80's エイティーズ ある80年代の物語

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778316143

感想・レビュー・書評

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  •  人気作家・橘玲が初めて書いた自伝的著作。
     早稲田大学に入学して上京した70年代末から、『宝島30』の編集長としてオウム真理教事件などの取材に当たった90年代半ばまでの思い出が綴られている。その期間が著者にとって〝長い80年代〟であり、〝長い青春時代〟でもあったということなのだろう。

     読みながら思い出したのは、私の大好きな本でもある川本三郎さんの『マイ・バック・ページ』である。
     『マイ・バック・ページ』は川本さんの自伝的著作で、1960年代末から70年代初頭を舞台に、『週刊朝日』『朝日ジャーナル』の若手記者だった時代の思い出が綴られている。
     著者の青春グラフィティであると同時に、時代のアイコンが次々と登場する60~70年代グラフィティとしても出色の一冊だ。

     同様に、本書は著者の青春グラフィティであると同時に、ウェルメイドな80~90年代グラフィティにもなっている。〝橘玲版&80年代版の『マイ・バック・ページ』〟と言ってもよい(『マイ・バック・ページ』の副題は「ある60年代の物語」であったし、著者や編集者もあの本を意識していると思う。川本さんに本書を書評してほしい)。

     私は著者より5歳下だが、80年代半ばからの出来事については共通の記憶も多く、たまらなく懐かしい気持ちになった。『宝島30』もずっと読んでいたし。

     若き日の町山智浩や内田樹、自殺してしまった青山正明など、著名人との思い出も綴られるが、それ以上に、仮名で綴られる名もない人々との思い出の数々が胸に迫る。

     編集者/ライターとしてのエピソードの数々もいちいち面白い。それは、出版界に勢いがあったバブル時代ゆえの面白さでもある。本が売れない時代しか知らない若い人にとっては「別世界」な話も多いだろう。

  • 大学卒業後の1982-1995までを中心にした、橘玲の自伝。(彼が元編集者だと知らなかった)
    当時の出版業界の勢いや破天荒さが面白い。
    そして過ぎ去った時代に対するノスタルジーも心地良い。

    今のスーパー売れっ子の彼がどうできたかが興味あったが、大学卒業までは適当であり、その後出版業界で多くの経験を積んだことで成長したようだ。
    かなり仕事に打ち込んでいたようだ。
    でもそれまでの仕事の経験と、彼の処女作『マネーロンダリング』やその後の著作に強い関係性があるわけではなさそうであった。つまり、その後の読書と執筆の生活によって数多くのヒット作を生み出したのである。
    長い間の編集生活によるスキルはあるだろうが、これは勇気を貰える話だ。

  • 著者の自伝的小説。80年台の熱みたいなものが感じられる。著者の非凡さと、身を置いていた出版という世界の華やぎが面白い。ジャイアント馬場に関する小論は面白すぎた。内田樹氏とニアミスしてるのも面白い。現在全く異なる立ち位置にいるので。

  • 橘玲は好きな作家。何か役立つということではないが、その時代の人たちが生きた不条理を感じられてよい。

  • 近年、主に資産運用の領域において、ヒット作を連発している著者の原点ともいえる作品。

    ロシア文学を専攻し、80年代に早稲田大学を卒業しながらも、ロシア文学を学んだ影響か、まともな就職ができず、小さな出版社へ。そこで学んだ出版ノウハウ、出版以外の事業ノウハウなど、いろいろな内容が今の彼を織りなす要素となっており、その変遷が見られたことはとても良かった。

    論旨的に極端な意見の持ち主であり、とっつきにくい人間といったイメージを持っていたが、著者に対する見方が変わった一作。

  • 2021年5月30日記述

    80s エイティーズ ある80年代の物語
    橘玲氏による著作。
    2020年7月発行。
    この作品は2018年1月太田出版より発行されたものです。

    橘玲氏の過去に関して振り返った本。
    橘玲氏の主張、文章を初めて読んだのは小林よしのり氏がかつて運営していたわしズムという雑誌に投稿していた文章だ。
    あれからいくつかの著作を読み、自由になるには経済的独立を果たす必要があること。
    闇雲に保険に入ってはいけないこと。
    自動車は最高の贅沢品であることなどを学んで実践してきた。
    (要するに買わなかった。その分を貯金できたと言える)
    それからも橘玲氏は参考にする著者の1人として見てきた。
    思い返すとその過去はあまり知らなかったので本作は興味深い。
    当時の雑誌という世界が見えてくるようだ。
    本書は正確には1970年代末から1995年頃までを含んだ期間を描写している。

