すばらしき特殊特許の世界

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313883

作品紹介・あらすじ

特許の取り方から最先端のスマートフォン特許まで。笑えて学べる本邦最高の特許入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 中小企業診断士の勉強をしていた世紀の代わり目(1999-2000)頃に、ビジネスモデル特許という言葉が一世を風靡したことがあります。

    その頃から特許には興味を持っていますが、この本のタイトルには「特殊特許」という聞きなれない言葉が使われており、図書館で見つけたこの本を読むことにしました。

    特許に関する手続きや語句の説明は一般的なものですが、この本で取り上げられている具体例に面白いものが多くありました。特に、特許されていないものも含めている点は、今までの類書には見られないものだと思います。

    ガリレオシリーズで有名な東野氏は、もと技術者でご自身でも特許を発明しているという事実をしり、あのような内容の物語が書けるのだと納得しました。

    特に面白かったのは、好きな人にあったときの感じ(ビビビ)を、生物化学的反応として、科学的に説明しているくだり(p233)でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・ゲームは人間が考えた遊びのやり方だから「人為的なとりきめ」にあたり特許にはできないが、ソフトウェアによって実現されるゲームは、情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているので、自然法則を利用した思想の創作にあたるので特許化できる(p33)

    ・出願後も補正できるので、出願時には広めの請求項にしておいて、その後、先行技術との差別化ができるように徐々に限定を加えていくのが良く行われる(p119)

    ・原子力発電は、火力発電のボイラーを原子炉に置き換えたものと言ってよい、それを冷やすのに大量の水が必要で、その冷却水の熱を海水で取り除くことを行っているので、原子力発電所は海岸線に立地している(p155)

    ・キューリー夫人の長女らは1940年に原子炉の特許出願(1939フランス出願に基づく優先権主張)を行ったが、拒絶査定、さらに訴訟においても棄却(上告での最終決定は1969年)されている(p166)

    ・遊園地の三種の神器とは、観覧車・ジェットコースター・メリーゴーランド(p171)

    ・中国が知らぬ間に(2010に日本を抜き、2011には米国も抜いてトップ)世界一の出願件数となっている、様々な助成金・奨励金・税制優遇措置がある、さらには知財訴訟も米国の2倍の件数もあり世界一、日本は20分の1以下(p181,183)

    ・米国の特許訴訟は、97%程度がディスカバリー(証拠開示手続き)で処理され、陪臣員による公判まで進むのは極めてまれだが、アップル・サムスンのW-CDMAの特許はそれで行われた(p216)

    ・DNAらせん30億対の塩基の誘導電磁波の総合力で、全身の60兆個もの細胞がスイッチオン状態になり、合サインをだす。これこそ、好きな人にはじめてめぐり合った瞬間の「ビビビ」である、そのとき全身が熱くなるのは。その高周波の電磁波で体内の70%を占める水分子を電子レンジのように激しく振動させて一気に発熱させるから(p233)

    ・日本の特許庁での審査が、米最高裁の判決の影響を受けることは無い、特許をはじめとする知的財産権制度は各国で独立していて、各国での独自審査基準(属地主義)があるため(p244)

    ・ビジネスモデル特許で特許になるのは、ビジネスモデルを実現するためのソフトウェアやシステムである、いいかえれば「情報技術を使って新しいビジネスを実現するための技術的な仕組み」に対して与えられる(p254)

    ・物の発明であれば、どんな製法を使おうが、結果としてできたものが特許と同じであれば、その特許を回避できない(p259)

    2014年4月20日作成

  • 時々文章かたくて斜め読みしながら
    世の中いろいろな人がいるなぁとしみじみ。

  • 東野圭吾さんの特許が掲載されている。工学部だったのね。そりゃそうか。

  • 登録番号:11274 分類番号:507.23イ

  • 特許に関する基礎情報と面白特許で2度味わえる。著者が取材したところが事細かに記述されるので、ある程度割愛して事例を増やしてもらっても良かったかも。

  •  企業にとってせっかくとった特許だけに他社の動向が気になる。「特殊特許」とは著者が勝手に読んでいる個性的な特許と書かれており、専門用語でもなければ隠語でもない。それだけ特許の世界にもいろいろあるということだ。

    中にはニュースにもなった有名な案件が載っている。それは、餅の切り込みの位置で訴訟に発展した「サトウの切り餅♪」対「正解は越後製菓」のケース。越後製菓は、餅の側面に切り込みを入れて良い具合で焼き上げることを目指してとった特許がある。2003年8月20日に「越後ふっくら名人」という名前で発売されたとある。その一方で、サトウ食品は2003年9月1日から「パリッとスリット」という切り餅を発売した。こちらは側面プラス上下に切り込みを入れている。

    越後製菓による訴訟が始まり、2011年11月30日に東京地裁でサトウ食品は越後製菓の特許権を侵害していないという判決が出た。その後も訴訟が起こっているそうだ。一度火が付いたら餅だけに膨らむ一方か。

     他に有名なものとしてはアップル対サムスンがある。アップルがiPhoneの「バウンスバック」という機能などに関して、カリフォルニア州でサムソンを訴えた。バウンスバック機能について「指を一方向に動かし続けると余白が表示され、その指を離すとはね返るような動作で余白が消える機能」と説明がされている。この裁判ではアップルの主張が認められたとある。

