかけになって、ゆっくりこわれて
    壊れてではなく、自分を成立できなくなったのだろうと。
    この本を読んでみては思うけれど



    果たして、自分が同じ立場になったときに冷静でいられるだろうか。我が子がどんな子であれ、受け入れ、愛してあげられるだろうか


    それは、その時になってみないとわからない。
    光輝く人ばかりではなく、どんな思いで我が子を手放したのか
    そういうエピソードとして読めたのは、作者さんがかなり勇気を出したからだろう。


    ある意味、とてもためになる本でした。
    ポジティブ以外も認められ、受け入れられてもいいのだ
    きっと・・

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