    印象に残った点を示していくと

    振り返ってみれば、バカな頃が一番面白かった。だけど、人はいつまでも
    バカではいられない。そういうことなのだろう。

    わざわざ「記憶」を強調するのは、それが無意識の中で自分に都合よく書き換えられることが分かっているからだーそれも非常に頻繁に。

    元妻は再婚して子供もでき、今はシリコンバレーで暮らしている。
    渡米する前は、息子と3人でたまに食事をした。
    「ぼくは普通のサラリーマンになる」といっていた息子は、社員10人ほどのIT関係の会社を経営している。
    僕の方も新しいパートナーと出会い、独立して「本を読む事と原稿を書く事、そして時々サッカーを観る」というシンプルな生活をしている。
    なんの変化もない毎日だが、その代わり1年の内数ヶ月を旅にあてている。

    僕が社会人になってはじめて出会った3人に共通するのは、メインストリームでは生きられないことと、成功への執着ではないだろうか。
    それを、夢という言葉に置き換えてもいい。
    夢を持つことは確かに素晴らしいが、それは人生を蝕んでもいく。
    世間知らずの当時の僕は全く気づかなかったけれど、そこには確かにこの社会の「ほんとう」があったのだ。

    世の中の主流からはじき出された人達は、大企業で出世するとか、医者や弁護士になるとかの世間一般の「成功」からは見捨てられているが、だからといって金持ちになることを諦めたわけではない。
    というか、逆にそれだからこそカネに執着したりする。
    今から思うと、佐藤さんは日本の社会にそういう人達がたくさんいることに気づいていて、彼らのための「情報誌」を作ろうとしていたのだろう。
    大学を出たばかりの僕には全く理解出来なかったが、それは確かにある種の慧眼ではあった。

    カルト教団の引き起こした異常な事件
    「Windows95」が予告する光り輝く
    未来との間には、気の遠くなるような距離があった。

    オウム真理教とは何か、というのはもちろん諸説あるだろうが、僕の理解ではそれは「仏教原理主義カルト」だ。
    教祖の麻原彰晃は、一部の若者たちを虜にする強烈な魅力を持っていた。
    信者の多くは「精神世界系」の若者達だった。

    もちろんこれは現在から振り返っていえることで、渦中にいる時は一体何が起きているのか全く分からなかった。1989年6月には中国で民主化を求める天安門事件が起き、その後、中国共産党は鄧小平のもとで大胆な経済自由化に踏み出すのだが、当時の論調は中国から難民が「盲流」となって日本に押し寄せてくると煽るものばかりで、中国の驚異的な経済成長が始まることを予想した人は殆どいなかった。今も日本や世界の「未来」について自信たっぷりに語る人がたくさんいるが、その御託宣を信用する気になれないのはそんな経験があるからだろう。
    本当にとんでもない事が起こっている時は客観的な判断などできないのだ。

    人生は、日々の積み重ねの延長線上にある。
    だから、簡単には変わらない。

    欧米では「差別とは合理的に説明できないこと」という定義が新しい基準になっている。

    「努力によって知能は向上する」という教育幻想が蔓延した社会では勉強ができないのは(親と子の)自己責任にならざるを得ない。
    なぜなら、努力すれば勉強はできるはずなのだから。
    このように遺伝の影響を否定することは、いっけん親切なように見えても実はものすごく残酷なのだ。

    「バブルの時代」を回顧する時は、六本木や銀座のクラブ、地上げや株の話になることが多いが、今の時代との一番の違いは「頑張って働けば結果が出る」という体験ではないだろうか。
    市場が縮小していく中では、どれほど働いても成功はまれで、やがて仕事は長時間の苦役になってしまう。

    (就職で)よく知らない人の方が気楽に紹介できるのは、それが「負けないギャンブル」だからだ。

    「他人とは違う」というのは傲慢さの裏返しであり、世間から半分落ちこぼれた自分を正当化する言い訳でもある。

  • 切ない読後感が残る。旅はいつかは終わり、戻るべき家はない。

  • 橘玲さんは、『残酷すぎる成功法則』の翻訳者として知り、以後著作を読んでいる。小説・翻訳・叢書と読むうちにファンになった。どうやって語学習得・知識を習得していったのかに一番興味があった。おそらく「仕事をこなす中で必要なことの積み上げた結果」だと思った。『専業主婦と2億円』を読んで仕事を再開したりと、ここ数年、著者から刺激をもらっている。自分の仕事や人間関係と絡めつつ、必要なものを調べ、自分の中に取り込んでいこう。昨日よりマシな自分になれるように。

  • 2020/11/12市図書館
    そう、確かに、ここにはボクらの青春があった。
    東京ではないが、地方でも、その同時代性は体験できた。
    本、映画、音楽。
    少しずつではあるが、それらは今、iPhoneの中に取り込まれつつある。
    ボクの青春が、デジタル化されて、その記憶と共に手のひらに乗ろうとしているのだ。
    青春の総括。

  • 『言ってはいけない』がおもしろかったので、著者をもう少し知りたくて手に取る。もともとは『宝島』の編集者だったということも知らなかった。
    80年代、知ってることも知らないこともいっぱい書かれていて、その時代に編集者だったら面白かっただろうなと。

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

橘玲の作品

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