     その他にも「特殊特許」とあるだけに個性的なものが多い。特許に詳しくない人にも興味を持ってもらうには、特許の案件にきらりと光る個性が必要になる。

    切り餅に関する東洋経済の記事

    http://toyokeizai.net/articles/-/15872?page=2

  • 東野圭吾の発明といえば探偵ガリレオではなく、金属に放電加工で斜めに穴をあける方法がちゃんとした特許になっている。この特許の出願は85年10月でデビュー作放課後が店頭に並ぶ一ヶ月後のことだった。松ちゃんは隣の部屋まで行かないとストップが推せない目覚まし時計を発明し、秋元康はAKBメンバーを振りまくると残った一人に神告白を受けられるゲームを発明し特許出願している。

    動物を使って地震を予知する装置の発明では地震の際の超低周波を感じたトカゲがしっぽを45℃あげることで地震を予知する。「4月13日にトカゲが尾を立てた回数は32回であり、4月14日は48回であった。これらは、4月9日から12日までの平均回数である9.3回より遥かに多い。そして、4月15日12時19分に三重県中部を震源とする地震(マグニチュード5.4)が発生した。おお〜っ!やるなトカゲ!

    富士フィルムはスタンガンの代わりになるデジカメを出願している。わっはっはっ。しかしスマホの防犯機能とかブザーとかフラッシュとか、リストバンドでモニターして何かあったら勝手にアラームを発信するとか同じ延長線上の発想なのでまじめに考えたんだろうなあ。

    吉村教授はキリンと組んで古代エジプトビール再現プロジェクトを実施し、発明した。先行文献は古代エジプトの壁画。そこから工夫を加えたナイルシリーズはなぜか出願は早稲田に加え、京大と黄桜!で、キリンはお好きにどうぞと太っ腹だ。地ビール程度の売り上げには興味はなく広告の一環だとか。古代エジプトで栽培されていたエンマー小麦の種を京大が持ってて、地ビールも作る黄桜が現代の技術で醸造したのだ。エンマー小麦のホワイトナイル、デュラム小麦のブルーナイル、に加えルビーナイル、サイファーナイルとシリーズは続きこのビールは京大生協や早稲田学内などで飲める。京大が得た実施料収入は1本10円。開発に使った人件費が1000万円を超えているので大赤字だ。はっはっはっ!飲みに行こう!!

    越後製菓はパックの切り餅の横にスリットを入れた特許を取得し「越後ふっくら名人」を発売、サトウ食品の切り餅「パリッとスリット」に喧嘩をふっかける。「ふっくら名人」は切り込みのおかげできれいに上下に膨らみはみ出さない。「パリッとスリット」の方はといえば上下に十字架上に切り込みがあり、さらに横にも切り込みがあったのでこれが特許侵害かどうかが争点になった。サトウ食品はもっと前から横に切り込みのある商品としてなぜか2009年の裁判時に残っていた2002年の商品「こんがりうまカット」を証拠として提出し「ふっくら名人」の特許を無効と申し立てるがいかにも怪しい。本当に作っていたのであれば証拠はもっと残ってそうな物だ。サトウ食品のサトウ元社長は日経ビジネスで「2002年の餅にカビが生えずに残ってるはずがない」と悔しそうに語っているが、そんなことは判決文には書かれていない。疑問点はわずか1ヶ月しか発売されてなかった「こんがりうまカット」に限ってなぜ都合よく残っていたのかなのだが。

    ニッスイの発明も強力だった。「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味湯で枝豆の冷凍品」。何がすごいって製造方法ではなく物の特許なのでどうやって作っても特許に引っかかる。この経緯はニチロ元専務が「知的財産物語 枝豆戦争」に書いてるらしいが異議申し立てに対してニッスイは「緑色の維持された」を追加して訂正している。「こうして日水の特許が維持された時点で、塩味と名がつくあらゆる枝豆は全て日水の特許権を侵害することになった。これほど巧妙かつ大胆な裏技は並の力量ではできない。特許庁OBの日水顧問弁護士、須藤阿佐子、恐るべし。」(同書より)結局この特許は一度認められたにも拘らず進歩性がないと無効になる。塩ゆですれば味が浸透するのは当たり前で薄味かどうかは程度の差、誰にでも思いつくことだと。こんな裁判を長期化させた特許庁の方が恐るべしかも知れない。

  • 「女子大生マイの特許ファイル」もそうだったが、すごく分かりやすい。
    特に「切り餅」と「枝豆」の話は秀逸で、どんな特許が戦略的か、特許に対してどう対応すればよいかのヒントになる。
    なにより面白いので、読んで損はない。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:507.23//I53

  • 特許制度の解説のようなものは要らない。

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著者プロフィール

1970年東京都生まれ。弁理士資格を持つ科学技術ジャーナリスト。米国公認会計士でもある。横浜国立大学大学院工学研究科博士前期課程修了(工学修士)。大手電気機器メーカーに入社し、ソフトウェア関連発明の権利化業務、新規事業領域における成長的提携の立案、グローバル研究開発の企画推進などに携わる。2001年から2008年にかけて米国カリフォルニア州(シリコンバレー及びロサンゼルス近郊)に居住。執筆活動のほか、大阪大学や立命館大学にて講演を行うなど、技術・法律・会計・語学の知識を生かして活躍している。弁理士試験・米国公認会計士試験ともに、わずか1年半の学習で最終合格した難関試験突破の達人でもある。趣味は海外旅行で、今までの訪問国は約70ヶ国。著作に『知られざる特殊特許の世界』(太田出版)、『勝手に使うな!知的所有権のトンデモ話』(講談社+α新書)がある。

「2010年 『女子大生マイの特許ファイル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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