- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784778312831
作品紹介・あらすじ
私は生活費を稼ぐため警備員になった。作家と警備員の二足のわらじを覆きながら、慣れない仕事に悪戦苦闘の日々が続く。どこか常識の欠落した警備の仲間たちに振り回され、仕事を辞めようかという矢先、私の前に「師匠」が現れた-。警備員の織りなす奇妙奇天烈な群像劇。傑作「軍艦武蔵」の著者が、実体験をもとに書き下ろした警備員小説。
感想・レビュー・書評
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社会からこぼれた大人たちのリアルな日常。底辺に片足を突っ込んだ時のその独特の感覚。副業で警備員をやったことがある人間なら共感に絶えない。
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読み終わったあと、警備員の人たちを見る目が変わった。
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なせばなるなさねばならぬ何事もならぬは人のなさぬなりけり
上杉鷹山
「軍艦武蔵」など大作の著者である手塚正己が、2年の警備員体験をもとに書き下ろした小説「警備員日記」。
作中の「私」は、五十代半ばの作家。原稿依頼はあるものの、取材や執筆に数年もかかるため、現金収入にとぼしい。若い恋人と質素に暮らしながら、無料求人誌で見つけたのは、週3日の警備員の職だった。
若者にまじって研修を受け、工事現場で交通誘導を始める。現場までの所要時間、初めての土地で昼食をどうするか、最寄りのトイレの把握など、警備には細かな段取りが必要だ。当初は、それができないだらしない同僚たちに、いらいらしてばかり。
そんな折、西崎という人物と出会う。ペアを組んで「片交【かたこう】」=片側交互通行の指示を出すが、車の停止や発進指示、大型車の対応などすべて完璧な西崎を、「師匠」と呼んで友情をあたためていく。
数人であたる警備では、西崎は、手当も出ないのにリーダーを引き受け、的確かつ安全な人員配置を行う。だが、態度は大きいが働きの悪い同僚もいる。そんな時にどうするか。たとえば鼻持ちならない警備室長を、計算尽くで熱中症にさせるなど、リアルな裏技も読みどころだ。
掲出歌は、江戸中期の大名のよく知られた言葉。安定した再就職先を探す中年の同僚が、ふと弱音を吐いたとき、西崎はこの言を借りて「諦めたら負けだ」と励ました。
全編、みだりに誇張せず、露悪的でもない。人が人を補完し、職務をまっとうする姿を描いた作者の誠意が感じられる。
(2012年3月18日掲載)
余話:とても気持ちの良い読後感でした。就活の学生たちに読んでもらいたい一冊。 -
大昔後楽園球場前の道路工事の現場で夜中の交通整理の警備員のバイトをやったことがあったので買ってみた。そのときも思ったが新聞の専業販売員や警備員の方達には結構ユニークな方達が多いのだが、著者も執筆業が本業なのだが分け合って警備員となる。本を書き上げ警備員をやめるまでの日々の出来事を綴っただけのお話なのだが、登場人物たちへの不思議な親近感を持ってしまうのはなぜなんだろう。だめ人間に九通する部分が自分にもあるのだろう。お薦めできない本ではありますが、お暇な方はどうぞ。
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事実を淡々と書いているからこそ面白いのでしょう。身近に警備員をしている人がいるので、似たような話をいっぱい聞いています。見るのと実態はやはり大違いのようですね。
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オフィスを持たない仕事である警備員(この作品の場合は道路警備だが)。日頃、目にすることはあってもほとんど関わらない、あるいは促されるままに道路を走るだけで触れ合わない仕事である警備員を、作者の経験をもとに書かれた作品。
一見すれば、なんということのない警備員の日常を切り取った物語なのだけれども、登場人物の口を借りて、あるいは登場人物の成り立ちがそう物語るように「長居するべきでない場所」「行く場のない者が流れ着く場所」としての、およそ人との直接的な触れ合いの殆どない職業がいかに過酷か、またはいかに環境に恵まれないのかを暗に仄めかしていて、読後に少しばかり自分自身の今ある姿について考えさせられた。 -
ノンフィクションだと思いました。なので、タイトルだけ見て購入し
ました。「日記」とついているだけで衝動買いする癖があります。
へへ、人様の生活の盗み見だぁ~なんて喜んでました。
読んでみたら小説でした。なので、今月の「月に1冊小説を読む」の
ノルマが達成出来ました。笑。
作家である著者が収入を補う為に始めた警備員の経験を元に描いた
小説である。
警備員と言っても現金輸送車などの警備ではなく、私たちが日ごろ
よく目にする工事現場などでの交通誘導である。
そこはまるでダメ人間の見本市のよう。これでもかっ!ってほどに
身を持ち崩して警備の仕事に行き着いた人間がわんさかと出て来る。
でもさ、多かれ少なかれダメな人ってどんな会社にもいるんだよね。
警備員の世界だけが特殊なんじゃない。
だから、本書は警備員の世界を舞台にして人間の悲喜こもごもを
表現しているのだろう。
どうしようもない人々のなかで、著者が「師匠」と呼ぶ存在が登場する。
彼との会話とそこで語られる警備という仕事に対する真摯な姿勢は、
すべての仕事に通じるのではないか。
小説なのでデフォルメして描かれているのだろうが、普段、街の風景の
一部として目にしている交通誘導員の仕事って大変なんだよな。
時々いるもの。「この人、プロだ」って感じる人が。
文章は平坦でクライマックスと呼べる場面はないけれど、いい作品だった。 -
作家である著者が、五十歳半ばで生活のために警備員になった。
はじめは慣れないきつい労働と環境、そしてまともに思えない同僚たちにうんざりしていたのだけれど、ある日プロフェッショナルかつ人間的に尊敬できる「師匠」に出会う…。
なかなか渋くて面白い小説だった。
警備員の仕事についてこんなに詳細を知ったのは初めてだ。
知らなかった社会を教えてもらっているようだった。
都会のあちこちで繰り返される建設工事にからみ、現実味にあふれている。
そして現場で出会う人々は個性的な人ばかり。
それぞれ、人生の悲哀が垣間見えたりもする。
人はほんとうに様々な考え方を持って生きているのだと身につまされた。
この作品を読んだことは忘れられないだろうと思う。